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天のイタズラ  作者: たま
4/6

2, 突き付けられる現実と主人公の新たな悩み

「ここは……」


 さっきまで祠で祈りを捧げていたはず。なのに今、俺は周りが森に囲まれた広場に居る。


 中央に向かって歩いていく。ザッザッと草を踏みしめる音が妙にリアルで、感覚を麻痺させる。

 何だろうか?これは夢なのだろうか?

 だとしたら祠で意識を失った?


 すると足に何か石の様なものが当たる。

 躓きそうになりながらももう片足で踏ん張り、下を見る。そこには、祠に置いてあった水晶があった。


「何でまたこんなところに?」


 手に取る。

 輝きは本物のそれと同じだった。まるで、鏡のような――

 その時、水晶に自分の顔と、悪魔の姿が見えた。丁度……俺の後ろに。


「!?」


 後ろを振り向く。

 いつぞやの中級悪魔(メガデビル)がそこに居た。


「うわぁっ!!」


 尻餅を付きそうになったが、なんとか踏ん張り、バックステップで距離を取る。


「グルル……」


 夢にしてはよく再現出来ていて、たちが悪い。

 夢……だよな?


「グゥゥ……グルァ!!」


 悪魔がこっちに突進してきた!

 即座に鋭い自慢の爪で俺を引き裂こうとする。

 夢か現実かの判断に戸惑っていた俺は、一瞬反応が遅れてしまい、体を傷つけられた。


「いっ!!……っ」


 痛い。

 夢なんかじゃない。

 だとしたら……


「やべぇなこりゃ…」


 あふれでる汗を拭いながらも、悪魔の様子を伺う。

 悪魔は爪に着いた俺の血を匂い、ギロリと俺を睨んだ。

 一歩後ずさる。丁度手頃な石がある。


「グルル……」


 まだだ…。


「グルァァァ!!」


 今だっ!!


 俺は悪魔が襲いかかってくるタイミングで足元の石を蹴りあげる。

 その石は見事に悪魔の目に命中。一瞬動きを止めた隙に、後ろに駆け出した。


「はっ!はっ!はっ!」


 デジャヴ。

 もしかしてここは…あの山?

 だとしても、何で今俺はここに?

 謎だらけだが、夢じゃないことだけは分かっている。だから俺が今すべき事は、逃げること。


 せっかく従天使の名前がわかると思ったのに、なんでこんな…


「ガアッ!!」


「うわっ!!?」


 突如、後ろから悪魔の頭突きを背中に喰らう。

 俺は前に転げ落ちた。


「がはっ…!」


 大岩によって静止したが、身体のあちこちを打ったため、痛い。

 間髪入れず悪魔が追撃してくるのを視界におさめた。


「まじかよっ!!」


 俺は身体を無理矢理起こして攻撃を回避。

 大岩は見事に粉々だ。

 回避したと同時に背中の痛みに気付く。どうやら先程の頭突きで怪我をしたようだ。


 悪魔はゆっくりと、大岩から頭を抜いている。その隙に、木の多い方へと逃げていく。

 木が多い方が逃げづらくなる分、攻撃をかわしやすい。

 方角なんてこの際気にしていられない。とにかく一心不乱に逃げる、逃げる。


「グアァァァ!!」


「くっそ、追ってきてやがる!!」


 入り乱れる木の枝が視界を、行く手を狭め、やりづらい。

 能力を使うのは最終手段。

 あれは不完全なためコントロールが効かない。

 当たったら威力はあるが、当たらなかった場合の危険(リスク)が大きい。

 最善は逃げ切ること。

 最悪は能力の使用。

 今はとにかく、逃げよう。そして逃げながら対処法を考えよう。


 ちらりと後ろを見る。

 しかし悪魔の姿は見えない。それに困惑した俺は足を止める。

 見回しても居ない。ついさっきまで追ってきていたはずなのに。それが逆に奇妙で、警戒を高める。


 ……。


 ……バサッ。


 羽ばたくような音。

 まさか……上!?


 ビンゴ。


 しかし時すでに遅し。


 それは3D映画を見ているかのように、俺に向かって猛スピードで落下してきていた。

 ここから避けれても、悪魔が起動を変えれば直撃してしまう。

 なすすべなし……か?


