ただの、幼なじみとの帰り道
幼馴染の絡みとなると、どうしてもザ、主人公感が強く出てしまうのが難点......
あの後。
また付け狙われたりしないよう立花さんの行動には注意を払っていたけど。時折教室を離れたりしながらも芽森さん達と話していたり、普段と変わらない様子見だった。もはや興味が薄れたのかこちらに目を向けるでもなし、喰い気味に話しかけてきたのが嘘だったように平穏にホームルームを迎えた、結局帰り際に呼び止められることもなくそのまま普通に下校へと至り。
学校から帰宅中の現在、俺はある言葉が気に掛かっていた。
暇を潰していたわけじゃないけども教室に戻ってからしばらくは彼が言っていたことの意味を頭の中で考えていた。何もなければわざわざあんな言い方はしない。彼だけじゃなく千草先輩も同じように心配していたのはあの性格を危なっかしいと思っているのかも知れない。
俺の知っている限り立花さんは恋愛、それも他人の恋バナが好きな女子で報道部に入っている。
その取材スタイルは至って単純。相手の事情もお構いなしに情報を聞き出し、そこから掘り下げていくというやり方だ。言葉は使い分けているものの、目上の人に対しても態度を変えることはしない。
立場上、性格が生意気な奴は鼻がつくがゆえに標的にされやすいと聞くけど立花さんの場合はそれが原因で敵を作っていることはないと思う。そうであったなら早い段階で目を付けられてる、だけど。
『自重した方がいいと思うぜ、じゃねぇといずれ......』
真也はいつにもなく真剣な眼差しで告げた、先輩もボソリと心配事を口にしていた。恐らくあることを危惧しているんだ。事が起こっても俺と芽森さんの時のようにクラス内で収まりがつけば問題ないけど、もし状況が悪化してしまったらどうなるか...... 出来ればその先の言葉は想像したくない。って、こうして今知った風で考えているのも他人事とは思えないからだろうな...... このまま何事もないままならいいけど虫の知らせ的な何かを感じずにはいられない。
そうやって思考を巡らせつつも家に帰ろうと歩いていた時——
「やっほ、お早いご帰宅だね」
思わない所で声をかけられたが為に「え?」というお決まりのように驚嘆の声が漏れる。
偶然にも話かけてきたのは幼なじみ、そちらを向けば上機嫌に笑みを浮かべてる愛美がいた。挨拶がてらに軽く嫌味を入れてくるも、かくいう彼女も今帰りなのか制服のままだ、考え事をしている内に最寄り駅前まで来ていたらしく他の制服を着た学生達の姿も見受けられる。
「いや、早いっていったら、そっちだって人のこと言えないんじゃ」
俺はたどたどしく言葉を返す。すると「まぁね」とあっさり気味に答える愛美。
帰宅時間が重なってるのはお互い様なのに自信満々に言われると不思議と負けた気分だ。して不思議といえば、俺はなぜこの時間帯に愛美と居合わせてしまったのか。
今朝方、ほとんど一方的に聞いていた側だが学校生活についての話はした。
確か手芸部だったか。けどまだ日は傾いていない、帰宅部ならまだしも部活動をしている愛美が学校を出るには早すぎる。部活は学業が終わってから始まるのであって帰宅するまでに三、四時間は掛かるのが普通だろうから。
「あの、なんで」
「ん、学校を出るにしては早いって言いたいの?」
長年連れ添った夫婦であるなら醤油、短い単語だけで「醤油が入ってる瓶を取ってくれ」と瞬時に理解出来る。それに似たようなもんだろうか。愛美は直接的に言わなくても『ここにいる訳を知りたい』ということを読みとってくれた。
「まぁ毎日顔を出さないといけない部活じゃないからね。合間合間に活動してるんだよ。で、今日は休み。部活がない日は校内に残っててもやることもないから時々早めに帰ることも多いんだ」
「ああ、それで」
「期末テストも近いから勉強しないといけないしね」
「ああ......」
それにも納得だ。なるほど、テストね、まったくもって嫌な響きだ。
分からない箇所は先生に聞いたりしてるけど、正直なとこ宿題が出された日ぐらいしか勉強してない。聞ける相手もいないんだ、真剣に取り組まないと。
俺は駅前付近で居合わせた理由が分かり、話の折り目もついたので歩みを再開したのだが――愛美はまるでこちらの帰りを待っていたかのように横に並んできた。
話の流れからして一緒に付いてくるとは思っていたけども、さも自然と来ようとは、苦手意識を持っているのは知っているだろうに......
