ただの、幼なじみとの帰り道(2)
...... しかしながら愛美との会話は未だ慣れない。
幼馴染であろうとも異性だ、横並びに歩いているかつ、これだけ肩が近いとどうしても照れがある。愛美もそうなんだろうか。俺は言葉を返しながらも顔を合わすまいと、なるべく前方を見ていたが彼女の方に首を向け...... なければよかった。
チラりと目を盗んで見るなら「いや」と一言加え、首の向きをグルりと旋回させることが出来るけれども、直接顔が合わさってしまっては顔を横に背けない。不仲だったり嫌がられたりしているならともかく、そんなことをすると露骨に見えてしまう。
そしてさらに背け辛い理由をいえば。
「な、なに」
目を細めてこちらを見てる表情はまるで聖母のような、どちらかといえば母親が子供を見守る優しい眼差しに似ていて、俺はそれがどこか照れくさくて口早に要件を訪ねてしまう。
すると、愛美は余裕な態度で「ううん、別になんでも」口元を釣り上げながら言った後に再び前を向いた。
「そ、そっか」
返事を聞いた俺もまた頷くと同時に慌てて前方に向き直った。
少なくても照れを感じている顔じゃないのは確かだろう。俺を意識しているなら、もう少し取り乱すか目が合った時点で顔を背けてる。自然と溶け込んでしまっていたから忘れていたけど今はほぼ二人っきりと言える状態だ、そう思うと余計に照れくさく感じてしまう。
背丈関係なく小さい頃は気にならなかったことも成長すると共に性別の壁を感じるようになる。俺はいつから愛美に対してこんなに緊張してしまうようになったのか。思い起こしてみても分からない、気づけばいつの間にかそうなっていた。
男と言うのは変に見栄っ張りで気になる異性の前では気持ちを悟られないように騙し通す傾向がある。現に俺が想いをひた隠し続けていたことを愛美は知らないだろうし、知られても困る。
横目で見ていて彼女がまばたきする毎に胸がざわつくのはそういう感情が残っているせいもあるんだろう、こっちがこんなにドキドキしてるのに不公平に思えてくる。俺も男だから微弱には意識して欲しいけど魅力なんてないに等しいもんな。
***
それはそうとして、また会話が止まってしまった......
自分から話を振ったはいいが、残念なことに俺の会話に置いての引き出しは非常に少ない。
「本腰を入れる為にもお菓子も用意しないと、やっぱ集中力を上げる為にはチョコ類がいいよね。たまには変わった種類の奴とかも買ってみようかな」
なもんで、こうして間が開いてしまっても途切れないように話を引き延ばしてくれてるんだろうけども、客を楽しませられないのならホストは務まらない。というより学生なら女子にモテないと思われる重要な要素だろう。
よく困った時は天気の話を振ればいいと聞くけど芽森さんに通用しなかった時点でアウトだ。
予報士達の間では珍しい気候だったり台風の形などで盛り上がるらしいが、一般的には暑さや寒さの感想を言い合う、出掛けるにあたり気候に適した準備をする為の確認くらいで一分と持たずに別の話題へシフトしていく。
俺個人としては話せる話題がないならないで構わないけど、やっぱり人といて無言っていうのはアレだろうし。さてこういう時にはどうすればいいか......
確か前に何かの記事で話のネタで困った時は【たちつてとなかにはいれ】
昔のゲームによくあった復活の術式、特定の場所から再開出来るパスワード形式の暗号的なものを頭に入れておけばいいと書いてあったような。
た⇒食べ物、ち⇒地域、つ⇒通学、て⇒天気、と⇒富(お金)
そういう形でジャンル別に割り振っていれば会話ネタが引き出しやすくなる、みたいな感じだろうか。
ただネタを組み込んで予習をしていても実践で使えるかどうか分からない、広げられないなら無難に食べ物関連の話題を出す方がまだマシ、なんて考えたってしょうがないな。
せっかく愛美が話題を提供してくれてるんだ、俺もそれに習うとするかな。
「ああっと変わった奴ならモアイ......」
そこでピコンと、アイコンが頭上に浮かんできた。
あくまでもイメージで。
「あ、ところで宗助君はいいの?」
俺と愛美の話のネタはと言ったら主に昔のこと。
今がどうか知らないけど彼女は基本的にアニメを見ないから共通の話題は互いに知っている事情になることが多い。趣味が違えば会話内容も変わってくるものだが共通の知り合いとなれば別だ。
だいぶと話が戻ってしまうけれども、何も部活がないからといって暇になるわけじゃない。
友達と居残って喋ったり遊んだり校内で出来ることはある。ゲームで例えるなら愛美にもそういった目的地に沿った幾つかの移動コマンドが出ている筈だ、交友関係に貧しいが故に帰宅コマンドを選ぶことしか出来ない俺とは違う。まして彼氏持ちっていうんだから移動範囲は普通以上には広い。だけど言葉が足りなかったみたいだ。
今度は察してはくれず、愛美は俺の言っている意味が分からないのか頭に?マークを浮かべてる。
恋愛話は苦手なんだけどな......
