能ある鷹は爪を隠すという主流
先程から一歩引いた位置で観察されていたのだとしても。
片方は立花さんと違って取材への熱意がないと思っていた、部活に入ってる時点でそれはないか。
ただ立花さんと違い話題にならない奴を追っかるような無駄なことはしたくないのか、または興味の対象が別。後ろで立ちつつも一言も発さないから大人しい印象に見えたけれど、どうも違ったみたいで。
「黒〇のバスケとかワールドト〇ガーみたく、存在が薄い人ほど何かあるの法則よ!」
俺と芽森さんとの繋がりを見いだせない立花さんを見かねてか、いきなり前に出てくるとズバッと言い放った。
誰でも興味がないことには関心が向かない。さっきまでは正直横にいることを忘れていたが目前に立たれたのなら注意がそちらに傾く、俺の身体は自然と彼女に向いていた。
「え、黒〇のバスケ......」
「ワールトリ、がー?」
アニメを例に挙げてきた彼女に 当然俺は反応する。
それぞれ知る人ぞ知る人気漫画だ、分かる人には分かるだろうけど立花さんは分からない側の人なのだろう。タイトルを言われてもピンと来ないようで曖昧な口ぶりで復唱し、必死に探るが口がへの字状態になってる。
一方で俺はアニメはちょっとした得意分野なもので瞬時に頭に浮かぶことが出来た。ライバル達とせめぎ合うスポコンものと近未来のアクションバトルでは系統が異るも、その二つの作品に共通するのは本来なら脇役ポジションの男を主人公として描いているということ。
どちらも影が薄いという点は同じだから俺と当てはめた? だったら間違ってる。信念を曲げず勝つために努力を惜しまないその姿勢は主人公の器、過去から逃げ続けてる俺なんかと似ても似つかない。
「リ〇―ンも似た感じだったかしら」
そう思ってはいても何も知らない彼女はまたしても同じカテゴリーで言葉を紡ぐ。
大っぴらには言い辛いけどアニメは男だけが見ているとは限らない、男子の場合は可愛く描かれている女の子の絵に現実の女性以上の恋愛観を抱いてしまうイメージを持たれていることでオタクという蔑称を。
女子は美男子、中世的な男同士のキャラに萌える傾向が強いということで腐女子という言葉が浸透してしまっているけども、偏見を抜きに今や女性が男向けのアニメに興味を示すのは普通のことのように思う。
「あなたたち二人の会話から十分に彼の素性が読み取れたわ、最近のアニメは何かと目立たない人が爪を隠していることが多い、最初はひっそりと行動していてもそこらかしこでフラグを立てていたりするのよ。そして妹がいる場合は極めてただ者じゃない確率が高い。自分の勘を信じなさい立花さん、私の見立てでもこの子も例外ではないと踏んでるわ」
饒舌に話す姿にもう大人しいという印象はない。
犯人に証拠を突きつける探偵のように自ずと一人でに盛り上がっている彼女。
インタビュアーが交代してか、ほけーっとした顔で話題に付いてこれていない立花さんに目をやった後、視線を俺に戻した。同じ趣味な上、その趣向も似ている。知り合った早々で互いの感想を言い合ったりは無理そうだけどこの場でなければ共通の話題を次々と出してくる彼女に賛同したい所ではあるんだけどな。
「もとより凡庸な男子が人気者の女子に気にかけられるなんて、そうはないものね」
一方的に受け答えしていただけで何が分かったというのか。
言い返えそうにも視線で射貫かれてしまっては口が開かない。ましてや口下手、口を開けばまたいらないことを口走ってしまう、というか直接問われてるわけでもないから口を閉ざしておくのが吉だ。
普段注目されるには値しない人間が目立たないということで目だってしまうのなら適度にドジをかました方が良いのかもしれない、何と言ってもあの只野陣もそれでやり過ごしているんだ。その場合存在を知られる代わりに変人のレッテルを張られてしまうことは覚悟しておかないと。
