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ゴメちゃん(担任)からのお呼び出し


 男にとって女同士の争いほど怖いものはない。


 というのは個人ならではの勝手な世論。

 体感で怯えを感じ取ろうとも死という概念の前では全てが霞みゆくものだろうから。けれども死を抜きに考えたとして負の感情は絶大的なものであるのは違いなく。

当事者の気持ちを傍から見ているだけの傍観者が量り取る事は難しいことなんだ。




 ――教室に戻ってきた二人の様子見としては別段変わり映えなくといった所か。

 

 ホームルーム時に顔を出さなかったせいか、担任である栄田先生は教室に入ってくるやも不在の席を目にするなり「ん、芽森と芹沢はどうした?」と問うてきた。

これはまぁ普通のことのように思うけど一度このクラスは不仲になっているもんだから何かまたやらかしたな、と不審がられてもおかしくない。


 しかし前回の時を思えば皆が一様に目を逸らせば察せられると思ったのだろう。

 クラスメイトの1人が「えっと、芽森さんがちょっと調子を崩して、それで芹沢さんも付き添いで保健室について行ったんだよ」という風な機転を利かしてくれた。“本当は逆なんだけれども”想像しうる形としてはしっくり来る。


 それもまた普通の事で腹痛などの理由でホームルームに着席していない者、欠席者がいるのはザラにあること。ましてや遅刻魔だった俺がいるんだ。

そうであるならば必要以上に訳を聞いてくることもなく先生は「そうか」と神妙な顔をしながらも納得してくれた。



 生徒からのSOS信号ないし、教師が口を挟むほどに緊迫とした事情だったら話は別だけどクラス観で解決可能な事柄なんだ。わざわざ先生に話したり公にするほどじゃない。

ただ、事が長引いてしまえば火種が大きくなってしまうことがないとも言い切れない。だろうともクラス全体での暗黙の了解はそれぞれがそれぞれで解決できる事だと思っている証拠だ、と思う...... たぶん。

 

 しからば問題は三人。

 なのだけれども、彼女達の性格を考えたら一筋縄ではいかなさそうだ......


 その内の二人である芽森さんと楓さんは一時間目は顔を出さずに欠席、二時間目の授業が始まるほんの少し前に戻ってくれば落ち着いてるとも言えなくはないものの、笑顔を絶やさないあの芽森さんが誰とも目を合わせることなく自席に着席したという事で教室中はざわついてみせた。

 楓さんは平常運転。宮村さんはどうだろう。

 元々会話を交わす事自体少ないから変わりないように思うけど後ろの席だから見えない。周りを囲まんとする人数という盾がない状態では振り向くのが怖いものな。





 そうして、今まさに。

 二時間目の終わりを知らせる予鈴が鳴り響いた――


次の授業までの休憩が入るという事で日直の人が終わりを告げる合図を言い渡せば、教卓の前に立っていた先生が扉を開けて教室から出ていく。

バタンと閉められたタイミングで俺はすぐに教材を机の中へ放り込んだ。無論そのまま雑に扱うでなく綺麗に並び整えてだ。



さて、休憩だとはいえ俺に出来る事は何もない。

つまりいつも通りに芽森さん...... と、それから今回は楓さんと宮村さんの様子見もしないとか。いっても彼女達はグループで行動している訳であり俺みたく自由時間帯も常に教室に居座ってるとは限らないのだけれども。



「ああ、黒沼ちょっといいか......」


 その為にやることは一つだ、机に顔を埋めて耳を立てる。

 単純に言えば首を横向きに両手を交差させて、あとは顔に添えさせれば準備完了となる。


 俺はそうやって寝た振りをしようとして......



「・く・ろ・ぬ・ま・」



 どうしてかさっきから名前をを呼ばれてる気がするけど、うん。

 多分気のせいだろう――とした時。

 

「おいおい、お呼びがかってるのに寝た振りを決めようとしてんじゃねぇよ」


「え?」


 頭上から落ちてくる声に勢いよく顔を上げて見ると、浜慈君に睨まれていた。

 それも何か腑に落ちないといった感じの顔で...... それもその筈だった。


「そら、有り難い事にゴメちゃんからご指名が掛かってるぜ」



 いつ教室に入って来たのだろうか。

 クイクイと親指で差し向けられた視線に目をやれば、教卓には1組の担任であるゴメちゃんこと栄田さかえだ仔五女こごめ先生が今か今かとした様子でこちらを見ていた。

 だからだろう「ったく、変わって欲しいぜ」と浜慈君の愚痴のような声漏れ。

 なら君が行けばいいじゃないかと言った所で名前を出されてるんだもんな。


  ...... しかしながら先生が俺なんかに何用なのか?


