騎馬戦の行方 男を見せる時(2)
体育祭というものを書いてしまっているけれど、冷めてる故か体育祭で熱くなる感覚が分からない......
制限時間3分。
1~3年でそれぞれ分けて勝負する、先手は一年とある。
倒されたと判定される基準は騎手役が騎馬から落下した場合、落下せずとも馬が大きく崩れれば負け。
そして勝敗の決定、安全面を考慮して先に敵の鉢巻きを全部取る。もしくは一定時間経過後、最終的に生き残った騎馬が多い隊の勝利――だけどなぜ3分なのか不思議だ、カップヌードルの温度加減やウ〇トラマンの活動時間、3分キッチングというタイトルの番組もある。人間の心理に基づく快適な時間差違とか...... 今はどうでもいいか。
本当は色々ルールがあるんだろうけど理解しやすいように簡潔に書いてある。
目に優しいなと心情で思いルールの確認をしながらも騎馬戦の模様を観戦していると。
「あぁぁああっ! くっそっ」
「よっし、まずは一つ」
鉢巻きを取られた者は悔しがり、取った方は清々しい表情を見せてる。
一組の隊は仲間が取られたのが分かったのか、瞬時にカバ―に入った。その表情からは仇を取ってやるという思いが伝わってくる。そして彼は目前で手を大振りしたが上手く躱された後、追撃に合い撃沈。
やられたらやり返す、倍返し...... とはいかず防戦一方であっと言う間に負けてしまった。
勝ったのは蒼組で海音君らがいる二組だ。
強い、特に海音君は素人の俺から見ても無駄のない洗練された身のこなしで、軽々と避けてはスマートな動作で鉢巻きを取る、その様はまさに蝶のように舞い蜂のように差すが如く。騎馬戦にプロが存在するか分からないけど...... 帰宅部で運動音痴の俺では到底真似できそうもない動きだ。
もしかすると彼なら到達出来るかもしれないな、無我の〇地―、こんな競技では無理があるか。
気を取り直し海音君を見ていれば軽く笑みを浮かべ男子達とハイタッチを交わしてる。リアルハイタッチだ。ヒ〇リと手を交わしてるサ〇シが羨ましい――というか、話す相手がいないとこんなにも暇になるもんなのか、暇すぎて次々と色んな思想が浮かんできてしまう。一旦切り離さないと......
それにしても、こんな大勢で囲んでいると自分がチビだからか周りの男子達が頼もしく見える。
いや他にも背が小さい人はいる。人間千差万別なんだ、むしろ割合的には小さい人の方が多い。それにチビと言っても160cm近くはあるからそんなに――
俺はひしひしと背に対する劣等感を感じながら自分たちの出番を待つ。
《――――次は紅組と翠組の対決です。どちらも頑張ってください》
何分か時間が経ちアナウンスが流れた、いよいよ紅組の出番が回ってきた。
「よし、皆準備はいいよな」
緒方君が確認の声を上げると「ああ!」と皆それに応じる気迫のこもった返事を返す。
皆気合いが入ってるな、それもそうか競技の中でも騎馬戦は特別で、獲得ポイントが多い。
ちなみに言えば、最後を飾る色別対抗リレーも同じポイントが高いけどここは何が何でも勝っておかなきゃいけない。多分、ここをとるかとらないかで後々の順位に響いてくる。
騎馬戦は他の競技と違い加算方式になっていて、鉢巻きを取った数だけポイントに加算されていく。
その中でも重要になってくるのがリーダーだ。隊のリーダーを倒せば加算されるポイントが多くなる。よってリーダーを狙いに行くのがもっともセオリーなやり方だろう。
隊のリーダーは分かりやすいようにタスキをつけなければならず、緒方君は紅組だから赤色のタスキがけを、他の隊はそれぞれの色に応じたタスキをつけてる。
「そろそろ準備した方がいいんじゃね」
「だな」
そう思想している間にも皆が準備しだした。その様子を見て俺も自分の隊の所へ歩いていく。
騎馬作りによる隊は栄田先生の提案で体重の比例によるバランスで分けられることになった。
仲の良い友達同士で組めば余り者が出てきて恥をかいてしまう。中学の時はどれだけ恥ずかしい思いをしたか、その点栄田先生は良く考えてくれてる。こういうことが出来るのは良い先生の証拠だ。
友達を作れない、作らない自分が悪いんだけど......
俺と騎馬を組むのは...... 俺、浜慈、何々、誰々の四人。
彼ら三人は下で支える騎馬で俺は騎馬のメインである騎手役で上に乗ることになってる。
それも話し合いの場で、背が一番小さいという理由で有無を言わさず決まった、屈辱的とはこのことだろう。
「おめぇよぉ、ちょっと軽すぎじゃね。女子じゃねぇんだからさ」
「ああ、楽だわ......」
「ってかほんとうに乗ってるのか? これ」
三人の肩に乗った直後、さらに屈辱的な台詞が聞こえた。
体重が軽いからそう言われるのは仕方ないんだけど。
「乗ってるよ」
存在を示す為の返事だけはしとく。軽いと言っても人間一人を肩に乗せてるんだ。彼らにしても少し冗談を交えていった言葉だろ。そうでも思わないと今騎馬が沈みかねない。
女々しいのは体重だけじゃない、乗ってみると直に分かる。肩幅にしても彼らと俺とじゃかなりの差がある。
固くがっしりとした、まさに男の肩って感じで胸がドキドキする。あくまで理想の男さながらの身体付きという意味で。
騎馬を組み終えた俺達紅組は、横並びに相手と向かい合う形で指定の位置につく。
準備は整った。目前というより少し離れた位置で待機してる相手、翠組を見る。外見的にも細い人が多くそんなに強そうには見えなくもないけれど油断は出来ない。
それに、何ていうのかこう――
「なんていうか、いいよな。こう血流が冷たくなるっていうかさ」
俺が心の中で言おうとした地味に好きなフレーズを先に言われただと!?
「なに訳わかんねぇこといってんだよ」
「ああ、いや、雰囲気的に何となく言ってみただけかな。俺だって意味分からないし」
「お前自身もわかんねぇのかよっ」
隣の隊の人か、偶然だろう。彼は地味でも暗い訳でもないようだし。
まさに俺みたいに存在が薄く目立たない奴が言うに相応しい台詞だろう、それを自分で言うのは悲しくなるな......
――なんて短絡的に思想を巡らせていると、緊張感が一気に増し始めた。もう始まってるんだ。
そろり、そろりとゆっくりと近づいていく、同時に相手もこちらに向かってきてる。
お互い慎重に、距離を縮めていき仕掛けるタイミングを計ってる。
まだだ、もう少し。だけど徐々に近づいていくにつれ恐怖感が増していくのが分かる。
一応、顔から上を攻撃してはいけない、相手をつかんではいけない、といった反則行為についての説明はプログラム表に記載されているから目を通してるはず。じゃないと......
「ったく、やる気でねぇぜ。何でゴメちゃんが――」
俺が上で緊張してる最中、下から浜慈が何かぶつぶつと呟いてることに気づいた。
「今が男を見せる時だぜ――」
だからだろうか、浜慈が言っていた言葉を思い出す。
ここだ、ここで男を見せないと芽森さんに顔向け出来ない——やがてタイミングが合わさったのか火蓋は切って落とされた。
――そして俺は数分と持たずにあえなく落馬した。
すみません、もうちょっとだけ、続きます......
体育祭早く終わらせたい。