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身近な再会

時間経過や日数が難しい......

 

 体育祭が終わった数日後の休み。

いつものように散歩に行こうと家を出た直後、会いたくない人に遭遇してしまった。


最悪な再会だ......


真横でバッタリと出くわしたのは隣人で俺が会いたくなかった女の子でもある。



「あ、おはよう、久しぶりだね黒真」


「......」


「今日もいい天気よね。黒真もこれから出かけるの? え...... あの、わたし、もしかして顔忘れられてる?!」


 その女の子は気さくに話しかけてくるも俺は返事を返さない。

返さないというより驚いて何も言えずにいる......

俺が黙り込んでいたからか自分を指さしオーバーなリアクションをする目前の女の子にどうしようか悩んだ挙げ句、返事を返すことにした。一応知り合いだし。


「い、いやちゃんと覚えてるよ。た、ただ、驚いただけっていうか......」


 本当に驚いたこともあり、少しどもり気味に言うと女の子は「良かった、まぁ忘れるほどの歳月は経ってないしね」とホッとした様子。

短い時間や十年以上会ってないなら顔を忘れることはあるだろうけど。

それに知らない仲じゃないんだ、もちろん覚えてる。


 林道愛美りんどうあいみ

彼女の特徴である短めなキリッとした眉毛とポニーテールの髪型は昔から変わってない。

常に明るく、気さくに話しかけてくる所も。普通なら会わない期間が長くなると話かけづらい状態になるものなのに、彼女の性格故か......



***


 俺は彼女から距離を置こうとそそくさに家から離れたのもつかの間、なぜか彼女もついてきた。

そして隣に並んできたのでそっと、彼女を見ると空を仰いでいた。

背は俺より僅かに上か、少しばかり大人びてはいるけど幼さは残っている顔立ち、束ねてあるサラサラの髪は風を受けてゆったりとそよいでる。

そうだ、この心地いい感じ...... と俺も同じように空を見上げてみる、太陽は雲に隠れている為、目が眩む心配はないようだ。


「でも本当に久しぶりだね。え~っと三年ぐらい?」


「う、うん」


「もうそんなになるのかぁ、時間が過ぎるのってあっという間よね」


「うん......」


 口角は上がっているものの、しみじみと告げる彼女に静かに頷く。

 三年は決して長いとは言えない期間だけど俺にとっては結構な歳月だ。


「通ってる学校は別だけど家が近所同士なのに今まで会ってなかったっていうのもおかしな話だね」


「近くにいても会えない、会いたくない理由ぐらいあるよ......」


 会いたくない方の意味で震えたけども、むしろ会いたくなかったし。なんで今更......


「え、今何か言った?」


「あ、何でも...... 愛――り、林道さんはてっきり別の地域に引っ越したもんだと」


 ボソっと口に出した声は微弱にも彼女の耳に届いてしまったようで、俺は慌てて別の話題を出す。

声を抑えて聞こえないように言ったのに、こういうのを地獄耳と言うんだろうな。

それよりかは別の話題に反応した彼女は「引っ越し? ないない。ずっとここにいたよ」と一、二回手振りをした後、間髪を入れず続ける。


「寮生活でもしていれば別だけど、ってそれより...... 何その他人行儀の言い方」


「え? あの長年話してないから、もう他人、みたいなもんだし......」


 むしろ名前呼びの方が失礼だろ、もう親しい間柄でもないんだし。

俺はそう思ったけど彼女は違うようで、苗字呼びに疑問を抱いたのかジーッ...... と睨んできた。

その様は怖いと言うよりかは可愛い......


「話してなくても幼馴染...でしょ。気を使わなくてもいいし、使われても――ほらぁ...... 身体中に鳥肌が立ってきた、うう゛気持ち悪っ」


 気を使うとか使わないの問題じゃないんだよ。と言おうとした途端、ゾワワっときたのか、彼女は両手で身体を包み込んだ。その姿を見ているとこっちも移ってしまいそうだ、あの感覚苦手なんだよな......


「で、でも親しい仲にも礼儀ありって――」


「それ使い方間違ってるから、ついさっき長年会ってないから他人同然と発言してる時点で矛盾しちゃってるし」


「あ......」


 そ、それもそうだっ......



「昔みたいに、呼び名でいいよ。それに無理にさん付けなんて黒真も変な感じになるでしょ」


「そうだね...... 愛美ちゃん」


 確かに慣れ親しんだ愛称で呼ばないのは変な感じだ、例えば父や母が祖父母のことを子供がいる前で「おじいちゃん」「おばあちゃん」と言うような違和感がある。


「ちゃん付けもなし、子供じゃないんだから」


「あ、愛美...... こ、これでいい?」


 は、恥ずかしい......

