目立たない奴だからこそ要チェックを
生まれが特殊であったり秀でたモノを持っている者は別としてだ。
何もしていない人にイベントは発生しない。
イベントとは春夏秋冬、日々の日常を過ごしていく中で起きる様々な出来事のこと。勝手な持論だが毎日同じ行動の繰り返しでは味気がない。
夏には家族で祭りに行ったり、冬には子供に内緒で親――サンタさんからプレゼントを贈られたり。学生なら文化祭で恋が始まったり修学旅行で恋に発展したり、部活に打ち込んでいれば恋、以下同文......
つまりそういうことで、思春期の男であるなら前者で考えてる人はまずいないだろう。
早い話が異性との交流を持てるかどうかに集約される。
学校は男女が集まる場所なので接点がありやなしに、挨拶や連絡事項が入る場合は女子に話しかけられることもある。しかしそれはあくまで業務事、学校の規則に従ってせざるを得ない必要な会話だ。
身内を除けば規則以外の事柄で言葉を交わしたことがない女子が興味本心で話しかけに来ることは無いに等しい、と自分では思っていたんだけども......
なぜか今、体育館裏にて報道部に捕まってる。
といっても二人だから囲まれて集中砲火を浴びさせられることはないだろう、なんて風に考えてる余裕はない。
誰に言わずとも表情で察せられた、俺の携帯に芽森さんの情報が入ってることを......
「あ、あの、裏って......」
その報道部が一人、立花緑の勿体ぶった言い方に不安を抱いた俺は逸る気持ちを抑えられない。話を逸らすテクニックがないだけに早いとこ彼女が知り得てることを知りたい一心で事をうながす。
しかし俺の顔色が悪いのを見ても彼女は笑みを崩そうともせず、所か。
「ふふん知りたいでしょ? でもちょこっとだけ待ってね。その前にね、ちと確認するから」
その勝ち誇った表情は無邪気に笑う子供のそれと同じ、あるいは楽しみは後でとでも言うように一拍言葉を置いた。
SかMでいうと多分俺はMなんだろう、間を置いてくれたことで警戒心は緩まる。
異性として言葉を交わす緊張よりかは何かしらの弱みを握られてるという得体の知れなさ。もはや性別のことなど頭に入らない。
自分のことをむやみやたらと人に話すリスクと言うものを改めて感じる。聞かれていないから大丈夫という考えは危ない、どこからでも周りの耳に入ってしまうことを常に頭に入れておくべきだ。俺は誰にも話していないけど。
「一年一組、黒沼乃有真。身長、体重共に体系は平均の男子高校生より下回っていて。馴染めないのか距離を置いているのか、クラス中で会話してる頻度は極めて低く常に机に噛り付いており。体育祭の様子を見る限り運動神経もなければテストの成績も並み以下。特に数学の授業で当てられると答えられず即『分かりません』と返答する。食べる速さだけは人一倍だけども、特段目立った生徒ではない」
彼女は手にしたノートに書かれてるであろう俺の特徴をつらつら読み上げるも情報があまりなかったに違いない。次のページをめくることなく「こんなもんかな」と嘆息をついた。
平たく言えば――
「一括りで言ってしまえば、チビで影が薄め、おまけに運動音痴で頭も悪いってことだね」
そう、チビで影が薄い――ってわざわざ思ったことを口に出さなくても。
しかも本人が前にいるというのにえらく辛辣に......
