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思い出の公園

二人きりの公園...... テ〇マスの二人を思い浮かび上がってきます。


 ――愛美に言われたからだろうか、それか久しぶりに愛実と会ったせいだろうか。

いつもと違う道を散歩していると視界に公園が見えてきた。

いつの間にかこんな所に来てたのか、そう思いつつ不意、立ち寄ってみることにした。

広場には二人ほどの子供がいたが気にせず近くのベンチに座る。



『丘の下公園』


 丘の下にあることからそのベタな名前がついたという。広さ的には学校の校庭の半分にも満たない。

台の下に人一人が入れそうな空洞が空いた滑り台を除けば、雲梯や鉄棒に砂場などの遊具が置かれているどこにでもある普通の公園。

もう何年ぐらい来てないだろ、愛実と同じく知らず知らずの間に避けていた場所でもある。


 昔はよくここで遊んだっけ...... ネット環境が充実したからか公園自体が廃れてきてる今の世の中、公園に遊びにくる子供は減ってきてると聞く。

それでも少なからずは人もいるみたいで、現に俺の目前で二人の子供が砂場で遊んでいる。トンネルを掘ったり山を作ったり楽しそうな表情をしてる男の子と女の子。

懐かしい、愛美ともあの砂場で遊んだな、よく三人で......

涼夏の奴、鉄棒の逆上がりが出来なくて俺と愛実でからかってたっけ。

思い返すと自然と笑みがこぼれる。


――けど、所詮思い出は思い出だ......。浸った所で過ぎ去った日々は戻りはしない。

これが俺の現実......



「もう――ちゃんなんかしらないっ!!」


「え、――くん。まってよ、ねぇなんでおこってるの?」


 地面を見ながら懐かしい過去を振り返っていた所で大きな声がした。


何事かと気になり前を見ると先ほどまで砂場で楽しく遊んでいた二人の子供が言い争っていて、何やら嫌な予感が...... と思ったのもつかの間、男の子は女の子を突き飛ばし砂場を出ると俺の横を通り過ぎ、数秒とせず公園から出て行ってしまった。

 今楽しく遊んでた筈じゃ...... 視点を砂場に戻すと残された女の子は声を上げ泣いていた。

女の子を泣かすなんて酷い男の子だ、なんてことは思わない。子供は些細な理由でケンカする生き物だ。

その背景にモンスターという名の母親がいて、関わろうものなら面倒なことになりうる。


 今も一人泣いている女の子がいる訳だけど、関わりたくない......

 俺はそう思い公園を出るため座っていたベンチから腰を上げた所で、そういえば他の人は? と立ち止まる。そして周囲をぐるっと見渡してみた。


 いない、今この場には泣いている1人の女の子と俺以外の人の姿がない......

仮にここで俺が公園から出て行くとしよう、誰もいなくなった公園に歳端もいかない女の子一人が残される。その後どうなる?

多分、親が心配して見に来る。しかし一様に安心できない、最近ニュースで児童(女児)誘拐事件を良く耳にする。そういえば近くの地域で誘拐事件があったような......


などと思想しているとじんわりと汗が出てきた。 

そうだ、増してや人が寄ることが少ない公園、そういう事態が発生しないとは限らない。

そもそも俺が話しかけてる時に親が来たらそういう事案になってしまうかも。だけど、泣いてる一人の女の子をほっとくほど良心がない訳じゃない、これは仕方なくだっ!



 俺は女の子に駆け寄ると一度深呼吸する。

 いつぞやの芽森さんの真似だ、目線は子供に合わせ、対話しやすいように膝を折った。


「お、お嬢さん。ど、どうして泣いているのかな?」


 そして一応自分なりの言葉で話しかけてはみる......

しかしその言葉だけ切り取れば正に犯罪者そのものだろう。実質アウトだ、ってか子供の呼び方が分からない、「ねぇ君」はナルシストっぽいし。

けどそんな心配はせずとも女の子はすすり泣きながらも。


「え、えっとね、し、うくんがっ...... なざか、い、いきなりおごって、なんで怒っ...... のか、わ...... よくわか......なくて」


 あふれ出る涙を手で拭い懸命に伝えようとしてくれてることは分かるけど、泣いていて上手く呂律が回っておらず聞き取れない。

まいったな、俺には子供の泣き止ませ方の経験はない、下の兄弟がいる人ならどうにか出来るんだろうけど。


「とりあえずさ、す、砂場から出ようよ」


 俺は女の子の服についた土を簡単に払いベンチに座るよう提案してみると女の子は頷いてくれた。

ベンチに腰掛け女の子が泣き止むのを待つ。


周りには誰もいなく静まり返ってる。正確には女の子のすすり泣き声と風の音だけが静かに聞こえてるだけというか、なんだろこの状況は...... 小さな女の子と二人っきりとか、これ傍から見たらロ〇コンなんじゃ、しかも顔も知らない――

よくその子の顔を観察してみると見知った顔だったのに今更ながら気づいた。

尻尾みたいにぴょこんと跳ねた髪、拙いながらも目鼻がくっきりとした顔立ち。

そっか、さっきは気づかなかったけどこの子は海音君の妹だ......