 死を覚悟したその時、何処からともなく声が聞こえた。


『青年よ』


「!?」


 その瞬間、悪魔が俺の目の前で静止している。

 時が……止まったかのように。


『青年よ』


「だっ、誰だ!?」


 声の主は姿を現さない。


『力が欲しいか?』


「!!」


 どこかで聞いたことのあるフレーズ。


 ……間違いない…これは…。


『青年よ、力が欲しいか?』


「あ、あなたは、俺の従天使ですか!?」


『……』


 沈黙。


 返事を待っても、返ってこない。


『青年よ』


 やっと返ってきた!

 続きの言葉を待った。


『力が欲しいか?』


 また。

 よくよく考えれば、まずは俺が相手の質問に答えなければならないだろう。


「は、はいっ!」


『よかろう…。ならば、我が名を詠唱せよ』


「名を……?でも、俺は…」


『もう気付いているだろう?私の名を』


「……!」


 心当たりしか、無かった。

 本当に、そうだったのか。

 複雑だ。

 待ち望んでいた天使との交信。姿は分からないけれど、あの時と同じ声。

 嬉しいのと同時に絶望していた。

 だって、だって俺が待ち望んでいた天使は――


『時を止めるのもあと数秒。早く詠唱せねばその悪魔が貴様に襲いかかり、死ぬだろう』


「……」


 素直に、喜べない。

 何故なら、これから自分が人生で苦労しかしないのは分かっているから。それと同時に優越感もある。他の人とは別格の強さを持つ天使と契約しているのだから。


『青年よ』


「……」


『どうかお前は…』


「思い出した……」


 あの時、最後に何て言ったのか。今、思い出した。

 そしてもう一度聞いた。その言葉は不思議と強くて、俺のさっきまでの喜びや、絶望を全て無かったことにしてくれた。


『どうか、お前は』


 ――私の希望であってくれ


「神に遣えしその御力を、今一度我に分け与えたまえ。」


 ゆっくりと、悪魔が動き出す。

 時が動き出しているのだ。


「その名を――」


 俺は左手を、左目にかざす。撫でるように、優しく。

 そして悪魔はもとのスピードで俺に突進。直撃まで1,6秒程か。

 その名を。

 今まではここで詠唱が途絶え、力が暴走していた。

 でも今は違う。

 これから大変だろうが、俺はこの使命を果たさなければならない。

 貴方の希望であるために。

 そしてその名を口にした。


「"ルシファー"」


 その瞬間、眩い光が左目から発され、辺りを包み込む。

 それに怯んだ悪魔は吹き飛び、木に激突。


 光がある程度収まると、自分の体に圧倒的な力がみなぎるのを感じていた。


「すげぇ……」


 これが、ルシファーの力。

 前髪を見てみると、銀色になっていた。これも能力のものなのだろうか?


