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暗雲の体育祭、当日

開会式、これでいいのか...... 

何か足りなかったので少し文章を付け足しました(汗;)

 

 早朝の合同練習から競技や選別についての話合い、プログラムまでの流れを汲んだ準備期間は順調に進んでいき、そして五月二一日となる今日、いよいよ体育祭当日。



 昨晩、母親と約束したこともあってか、いの一番に叩き起こされた俺は朝ご飯、天気予報を見る時間もあり遅刻することなく教室につくことが出来た。もちろん、家を出る前に母親に来るなと釘を刺して。大げさに思うけどこんなに余裕な気持ちで学校に行けるとは、ちょっとした感動さえ覚える。


時間通り教室に入るもやることは同じで自席に座り机につっぷくす。それから窓を横目見る。

朝の天気予報でも言っていたけど、曇りか......

残念ながら天候には恵まれず空は雲りがかっており、木々はうっそうと生い茂ってる。今日の体育祭は五月のさわやかな風が吹くどころか少し冷気を含んだ冷ややかな気温の中で行われる羽目になりそうだ。

学校に来るときも少し冷えていたし。


それに、冷えていると言えばこの教室もか――


途端、教室の扉がガラッと開く。ツーサイドアップの髪型が見えると宮村さんが入ってきた、その後ろには一緒に登校して来たであろう数名の女子が見える。

そして宮村さんは何も言わずに目をつむりながら、緒方君の座っている席に近づいていき立ち止まるとおもむろに目を見開いた......


「緒方君ぅん、てめー今日分かってるだろうなぁ」


「そっちこそな宮村さんよぉ」


 リーダー格で女子グループのカリスマ的存在、宮村さんが同じく男子のリーダー格である緒方君に下目でガンを飛ばすも平然とした様子で緒方君も上目で睨みを投げ返す。

どちらも表情はニコニコと笑顔を浮かべてはいるけど、俺には分かる、二人とも...が笑ってない。


「...... フンッ!」


 どちらからともなく、顔をそれぞれ左右に背けると。宮村さんは俺の席を回り込み後ろ側にドカッと音を鳴らして座ったようだ。顔には出さないけど怖い。



 先生が出した提案によって一時的に男女の仲が戻ったと思ってたけど違った。

ただ『前期の中間テストの範囲を大幅に削ってやる』という条件を呑んでもらうが為に仕方なく話合ってたんだ。競技のことに関しての話をしていた時は和気あいあい、とはいかないにしても良い雰囲気だったのに、それが終わると口数は激減。早々とまた元鞘に戻ってしまった。


悲しきことに芽森さん達はそれが分かってるのか、今教室にはいない。おそらく楓さんが教室を出ようと提案したんだろ。楓さんが釘をさしてなきゃ今頃みんなに声を掛けてるに違いない。俺の勝手なイメージだけど......


「なぁ緒方ぁ、これどうにかなんねぇのか? 俺ゴメちゃんと走りたいんだけど、先生が競技に出れないってことはなかっただろ、ってかいつの間に選手選別したんだよ。話合いの場に俺いたよな?」


「ああ、ちゃんといたけど。お前相槌打ってたじゃねぇか。それに今さら変えられねぇよ。まぁそいつと出るのが嫌ならゴメちゃんに言えよ、教室に入ってくるまで時間はあるし、どうせ今からじゃ間に合わないだろうけど...... って、もういねぇし」


 選手選別が気に入らなかったのか、浜慈が緒方君に駆け寄り困った様子で問いかけに来た。

 緒方君は机に肘を乗せ適当に返事を返すも、言葉を言い切る前に浜慈は颯爽と教室を飛び出していった。


浜慈は話し合いには参加していたけど、栄田先生の話や先生に見とれていて何を聞いても『うん、それでいい』というばかりだった。俺も同じようなものだけど。恋は盲目とは良く言ったもんだ。職員室に直行だもんな。先生の性格からして断られるとは思うけど、それに俺も気持ちは同じだ。


何はともあれ、今日は違う意味で寒い一日になりそうだ。



***


「天候はちょっと良くないみたいだが、みんな気合い入れて行けよ。精一杯楽しんでこうぉ~」


 チャイムが鳴り栄田先生が教室に入ってくると開口一番にそう告げた。


 けど『お~』と返事を返したのは浜慈含め数人の男女だけ。クラスの半数にも満たない声数に落胆する様子もなく栄田先生は続ける。そして新調したてなのか前掛けていた眼鏡より細い、その眼鏡をグイッと指で押し上げた。決して光はしないがイメージでそう見えてるように思えた。眼鏡がキラリと光る、そんな漫画みたいな現象が起こることは、あれっ、え? 嘘だろ、光ってるだと......