隣に愛美がいるというのはどうにもくすぐったい。最近何度か顔を合わせてはいても、まだ抵抗はある。
それに今は気軽に話せる仲じゃないってのに、家の方向が一緒だから文句は言えず。
「あ、そうなると帰ったらさっそく机に向かう、感じ?」
今朝は俺から話題を振ることはなく無言状態が続いていた。
例え気の知れた人でもあれは心地が悪い。その反省が頭に残っていたせいだろう、つい話を繋いでしまう。
「まさか、まずは鞄を置いてからの手洗いが先かな。で冷蔵庫から飲みものを出して喉を潤わした後、制服を脱いで私服に着替える」
「それは家に帰った時にする最低限の行いだろ......」
「でも習慣付けることは大切でしょ」
「いや、あのさ。そうだけど、そうであっても話の順序というか......」
なんだろ、この面白みの欠片もない初歩的な会話は。
まさか、帰宅後の諸々を説明されるなんて。軽いボケだとしても笑いを生むツッコミのセンスは俺にはない、出来ればユーモアに長ける男に生まれたかったな。
「ん、なんかおかしかった? ほらわたしって少し天然なとこあるから」
思っていたのも僅か、上手く口が回っていない俺に苦笑で返してきた。高めな声で自然と困ってる風感を出してはいるが騙されない。
「生粋の天然なら自覚はしてないよ、してたとしても口に出したりしないからな」
装うにしても白々しいというか、わざとらしさがありありだ。
まぁ愛美のことだから、こっちが会話についていけてない反応を見て言葉を変えてくれたんだろう。俺が思うに本当に天然な人は一握り、境界線は曖昧だけども自分の性格を把握してるのならキャラを作っているに他ならない。
そう俺が至って面白味の薄いことを言えば「...... はぁ」と愛美はまたしてもわざとらしく息を吐いた後に不満げな声を挙げた。
「やっぱり普通に返されちゃうか。分かってたけど、ちょっとは乗っかってくれてもいいじゃん、こういうノリも大事だよ」
バレているなら仕方がないと白を切るのはやめたな。
拗ねてるように、見えるけどこれも恐らくフェイクだ。
「ノリね......」
俺は小さく復唱する。
ユーモアも同じでそんなものは持ち合わせていない俺と違って明るく人付き合いも良い。きっとクラスでも人気の女子に数えられてることだろう。何といってもポニテ女子だ。
俺が夜な夜な静かに輝く月明かり、流石にそんな良いもんじゃないな。暗い場所で佇む日陰だとしたら愛美は明るい場所に飛び出していくような日向と言うべきか、幼馴染という間柄じゃなかったら多分関わることはなかったように思う。
だとしても愛美のいうことは分からなくもない。
仲間や友達同士で遊ぶならノリというものは必要になってくるだろうし。冗談を言ったり場を盛り上げたり、時にはハメを外したりはっちゃたり、ただ何事も限度はある。人に迷惑が掛からない程度に楽しむには問題ないけど、不快と思わすような発言や注目度を上げる為に人格性を疑う動画を取ったりする人達の真似をするのは良くない。真似たいとは思わないけど。
「悪いけど、言葉遊びは苦手なんだよ......」
「それは元々でしょ。会話能力のことじゃなくて雰囲気かな、陰険というか近寄るな的なオーラを纏ってる感じといいますか。黒真風に言うと、え、えーなんちゃらだっけ」
言いたいだけ言っておいて急に歯切れが悪くなるのか。
頭を捻るもワードが出てこないようで「ん~~」と顔を右へ左と振りながら唸ってる、それよかなんだ俺風って。
でも待てよ、他人からオーラが目視出来ているならあの技を習得したも同然。
わざわざ天〇城に行く必要はないってわけだ。なれば今年のハ〇ター試験は安泰だな、って感じで心の中の悪ノリを言葉に出せたらいいんだけど、俺のキャラじゃないもんな。少なくとも愛美にこういうネタは通じない。そもそも霊能者には色という識別で普通に気が見えてるって話だ。
「確か、え、エーティ――」
出てこないなら無理に言い換えなくてもいいだろうに......