それは後で考えるとして、俺は出来るだけ直視しないように目線を下げて見た。
制服ポケットに付いてる左胸プレートの色からして上級生、思った通り先輩後輩の関係。
立花さんが跳ねっ返りの新入社員だとするならこの人は言動からも上司っぽいもんな。
口調的にもお上品かつ芝居がかった物言い、これは得意な話題だからかも知れない。立花さんを名前で呼び止めたのに俺に話を切り出した途端、苗字で呼んだ。
車の運転時やゲームをしている時など、特定の条件化で人が変わったように性格が豹変する者もいるが彼女も同類なんだろう。
「もう! アニメで例えられてもチンプンカンプンだよ。千草先輩ってそいうとこあるからまいっちゃうよ」
「だから理解出来るように説明してあげたでしょ。光と闇は相容れないもの、分かりやすく言うなら見た目でネタがないと判断するのは早いってことよ。あとそれにね緑...... 最近のアニメや漫画は面白いわよ、今度また何か貸してあげるから目を通してみなさい。きっとハマること間違いないから」
「えー、もういいよ。あんましリアリティないからつまんないんだよねアニメって。そもそもにさ、千草先輩の進めて来るアニメってご都合主義で何のドラマ性もないんだもん、物語初めから女子がベタ惚れだったり、出会ってから五分足らずで堕ちるような恋愛なんて見てて面白くないし」
「分かってないわね、それがいいんじゃない」
「キャラクターが違っても内容はほとんど同じだし」
「変に捻ったりするよりは王道展開の方が安定して人気が出るからよ、見ている側も安心するもの」
「それだけじゃないよ、出て来る女の子の感情が全て主人公に向けられるのも洗脳されてるみたいに感じるし」
「ヒロイン達が人形に見えてしまうのは捉え方の問題ね、リアル思考は捨てて設定だと割り切ってしまえば意外と楽しめるわよ、でも言われてみれば確かに作り手による見えない糸で誘導されている風が強いから、悔しいけど否定できないわね。しいと言えば受けが良い、女の子を複数登場させるのは需要と配給が視聴者にマッチしているからよ。男女による感性の違いもあるんでしょうけど、基本的に男が主役の作品は男の憧れを詰め込んでるんだから女から見て違和感を感じるのは当然と言えるわ」
――――今のうちに移動するべきかな。
気を取り戻した立花さんだが、先輩に文句を言う流れでいつの間にか当人の存在を忘れて二人で会話し始めちゃってるよ。俺の立場は一体......
これだけ近いのに無視される影の薄さ、似ても似つかないというのは返上しておこう。
でもまぁ用がないんならこの場にいてもしょうがないか。そう俺は抜き足差し足と後退しようとしたが、気配を察せられたらしく「緑、目的が変わってしまっているわ、この話はまたにしましょ」と千草先輩は急に話を止め俺の方に向き直ってきた。話を脱線させたのはあなたでしょうに。
「そういうことだから、いくつか質問させてもらうわね」
う、逃げる時間はあったにせよ、ここから動いてしまうと相手に悪い。なんて思ったのがあだになってしまった。
「あなた、黒真と言っていたわね。妹、もしくは義妹はいらして?」
「え? ひ、一人っ子ですけど」
こちらを向いた早々、質問を投げかけてきた先輩。
いきなり質問された俺はたじろぐ。
さっきはどうにか黙っていられたけど面と向かって質問されたら、受け答えせざるをえない。
「なら、料理は得意かしら」
「ぜ、全然出来ないですね」
「親御さんが海外転勤とかはしてない?」
「してないです」
「同い年で一緒にこの学校に通っている幼馴染の女の子は」
「校内には、いないかな」
「登校時にぶつかった相手、女の子が同じ学校だったとか」
「ぶつかったことはありますけど、同じ学校だったという記憶は」