「ほ、ほら男女でそういう関係の学生ならさ。よく放課後にで、デートするっていうじゃんか」
「ぷっ」
――頑張って続きを促してみるも、吹きだされた。
なぜに? まさかスベッタのか......
俺の恋愛観が古いのだろうか。もしくはゲーム基準がいけないのか。今時の高校生は放課後デートなんてしないとか、一瞬考えたものの。そういう訳でもないらしい。
「付き合い立てのホヤホヤカップルじゃないんだから」
笑いを堪えているのか声が振るいがちだ、ただ周囲に変な目で見られないようにと思ってか手元で口を抑えてる。盛大に笑おうにも周りに人がいるんじゃあな。
何がおかしいのか知らないけども、一つ分かった。一緒に帰りながら寄り道したり遊びに行ったりする放課後デートというのは出来たてのカップルがするものなのだと。
当事者でないならば、ほぼ間違いなく慈しい目で見る人はいないであろう光景。
皆に見せびらかしたいのか、単に嬉しさからか。恋人が出来たなら毎日一緒に下校、クラスが別なら彼氏または彼女が教室に迎えに行くというのが定番だろう。それが学生カップル達の日常となっていることは多い。しかし行いが徐々に面倒だと感じてきたら二人の間に【は】の文字がチラつくように...... と結論づけるのは早いか。
「まぁでも、わたし達みたいなのは少数派でする人は多いんじゃない」
愛美達はもうその段階を越えてるだけって話で、迎えやデート回数が次第に減ってきたら気持ちが冷めてしまったことへの合図、になるとは言い切れない。ただ新鮮な気分が薄れていくにつれて付き合い始めた頃のようなときめきを忘れてしまう人は少なくないんだと思う。
「時間を共有することは大事だけどね、何も四六時中、一緒にいるわけじゃないから。お互いの部活もあるし平日は特にデートしたい気にはなれないかな」
笑いが引いた愛美は目線を下に向けながらしっとりとした口調で告げる。
「じゃあ一緒に勉強とかは」
そんな彼女に俺は間を空けずに次の質問を返せば「え、一緒に?」と折り返し、どこか迷ったような表情に変わった。答え辛い質問を投げたつもりはないけれど表情とリンクするように小難しく考えてる。
「ああ、うーん。時と場合によるかな、どちらかと言えば一人の方が集中出来る方だし。それに友達と彼氏とじゃあ勉強のあり方も違ってくるからさ」
「ああ、なるほど」
雰囲気に呑まれるってやつか。
友人といる時とは違って、ある種の緊張を持って家に上がってもらい親が干渉してこない部屋へ移動して教材を取り出す。それからしばらくの間向かい合わせの机にて勉強に集中していると互いの存在を忘れてしまうが、ふとした拍子に勉強用具を落としてしまい反射的にモノを拾おうとしたまさにその瞬間っ、お互いの手と手が触れて目と目が合って...... うん、やっぱり恋愛観は古いかも。
「言われてみれば確かに、恋人同士ってなると漫画と同じような状況になってしまう可能性があるもんな」
なんにしてもイチャついて勉強にならなくなるのが関の山ってとこだ。
「そうそう、二人っきりだと結局手が付かなくて勉強が捗らなくなる...... って、あれ?」
俺の言ったことに同調しようとした愛美だったがとつぜん、言葉を切るとこちらを見やった。
その反応に「あ、しくった」と感じるも遅い、彼女が首を傾げるのは当然。
「黒真、恋愛漫画なんか読むんだ」
「あ、うん。多少だけどね。なんていうかここ最近少年漫画は見飽きてきた感があって少しジャンルの幅を広げようかなって思ったり、思わなかったり」
俺は目を合わせないように答える、と予感していた通り。
「ふーん、会ってなかった内にそういうとこも変わったんだ、昔はヒーローものばっか好んで見てたのに、随分とまぁ女々しくなっちゃって......」
はっきり顔を見ずとも声高々に煽ってきた。
どうせ、こうなることが見えていたから趣味の話はしたくなかったんだよ。