「フィールド、絶対不可侵領域っていう名のバリアだよ。そこまで分かってるなら察してるだろ......」
若干俺風ってのが引っかかりはするも、言葉を詰まらせる愛美に目線だけ向ける。
するとモヤが晴れたであろう愛美は、俺の方に身体を向けると大きい動作で両手を交差させた。
「残念ながら、わたしにそのエティうんたらバリアはもう効きません。あ、ちなみに透明化も無効だからね」
「小学生かよ......」
そういえばあったな、そんな懐かしい遊びが。
設定などの概念を無視、いかなる攻撃も通さない絶対無敵のバリアーとか。今考えると遊びのルールが無茶苦茶だった。さすがにライトノベルトに出て来るような人知を超えた能力とは歴然たる差はあるが、正に小学生ならではの発想だろう。
などと俺が懐かしさに浸っていれば。
「変わる人は変わるって言うけど」
「前にも言ったと思うけど、変わらない人もいれば変わる人がいても不思議じゃない、僕は後者で愛美は前者ってだけの話だよ」
愛美は大々的につぶやいたので俺はその言葉を拾ってみせると感慨深い言葉を返す。
今朝と同じように哀愁を漂わせるようなことを言えば不穏な空気になるだろうと感じたが敢えて口に出した。言葉を交わしていると懐かしい情景が次々と蘇ってくるんだ、こればかりは自分ではどうしようもない。
そして俺はより一層ノスタルジックな感情に浸ろう——とする前に横から声が。
「これまた、かっこつけちゃって」
独りでに懐かしい気持ちになっていたのは自分だけだったようで「ああ似合わない似合わない」と愛美は呆れ半分に苦笑してる。
そんなに似つかわしくないのか...... ならクールキャラはやめてこれからは暗いめキャラでいこうかなって、それが俺のデフォじゃないか。
「いやカッコつけるも何も“こういう”キャラだよ元々俺、じゃなくて僕は」
「へー、そうなんだ。だったら試してしんぜよう」
俺がそう反発すると半目で睨みを効かせる愛美。全く持って怖くないよそれ。
そして意気揚々に宣言したかと思えば。
「フンフンフフンフフフフン、フンフンフフフン」
目をつむり、いきなり鼻歌を歌い始めた。
何の音楽か検討は付かないがリズムカルに口ずさんでる。小中と音楽の授業でしか聞いたことないけど記憶が確かなら愛美は音痴だった筈、知っている曲であったとしても正しい音を発生出来ていない場合は予想することは不可能に近い。
なんていうのか、人の鼻歌なんて滅多に耳にしないからクロ〇高校のふんふん回を思い出すな。とのん気にリズムを聞いていれば歌が収まった。
「かつては陽気め、今では大人しめ。さん、はいっ!」
なるほど、これかっ!
「カロリミット〇ァンケル、あ......」
「ほーらほらぁー、身体は正直じゃんか。やっぱり“そういうの”は似合ってないんだって」
「いやだって......」
ぬ、抜かった...... 自然に乗せられたというか聞いたことのあるフレーズだったから余計に。まるでクールを気取ってツッコミを封印していたが我慢できず所々でぼろが出てしまう5年後の坂ぐっちみたいじゃないか。
「この調子だと簡単に仮面を剥がせそうだね」
言いながらも、悪巧んだ顔で両手をにぎにぎと胸元でまさぐり始めた愛美。
感情が高ぶっている為にチャームポイントである短めに切りそろえられた眉毛も上下に動いてる。
「なっ!? それはちょっと止めて! 欲しいつうか」
まずい、と感じた俺は衝動的に両手を前に出して必死な声で頼みこむ。
「マジにちょっと勘弁してくれ、頼むからほんとお願い......」
隠そうと意識していても気が付いたら素が出てしまってる。
長らく会っていない内に知らない面が増えていたとしても、コイツのこういう所は......
「はてはてどうしよっかな...... ここは弱みと付け込んで頼みの一つや二つ聞いてもらうとこだけど。まっ、幼なじみのよしみだもんね。そんな必死にせがまれたんじゃ仕方ないか」
親以外で心が許せる相手というのか、ほんと適わないや。
描写に見合った曲や一場面をイメージしてはいても、文章に気持ちや感情が上手く乗せられているかどうか......




