1, 始まり
本編スタートです。これから頑張って書き続けたいと思いますm(__)m
「はぁっ!はぁっ!」
もうどれぐらい走っただろうか。
後ろを見る余裕もない。
ただ迫ってくる悪魔から逃げるために、俺は一心不乱に走る。
山の中ということもあり、足場は不安定だ。
木の枝やら大きな岩やらが行く手を阻み、俺と悪魔との距離を縮めようとする。
今思えば何故山なんかに来たのだろうか。
……あ、そうそう、何となく懐かしい声がした気がして――その声の方へ歩いていくと――この山に来たんだ。
「はぁっ!!はぁっ!!」
流石に体力の限界が迫ってきた。
闘うしか無いのか!?
でも奴は……中級悪魔だろう。
まともに戦って勝てる見込みはほぼないが……このまま逃げ切れるわけもなし、足止め、良くて撃退を試みてみよう。……にしてもついてねぇ……。
俺は軽くジャンプして大岩を飛び越える。
それと同時に体を半回転させ、悪魔の方を見る。
「神に遣えしその御力を、我に今一度分け与えたまえ」
左目が熱くなる。
中級悪魔は大岩をコウモリのような羽を羽ばたかせて軽く飛び越え、俺を見つけると、猛スピードで突進してきた。
「その名を……」
その名を…。
二秒の沈黙。その後、俺の左目から光の光線が悪魔に発射される。
光の速度で放たれたその光線を避けることは不可能。悪魔の右羽に貫通。その反動で悪魔は地に倒れた。
「はぁっ、…よ…し、当たった。良かった」
どうする。このままもう一度"半端詠唱"してこいつを仕留めようと試みるか?それとも、このまま全力で山を降りるか?
「グ…ググゥ……ゥ……」
もう一度当てれば仕留められる。が、当たるかは分からん。
「どうする…どうする…」
せめて、従天使の名さえ知っていれば…。
俺は山を全力で降りた。
途中、過度な加速によってバランスを崩し、頭から転がり落ちてしまったが、そんなことを気にもせず、ただただ走った。
山から学園までの距離はそう遠くない。
山を降りるとすぐに聖騎士のいる街があるため、悪魔はもう追ってこない。
「君!?大丈夫か!?」
「はい…」
「悪魔にやられたのか!?どこにいる!?」
「山…に……」
そこで意識を失った。
◇◆◇◆
聖都市リヴァジオン。
世界で唯一悪魔と対抗できる兵士を養成する、『学園都市アリア』が存在する独立国だ。
古くから天使を祀る祠があり、天使の力を借りて悪魔と闘うことが出来る。
俺は三年の研修期間を乗り越え、一週間前に晴れてこの学園都市アリアに入学することが出来た。
新たな仲間との出会いがあり、そこそこ楽しい日々を送っている。しかし…悩みが一つ。
俺は従天使の名を知らない。
本来、従天使覚醒能力を発動するトリガーとなる詠唱があるのだが、従天使の名を言葉にしなければならない。しかし俺は従天使の名を知らない。そのため、不完全詠唱となってしまい、思うように能力をコントロール出来ないのだ。
「あの時……聞いとけば良かった」
一人自室で呟く。俺の悩みと呼応するように、昨日の怪我がズキズキと痛む。
この学園は全寮制だ。
朝六時半から食堂が開かれるのだが、七時になってしまうと、学園生でびっしりと埋まる。現在時刻七時十三分。
「出遅れた…」
どこもかしこも席が埋まっていて、座れそうにない。
まだ入学後一週間ということもあって、親しい友が一人もいない。もともと、人とフレンドリーに話しかけられる性格はしていないので、自分から話しかけたりはしていない。
親しい友がいれば同席して食事が出来たりするのに……。御歳16歳にてはじめて自分の性格を恨む。
そんなことを考えていると、一人、俺に話しかけてきた。
「あ、ライヤ君だ」
声のする方を見ると、赤い髪が特徴の少女が席に座っていた。
「おお、ミチア」
「さっきからキョロキョロして……もしかして席無い?」
「そうなんだ……」
「前座る?」
「良いのか?ありがとう!」
ミチアは入学直後に話しかけてきた活発な女の子だ。この学園で唯一の顔見知り。
彼女のおかげで無事朝食を取れるようになった。
朝食を食べ終えると、ミチアとしばらく雑談。
「一人で食べようとしてたの?」
「うん」
「たはは、ライヤ君友達居ないもんね」
「……」
平気で毒づかれた。結構S?
