主人公と脇役
桜が咲き乱れる暖かい季節、記念すべき入学式の朝、日差しは良好だが何故かその日に限って起きられず遅刻寸前になる。
慌てて購入仕立ての制服に袖を通し、せめてもの腹足しにと急いで朝食のパンを口に加えて学校に登校する。
家から出たのもつかの間、住宅路を出ようと曲がり角に差し掛かった拍子に唐突にぶつかってしまう、確認するとその相手は制服を着ている所からして自分と同じ学生だと推測する。お互い会釈してる時間さえ惜しくその場ではぶつかったことへの謝罪をし別れる。当然名前も知らない。
しかし驚くことにいざ学校についてみると教室には今朝ぶつかった相手、先ほどの女の子がいて......
目と目が合った瞬間から二人の運命が交差し物語が、動き始める――
これは流石にベタすぎか......
肩を丸め部屋の壁に力なく寄りかかりながらも考えてしまうことは、ありふれたラブコメ模様の出会い方。
登校初日でぶつかった相手が同じ学校に通っている、そして当たり前の如く美少女。どんだけの確率で鉢合わせるんだろ、はっきり言ってそんな経験はしたこともないし、見たこともない。まぁ所詮は創作ものだけど。
とはいえ、どんな物語だろうと異性の存在は欠かせない、俺がいま手に持っている本や本棚に並べられてある漫画や小説のほとんどはヒロイン、主人公と関わる女の子が出て来る。
舞台が異世界だろうと近代的な世界観だろうとその部分だけは変わらない。
俺自身そういったジャンルを好んで読んでるせいもあってか、憧れめいた願望や思想を抱いてしまいがちだ、望みは薄いけれど現実に置いて少しばかりそういう期待はある。
そうした密かな期待を胸に抱きつつ変わらない日常を過ごしていた最中、舞い降りてきた天使。
幸か不幸か...... 悩むまでもなく幸だ。それは寸分の狂いもなく、芽森さんに相談事を持ちかけられた時点で間違いない。
そんなささやかな幸せを噛みしめてたっていいじゃないか、叶わない恋や憧れに夢を見たっていいじゃないか。
事情も知らない楓さんに何であそこまで言われないといけない......
無論、事情を知らないからこそだ、それは分かってる。
「俺だってか......」
それを口に出した所でどうなるわけでもあるまいし。
何を恥ずかしがってるんだか......
芽森さんに惚れた理由を思い返してみても、運命的ではなく、特別な場面でもなく、ただの一目惚れ。
そこら辺の男子と同じ淡白な理由“可愛いから気になった女の子”それだけの理由でしかない。
内面どうこうより惚れる動悸なんてそんなもんだろう。
なんせ他人なんだ、幼馴染や昔からの知り合いなら人となりが分かっていて良い面や悪い部分が見えてる。まぁ出で立ちは違っても関わっていくことで人柄が見えて来たりするもんだけど。
――ただ、漫画的に置き換えてみると俺のちっぽけな人生にも幼馴染の女の子だけは存在してるんだよな。
いつも考えないような思考を巡らせてしまったからか俺は本を置き、寄りかかっていた壁から身体を離した。
立ち上がりカーテンを半面開いて覗き込む、夜中に部屋のカーテンを開けるのは久方ぶりだ。
家の周辺、住宅街には街頭が設置されてある為、基本的に夜中でも明るい。
この付近だけならひっそりと点灯している光はちょっとした防犯対策にもなってるような、いないような。
今は十二時を過ぎている為かほとんどの家は消灯し、暗がりで外は真っ暗――というわけでもなく、正面に見えてる家は明かりが付いている。
愛美、まだ起きてるのか......
