誰にだってある乙女な一面
長めな文章が続いていたので小分けにしました
しかし、ホームルームになるまでの時間帯が。。。。。。
良くも悪くもクラスの風雲児。
本人にしてみればスケバンを気取ってはいないんだろうけど。
女子の中でも派手そうな見た目と相まって男子達にとっては取っつきにくいと思われがち。乱暴な言葉使いといい、何かと恐れられているけれど、見た目と違わぬカリスマ性でいざとなればクラス全員の意思をを統一させてくれる頼りになる委員長でもある。
そんな彼女にしては静かに勉強しているなと思っていた矢先での嘲罵。
めどがついたのか、一息ついたのか、俺の意識は机から顔を上げたらしい宮村さんの言動に引き戻された。
「ドラマなんざくだらねぇよ、所詮作り話に過ぎねぇってのに揃いも揃ってよく夢中になれるよな。紛いものだぜあんなの」
「こ、怖ぇ......」
と、獅子の目覚めの一発に浜慈君がひっそりと呟いた。
その隣で同じように俺も冷や汗が出そうになる。
...... 怖れ多くも後ろを振り向けないけど顔を見なくてもこれだけは分かる、舐め腐った目で言っているんだと。
確かに宮村さんの言っている通り作りものがほとんどだろう。
でも現実になぞらえて構成されているドラマだって多くある。確率は低いけど運良くドラマみたいな出来事に遭遇することだってなくはないんだ。
それでもそういうものを夢物語だと考えてる人は数知れず。
かくして、宮村さんが放った言葉に教室中は沈黙。
俺が芽森さんと話してた時は気を張って見守られてる感じがあったけど今は威圧感に包まれているよう。
あれほど喋っていた女子達の声も完全に消えてしまっている。
こういう場の空調を変えてくれるのは立花さんっていうイメージをしてしまいがちになるけれども、今は物を申せるタイミングではないのか声が聞こえてこない。
芽森さんも性格的に楓さんにしても無駄に突っかかっていくような事はしない。
目の前で物言わぬ浜慈君にしたってそうだ、言わずとして俺も平和主義者。
男が引率して場を収める立場でならなきゃならないんだろうけど、情けなくも暴言は苦手だ。
そのように誰もが厭わしい雰囲気に静まり返っていると、当然と言えば当然か。宮村さんと同じ雰囲気も持ち合わせている女子が口出しした――
「紅奈さぁ、自分の恋が上手くいってないからってその物の言いぐさは無しだって」
さすがはギャルチックな宮村さんの友達だ。
彼女の畏怖感に物ともしてない自然な返し、いや友達だからこそか。
常日ごろから宮村さんと行動を共にしているが勉強の邪魔をしたくない事から、今日は別の机で他の女子と談笑していたらしい。基本的には横暴そうな宮村さんと違って安楽とした喋り方をしてる印象がある。
性格的に見ても気安く誰とでも話せてしまうんだろうな。
そんな彼女の一言は的を得ていたようで宮村さんは一瞬言葉を詰まらせたみたいだった、が。
「だっ、そんな色ボケじゃねぇ!」と切り返し。その際勢いに任せて立ち上がったらしく椅子の擦り切れる音が聞こえた。
「夢見る歳か、アタシら? あんな現実味のねぇ恋愛ものでキャーキャー喚いてよ。おとぎ話で胸を焦がすってガキじゃあるめぇし」
「いや、ガキじゃん」
「精神年齢の話だっつうの!」
おお、意外と冷静なツッコミ。
であるから彼女も現実主義者なんだろう。
立花さんや芽森さんとは見ている角度は違っても述べようとしている主旨は同じ。
どちらかと言ったら俺は戦隊ものヒーローに憧れたりする妄想思考だけどそうならないという現実的な部分の方が強い...... だから宮村さんのいう事も分かるんだけど。
年甲斐もなく夢を見る事の何がいけないのか? そもそも高校生ならまだ歳というには早すぎるって、それはもう代弁してくれたっけ。
「いい歳して恋愛漫画にハマってますってか、乙女かよ」
「いやあたしらバリ乙女じゃん」
「貞操を守ってもねぇ奴が言えた台詞じゃねぇよ!」
聞いてる限りは現実を見てる風でいるが、言い散らしてる内容からして実は友達の方が現実寄りだっていう。
して、ここに少女漫画にハマっている人がいるんですけどね。
しかも貞〇を守ってるから発言する権利だってある...... 乙女っていうより乙男だけど、それも家事スキル皆無なもので主夫にもなれない。
ああ自分で言ってて悲しくなってきた。
『せいっ』『はっ』『せいっ』『はっ』
クールさは関係なしにポコポコとモチを付く要領で1つ物を言えば1つ物を返す。