「ここ一週間、集会やら書類記入やらで実践的なこと全くしないから面白くないなー」
「だな。でも今日から普通に訓練があるだろ」
「いや、今日は祠で祈りを捧げにいくんだよ」
「そうだっけ?」
予定表を全く見ていなかったから知らなかった。
「このあと八時からHR教室集合だよ」
それから朝食を済ませたあと、俺とミチアはHR教室へと向かった。
食堂のある西棟から校舎のある東棟まで徒歩約五分。公園のような風景で、学校とは思えないほどだ。
すると前方に人混みがある。靴の色を見てみると、一年生だ。なんだろうか。
「ちょっと行ってみよっか」
円になって囲むように集まっていて、俺は背伸びして中央の人物を見た。
「んー!見えない。ライヤ君見えた?」
「よっ……と…見えたぞ」
「誰誰?何してるの?」
誰…なのだろうか。見たことがない…というより、俺の情報網が少なすぎるのだろう。しかし分かることは、金色の髪をなびかせた美少女がメダルのような物を自信満々に掲げて仁王立ちしていることだ。
あのメダル…どこかで…。
「あ」
「?どしたの?」
「あれは…中級騎士の証明メダル!?」
靴を見てみると一年生。
一年生で中級騎士…!?まだ一週間しか経っていないのに…とんだ化け物だ。
「すごいねぇ!それならきっとクリア・アマネスだね!」
「知ってるのか?」
「そりゃあもちろん!歴代最強の新人聖騎士って噂される程の強さ!かの将軍の称号を持つ、ダリア・アマネスの一人娘だそうだからね!」
将軍の娘!?ダリア・アマネスさんがどんな人なのかは知らないけれど、さぞ凄いんだろう。
驚き戸惑っていると、クリア・アマネスが話し出した。
「まぁ、下級悪魔十体だなんてちまちましたことせず、一気に中級悪魔十体の首を持ってきてやったけどね」
どや顔で言う。すると周りはおお!と歓声があがる。
いやいや、結局十体じゃんちまちましてますやん。
とは言え、中級悪魔十体を軽々と(実際に見ていないが、自慢げな態度から読み取れる。)倒してしまうところが、期待されている由縁だろうな。
「世界は広いなー。色んな強者が居るもんだ。さ、そろそろ行こうぜ」
「えっ!?もっと見ていかないの??」
「いーから、いつまでもここにいても暇なだけだし、時間の無駄だろ?」
「えっ?なんて?!?」
またクリア・アマネスが何かしらの自慢をしたのだろう、歓声があがる。その為か、俺の言葉が聴こえなかったらしい。俺はもう一度、声を張って言った。
「だから、ここにいても暇なだけだし、時間の無駄だろ!!」
シーーン…。
……えっ。
「……」
無言の殺気。いや、無言という殺気を肌で感じた俺は、その発している主を見やる。
それは、それはそれはもう鋭い目付きをしたクリア・アマネスさんが俺を見ていた。睨み付けていた。
「へぇー、君、私の優秀すぎる成績を見て暇なんだー。時間の無駄なんだー」
あ、これは……キレてらっしゃりますね。
笑顔で俺の方へと近付いてくる。
「君、私の従天使知ってる?」
「い、いえ……」
周りがざわめく。
あれ……俺なんかまずいこと言った?
クリア・アマネスさんの額に怒りマークが浮き出てらっしゃります。
「無知だねー。さては君、田舎者?そうだよね。普通、私のこと知らないなんてあり得ないよね。バカだよね。人間やめた方がいいよね。死ね」
いや怖い怖い怖い怖い。なにこの人超毒舌なんですケド。
冷や汗止まらないっす。
「そんな君に教えてあげよう。私の従天使の名は『サンダルフォン』熾天使の一人である最上位の天使との契約を結んでいるのよ?」
そう言って彼女は右腕のブレスレットを見せてくる。金色に神々しく光っている。
しかし…サンダルフォン?はじめて聞きました。なんて言えるわけがないので…。
「すっ、スッゲーサンダルホン!シテンシかっけー!すぅげー!」
取り合えずおだてた。
「へー。君なかなか良い性格してるね。何?人のことバカにしてんの?さぞ君の従天使は凄いんだろうねぇ。ねぇ、教えてよ。ねぇ」
な、なんか知らないけどめっちゃ怒ってる!?