黒歴史ってほどではないけど俺は昔の自分が好きじゃない。かといって今も微妙だ。自分を好きになるならもう少し男らしく成長して欲しいところ。主に身長が伸びるとか、どちらにしたって過去の話を持ち出されるのは苦手だ。
「失敬だな、今だって朝のヒーロー番組は楽しみの一つだよ。でも子供が大人になるにつれ虫が苦手になってしまうのとは逆バージョンっていうかさ。ラブコメはもとい今日日、少女漫画を読んでる男子なんて珍しくないだろ」
とりあえず俺は愛美に言われっぱなしになる前に少し言い訳をすることにした。
「リアルとかけ離れたお嬢様や御曹司キャラが目立つけど、基本的には現実を舞台にした話が多いから恋愛の参考に読んでる人だっていると思うよ。ドラマや映画で頻繁に実写化されてるから恋人同士で見る人だっているだろうし、女の人だったら目の保養もかねてだったり。男読者にしても例えば冷たい態度の男が本当はヒロインに惹かれてるという心境に共感したり、優しい人柄の男の包容力の高さだとか、フラれてしまう要因を分析したり。とはいえパターンは毎回決まってて結局結ばれるのは意地悪な男の方なんだよな...... 普通なら絶対優しい方を......」
というか、俺はなにを話してるんだろう。
自分でいうのもなんだけど言い訳がましいにもほどがある、マニアックな芸人として撮影所に呼ばれた訳でもないのに、話題がこれじゃあ女々しいと言われても強く否定出来ない...... 少女漫画の神髄を語れるケン〇バならこういう話を披露しても笑いに変換出来てるんだろうな。
と自問していればさっそく「多少って割には結構読み込んでる風だね」当たり前にそこを指摘された。
「あ、それは同じようなパターンが多いから......」
「ははぁん、さては例の天使さんの影響だ」
言い分は聞き入れてもらえない。何を悟ったのか、みるみる表情が変わっていきニヤニヤと意味ありげに問うてきた。
芽森さんのことが頭によぎった俺はピクッと身体が揺れ動いてしまう。
そのあからさまな動揺を見逃さない愛美はすかさず。
「黒真をここまで骨抜きにしてるんなら、さぞかし素敵な人なんだろうね」
「骨抜きって......」
せめて釘付けじゃないか? まぁ意味は同じようなもんか。
「どういう子なのか気になっちゃうなぁ」
芽森さんのことで後ろめたい気持ちはないけれども、けどもこの流れはまずいやつだ...... なんとか誤魔化さないと。そう思った俺は。
「――っと!」ちょうど前から人が歩いてきたので大げさ気味に避けた。
「ふぅ、ながら歩きじゃないけど会話しながら前方不注意になってるのは危険だった。いや思わずぶつかる所だったよ、気をつけないと」
言っても実際はただ軽く避けただけ、話を切る為の演技とでもいおうか。
しかしド三流の演技力はたかが知れている、上手く話を逸らそうとしたのは見透かされたようで。
「だね。で、その子の話だけど芸能人で例えると誰に似てる感じ」
「あ、えっと誰って言われたら、照橋...... って」
鮮やかにいなされちゃったよ!
なんて危ない、誰に似てるか答えるぐらい訳はないけど、簡単に答え続けてると相手に流されてついうっかり変なことを言い出しかねないしな俺の場合。
そう易々とペースに乗せてやるもんか。
「あっ、ああーー それにしたってあれだなぁ、独占っていうか、こんな所を宗助君に見られたりでもしたらあらぬ勘違いされたり」
俺は初歩的な騙し手が良く空を指差して「円盤形の飛行機だ」とやるみたいに自発的に不自然な声を上げた後「ま、まぁけど俺、僕程度なレベルの男と一緒に歩いてた所でなんとも思われないか」そう地面に向かって自虐を言おうとしたが。
「やき...... て...... かない...... よ」
「え?」
愛美は聞こえるか聞こえないかぐらいの声で囁いた。
そして思いもよらない、思いがけない一言を口にした。
「ぶっちゃてけ言うと、宗助とはね。別れた」