して、その海音君はなぜいないのか、小さい子供を置いておくような人じゃないと思うんだけど。


「あ、あのね――」


「ん?」


 泣き止んでくれたのだろう、今度はしっかりとした言語が耳に入った。

 俺はその女の子もとい唯華ちゃんを横目で見下ろす。


「おにいちゃんと、しりゅう君とわたしの三人でこの公園にあそびにきたんだけどね――」


 唯華ちゃんはさっきと違いハキハキとした声を出してる。

子供は比喩や難しい言葉をまだ使えないから簡潔に物事を伝えるんだな、実に分かりやすい。


「おにいちゃんは遊んでるとちゅうで飲みものを買ってくるっていって、どっかいっちゃって...... それからしりゅう君と遊んでいたらしりゅう君がいきなりおこって......」


 なんだ、一緒に来てるんじゃないか。

公園中に自動販売機は設置されてないから少し先にあるコンビニに買いに行ったんだろうか。小さい子供なら特に水分補給は大事だ。だけど早く戻ってこないかな、多分そのケンカの理由も大したことないんだろうし...... それは聞いてみないと分からないか、何でも憶測で結果を出すのは良くないし。


「お兄ちゃんはもうすぐ戻ってくるよ。えっとし、りゅう君だっけ? 言い争い...... 喧嘩になった経緯、じゃない、理由は分かる?」


 経緯、事情なんて言っても小さい子供には分からないだろう。

それにまだ習ってない言葉で喋っても当然伝わらない。なるべく柔らかい物腰で語り掛けたりと、子供との会話は意外に難しいものなんだな......

でも大人はくどい分子供の方がましか。

俺の言葉は幸いにも唯華ちゃんに通じたらしく返答してくれた。


「んっっと、遊んでるときにね、なぜかしりゅう君がわたしをおよめさんにしてやる。って言ってきて...... わたしは『いや、わたしはおにいちゃんとけっこんするの。だからしりゅう君のおよめさんにはならないよ』って言ったらいきなり――」


「怒りだした?」


「うん......」


 まぁ、案の定そんなことだろうと思ったよ......

小さい男の子には良くあることだ。女の子と楽しく遊んでいたのに急に怒りだす理由なんて俺くらいの年齢になれば大体察しがつく。ってかむしろ経験者だし。


「しりゅう君何を言ってもきいてくれなくて、それで悲しくなって......」


 唯華ちゃんの必死な顔には仲直りしたいという気持ちが伝わってくると同時に、力になってあげたいなと思いたくなる。


「し、しりゅう君と仲直りしたい?」


「うん! だって友達だもんっ」


 友達、か......


「じ、じゃあ、とっておきの魔法の言葉ががあるんだけど。それをその男の子に言ってみるといいよ」


 本当は全部教えてやりたい所だけど、それは俺がとやかく言うものじゃない。

こういうことは経験や歳を重ねて自然と知り得ゆくものだ、それに純粋な子供に汚い大人の世界を見せたくないという気持ちもある。だけど少しぐらい手助けをしてあげることぐらい構わないだろ。


「次しりゅう君に会ったらさ...... 「わたししりゅう君大好き! だ、だから仲直りしたいなっ!」 って言ってみるといいよ。飛びっきりの笑顔を交えて、少し溜めて甘える感じを出してみるとグッドかな」


 俺は年甲斐もなく下手な声真似をする。

 今人がいなくて助かった......


「それがまほうの言葉? あまえる感じって?」


 う、やばい。少し調子に乗った......

最近の子供はマセているとは言うけど唯華ちゃんは純粋で穢れがない、俺の言った言葉に困ってるのか眉毛が下がり難しい表情を作っちゃってるし。


「と、とにかく。物凄く明るい笑顔で謝ってみるといいよ。多分、それで仲直り出来る筈だから」


「笑顔であやまる...... わかった。わたしやってみる! ありがとう暗そうなおにいちゃん」


 く、暗そう...... まぁその通りだから仕方ないけど子供にもそう見られるんだな。

性格が顔に現れるっていうことは本当なのかも知れない。

一瞬焦るも、言い直すと唯華ちゃんは納得してくれたみたいで笑顔を見せてくれてる。

可愛らしいな、助言をした甲斐があったもんだ。

しりゅう、紫龍と書くのか? それならかっこいいなおい...... まぁその子のことは知らないけど、ちょろインの男版と見てまず間違いないだろうから、唯華ちゃんのひまわりのような笑顔ならイチコロだろう。


「――あ、おにいちゃん!」


「え?」


 唯華ちゃんの呼び名が聞こえとっさに入口を振り向くと、海音君が立っていた。



「悪い、遅くなった」


稚拙な展開で、恥ずかしい......

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