って、従天使の名前を教えろって…俺知らねぇよ!
周りを見てみるとギャラリーは興味津々といわんばかりの眼差しを俺に集中させていた。
ど、ど、どしよ…。と、その時。
「あっ!ライヤ君!あと三分しかないよ!急がなきゃ!」
ミチアがそう言って、俺の手を引っ張り猛スピードで走った。
「あっ!ちょっと!待ちなさい!」
クリア・アマネスさんの静止を聞きもせず走っていくミチア。ふぅ、助かった…。
これが俺とクリア・アマネスの出会いだ。
◆◇◆◇
「おーし、全員集まったなー。点呼とるぞー。アンステステルマリリファロって長いなおい!!!」
「す、すんません…」
確かにアンステステルマリリファロは長い。
担任の先生は美人だけどキレ症だから婚期を逃しているらしいとは口が避けても言え「おいライヤ」「はい何も言ってません!!!」
「は?なんだ急に」
「あ、いえ、何もないっす」
「きもちわるいな。はい次ラシファロステンス」
はーびっくりした。心の声読まれたのかと思ったぜふぅー。
点呼が終わったあと、廊下に出て二列に並ぶ。どうやら今から祠に行くらしい。
しかし、祠とは一体どこなのだろうか。いかんせん、俺が無知すぎるせいで全く見当がつかない。
「ジィヤせんせー、もういっすかー?……あ、はいわっかしたー!、よしじゃあお前ら行くぞあたしについてこい」
先生の指示にしたがってついていくと、校舎に出た。そこには大きなバスがあり、学年全体で大移動するらしい。
俺たちは順にバスに乗り込んでいき、晴れて出発。
俺は一番後ろの左端という特等中の特等席に座って窓の外を眺めていた。
今はまだ学園の敷地外には出ていないので見たことのある風景だが、本能的に眺めてしまう。自分が乗り物に乗っているという楽しみを微かに感じていることから、俺もまだまだ子どもなのかなと思ったり。
前の方では、もう打ち解けてしまった友達グループが楽しそうにワイワイしている。ミチアも女友達とはしゃいでいる。
俺はというと、ご存じの通りぼっちなので窓の外を眺めることしかしない。
普通なら、このバスでお出掛けという友達作りに最高のきっかけとなるのだろうが、俺はやはり人見知りが発動してしまい、どうにも自分からは……。というわけで、寝る。
……寝るといっても、俺は一日一回、夜にしか寝られない性分で、昼寝なんかはしたことがない。
だから寝るというよりは目を瞑るという方が正しいだろう。
こういう時に、色々と考え込んだりしてしまう。
――――――――
――――
――
『少年よ』
『力が欲しいか?』
『貴様は』
『この……を……す…ちが…るのか?』
『ならば…をあた……う』
『その失われた左目に我が力を』
『少年よ』
『どうか』
『どうか』
『――――』
これぐらいしか覚えていない。
昔、第一次天界戦争というものがあった。
地獄の門が開いたことで悪魔の軍勢がこの聖都市を襲い、人々に大きな被害を与えた。
俺の住んでいた場所は田舎で、機械なんてものは無く、とてものどかな場所だった。それが仇となり、戦争による被害が最も少ないと聖騎士団に判断され、激戦区となった。
もちろん、被害というのは人口や機械の量。そういう面でも俺の住んでいた場所はお手頃だったのだろう。
今思えば腹が立つ。
俺たちの命は他の人間や機械よりも軽いってのか。きっと、昔は俺も聖騎士団を恨んでいたのだろう。
しかし今はその恨んでいたはずの聖騎士としての道を歩んでいる。何でだっけ?