 悪魔はゆっくりと立ち上がり、こちらを睨む。だが、明らかに俺に怯えている様子だった。


「グ……ググ…」


「なんかわかんねぇけど、自然と力の使い方が分かる。まるで手足を動かすみてぇだ」


 右手を前に差し出す。

 そして力を発動。すると鋭く棒状になった光が具現化された。

 どうやら、ルシファーの従天使覚醒能力(エンジェルズアビリティ)は光の具現化らしい。


 光の槍の切っ先を空中で悪魔に向ける。

 そして放った。

 放たれた光の槍は、光の速度で悪魔の右の羽に貫通。羽だけでなく、後ろの木を何本も貫通していった。


「グカァァァァッ!!」


 苦しみ悶える悪魔。


「くっ、コントロールはまだ難しいか」


 今度は左手に光を纏わせてみる。

 まるで炎を纏っているかのような感覚だった。


 それと同時に悪魔が襲いかかってきた。


「ギャアアオ!!」


 その様子は半ば苦し紛れのようにも見えた。

 俺は光を纏う拳を悪魔の顔面にぶつけてみる。

 速度は勝手に光の速さ。

 光の速さで殴られた悪魔は瞬間的に地面へと叩きつけられる。

 その殴られた頬には光の痕が残り、数秒後に爆発した。


「ガアッ!!…っ」


「うお、すげぇ」


 悪魔はほぼ瀕死状態だが、まだ動いている。


「さて、止めといくか。」


 俺は現時点で最強の技を繰り出すことにした。


 左目に意識を集中。

 するとみるみるうちに光の球が生成された。


「くっ……ぐぁ…」


 熱い。焼けるように左目が熱い。

 そんな熱さに耐えつつも生成された光の球は卓球のピンポン球と同じぐらいの大きさになった。


「さぁ……て。これが…今の…俺のっ、渾身の…技だ!」


 名付けて


「"明けの明星"」


 ルシファーの名に相応しい技だと思う。


 悪魔に放たれたその球は、その小ささからは想像も出来ないほど広範囲、高威力の爆発をもたらした。


 ◇◆◇◆


「!目を覚ましたか!」


 そこには先生の姿。

 俺は起き上がる。


「大丈夫か?急に意識を失ったりして…貧血か?」


「はい、すいません。ちょっと貧血ぎみで…」


 先程の現象を説明することはまず出来ないだろうから、話を会わせておく。

 どうやら祠に戻ったようだ。


 その後、俺はバスに戻され安静にしていた。

 皆が祈り終えるまでのその時間は、先程起きた状況を頭の中で整理するには十分な時間だった。


 しかし、何であの時、『私の希望であってくれ』って言ったのだろうか。あ、あの時というのは、さっきじゃなくて俺が子どもの時。第一次天界戦争の時だ。

 もし、堕天したことと何か関係しているとしたら……考えすぎか。でも、深い意味はありそうだ。

 何にせよ、俺の従天使がルシファーだということが知られてしまったら、騒ぎを起こしかねない。騒ぎどころか、最悪俺は死刑にあってしまうだろう。

 これから、どう誤魔化していこうか…。


 そんなことを考えている内に生徒たちが戻ってきた。

 時刻はまだ12時を過ぎたところ。これからどうするのだろうか?


「よし、全員揃ったな?じゃあ次は聖騎士団リヴァジオンの本部に向かうぞ」


 先生がそう言うと、生徒たちはおおお!と盛り上がる。無理もない。

 何故なら、『聖騎士団リヴァジオン』の本部に向かえるのだから、それほど光栄な事は滅多に無いからな。


 聖騎士団リヴァジオンとは、三等騎士以上の称号を持ち、学園都市アリアの卒業を達成した者のみが所属出来る騎士団だ。

 世界の誇る最高戦力で、この騎士団が悪魔と戦える唯一の戦力であるのだ。

 都市皇を始めとし、数々の猛者が集うその騎士団は、聖騎士ならば誰もが憧れるものだ。


 バスで移動後約数十分、目の前に大きな塔が現れる。高さは大体三百メートルはあるだろう。


「よーし、お前ら、左を見ろ。目の前に見えるのが、聖騎士団リヴァジオン本部塔だ」


 おおおおお!!と、生徒の興奮は最高潮に。

 塔の一番上には、初代都市皇サヘグ・グレンデルの像が建っている。

 初代都市皇が、祠で休息する天使を見つけ、この聖都市リヴァジオンを創ったとされる人物だ。


 バスを駐車し、列ごとに中へと入っていく。

 中はとにかく広い。

 一階は観光できるようにグッズやらお土産やらが売っている。

 聖騎士が日頃の訓練や、会議などを行う業務的なフロアは三階からだ。


「ねぇねぇ!ライヤ君あのおまんじゅう美味しそうじゃない!?」


「ミチアはほんと、食い物のことしか考えてねぇな」


「食べ物以外に考えることある?」


「その考えが狂ってるよ…」


 そんなことを言いながら三階へ。てゆか、ミチアお前もっと前だろ…。


「はいお前ら順番に座ってけー」


 先生がそう指示をすると


「あっ、これは流石に戻らなきゃ」


 ミチアは本来の順番に戻る。やれやれ、なんて呆れながらも自分の指定された席に座る。


 それから、聖騎士の先輩に講義をしてもらった。悪魔の実態や、世界ではどのようなことが起きているのか。あとは、歴史なども説明してくれたり。でも俺は記憶力があまりよくないため、片っ端から話が抜けていく。


