晴れやかな教室と変化に伴い......
こういうのは苦手なんですけど...... 題材が題材なので、引かないで頂けると嬉しいです。
なにせ学園もとい高校が舞台ですしね、個人的にはそういう話題はないとおかしいと思います..... いくら恋愛物、ラブコメ?物 とはいえ(滝汗)
珍しく――最近はそうでもなくなりつつあるけど、珍しく朝早く登校した俺は教室に入るとホッと息を吐き、肩を撫でおろす。ここ何日かは教室に入ると必ず一息入れるようになってる。
体育祭が終わってからというものクラスの関係は良好と言っていい、少しギクシャク感は残ってはいるけどそこは大した問題じゃない。学園生活を過ごす中で長いようで短い間、苦楽を共にすることになる教室という空間は学生にとってもっとも重要になる。いわばもう一つの家みたいなもの。
監獄や牢屋じゃないんだ、笑顔や笑いがなく、声も聞こえてこない重く堅苦しい空間というものがどれほど辛いか、一人部屋ならともかく大多数の人が集まる場所がそんな状況であるなら耐えられる自身がない。耐えられるとしても三週間が限度だろうな。屈強な精神力を持つ人なら乗り切れるかもしれないが、そんな修業は御免こうむる。
例え自分が参加しなくても笑顔が溢れる空間というものはいいものだ、ほんと言えば苦手だけど、あの濁っていた空気感に比べると全然ましだ。
鬱蒼とした雨よりも晴れ晴れとした天候を好む人が多いというのもそういうことだと思う。
イメージの差っていうのか、嬉しい気持ちや沈んだ感情を書く時は天候で表現することがほとんどだろう。
そしてその天候を左右するのはクラスメイト達にかかってる。雨になるも曇りになるのも彼ら次第だ、他力本願上等。仮に曇を引き寄せられてもコミュ症ぼっちの俺に太陽は呼び起せない。
「えぇ、ほんと?」
そんなどうでもいいことを考えていると さっそく、喧嘩していたのが嘘だったかのように男子と女子の 楽し気な会話が耳に入ってくる。
「ああ、マジだって」
「ぜってぇ嘘だろ、ほんとミーハーだよな。世間の評価に流されやすいというか、そういうのつまんなくね? マジで」
「いいから騙されたと思ってみて見ろよ、マジモンの面白さだから」
「マジェンジャーズでしょ? 私それ見たことあるけど、凄っごくつまらなかったから見るのはマジで止めておいた方がいいよ」
「いやいや、マジか? これの面白さが分からないとは、マジでねぇわ」
日本の若者『マジ』を使いすぎる説、まだ検証に出していないなら出した方がいい。さすがにもう出てるか。
そのせいか棒魔法ラ〇ダーの主題歌みたく完璧な言葉のコンボが完成してしまってる。歌詞にするにも語呂悪すぎだけど。どれだけその言葉言いたいんだろ。でも俺もその作品は見たことあるけど合わなかったな、マジック戦隊マジレンジャーズを一から見直した方が――やばい、俺もマジ語の毒峨に掛かってしまう......
俺は彼らの会話を聞くのを止め、いそいそと自席に座る、
マジ語、あれはゲシュタルト崩壊してしまうぐらい危険な言葉だと思う。ヤバすティックウェーブだ。
けどそのおかげで会話が繋がって和が生まれてるのは事実、雰囲気が戻ったとはいえいつまた鬱蒼な雰囲気に変貌するかと思うと気が気でいられない。そう考えるとマジ語も捨てたもんじゃないんだろうな。
しかしながら今はそんな心配は無用のようで、前までなら無視し合っていた二人も今はすっかりと元通り、ちょっと違うか。少し変化は見られる。
そう思考しているとガラッと扉が開いた。
教室に入って来た宮村さんは緒方君と目が合うと、一度視線を反らす。そして視線を緒方君に戻すと声を掛けた。
「はよ...... ッス」
「お、おう」
お互い一言ずつ挨拶を交わすとそれ以上の会話は生まれない。
緒方君はどこか間を埋めるように再び友達と話し始めた。その祭、友達の一人は二人の様子に怪しいと見たのか肩をちょづくも緒方君は首を横に振る。
宮村さんもまた自席に着くといつもの如くギャル友が周りに集まりだす。
これは一つの変化だと思う。体育祭で生まれた小さな絆、この二人の場合は絆というより......