 注意を受けられるような事はしてないと思うけど、って考えても仕方ないな。

 取りあえず待たせてはいけないので椅子から腰を上げる、俺の動作をまじまじと視察しさつしていたらしいことから教卓へ向けて歩き出せば先生の目元が和らいだのが見て取れた。



「あの、何か御用で......」

 

「いやな、私もさっき思い出したんだが。すっかり忘れていたんだよ」


 要件を聞いた傍からそう前置きした栄田先生は机の下に手を入れる。

そして嫌に重くずっしりとした音を響かせれば、見る見るうちに教卓の前には大量の教材が置かれていった。

一般的な授業で活用されている教本の倍、テスト勉強でもこれほどの教材は用意しないまである、あくまで俺の場合はだけど。

 もしかしなくても用っていうのは。


「これを、な。職員室に運ぶのを手伝ってもらいたいんだが」


「え、いや、え......」


 俺はそれらを見て思わず二度、驚嘆を打つ。


 何故なら、栄田先生の言っていることが矛盾しているからだ......

『忘れていた』その口振りからすると、つまりは最初から机の中にこの積み重なってる量の教材を入れられていたということになる。いくら何でも無理があるでしょうに、それだと他の先生が授業で教材を使い分ける時に保管する場所がなくなってしまう。

だというのに前の前まで教材を机に乗せていた形跡もなかった。

 

 ――などとこっちが色々と思案しているのをいいことに。



「黙まりは了承と見なすぞ。よし、じゃあ少し荷が重いが半分に分けて持っていこうじゃないか」


 勝手に事が進んでいた。


 あの、まだ返答していないんですけど...... まっいいか。

 様子見を伺いたい所ではあるけどどうせ教室にいても暇なだけだし、でもそうなっちゃうと、ここはちょっとばかし機転を利かせてあげたいなと思ったり。



「あっ、ああっと、それなら、浜慈君にも手伝ってもら――」

「いや、その必要はない、二人で十分事足りるよ」

「え、だってこの量ですよ」

「ん、何か問題でもあるか? ああ、それとも女の(...)私より腕っぷしが弱いのか。まぁ力こぶが足りないのなら仕方ないな、人手を増やすか」


 先生の挑発的なほくそ笑み......


「いえ、こんな量ぐらい二人でも訳ないです!」


 悔しいかな、浜慈君には悪いけどそんな言い方をされたらもはや機転を利かせるだとか融通めいたものは頭から吹き飛んだ。

 さすれば「ふっ、ああ。男の子だもんな」と子供を扱うような優しい微笑みへと変わる。


 チンケナ男のプライド故、ついムキになりえて答えてしまっが何だか上手く乗せられてしまったような気が...... ってあれ――先生が着てるスーツのポケットから何か白くヒラヒラとした物がはみ出てる。

 鍵ケースや財布をあんな所に入れておくはずがないし。

 多分ゴミだろう、気にするほどのものじゃない。でもドジを踏んでる可能性も否めないし一応言っておこうかな。


「あの栄田先生、何かポケットからはみ出ていますよ」


 そう指摘してあげると...... 



「ん、ああ、これか。これはな——」


 『すっ』とポケットから出されたものは“案の定ゴミ“だった。

 それもなんてことないただのポリ袋だ。それだけに分かってしまった。

 なぜ大量の教材が教卓に入れられていたのかを。

 あれは入れられていたのではなくわざわざ持ってきたんだ、袋に包んだ状態で......


 女がてらに力が強いんだろうな、そもそも男より腕力で勝る女性なんて山の数ほどいるからこう考えること自体が厚かましいのか。霊長類最強との異名を持つ女性もさることながら近年では野原ひ〇し並みに尻に引かれてる男の人も多い訳だし。俺を例に草食系男子が増えてきているのも事実だろうから。それが恐らく少子化事情と関係してなくもない気がする。

 家だと父さんはどうかはよく知らないけど俺は多少は抗えてみせようとも性根では母さんはおろか、愛美にも逆らえない。頭が上がらないって意味でも。



 ...... それは端に置いといておくとして。


 自分で持ってきておきながら人に運ばせる意味。

 1人で事足りる物を二人分割して運ばさせようとする魂胆は――



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