そんなリズムカルな二人の掛け合いの最中「言うに事欠いてっていうのはこれかな」と、またもや横から乱入者が。
「そう言いつつもー...... 実はガッツリ見てんだよねぇ、みやむー」
――確信のある一言。
唐突に投げ入れられた告げ口によって不穏な流れがピタリと止まったのが分かった。
さらにはあれやこれやと乙女心を散々に罵っていた宮村さんから『ッ! ハァ!?』焦りの声が漏れた。
「み、み、見てねぇし。だ、誰と勘違いしてんだよサヤっ」
「あれ~、 確か男の言動にムカついてたりしていたのはどこの誰だったかなぁ?」
「ぐっ、あの時は、たまたまチャンネルを回してたら偶然目に入って来たんだよ」
「ちゃっかり名前まで出して不満を上げてたりしてたっけぇ」
「似たような名前の野郎なんざ腐る程いんだろ、しかもアレだ。あ、アタシの知り合いの男にも同じ名前の奴がいてな......」
「なら今度紹介してよ、奏多っていう名の付いた男を。わたし誰でもって訳じゃないけど早いとこ彼氏欲しいんだよね」
「あ、ああー、それは今度な...... なんっつうか、めっぷう変わった人だから今は紹介しにくいってか」
「ふーん...... ってかみやむーってもしかして」
「ま、まぁ、けど《わたこい》だっけか? 仮に見てたとしても気晴らし程度にはなるんじゃね。み、見てねぇから知んねーけど......」
うん、何もしていない俺が言うのもなんだけど...... これは間違いなく折れてる。
明らか一連のやり取りで宮村さんの思考に変化が起きた。
宮村さんグループは主に三人体制でいて。
ギャル、または不良をも思わさせる風貌から、その系統は似てはいても性格は偏ってる。
中心にいる宮村さんの両翼にそれぞれ、気だるげそうな誰々事リッツさんと陽気そうな何々事サヤさん。いま覚えた名前だ。
その何々さん、もといサヤさんは立花さんに負けじと空気を破壊するのが上手いらしい。あの宮村さんが守りのスタンスを取ってタジタジになってしまっている始末。
言っても友達に対する姿勢と他人とじゃあ扱い方が変わってくるが。
付き合いの長さはどうであれ、素面を知っているからこそストレートな発言が出来るんだろうし――ともあれ。
彼女がいて助かったと、俺は怖い物見たさでそっと後ろを振り向いてみた。
眼光に映るは宮村さんの「フッ!」と隠せそうにもない図星な表情。
細い眉が下がり口元はつり上がってる、強気に振る舞おうとしてか強引に笑みを作りながらも汗をかいてるって感じだ。
発言と中身のズレが生じる事でのキャラ付けの崩壊というのか。
こうなればもう、威厳を保つことは難しく。
「あ、じゃあ、宮村さんは〈誰の恋〉を応援してるの?」
芽森さんには遠く及ばないにしても男子中では人気と名高い女子。
ゆるふわパーマで甘い声が特徴的な...... えっと、や、弥上さんだったか? が宮村さんに話しかけに行った。
すれば「だ、だからっ」と否定の声を上げようとして、しかしどこか観念したように腰を下ろしてから口を開いた。
「んなのブッチで更科だな。あの棘々しい眼光のせいで周りに誤解されがちだが、惚れた男の面を拝むなり借りてきた子猫みてぇに態度が丸くなる所とかまるで」
「自分のよう......」
「そりゃあもうアタシに似て可愛いにゃ――って、な、何言わせんだよ! リッツ!」
「いや、それもうドはまりしてんくね」
はては...... 素直なのかそうじゃないのか。
あんなに内容を語ってしまえば自分も見ていますと認めたようなもの。
罵倒していた事とは逆に奥底では乙女な一面を持ち合わせていると知れば、他の女子達と何ら変わらない訳で。
言葉使いは荒々しくておっかないけど1組の中心人物なんだ。
言動にさえ気を付ければ勘に触れでもしない限りは普通に対応してくれる、はず。
体育祭の時だって乗り気ではないとしながらもクラスの為にと汗を流していた事は皆の記憶に新しい、はず。もっとも栄田先生によるご褒美に釣られてが大元にあればこそなんだろうけど......
こんな事を思うのは少し不謹慎なのだろうけれども、このクラスに限って言えば早々にクラス仲が悪くなったことが返って良かったのかもしれない。とはいえ宮村さん達の会話に入っていけるのは数人足らず、完全に打ち解けるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。