深夜でも面白い番組やアニメを見て夜更かししたり、スマホなどの端末機器を遅くまで弄っている人は多いから物珍しいとは思わない。活動時間帯も把握してないし、どう過ごそうが愛美の勝手だ。
ちょうど正面から見える二階の窓。
カーテンは閉め切られて中の様子は見えないけど、明かりがついているならまだ寝てはいないはず。
窓伝いに渡って来られるように並んでいるのではなく愛美の家は向かい側に建っている。
道を挟んでるとはいえ、それを踏まえてもお互いの家は目と鼻の先、比較的に近い距離にあるのは確かなことだ。
幼馴染で家が隣り合わせ、意識してなかったけど改めて思うとこれだけ近い場所にいるんだな。
小さい頃はお互いの家を行き来したり遊びぼうけていたっけ、それが今や遠すぎて過去形でしか語れない存在、いくら身近に住んでいても関係を絶ってしまえばこんなもんだ。
そう思っていた、ついこの間まではもう喋りかける機会なんてないんだろうなと。
そういったことから長らく距離を取っていたものの、久しぶりに再会した愛美は相変わらずというか、変わってなかった、それどころか、ますます魅力が増したように感じた。
親近感が湧く明るい笑顔が魅力的な女の子で、隣にいるだけでどこか安らぎを覚えるような......
――なんだかんだで俺の物語があるとしたら他ならぬ愛美がヒロインになるんじゃないか。
あっちはどう思っていたか知らないけど、そう思っていた時期もあったんだよな。
物語中で主人公と幼馴染が結ばれるのは良くある話だ、それが絶対とは限らないのに、ほんとバカだ。
事実、事は上手く運ぶことはなく現実は無残にも俺たちを引き裂いた。違うか、俺から距離を置いたんだ、俺が弱かったから。
愛美はそんな俺の弱さを知ってなお寄り添おうと、関係を続けようと接してくれていたのに......
『――ほら黒真も知ってるでしょ? 同じ中学にいた風間って男子。一緒の高校に通ってるんだ』
怯えて、逃げて、避け続けていれば、本来ヒロインになり得たであろう存在をほかの男に取られるのは当たり前、今更後悔しても遅い。それにたぶんあの頃に戻ったとしても俺は逃げることを選ぶだろうからなるべくしてなった結果に過ぎないんだろうな......
気が小さく、弱くて、暗くて卑屈で、人間的に惹かれるものがない俺は主人公にはなれない、なれる筈もない。
愛美もそんな俺に愛想を尽かしたに違いない。
こんな風に思いたくないけど、遅かれ早かれ初めからこうなる運命だった気がする。
「ふっ、自業自得、まさに脇役って感じか......」
軽い失笑と共にぽつりと呟やいてみると心がムズムズしてきた。
二兎を追う者は一兎をも得ず、言葉の意味は違うけど結果的に二人の幼馴染と疎遠になったという意味では同じようなもんだ。完全に吹っ切られたら楽なんだけどな......
どうしようもない疎外感を感じた俺はカーテンをシャットアウトした――――
多分きっと彼、三羽海音のような人を主人公と呼ぶんだろう。
何の因果か巡り合わせか、偶然が織りなす恋愛模様。
恋心は別としても幼い頃離れ離れになった二人がまたああやって再会出来たのは強く想い合っていたから、ってロマンチスターか......
悲観的になるとどうも女々しい思想をしてしまいがちだ、漫画の影響は凄まじいよほんと。
今の時代ネットで人探しなんて造作もないことだ、家出なら難しいかもしれないが名前や住んでいる場所が変わってなければ探し出せる可能性も0じゃないんだし。
でもこうして再び再会出来たんだ、それを運命と呼ばずしてなんと呼ぶのか。
――神様サ〇キュー、運命ガールハロー恋しようZe。
うん、何故いまこの曲が脳内に降りてきたのかは置いとくとして。
そう楽観的に考えられる状況でもない...... 再会出来てもあの二人はきっかけがないと話合うこともしないだろうし。そんな様子だった。
楓さんの忠告なんて知ったことか、俺はただ芽森さんを......
なんとか、一章の終わりが見えてきました......




