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エピローグ

※回想部分はプロローグと差し替えました......


 その日の夜、また夢を見た。


 幻想ファンタジックなものではなく平々たる日常の風景。

俺自身現実主義なこともあってか非現実だと思えば空想世界から抜け出すようにしている。

例えば念じながら目を閉じたり、高い建物から飛び降りたりすれば簡単に目を覚ますことが出来る。


だけど、この頃は夢を見てもそれが夢の中の出来事だと認識出来ないことが多々ある。自分でも薄々分かってるんだ、分かった上で気づかないフリをしていることも。

昔のように振る舞う俺の横に二人の幼馴染がいるという安心感だからかも知れない。

 いっそのこと俺の意識だけを置いていってくれても構わない。



 願わくば、夢ならそのまま覚めないで欲しいと......




***



 今日はすこぶる夢見が悪い。


 せっかく約得な気分で寝に就けたっていうのに朝から憂鬱だ。


 起床は早くても家を出る時間帯はいつもと変わらず、スローペースでまったりと登校することにした。

 どうせなら雨でも降っていれば良かったのに天候は至って良好ときた。

それもそうか、晴れ男だ雨女と豪語していても気象というのは気まぐれであり、いくら気持ちが沈んでいようと天候が左右されることはない。

天空の神と称されるウラヌスもたかが一人の個体の為に雨を降らすようなことはしないだろう。


 青々とした広大な空を見上げてみると俺が悔やんでる事なんてちっぽけなことのように思える。



 何も考えずのうのうと過ごしていた愚かな自分を恨んでもあの楽しかった日々が戻ることはないのは分かってるけど、あんな夢を見てしまうくらい心の底ではまだ期待してる自分がいる。間違ってしまった青春を取り戻したいと。

そんなこともあってか時折、自身を悩める主人公だと当てはめ夢見がちな想像をしてしまうんだ。


自分が変われないなら誰かに、どこかに日常を変えてくれるような俺にとっての救いとなる女神が、なんて、いやしないか。


 そう、ヒロインなんていう存在は空想中の――




 ピト......


「おひょっ―――― !?」



 下を向きながら歩いていると頬に冷たい感触が先走った。

 いきなりのことで声にならない声が出てしまい、頭に疑問符を浮かしながら驚き前を向くと校門の前には金髪のヒロイン、じゃない。楓さんが門の角に寄りかかっていた。スカートが汚れるのを気にしてない様子で俺を下目みてる。


 手には缶の飲みものを持っており、どうやらそれを当てられたようだ。

 

「冷たかったか、まっ自販機で買ったばかりだからね」


「えっと......」


 思想をしながら歩いていたためか気づかなかった。

 どうして楓さんがここにいるのか? しかも嫌味嫌われてる楓さんから喋り掛けてくるなんて。

ただの気まぐれにしても俺なんかを待ち構える理由がないんじゃ。

彼女にあまり良い目で見られてない故に挨拶するかどうか迷っていると、手に持っていた飲みものを差し出してきた。 


「やるよ、この間引っ叩いたお詫びってことで一つ」


 詫びながらも表情は相変わらずの素っ気なさ。

 こんな彼女でも彼氏の前だと甘えモードになったり表情を崩すんだろうか。

なんて心情で思いつつ「やる」と言われたら受け取らざるを得なく能動的に手が伸びる。

そうして缶ジュースを受け取った俺は彼女が出した言葉に思わず自分の頬を触った。

当たり前に今は痛みはない、しかしあの『バチンッ』と脳が揺れるような衝撃を思い出すと少しヒリヒリするような。でも俺が女性にぶたれるなんて後にも先にも経験することはないだろうから良い体験になったと思えばそれはそれで......


「“もう一方”のお礼はまた改めてするから」


「え? お礼って」


 ジュースをくれた訳は分かったけどお礼ってのは何のことだ。

 またしても頭に疑問符が浮かぶ。


「とぼけなくてもいいよ、遠くからだけどあんたがあおとに何か話してたのを見てたんだ」


 俺は楓さんの言わなくても分かるだろ、という口ぶりに戸惑いつつも一つのことを思い浮かべた。

楓さんは運動部で、運動部は部でグラウンドを共有してることから偶然にも二人でいた所を見られていた。そう考えれば言葉の意図が分かる、あおとっていうのは海音君の愛称だろう。

でもそれがどうお礼に繋がるのか、もし芽森さんと海音君のことを言ってるならあれは楓さんの為にやったことじゃなく芽森さんの、そして自分の。


「まして、あんな分かりやすい変化を見たらね」


 彼女は次いで付け足すように言うも俺には何のことか分からない。

 変化があったと言えば昨日の夜だ、でも楓さんは小説のことは知らないはず。

分かりやすいというからには俺だけが知る事情じゃなく目に見えて変わったことがあったのかも知れない。まさか付き合い出したとか...... さすがに飛躍しすぎか。あの二人の関係からしてそれは早すぎる。


「仮に僕が何か企んだとして、海音君なら何もしなくても行動に出てたと思うよ」


 楓さんの言わんとしたことが分かった俺は含みを入れつつ返事を返すも「見た目で決めつけてっけど」と、数秒も立たない内にその部分はどうでも良いという感じで返答を返してきた。わざわざ意味深な言葉を入れたのにそこを流されるとさすがに恥ずかしいというかカッコ悪すぎる......