それにもう一つ変わったことと言えば――
「芹沢!」
俺と同じように、違うか。ただ朝早めに登校しただけの俺とあれでは比べることすらままならない。
珍しいこともあるのか一人の男子が芽森さん、ではなく楓さんの名を呼びかけると、楓さんは面倒そうに男子生徒に顔を向けた。立花さんを中心に彼女達三人は芽森さんの机を基盤に固まってることが多く、この瞬間も芽森さんと立花さんの二人と話していた。
話に水を差されたという様子ではないにしても、その表情からは呆れてるのが分かる、そして目が合うのを確認した男子は楓さんに向かって何度目かの言葉を口にする。
「俺と付き合ってくれないか!」
「しつこい」
体育祭が終わってから変わったことは、楓さんにアプローチする男子が出てきた。
元々人気があったのかも知れないけど、冷たい印象や雰囲気もあってか声を掛けづらかったのだろう。
俺自身それを直で感じたのでその印象が強い。怖いまである......
無論、知る限りそういう噂は今まで聞いたことがない。知る必要もないけど。
それが体育祭で楓さんに惹かれてしまったんだろう。スタイルが良く綺麗な金髪に凛々しい表情、男子に目をつけられても不思議じゃない。あれだけ目立っていたんだ。芽森さんがダメなら...... ということもあると思う。
このクラスでも何人かの男子が告白するのを目にしたけど、全員あしらわれていた。
いま楓さんに好意をぶつけているのは他の組の男子で、聞いていれば楓さんに話かけようとしていたが声を掛けづらかったらしい、けど他の男に取られないように声を掛ける決心をしたという。
そうは言うも楓さんって確か......
「彼氏がいるって何回も言ってるんだけど」
「ほんとはさ、彼氏なんかいないんだろ? 男を近寄らせない為の嘘とか」
「どう思おうが勝手だけどさ、あたしに彼氏がいないという根拠は?」
「ほ、ほら芹沢って男いるように思えないし。恋愛事に興味なさそうだし、なんとなくだけど」
「なんとなくね、ってか写メ見せたよねっ」
「あんなの偽造や拾い画って可能性があるだろっ、最近見たドラマでもそういう細工していたんだ」
いやいや、それはアニメやドラマの見すぎだと思うけど。
その男の声は大きくこっちまで聞こえて思わず心の中でツッコんでしまう。
確かにそういう展開は多々ある、例として『嘘つきガールとドSプリンス』だったか、彼氏がいないとバレない為に偽物の彼氏の写メを友達に見せて事なきを得た。
ひとえにそうとは言い切れないけど、現実とフィクションを混合しては痛い目みるんじゃないだろうか。
その彼は偶然にも同じ内容を連想していたようで、説明し切った後。
「それでその写メに写った野郎が同じ学園にいて...... ま、まだ出会ってないよな、この学校の中にいるならフラグを作る前に俺が!」
「――そのフラグってのが良く分からないけど、あたしの彼大学生だから、この学校にいる筈ないよ。それにさ、そんな何千分の一の確率で出会うようなこと本当に信じてる訳じゃないよね」
「信じて悪いかよ...... え? 大学生――って」
そんな彼の言いぐさに、楓さんは「ああそう......」と大きいため息に声を乗せた。
心のある声も彼の声量と比例し自然と大きくなる。
「なら一つ教えといて上げるけど。人は誰でも二面性の感情、裏表の性格ってのがあるんだよ、このクラスなら例えば...... 弥上」
楓さんは名を呼ぶと後ろの席を見た。
弥上、どこかで聞いたような。
「あたしが見る限り、優しい性格で柔らかい口調と見てるだけで和みそうな雰囲気だけど、腹黒い思想を持ち合わせてるかも知れない」
おまけに背が小さくチワワみたいなゆるふわパーマで可愛らしい印象がある。個人的には芽森さんには適わないけど。
「え? なんで私ぃ? も、もちろんそんなことないからねぇ。心の中は清らかだから表も裏もないからぁ」
その女子は当然、慌てたように否定する。
そりゃそうだ、誰だって面と向かって言われれば同じ反応になるに決まってる。
「それから宮村は――」
俺の後席に座っているから顔は確認出来ないけど、名前を上げられた宮村さんは多分、楓さんと目を合わせたんだろう。続いて名が上がると「でさぁ――」と会話が途切れた。
「一見、派手な見た目からして経験豊富そうに見えるけど、実はまだそういう経験がなくピュアなハートの持ち主だったり」
気のせいだろうか、楓さんは宮村さんの方に向けニヤニヤと微笑を浮かべてる。
いや明らかに本人に問いかけてる。
楓さんも人が悪い、その言葉を聞いていた一人のギャルが「え?」と声を漏らした。
「紅奈、あんたまさか処――」
その間際、後席がガタっと揺れた。
「な訳ねぇだろう!! や、ヤリもヤリまくりでもう、アタシレベルになると毒々しいまでに黒いのなんのって、ってか今時処女とか逆にありえねぇよ! 最近はヤリ過ぎで緩んだせいかおとぶさだけど、したくなった時は時々男呼んで済ませてっから」
自暴自棄になっているのか、本当のことなのか分からないけど女性が簡単に口に出来る言葉じゃないのは確かだ...... 彼女達は例外か。
「だよねー、今っ時処女とかマジ受けるわ」
そのギャルの一言に『シーン......』と教室が静まり返った。
いま『ギクッ......』とした女子は何人いるんだろう、会話が止まったことで大体の予想はつくけど、これはもちろん男にも言えることだ。なんて恐ろしい会話だ。これがカースト上位に位置するギャルグループの......