「では、次は従天使について説明します」


 ん、これはちょっと興味ある。


「元々、従天使覚醒能力(エンジェルズアビリティ)をの存在を発見したのは、初代都市皇様の親友であった学者で、その名をリベルト・ライロ様といいます。しかし、分かるのはそれぐらいで、どのようにして発見したのか、また、従天使覚醒能力(エンジェルズアビリティ)自体について、どのような原理で我々人間が力を施行出来ているのか、現在でも研究が進められており、分からないことばかりです」


 この聖都市リヴァジオンは、古くから天使を祭り、聖騎士を養成する都市。しかしその歴史について何も解析されておらず、昔の書物も第一次天界戦争にてほとんどが焼き付くされてしまった。


「じゃあ最後に、質問とか、何かないかな?」


 シーーン。

 こういう時に質問をする学生が、この世界に果たして何人居るのだろうか。

 誰も手をあげないこの状況を見て、聖騎士さんも苦笑い。


「あー、無い?じゃあ僕、私の従天使凄いよ!っていう人居る?」


 これには皆、思い当たる節があるようで。まぁ俺にもあるんだが。

 全員が一人の生徒に視線を向ける。それを察した聖騎士さんもその生徒の方を見る。


「えー、じゃあ君、従天使の名前を教えてもらっていいかな?」


「はい」


 はっきりと返事をして、可憐にその場を立つ。

 きらびやかになびくその金髪は彼女の魅力を引き立てている。


「私はクリア・アマネス。従天使の名前は『サンダルフォン』です」


 やはりこれには驚いたようで。聖騎士さんは唖然としている。

 サンダルフォンは熾天使だそうなので、驚くのも無理はない。

 クリア・アマネスさんは将軍(ジェネラル)の娘だそうなので、驚くのも無理はない。

 最早誰もが分かっていた展開。自然と生徒全員が誇らしげになっている。何なのだろう、この彼女に対する絶対的な信頼は。


「ライヤ君ってどんな従天使なのー!?」


 …はっ?

 何故、なぜ急に俺に振る。

 声の主は…ミチアだ。


「ねぇねぇ!ライヤ君の従天使、私知りたいなぁー!」


 注目が一気に俺に集まる。そしてひそひそ話。

 あいつって確か、クリアさんに楯突いてた奴だよな。

 知ってる、クリアさんに楯突くなんて、相当凄い従天使なんだろうな。

 そんなことが聞こえてくる。

 これはまずい。非常にまずい。

 ここで俺の従天使の存在がバレてしまったら、学園生活どころか、人生が終わってしまう。

 ミチアを思いっきり睨み付ける。

 困惑するようにたじろぐミチア。本当に興味本意で言ったようだが、なぜ今。


 どうする。どう誤魔化すか。


 あまりしたくはないが、名前を知らないという風に言うか、黙秘権を行使するか。どちらにせよ、生徒からの評価は落ちるだろう。


 …。仕方がない。ここは黙りを――


「私も知りたい」


 クリアさんが言い出した。


「この前相当大口叩いてたから、それなりの実力はあるんだよね?」


 大口なんて叩いてないです。いや、確かに暇とか時間の無駄とか言っちゃったけど悪気はないわけで…。


「へぇ、君、クリアさんに認められているんだね。教えてもらっていいかな?」


「うっ…」


 やばい。

 今ここで言ってしまえば間違いなく人生が終わる。


 時間が経てば経つほど重たい空気になる。

 何て…言おうか。

 デタラメに言うか?でも、そんなに期待はずれなことをしたら友達できなくなるよな。

 クリアさんに対しての信頼を抱いている生徒からすれば、俺なんかはクリアさんに反抗した敵も同然だろう。


 ああああああああ!!!どう転んでも俺の不幸じゃないか!!



