涙の後に残るもの
不本意ながらサブタイトルを一話前と変えました......
「クローバーを受け渡される直前『さきに謝るべきじゃないの』と声が聞こえたの。突然のことに驚いてると一人の男の子が前に出てきてまた同じ言葉を繰り返してきて、それでね。私がなんで謝らないといけないのと返したら『それは〇〇君が必死で探し歩いて見つけた葉っぱだ』って...... かっこつかないよね。それですぐその男の子がクローバーと訂正した途端、歯切れが悪くなって『そのクロバーは〇〇君がめもりちゃんの為に見つけてきてくれたんだよ、だから謝るのが先』とにかく私が謝らなかったのが気にいらなかったんだと思う。何度もそう言ってくるもんだから私もムっときて『そんなの〇〇君の勝手、私は悪くない』と言い返したら再び男の子が...... それで口論に発展してしまって――」
過去のことを思い出す彼女の表情は目まぐるしく変わり、声色も上がったり下がったりしていて、その姿を、心底懐かしそうに話す芽森さんを見ていると俺も同じ記憶を共有したかったなと思ってしまう。
もし同じ幼稚園に通っていたとして、俺ならそのクローバー男児と同じ立ち位置だったに違いない。
どうにかして芽森さんを楽しませてやる、そう考えてたと思う。まだその頃の俺はそういうタイプの人間だった。
「言い争いに収まりを見せなかったからか、結局先生が止めに入ってくれたの。そして喧嘩が収まると『〇〇君はね、頑張って取ってきてくれたんだよ。だからお礼を言おっか』先生にそう言われた私は不本意に感じながらもその男の子に謝ったんだけど――」
そこで切れた、数秒間可愛い声で唸るも言葉は出てこないようで。
「さすがにちょっと記憶が曖昧かな......」
「仕方ないよ、僕だって小さい頃の記憶なんておぼろげにしか思えてないし。誰だってそういうもんだと思う」
フォローするほどのことでもないと思うけど、バツが悪そうな感じでいたからつい言葉に出してしまう......
誰だって強く印象に残ってる出来事や、仲良くしていた友達や先生ぐらいしか記憶にないはず。いくら記憶力が高い人でも年々新しい物事が上書きされ古い記憶が薄れていくのは避けられない。
俺の記憶云々の返事に彼女は苦笑みで答えた後「そこからかな」と続ける。
「その後色々あっていつの間にか海君と一緒にいることが多くなっていったの」
「――そう色々と」そう口にした後、なぜか再び間という沈黙が襲いかかってきた。
俺はさっきと同じように黙りこくったまま、ただ静かに彼女が口を開くのを待つことしかできず...... 情けないな、と自分を卑下するだけ。
彼女を見ると笑みを作りながらも下を向いたままでいる。
トリップでもしているのか占い師が水晶玉で未来を透視見するが如く、彼女もまた茶色の床に過去の光景が映し出されいるのかも知れない。
奧にしまい込んでいる思い出というアルバムを愛おしむように——自分で思っておいてなんだけどクサい思考をしてしまった......それよか。
俺も芽森さんから見たらこんな風に見られてるのか......
多分違う。さらに一段かい、それ以上に酷いかもしれない。芽森さんのことを考えて思考を停止してしまう俺の表情は二ヘラ二ヘラ気持ち悪く口元が緩みよからぬ思考をしている思春期男子のそれだ、いやそれは至って普通のことか...... だとしてもショックだ......