自身で自覚しているからといって人から言われるとよりマイナスな点が浮き彫りだ。
こんなダメ男な俺の前にこそ未来から更生させにくる青狸や時期ボスを育てる赤ん坊が現れるべき、しかしそうなればプライベートな時間を確保できない...... とそこで何かおかしいと感じた。
取材というからには答えてもらう側に対する配慮が欠けているような気が。
身近な人で例えるなら芽森さんは毒を吐いた後はやんわりとフォローを入れてくれるけど立花さんにはそんな様子はなく、俺の特徴を並び終えると微弱に顔をしかめた。
「たったこれっぽっちかぁ、クラスメイトにしても今まで一度たりとも気にも留めてなかったから情報があんまりないや」
喋ることもなく、関わりもないんだから当然だろうね。
さっきからわざとなのか、答える側の精神を削りとっていく彼女に俺は意気消沈になりかけてる。配慮だけに飽き足らずモラルが欠けてる記者とか...... 普通にいるな。
一見して外に跳ねさせた髪は彼女の人柄を表してるように感じる。
そう思っていれば、立花さんは役に立たなかったノートを閉じると次にスマホを取り出した。
些細なことでもいいから情報があればといった感じなのか、喰い入るように確認するも出なかったらしく、ようやくこっちを見やった。
「でも不思議だよ、男子Cこと黒沼乃有真くん...... って面倒だから黒ちんって呼ぶよ」
「ええっと、その呼び方は......」
「ありゃ、気に入らない?」
「あ、そういうことじゃなくて、それって有りなのかなって」
面と向かっては言い辛く歯切れの悪い言葉しか返せない。
あだ名にしても女が男のものを想像させる呼び方は、はしたないっていうか。マズいんじゃ...... というより名差しで呼ばれることになった時に俺自身が周りの視線を気にしてしまう。
「んーっと、じゃあ黒真っちだね」
呼び名一つで悩んでる俺に対し立花さんは口に指を当てがうと新たに名前を別名してくれた。モラルはともかく、初対面の人と話す順序を弁えてる辺り伊達に報道部って訳でもないらしい。
フルネームで呼ぶよりあだ名を命名し親近感を持たせる辺りがまた憎いというのか、選挙でも演説を聞いてもらう為には初めの姿勢が肝心だ、悔しいけど入りが上手い。まぁ立花さんの場合は自然とやってのけてる感じがするけど。
「だんまりはオーケーと見なすよ」
「あ、うん。それなら」
あだ名か、俺の場合端折られることは多々あるにしてもあだ名で呼ばれることは中々あるもんじゃないからまぁ、悪い気はしない...... いやどうだろ。
ちょっとだけ嬉しく思ったこともあり頭の中に【プリティウィッチくろまっち!】と可愛いらしいアイキャッチが浮かぶも即座に消す。
ネガティブ思考が発動し、このまま身長が伸びず恋愛経験もないまま数十年経ってしまえば文字通りのフレーズになるやも知れないという恐怖感を抱いてしまった......
普通の人なら語尾としては愛着が沸くような呼び名をこんな卑屈に捉えないんだろうな、ほんと薄汚れた考えだ。
「あ、あのそれで、裏を取ったって言うのは......」
触り程度しか言葉を交わしていないけど間を置いてくれたおかげで彼女の性格はだいたい把握できた。
場も和み、確認も十分取っただろうと見た俺は自ら本題を切り出す。
すると「おお、そだったね」と、さも思い出したかのような反応をする立花さん。
...... 忘れてたんだ、なら問うこともなかったのにと考えるのは無駄か。
どっちみち後で尋ねられることなんだし。
「ほんじゃさっそく本題に入るね」
そうは思うもいざ聞く体制に入ると心臓の拍動が徐々に強くなってくる。
多分、浮気が発覚した男はこういう気持ちなんだろうな、証拠を突き付けられたら最後大人しく白状するしかない。比較するにもレベルが違うか。
「黒真っち、朝教室でメモリンに挨拶されてたね」
「う、うん」
「それも名前付きで、知ってた? メモリンって親しくない人を自分から呼びかけたりはしないんだよ。しかも縁もゆかりもない男子の名前を呼んだっていうんだから、おやおや、これは怪しいぞ、ってな感じでスクープの匂いが全くしなさそうな黒真っちをマークしてみようかなって」
口ぶりから察するに言葉選びというものを知らないのだろうか、ただ悪気があると思っていないのは分かる。
嘲笑もなく、人を小バカにしている態度には見えないんだけど......
「え、あれ、もしかしてそれだけ?」
仮にも報道部だ、それだけの理由で人をつけ狙ったりするのは弱い。
注意深く考えた俺は何を言われても動じないように身構えるが。
「ん? だけだよ。あ、でもかえっちに告白する為にメモリンとデートしたこともあったっけ――」
立花さんはあっけらかんと答えた。
ああ、うん。呆れて言葉が出ないや。
なんだ、裏を取ったとか自信ありげにいうからてっきり......
無駄に身構えて損した。いや、むしろここは喜ぶべきだ。
重要なことのように語ってくれたが、肩透かしというか、ただの当てずっぽうだったよ。
挨拶されたからというごく普通なやり取りで何かあると思ったのか、適当もいいとこだ。名前を呼ぶだけで特別だと判断したなら緒方君や宮村さんも同じだろう。
俺に落ち度はなく芽森さんも話すとは思えない、話せそうな人がいない俺にだからこそ打ち明けてくれた内に秘めていた想い。
それはそうと、この頃は芽森さんに告白する人も減ってかこの場所に人が来る頻度も少なくなってる気がする。
と、安心するのにはまだ早い。
「ふふふ、甘いわね緑」
――突然、横で黙って様子を見守っていたもう一人の女子が口を開いた。
立花さんとのやり取りですっかり忘れていた、そういえば報道部は二人いたんだってことを。
話を少し小分けにしました。