「あおとの奴はああ見えて初心ものなんだよ、ほっとけばジジイになるまで話かけようとしないだろうさ「こっちにもタイミングが」なんて延々とほざいてるような奴が自ら話しかけにいこうとするなんて思えないしね」


「そんなこと、ないと思うけど......」


 もしそうならタイミングを待っている間に歳月が過ぎていき、時既にってなる可能性もあり得るような、どこの犬嫌いのブラコン刑事だよって感じで。

心が繊細で相手への思いやりが強い人は真意を伝えられずに後悔する。

それならまだ鈍感で気持ちを察せないでいる方が辛い思いをしなくて済む......


しかし酷い言いぐさだ、言うほど彼は鈍感そうには思えなかったけど一部分なんだろうな。彼女に限らず付き合いが長い人にしか分からない顔があるのは当然のことだ。


「ともかく、あんたには一つ借りが出来たってこと。勝手ながらね」


「え、あ......」


 これ以上の問答は無駄だと思ったのか話を切るや否や、もたれて掛かっていた壁から身体を離した楓さんはスカートに付いた汚れを軽く払うと「グー◯ィばりの奇声ちょっとウケたよ」そう言い残し校舎に向かって歩いていくが俺は彼女について行くわけにはいかずそのまま後ろ姿を見送る。

 グー◯ィって...... なんのことやら。今のは聞かなかったことにしよ。


別に借りを作るほどのことじゃないと思うけど、この間までと接し方が全然違うことからして楓さんにとってはそれほど重要なことだったんだ。

そのお礼って言うんだから相応の、まさかド〇クエやド〇ゴンボールでいうパ〇パフ的なあれだったり...... ないな、でもあの大人っぽい風貌からどうしてもそういうイメージが――



「おはよう、黒沼君」


 その場で呆然と突っ立てると途端、誰かの挨拶が耳に入ってきた。

この天使の囁きはと横を見れば黒髪のヒロイン、じゃない。アニメ思考は一度頭から離そう......

楓さんと入れ違うように芽森さんがこちらに向かってくるが、いつもと違い頭に白いカチューシャをつけてる。変わった変化ってこういう。


「あひゃ、お、おはよう芽森さん」


 昨日の今日だから顔を合わしづらく声がどもってしまう。

 一方の芽森さんは普段通りで何ら変わらずご機嫌な様子、無駄に緊張してるのは俺だけか。


「珍しいね、楓の方から黒沼君に話しかけに行くなんて。なにか喋ってたの?」


「え、あ、間違って買ったジュースを受け渡されたというか。その際にちょっと与太よた話というか...... それだけで」


「そっか、まぁそんな話すことないよね、でも話してみると案外優しいでしょ」


「え、楓さんが? そんな風には思わなかったかな」


 でも少しはまぁ、優しいと感じる部分はなくはない、気はする。

 気がするってだけで苦手な存在であることには変わりないけども、優しいかどうかなんて数回話した程度で分かるはずがない。芽森さんと楓さんが過ごしてきた時間があればこそだ。

この先も楓さんと話す機会なんて訪れないと思うし、でも「お礼はする」と言っていたからって...... これじゃまるで楓さんによからぬ期待をしてるみたいじゃないか。悔しいけどそっち方向で考えてしまうのが男の性なんだな、消え去れ俺の煩悩。


「あ、芽森さん。そ、そういえば、今日はカチューシャしてるんだね?」


 俺は気を取り直しさっきから気になっていることを尋ねた。

 すると芽森さんはどこか恥ずかしそうに顔を下げ。


「再会した時の為にと用意してくれてあったんだって、だから今日から付けてみようかなって思って...... どうかな」


 イメチェンによるイメージアップでカチューシャガールとなった芽森さんの上目づかいでのはにかんだ笑み。それはもう言葉に出来ないほど凄まじく萌という名の落雷が俺の胸に落ちる、正気を保つのがやっとだ。この奥ゆかしい笑顔を出させているのが俺じゃないのが釈だけど、そっか。楓さんは見抜いていたんだ。このカチューシャは仲直りの印に彼がプレゼントしたものだって。