「フフ、面白いだろうこの眼鏡。このフレーム部分を押すとな先端が光る仕組みになってるんだよ。まぁそれはいいか。分かってると思うが、今日学年で一位を取れば......」


 何だそういう作りなのかと一瞬ガックリとしたものの、その動作に俺はゴクッと息を呑む。そうだ今日ばかりはやる気を見せない訳にはいかない。

皆も同じ気持ちなんだろう、固唾を呑み先生の言葉に耳を傾けてる。

それにしても科学の力って凄い。あの眼鏡少し欲しいなどこで売ってるんだろうか。


「約束通り夏休み前にある中間テストの範囲を...... あ~、何だ。何回も同じこと言ってるから新鮮度が落ちてきてる気がするな。まぁとにかく頑張れ」


 さっきまでの威圧はどこへやら。発言を中断し、打って変わってやる気のなさを露わにする。

何だか拍子抜けだ、皆はというとガクッとすることなく呆れた目で先生に目線を送ってる。

栄田先生らしいと言えばらしいけど、まぁ少し気が楽になったというのかな。


「ゴメちゃんっ、さっきは断られたけど俺は諦めませんよ! 二人三脚俺と......」


「ああ、悪いな浜慈。さっきは言い忘れていたが私は二人三脚に出てはいけない病を患わってるんだ、だから諦めてくれ」


 白けてる雰囲気の中、ガタッと椅子を引いた音が聞こえると浜慈の声が響き渡った。

その声にそういえばさっき職員室に行ったんだっけ、と俺は二人の様子を見守ってみる。


「今時の園児でも騙されませんよ、そんな見え透いた嘘。でもそんな冗談を言うゴメちゃんも......」


「じゃ、じゃあ私は色々準備があるから。お前らも着替えたらすぐグラウンドへ集合しとけよ」


 浜慈を上手く言いくるめようとしたが、当たり前に小学生染みた言い訳は通用せず浜慈にバッサリ切られると、言い訳をするのも面倒になったのか皆に一言投げかけ一目散に教室を退室していった。

それなのに浜慈はまだ妄想にふけっていて気づいてない。ここまでいくと重症なんじゃないだろうか。

さすがにこの域までは達することはないだろうけど諦めない心っていうのは大事なんだ。例えその恋が報われないとしてもいつかはきっと、そう思っていても叶わないことが大半なんだろうな......


芽森さんを見るとクラスの雰囲気を心配しているのか元気がなさげな表情をしてる、叶わない想いか......

俺も、いつかは――馬鹿馬鹿しいっ。憧れと恋は違う。俺はただ芽森さんを見てるだけ、それだけで、それだけで十分だ――



***


 時間が経ち男子と女子はそれぞれ体操着に着替え終えたようでグラウンドに集まると他の生徒や先生達も徐々にグラウンドに集合していき、やがて開会式が始まり、高々と挨拶が告げられた。


 最初に生徒会役員による挨拶、校長先生による激励の言葉が終わると各ブロック長による選手宣誓。それが終わるとスローテンポの曲と合わせ軽く準備体操をし身体を慣らす。

そして一度、曲が止まると新たな曲が流れだし始める。今や知らない人はいないであろうアイドルグループの歌で俺も聴いたことがある。この選曲は会場を盛り上げる為なのだろう、先ほど流していたのと違いテンポの良い曲だ。


 ――目まぐるしく変わる、迷い切り裂いて――


明るく元気になれるような歌詞で思わず口ずさんでしまいそうになるも、当たり前にそんなことをするはずもない。ただ黙って聴き流す。良い歌だ、そういえば前に捕まった未成年犯も口ずさんでいたっけ。俺的にはキ〇マイの方が好きだけど――と思っていた所で何やら慌ただしくなる。

 

それもその筈、もう本番が始まっているんだ、黙って歌なんて聞いてられないか。

体育祭の実行委員に任命されてる生徒、委員会等。各自それぞれの役割がある。

俺のクラスの生徒も役割を全うしようと動き出し始めた。それをただじっと眺める。ただボーっと。


《あ、あ~。聞こえますかぁ、只今マイクのテスト中――》


 

幸いにも俺は体育祭や文化祭といった面倒そうな委員からは免れた。というよりかは充てになどされてないか。俺がなったとしても足手まといになるだけだし、その点美化委員は楽だ。ゴミの分別や掃除用具の点検など誰にでも出来る仕事しか回ってこない、まぁそれももう一人の女子が引率してやってくれるからほとんどすることがないけど。


《競技に参加する方は準備に入ってください》


良く通る声のアナウンスが聞こえてきた。


立っていても何もすることがないので自分のクラスのテントに移動し、椅子に座ってゆっくりしようと思っていた所で『あ』っと気付く。

体操着のポケットに入れてあるプログラム表を取り出し紙を確認すると、初っ端から俺の番だった――


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