「クラスメイトに転校生が来て、あ、もちろん女子ね。その子と感動的な再会をした」
「転校してきた人も今の所は」
「いないね」
同じ1組でクラス環境は知り得てるからか、俺に対しての質問を横で立花さんが答えた。
「お互いの利益の為に女の子と協定を結んだりとか」
「な...... あ、いや似たようなことは、あったかな......」
「ほんと! そこを詳しく」
「あ、えっと、何て言えば......」
く、しまったっ、つい。素直に答えるとこうなるから黙っていたのに。
ここで芽森さんや楓さんの名前を出したくない、何とかごまかさないと。
俺は少し考え「クラスの」と、質問を返そうとした所でまたもや。
「ああね。それはもう終わったよ、告白する為にクラスの女子に頼み込んで模範デートをしたものの本命相手には見事撃沈したんだったよね」
「え、ああ、まぁ。うん......」
この短時間で立花さんの性格は嫌というほど分かった。
把握してる情報ならクラスメイトだろうが容赦なくぶった切ることができる。それが立花緑という人間。
事の経緯は間違えなくその説明で合ってはいるけどさ、モラルはないにしたってもう少しオブラートに包んでくれてもいいんじゃないかな。言い方を工夫するだけで恥をかく度合いが違うっていうのに。どうせ彼女にしてみれば他人事だろうけども。
あまりにもストレートな物言いに俺だけじゃなく、先輩も申し訳なさそうな顔になってる。
「あ、そう、ごめんなさい。気を悪くしないでね。さ、再開するわよ?」
先輩はちゃんとモラルを知っているようで、同情心から声のトーンを柔らかくしてくれた。この人を例に称え報道部なら相手の気持ちを考えたり注意を払って言葉を選ぶよな普通。
「絡まれてる女の子を偶然にも助けた」
「えっと、そういう場面に遭遇したこともないですし」
「実は謎の部活で文学少女と密会してる」
「部活には入ってないので」
「親同士が決めた許嫁は......」
「いないです」
途中勢いが途切れてしまったも怒涛の鮫、じゃない質問責め。
しかしあれだ、質問すると言った手前、本質を見抜くというより何故か漫画にあるような主人公に当てはまる要素の有無を聞かれただけのような気がしないでもない。そりゃまぁこっちとしては助かるんだけど、またしても身構え損というのか。
よほど自信があったのか、返ってきた問がことごとく外れてしまった先輩はヒクヒクと口元を引きつらせてる。さっきの威勢はどこへやら、せめて一つぐらいは当てはまったら良かったんだけど。
「その、なんて言うのか、期待にそぐわなくてすみません......」
「ふっ、ふふ、立花さん。どうやら甘いのは私の方だったみたいね、聞けることはもう全て聞き切ったわ。残念ながら彼は名前とは真逆の白真くんね」
いやいや、勝手に人の名前を改名しないで欲しい。ってか断定するの早すぎでしょ!
あんな質問になっていないことで決めつけるのはどうかと...... 情報に長けてる報道部がそれでいいのか。もしやこの調子だと誰に対してもあんな質問をしているのか先輩は、どう考えたってそんな簡単にラブコメの主人公みたいな私生活を送っている男子高校生なんて、い、ないとは限らないか。リア充の生活に密着すればあるいはだ。事実それらの項目に当てはまるであろう人物はこの学校にいる。
「っと、もう用は済んだ感じかな、じゃあ僕はこれで」
ともあれようやく解放されたことで、俺はこの場を立ち去ろうとしたが「はぁ」と一人小さな息を吐くものがいた。
「やや。千草先輩のメルヘンじみた思考には呆れて物も言えないよ、こういうのは掘り下げていかなきゃ」
そうだ、先輩が二次元の話題で取材へのスイッチが入るのなら立花さんのトリガーはその逆。そう思ったと同時に俺の中で不安が渦巻いた。
一つの場面がどうしても長くなってしまう。
またしても小分けに......