身の危険を感じる。冷静に事の成り行きを見てはいるけど俺だってそういう感情は人並みにはある、「ど、どう――」と思わず声に出し否定したいぐらいにはダメージが大きい...... 俺は喉がそこまで上がりかけてるのを必死で堪える。
「そうそう、しょ、処女が許されるのは中学生までっしょ」
「ははは、いやっ、流石に一度や二度の経験ぐらいしてんだろう」
そのギャル子に便乗するも宮村さんの高笑いは、くじけそうな胸を突き刺すが如く明らかに乾いてる。緒方君はどう思ったのか、少なくても、いや多めに見ても今のは愛想をつかされるレベルでやばい。緒方君にも二面性はあるだろうけど、俺が見る限り緒方君は真面目でそういうことが嫌いそうな印象だ。実際どう思ったのか分からないけど、宮村さんを見る目が多少変わるかもしれない。
だからか後ろでボソっと「・せ・り・ざ・わ・ てめぇ覚えてろよ......」という低い声がするのは気のせいだろう。怖いけど俺には関係ないことだし......
「まぁ...... 今のは一例に過ぎないけどね、そういうこと。あたしも傍から見たら恋愛事に興味がなさそうに思われてるらしいけど、実際大学生の彼氏とそういう関係だから」
「でも俺はまだ......」
「分かった、じゃあ。今度彼氏と会わせてあげるよ。気が向いたらね」
楓さんがそういうと男子は渋りながらも納得したのかやっとキツイ話が終わった――
「え?! みんな経験あるの? 私まだないんだけどっ!!」
立花緑は空気ブレイカーの称号を得た。
という効果音が頭に鳴り響いた、当然俺の頭内でだ。いやそれより、それを女子が堂々と言い放つのはどうなのか......
「じゃじゃあ、めもりんもっ!」
何でまたぶり返すのかという俺の感情とは裏腹に、立花さんは驚愕の表情で芽森さんを見た。
「文音は良いんだよ、無駄に汚れることないだろうからね、むしろ文音は純潔だからいいんだよ。 それに遅かれ早かれ経験することになるんだし。誰でもって訳じゃないけど。だから別に処女であったって恥ずかしくないよ」
先程と打って変わり淡々と告げる、楓さんの一言に安心感を持った女子は何人いるだろう。
だけどそれも芽森さんに対してのフォローだきっと、さっきはそんなこと一言も言わなかったし。
芽森さんもその一人なのか「そうだよね......」と心に言い聞かせてる風な表情に見える、もし違うならショックだ、そうなれば崩れた頭の中の芽森さんパズルを一から積み直さなければならないだろう...... どこぞの社長みたく性格が変わればショックは和らげるかもしれないし。
それはそうと最近は小学生でもう経験済というデータもある、恐るべしは貞操概念の薄れ、乱れ。
少子化が進む一方でそういう偏った恋愛観を持ってしまっている人も少なくない。
気よく正しい恋が正しいとは言えない、刺激を求めたい人にとっては地味で面白くないだろうし。
でもそういう経験があるのとないのとじゃあ、人の見方が変わってくるようには思える。
やっぱりそういうことは初めて同士が理想――なんて考えた所でか。
ましてや女友達はおろか男友達すらいない俺が恋愛するとか不可能に近い、誰かとそういう関係になるのは想像もつかないし。そんな度胸や異性との出会も当然、母さんには悪いけど当分の間は約束を守れそうにはない......
守る気もさらさらないけども。
棒ぼっち青春ラノベもそうだけど、
ガヤガヤうるさい教室中でピンポイントに一つのグループ、人の声を聞き分けることが出来るのだろうか......