「第六部隊、そろそろ会議が…」


「…!了解しました!」


 入り口から現れた聖騎士さんが講義してくれた聖騎士さんに言った。


「すみません、このあと会議があり、もうそろそろ質問は終わりにしないと…」


 申し訳なさそうに言うと、先生がお礼を言う。


「いえいえ、わざわざありがとう。さぁ、お前らお礼を言うんだ」


 姿勢を正して…礼。

 ミ、ミラクル…。とりあえずこの場は凌げた。

 並んで帰ろうとしている時に、また同じ質問をされても困るため、先生に言ってトイレに行った。


「……」


 後ろから、鋭い睨みをクリアさんにされているのは、俺には知ることは出来なかった。


 それからバスで学園に戻り、HRを終えたあと、解散となった。

 俺も寮へ帰ろうとした時、先生に呼び止められた。


「あっ、ライヤ。お前は一応保健室に行って診断してもらえ」


「えー…」


「えーじゃない。あからさまに嫌そうな顔をするなよ」


 額にデコピンを喰らった。

 ちょっ、まって、めっちゃ痛いんですけど。


「力強すぎだろ…」


「あん?なんか失礼なこと言わなかったか?」


「いえ、なんもないっす」


「そうか。とにかく今すぐ行けよ、保健室」


「はぁ…」


 めんどくさい。さっさと寮に帰って寝ようと思っていたのに。


 とにかく早く済ませたい。

 俺はそそくさと階段を降りて、一階にある保健室で用事を済ませた。

 異常は特になかったため、すぐに帰してくれたのが幸いか。


「さぁてと、帰って寝よっと…」


 靴を履き替えて校舎を出たその時


「やぁ」


 クリアさんが居た。


「っ!ど、ども…」


 クリアさんの背後(バック)には複数の生徒。ファンクラブか何かだろうか?


「君、校舎から出てくるの遅いね。何してたの?」


「え、えと、ちょっと用事に…」


 ギャアアアア!!

 早く帰りたい!!何となくこの人と関わりたくない!!


「ふぅん」


 興味が無さそうに言う。


「じゃ、じゃあ俺はここで…」


「待って」


 俺は肩を跳ねた。


「は、はい?」


「君さ、さっき騎士団本部で質問受けてたよね?何で答えなかったの?」


「っ!え、えっとそれは……」


 これだけはばらすわけにはいかない。誰にも知られてはいけないのだ。


「ねぇ、教えてよ。強いんでしょ?君」


「いや、そんなことは……」


「謙虚ぶらないで、さっさと教えてよ」


「でも……」


「さっさと教えろっつってんの!!」


 クリアさんの怒号と共にビリビリと空気が震えた気がした。半端なく凄んだその顔は、俺にとっては恐怖でしかなかった。

 どう……しよう。ここで言わなければひどい目に合うかもしれない。何より、さっさと帰りたい。

 デタラメな名前を言ってしまえばすぐ帰れるだろうが、学園生活が終わるだろう。かといってこのままはぐらかし続ければ彼女の怒りを買うこととなる。


 どうすればいいんだよ!!


 悶々としていると、クリアさんは衝撃の言葉を発した。


「ふぅん。そんなに教えたくないんだ。だったら、私と決闘してよ」


「……え?」


「君の口から聞くよりも、実際に戦ってコテンパンにした方が楽だし私の気も収まるでしょ?」


 決闘。

 訓練所に設置されたプログラミングで仮想世界に意識をダイブさせ、仮想世界の自分の分身、つまりアバターで実践に近い体験が出来る。体には影響を及ぼさず、より実践的な訓練が出来るようにと開発されたものだ。

 決闘とは、聖騎士の間で行われる戦いで、厄介事や聖騎士間での問題を、実力で解決しようという、なんとも強引なものである。

 つまり、この決闘を受けてしまえば、俺の従天使の名前がバレる上に、クリアにコテンパンにされてしまい、学園生活が終わるという最悪の展開になる。

 かといって受けなければそれはそれで酷い仕打ちを受けるだろう。


 え、何これ。バットエンドフラグ立ちすぎじゃね?


 てなわけで


「じゃあ、決闘を始めるわよ」


「はい……」


 訓練所のプログラミング室で仮想世界にダイブできる装置に座る。

 クリアさんのファンクラブの方々はモニターで俺たちの決闘を観賞するようだ。


 研究員の方がパソコンを操作して、ダイブの準備をしているらしい。その人に俺は質問をした。


「あの、すいません」


「ん?なんだい?」


「あのモニターから、仮想世界の音って聞こえるんですかね?」


「いや、聞こえないよ」


「あ、そうなんですか。わかりました」


 なるほど、それなら事を穏便に済ませれる方法が無いこともない。


 俺は背もたれに体を預け、そっと目を閉じた。


「じゃあ、準備はいいかい、二人とも」


 無言の肯定。


「いくよ――」


 そして俺は、意識を失った。

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