改めて下の名前を呼んでみると非常にこそばゆい。しかも女の子の名前を直で...... 

普段、母親以外の女性と接点がない俺には有りえないことだ。少なからず見知った関係、だと思いたい芽森さんの名前もまだ呼んだことないのに......


「オッケーよ! 初めからそれで良かったのに、それにしても久しぶりに黒真に名前呼ばれたな......」


 何がオッケーなんだか、おまけに手振りまで交えてるし、いるんだよな真似したがる人。まぁ知らないけど。


「そりゃあそうだよ、会ってないから名前なんか呼ぶこともないからね」


「まっそうなんだけど、ってか会ってない訳でもないんだけどねぇ......」


「え? まじで?!」


 その発言には驚かざるを得ない、だけど多分人違いってだけだ。


「どれだけ驚いてるのよ......近くに住んでるんだし、時たま見かけることもあるよ。まぁ黒真は気づいてないかも知れないけど」


「まじかぁ......」



 良く良く考えれば家が隣同士、会いたくなかった思想から気づいてないだけで実は何度か見かけていた可能性は大いにある。見かけた記憶ないけど、あまり家から出ないから当たり前か。

いや、それよか俺のステルススキルのレベルが低いことに驚きだ。

学校ではそれなりに高い方だと自負できるのに、もっとスキルレベルを上げなければ......

鍛錬を怠ってはいけないな。して、何の鍛錬だろう?


「見かけることもあるってだけだけど、こうして直接話すのは久しぶりでしょ」


「だね」


 確かに久しぶりだ、今こうして愛美と会話しているのが不思議に感じる。

今まであんなに避けていたのにいざ会ってみると案外悪くは......

――そこでふと思った。



「あ、あの。何でさっきから僕についてくるの」


「そんなあからさまにビクつかなくても、ってか今更? 同じ方面にいく目的があるから同じ道を歩くのは当然でしょ」


 俺の疑問は「なに当たり前なこと言ってるのよ」とごく当たり前に返された。

俺の行く道に目的がある、愛美が同じ道を通るのは普通...... 我ながら馬鹿な質問だった、今のはふ、普通にダサい......


「それより――」


「え?」


 俺が何秒間かへこんでいると横から愛美の声が耳に入った。



「少し変わったよね黒真。大人しくなったっていうか話し方もなんだか、奈月が転校した辺りから......」


「そりゃあ僕だって多少は変わるよ。涼夏も同じだ。人にもよりけりだけど年齢や時を重ねれば誰だってそうなっていくさ、変わらないものもあるんだろうけど......」


「身長とか?」


「そ、それは誤差があるんだよ、成長期に伸びなくても生活習慣を見直せば多分間に合う。二十歳を過ぎた大人でも伸びる人もいるんだ。それにまだ高校生なんだ、これから牛乳をたくさん飲めば背が伸びる可能性だって――」


 牛乳はともかく生活習慣を見直すのは厳しいけど。

 しかし痛い所を......


「ふふ、そこは相変わらずコンプレックスなんだ」


「うっせぇ...... それに愛美も変わってない訳じゃないんだろ」


 親のこととか...... は口に出さないでおく、今気まずくなったら重い空気になる。

他人同士だったら無言を貫けばいいけど相手が愛美だとそうはいきそうもない。それに涼夏のことも――今は出来れば伏せていたい......



「いや、わたしはそんなに変わってないかな。精神面とか皆と比べても成長してないの分かるから、未だにぬいぐるみを抱いて寝ちゃったりしてるし」


「根本的な所が成長してないのは俺も同じだよ。怖がりだし、争い事は苦手だし、未だにファッションセンス皆無だし。まぁ個人的には無理に皆と同じような感覚で大人を演じる必要ないと思うけどな」


「今も上下とも着色が緑のジャージだもんね、なるほど」


「ふ、服なんか着飾った所で変わんないからな、ファッションセンスなんて糞くらえだ。とはいえ一着や二着は備えておいた方がいいとは思ってるけど」


 万が一ということもある、散歩に行く時や芽森さんと出掛ける時、本屋に寄る時や芽森さんと出掛ける時とか...... 虚しい妄想を覗けば実質二択でしかないけど。


「いざ出掛ける時に困るしね」


「おしゃれな服を着てる誰かさんと違ってな」


 めいっぱい皮肉ってはみるものの所詮ただの強がりだ。愛美は俺と違いおしゃれな服に身を包んでいて、可愛らしいフリルのついた赤いズボン、いやスカートか 今はパンツと言うんだっけ? 違いが分からない。どっちでもいいか。上は柔らか素材で出来てるようなフード付きの白いパーカーと今時な女の子って感じで、ジャージを愛用してる俺が言うのもなんだけどおしゃれと言える自然体な服装だ。