何せ、俺は天界戦争によって家族を失った。その代わり"力"を得た。名も知らない、天使から。
せめて、名さえ知っていれば。
――
――――
――――――――
「さーおめぇら。楽しんでるとこ悪いがそろそろ着くぞー。」
先生の言葉に意識を戻す。
以外と早かった。
外を見てみると、如何にもという感じの祠がそびえ立っていた。
日本の大きな柱から連なる幅の大きな道。その先に祠があり、天井には天使を象った像が建っている。……けど、顔が壊れている。
バスから降りると、再び二列にならんでクラスごとに歩く。
「ここは『安寧の祠』年に一度だけ訪れる降天使祭で天使が舞い降り休息する唯一の場だ」
確か、初めて天使が舞い降りたのがこの場所で、その天使を見た人物がこの祠を造ったのだとか。
もしかしてその天使があの像の天使なのだろうか。その素朴な疑問をまんま先生に質問してくれた少女が一人。ミチアだ。
「せんせー!あの像って何で顔ないのー?てか何の天使ー?」
「ん?ああ、あれは第一次天界戦争後、都市皇の命によって破壊されたらしいぞ。名はルシファー」
ルシファー。
「ルシファーって……あの堕天した?」
「熾天使ルシファー及び、堕天使ルシファー。第一次天界戦争とほぼ同時期に神の怒りを買ったとされ堕天してしまった天使。熾天使であり、神の一番近くに置かれていた最高階級の天使だったルシファーの堕天は世界に衝撃を与え、ルシファー像の撤廃が命じられた」
ルシ……ファー。
「あれはびびったよなー」
「だって天使の中で一番偉かったんだろ?」
生徒が口々に言う。
「本来、天使は上の階級になればなるほど堕天しにくいものなのだがな。ルシファーを従天使としている者は一人として存在していなかった。もし、存在していたらそいつは死罪だっただろうな。最も、現在ではあり得ないだろうが」
何だろうか。俺は少し予感しているのかもしれない。
俺の従天使が……ルシファーなのではないかと。
俺もルシファーについて知っていることは少ないがある。
神の教えに背いたことで堕天してしまった熾天使。それが第一次天界戦争とほぼ同時期ということは、あのときの天使がルシファーという可能性もあるということだ。
もし、そんなことが起これば……世界から反発を受けるだろう。場合によっては……死刑――
「ライヤ君?」
「はっ!……はぁ、はぁ、ミチアか…」
「どーしたの?」
「いや、何でもない」
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫」
大丈夫だ。ルシファーは今まで従天使にならなかった。今は堕天してその資格さえ失った。可能性は限りなく低い。
「今から祠に入って何をするんだ?」
「んっとねー、確か祈りを捧げるんだと思う」
「祈り?」
「うん。祈りを捧げることで従天使との信頼関係が更に深まり、力の暴走を無くすんだって」
従天使との…信頼。ってことは…
「従天使が、現れるのか?」
「多分ね」
今日。分かるのか。俺の従天使が。あの時助けてくれた、天使が。
祠にはいると、すぐ前方に台座が見えた。そこには巨大な水晶が置かれており、天井からは光が差し込まれ、神々しい雰囲気を際立たせている。
「うっはー…凄いな」
声も響く。
「よし、お前ら。前から順番に祈りを捧げに行け」
先生が言う。
「せんせー、祈りってどー捧げるんすか?」
一人の男子生徒が質問。
「んー、てきとー?」
おい。
そんなわけでてきとーに祈りを捧げていく。
ちなみに俺は神頼みと同じ感覚で行こうと思う。
一人目。
両手を合わせて数秒後、一人目の男子生徒の目の前に天使が現れる。
「おお、これが彼の従天使か」
一人、また一人と順に祈りを捧げに行く。
「ん?ミチア、お前はもっと前だろ?」
「いやぁ、何を祈るか迷ってて。チキンもいいしカレーも捨てがたい…」
「食べ物かよ」
呆れているとあっという間に俺の番。てか、ライヤだからわりかし後ろの方なのにもう俺の番かよ。
台座に向かう階段を一つ、また一つ上がる。
(何を祈るか…)
答えなんて決まっている。
とっくに。
水晶の前に立つ。とても透き通っていて、鏡のように輝いているのに、自分の姿は映らない。とても不思議だ。
両手を静かにあわせる。ゆっくりと、時間をかけて。
そして両目を閉じる。これも時間をかける。
さぁ、いくぞ。
何年も会いたかった天使にようやく会える。
さぁ、いくぞ。
……
どうか、姿を現して下さい。
――我が従天使よ。