これがもし永遠の四歳児がやれば『えへぇ、それほどでもぉ』と可愛げがあるのに。
色々あっての部分も気になるけど今は、トリップしているであろう彼女を戻ってこさせないと。
「あ、あの、芽森さん......」
俺がそっと話かけるとビクっと肩が揺れた。
この現象は確かジャーキングっていうんだっけ、前にテレビで見て感心した覚えがあるけど、使い所が違うか。
「おか...... じゃない、違う。この場合は......」
「え、あれ、も、もしかして私立ったまま......」
俺がどう返事を返すか迷っていると、横から芽森さんの気後れした声が聞こえて来る。
彼女の顔は若干赤いのは気のせいじゃない。
「それ、僕も良くあることだから......」
これはフォローするほどのことだろう。
意図的に深く思想してしまい、しばらくボーっとなったら自分がどう見られていたのか。
贅沢なご馳走のことを思い浮かべるとよだれが出てしまう人も中にはいるらしいし...... それは流石に下品に思う人も少なくないはず。
芽森さんもその一人で今まさにって感じなのか顔を再び俯むけた。
「そ、その後、色々あって今みたいな性格になった経緯...... を教えて欲しい」
状況にもよるだろうけどこういう時とっさに言葉が出てきてくれるのは助かる。
今だけは自分の性格に感謝だ。
そのおかげで顔が上がり「私の性格? そうだね」と話が再度つながった。
「遊んでいて事故に遭いそうになった私をかばってくれた時、は違うかな...... ケンカした時仲直りの印でリボンをくれたから? それも違うのかな、あ、多分あの時かな!」
「え......」
んん?! ちょっと待て、さも平然と告げる彼女のエピソードの中に事故ってあったけど...... それって結構重要度が高い出来事なんじゃ、それを軽く流すのか。
なんて俺が少し驚いているにも関わらず彼女の話は続けられる。
「私が気丈な性格だったからか、『そんなことじゃあ他の人に目を付けられるよ。妹や弟が出来た時そんなだと嫌われるし、年長者としてのお手本にならないと。それに女の子なんだらなるべくおとしやか? にした方が良い...... って姉ちゃんが言ってた』そんな感じのことを言われたからかなと思う、多分そう...... ってあれ? 黒沼君どうしたの」
「いやちょっと......」
「ごめんね、興味なかったよね」
「ち、違うそうじゃなくて」
最後の一言で台無しだっていうね...... シスコン全開のハ〇かよ。
一文を付けたさなかったらジー◯ハロルドみたいでかっこ良かったのに。
「あ、あの色々話してくれてありがとう......」
「どういたしまして」
その一言にドキっと胸が高揚した......
ここまで話しておいてアレだけど彼女にお礼を言われた時の笑顔は可愛らしく、思わず顔を横にそらす。 ダメだやっぱり可愛いっ、久しぶりに恥ずかしさを感じた...... さっきまで平然と話せていたのが嘘みたいだ。
「でも何で......」
おれ――
「なんかに、って?」
「ゔぁっ......」
またもや思想を読まれた......
「ふふ、ほんと分かりやすいんだね。単純とも言うのかな」
いざという時にクールに決められなきゃ男じゃない。髪形をそれっぽくしていても、カッコよく影があるミステリアスチックな男になりたいという理想が叶うことはないんだろうな......
「でもなんでだろうね。女の直感? 黒沼君なら大丈夫。そういう雰囲気があったからかな......
あ、もちろん性格や見た目含めての感想だけど、なによりぼっちだしね」
そうやって俺に毒を吐いたのも僅か、意地悪な笑みを消せば目を伏せどこか悲しい面持ちに変わる。
「簡単なはずなのに難しいよね」
――儚く、弱弱しく告げられたその瞳からは涙が滲んでるように思えた。
俺はそんな彼女になんて声を掛けたらいいのか分からず窓を見る。
結構長い時間話していたらしく夕日が沈もうとして、ふと既視感を覚えた。
夕日に染まる教室で、二人っきり...... この光景は確か夢で――
「あ や ねぇぇっ!!」
突如として既視感が重なる――これももう幾度目かのデジャヴ。
後ろから聞こえてきた叫び声に振り返れば、そこには激怒した楓さんの姿があった。
息が上がり、金色の髪が乱れてる所からして全力疾走でここまで来たんだろう――なんて観察してる場合じゃない。
この構図はヤバい...... 俺という影の前で瞳を潤わせてる。
楓さんから見たら俺が芽森さんを泣かしている状況にしか見えないだろうから......
「楓っ! ぶ、部活はどうしたの?」
芽森さんが慌てて問いかけると楓さんは「早上がりしてきた」と答えるもそれだけ、そのまま何も言わずまっすぐと近づいてきて......
俺はブレザーの襟、根っこ部分を強引に掴まれた――
文章の区切り方が難しいです。。。。。。