 やることなすことイケメンだっていう。


「うん、か、かわ......」


「あ、そうそう。これ勝手に借りちゃってごめんね」


 口に出そうとした所で芽森さんは肩に掛けていた鞄から本を取り出した、昨日俺が持ってきていた漫画だ。

返す為にわざわざ朝から待ってくれていたのか、おかしいと思ってたんだ、楓さんに続いて芽森さんまで門の前で話かけてくるなんて。


「そんな、役に立ったなら別に」


「前から思っていたんだけど。こういう漫画から取った台詞と言い、古典的な考え方といい、ドラマに見立てたりと黒沼君って中々のロマンチストだよね」


「ぐっ、そ、そんなことないよ。これでも現実とフィクションはちゃんと切り離して考えてるし、あ、あの時は境遇が似てたこともあったからつい漫画を参考にしたっていうか」


 もうとっくに夢見がちな男子って印象付けられてしまってるだろうけど、昨日ので完全に固められてしまった。そのことは仕方がないにしても興味の対象が違うと言葉の意味もまた変わってくる。

星座や宇宙事情とかに詳しければさぞ素敵な響きではあるが、俺の場合は全て漫画かアニメに通ずるものでロマンというより中二病。ただの痛い野郎でしかない。

物は言ようというか、子役が大人になっても印象は変わらないように一度付いてしまったイメージは払拭するのが難しいだろうな。


「ねぇ、黒沼君。ちょっと携帯貸してくれる?」


「へ、携帯? う、うん」


 目に見えて慌てふためいてる俺を見てか「ふふ......」と笑みをこぼす芽森さんだが、すぐに収めると静かな声調で問いかけてきた。

意表を突かれたもの鞄から携帯電話を取り出し芽森さんに渡すと彼女は俺に背を向ける、同時に制服のポケットから自身のスマホを取り出した。


 その行動は何を意味するのか、胸の高鳴りが抑えられない、瞬時に気持ちが高ぶる......

 見守ること数秒、やがて操作を終えたのかこちらを向く、も彼女は何も言ってこない。不思議に思いながらも無言で携帯を返してもらうと受信ボックスにメールが届いたとのお知らせが画面上に表示された。 


これは夢か幻か、信じられない面持ちで受信メールを開くと、そこには。

『昨日はありがとう、黒沼乃君』と、それと乃の文字がしっかりと入ってる。


 ――親しくない人には番号を教えないようにしてるの。


前に一度だけ勇気を振り絞って聞いてみたところ、なんて理由で拒否されたことがある。番号じゃなくアドレスだけど。今、教えてくれたということはつ、つまり、そういうことだと認識していいのだろうか......


「あの、め......」


 ちょうどそこで言葉が切れた、出そうとした声はチャイムにかき消される。

ああ、会話することに集中してて始業時間を忘れてた。俺はまぁ常習犯でも芽森さんはどうなのか、予鈴が鳴り終わる前に横を見ると「遅刻しちゃったね、早く行こう」と芽森さんは優しく微笑む。


 その姿は切り取られた写真みたいで一瞬、時が止まったかのような錯覚に陥るがこれは紛れもなく現実。陽光を受けて歩き出す彼女の後ろ姿は眩しく、どこまでも釣り合いが取れない人で俺なんかが手を伸ばしても届くことは叶わない。だけど、それでも。


 例えクラスメイト以上の関係になり得ないとしても。

 空想中じゃない今、目の前にいる彼女はきっと。


そしてここから俺の、黒沼乃有真の物語ドラマが再び動き始める予感がした。

               

なぜなら。



――日常に変化をもたらすのはいつもヒロインと決まっている――





 とりあえずはこれにて終わりです......


 一章で書きたかったのは主人公がヒロインとの信頼に至るまでの接点

最終的にヒロインのLINEライン、アドレス(番号)を知る展開を書く為だけにここまで執筆してきた訳ですが、良く言えば王道、悪く言えばベタでありきたり。

物語最後にヒロインと番号を交換し合うというのはありがちです

しかしやはり好きな異性の番号は特別なものである必要があると思います。

それより特別なものはさらに難易度が高いですけども...... それはともかく


話の流れで「じゃあ番号教えてよ」なんて気軽に聞いて教えて貰うとそれこそもう「特別感」はなくなってしまいます。ちょっとやそっとの展開で番号を教えるほど甘くない、それが書きたかった部分です。


一章以降の展開は、執筆出来るかは分からないので保留とさせて頂きます。(長編を見越しているので完結ではない)

先の構想自体はあるので投げやりENDにしたくはないのですがサブプロット含めまだ色々曖昧でして...... 一章も騙し騙しだったんですけど内容が内容だけに書き切れたようなものです。


 ちぐはぐで陳腐な物語かと思いますでしょうが、ここまでお読み頂き、またはお付き合い頂きありがとうございました! 出来れば感想を書いて頂けると嬉しいです......

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