そんな俺の皮肉は通じなかったらしく愛美は短めな眉毛をつりさげる。


「まぁさすがに黒真と比べたらね、ある程度は服に気を遣うよ。これでも女だしね...... 実はこれからデートなんだ」


「あ、ふ、ふーん。そそそうか彼氏いるんだ...... それじゃ十分大人だろ」

 

 高校生と書いて恋人とかけます、その心は十二分に大人でございます!

などとくだらないことを考え少しばかり冷静を装ってみてはいるけど『これからデートなんだ』

内心その一言に動揺を隠せない、いや身なりを見た時からある程度の予想はついていた、彼氏がいるってことは。

そんな俺の心情を察せられたのか愛美は「あ~......」と困ったように人差し指で一、二回頬をかく仕草を見せると続けざまに補足を入れてきたので思想を消す。


「彼氏と言っても...... あ、ほら黒真も知ってるでしょ? 同じ中学にいた風間って男子。一緒の高校に通ってるんだ」


「宗助君......」



 そうか、まだ...... やっぱりそういう関係になってたのか。

俺が知る限り愛美と一番仲が良かった男子で二人は良く楽しそうに話していた。

思い出すと胸がギュッと締め付けられ――同時に頭によからぬものまで浮かんでくる。


お互い同じ学校に通っている二人は帰りに制服デートを楽しみ、時には人があまり来ない図書室でアレコレを楽しみ、さらには放課後の誰もいなくなった後の教室で人知れず男女の行為に......


「黒真の記憶通りの男子だよ、ってか...... 今えっちな妄想でもしたんでしょ? わたし達ピュアな関係だからキスもまだしてないんだよ。ふふん、安心した?」


 正に図星......


「そ、そりゃ少し...... いや! か、勘違いするなよ?! 俺は高校生でき、キスもしてないとか今時珍しいカプルもいたもんだなと思ってだな、ほ、ほら最近のカプールはお盛んもりだろ。インスタグラムでそういうア、アレも載せる人もいるって言うし、だから」


 ダメだ言葉が噛む、俺ガ〇ダム好きすぎ、予想していたけど面と向かって言われると動揺を隠せそうもない。

実を言うと安心した、愛美がまだ大人の階段を上ってないことに。と言いつつもほんとはもう事に及んでる可能性はあるかも知れないけど、本人がそう言ってるんだ、愛美に限ってそういうことはないか。

俺の知ってる範囲での憶測だけども。


「はは、顔真っ赤。だからわたしそういう意味でもまだ大人じゃないんだよね」


 からかわれてるよコレ。

俺が異性に免疫がなく、男女の恋愛に対する精神が未熟なのをいいことに。

悔しいけど恋路に動じない精神を身に着けるには時間が掛かりそうだ。


「そういう黒真はどこに? まぁ言わないでも分かるけど」


「ぐ、じゃあ聞くなよ...... どうせただの散歩だよ俺は」


 片やお出かけという名のデート、片や暇潰しという名の散歩 この圧倒的なまでの差はキ〇とサ〇みたいな構図だ。俺が何をしようと勝てない...... つまり惨めという他ない。


「ふふ、しかもいつも同じコースでしょ、だから見かけることもあるし。まぁ散歩でもいつもと違う道を歩いたら気分が変わると思うよ。同じコースばかり飽きちゃうでしょ」


「言われてみれば」 


「あ、じゃあここで...... 久しぶりに話せて楽しかったよ。またね黒真」


 目的の場所に付いたのか言葉が一旦そこで止まり、距離を取り始めた。

一瞬少し名残り惜しいと思ったものの、それから軽く挨拶を掛けられ俺も返事を返そうとした直後、愛美はまだ言い残したことがあるのか、フリルのスカートとポニーテールの髪を揺らしながら振り返った。


「――ああ、それと。違う自分を演じるなら口調...は気をつけた方がいいよ。途中から素が出ちゃってたこと気づいてなかったでしょ。ま、わたしは素の黒真の方が良いと思うけどね」


 

 愛美は最後にそう告げ、しばらくして見えなくなった。



素の自分か――別に演じてるつもりはないんだけど、ただ自身がないだけだ。明るく振る舞うのは疲れることだって思い知ったから......



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