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母親の心配事

『あら』『かしら』なんて口調を使ってる母親、女性は見たことがないから難痒い。


今回の話は母親との対談となっております。

巷ではラブコメに親を出すのは蛇即と言われていますが......

シリアスを扱うのには親との話し合いは大事ですよね。


 五月のさわやかな風が吹くなかで行われるであろう体育祭。

せめぎ合い、汗を流し友情を育み、結束力が深まることを目的とされる。

文化祭や修学旅行と並んで欠かせない、まさに高校生にとっての青春イベントの一つと言える催しなのだろう。


その一つである体育祭がいよいよ始まってしまう、嫌だな......

早いことに本番はもう明日、そう考えるとまたお腹が痛くなってくる......



通常は色別に分かれて対抗するけど学校の方針なのか、一年生だけはクラス全員が同じチームになると決まっているらしい、栄田先生はそう言っていた。


そのこともあってかクラスの中心的存在である、宮村さんと緒方君が喧嘩したときはヒヤヒヤもんだった。

このまま最悪な雰囲気のまま本番を迎えると不安視していた。おそらくほぼ全員が俺と同じ気持ちだったはずだ。

だけどあろうことか、先生が出した提案によって渋々といった感じで意欲を見せ、練習や作戦についての話し合いは順調に事が運んで行ってる。


『学年で優勝すれば夏休み前にある期末テストの範囲を大幅に削ってやる』


 先生はそう言ってたけど、本当にそんなことが出来るのか? 

本当なら俺にとっても嬉しいことだ。是が非でも優勝は狙いたい。それに普段こういう催しに興味を示なさそうなギャルグループやオタクグループなんかもやる気になっていることからも十分に期待は出来る。多分、十%か十五%ぐらいには......

ううん、これだけの好条件なんだ、やる気にならない方がおかしいってもんだ。占めて戦闘力5〇万相当のフルパワーを出してもらわなければ困る。それは無理でも皆には何とか頑張って欲しい、俺には祈ることしか出来ないけど。

神様、仏さま、そして女神さまのご加護がありますよう——というか良く考えればこっちには芽森さんという天使改め女神がいるじゃないか。そうだ、それだけでもう勝ってるようなもの――



「有真、明日の体育祭ほんとうに行ったらダメなの?」


 トイレから出てリビング前に戻ると質問が投げかけられた。考え事を中断し俺は目線をそちらに向ける。

 またこの話か......


母親はテーブルに肘をつけ椅子に座ってテレビを見ていた。その中に父親の姿はない、どうせまた飲みにでも行っているんだろう。今リビングには母親が一人しかいない為か聞こえてくるテレビの音が静かに響いてくる。


「昨日もその前もまたその前にも言ったけど、っていうかさっきも言ったばかりじゃないか。しつこいよ母さん。何度も言わせるなよ、来たらダメだって。いやほんとお願いだから来ないで」


「でも......」


「でもじゃない、そもそも高校生なんだよ俺。中学の時は仕方なく許したけど、さすがに今回は無理だよ」


 そう中学生ならまだしも高校生にもなって親が体育祭ににくるなんてかなり恥ずかしいことだ。

参観日は仕方ないとしても、いや参観日もダメか。学校に関わることに親は首を突っ込まないで欲しい。学費やその他もろもろは確かに親に頼ってしまっているけど、学校行事はプライベートなことなんだ。少しは子供の気持ちを考えてくれよ。


ほんとうは体育祭のことは親には内緒にしておきたい、文化祭やその他の行事事を含めて。

だから連絡事項や重要な紙は極力見せないようにしてはいる。けど、入学した時に学校についての内容や概要が書かれた紙が親に渡される時点でそんなことをしても無意味だ。

子供にしてみればまさに、無駄無駄無駄無駄――と何も抵抗できず打ち崩されるが如く、全て筒抜けで隠そうにも隠せやしない。


「心配なんだよ、有真。あんた今の学校生活は楽しいと思ってる? 中学の時もこんな気持ちだったのよ。体育祭を見に行った時あんた全然楽しそうじゃなかったから母さん不安で不安で、そう思ってないなら父さんに頼んで引っ越そうか、新しい環境でなら――」


「母さんは何も心配しないで、学校が楽しいって言ったら嘘になるけど、それにどこに行ったって同じだよ。気持ちなんかそう簡単に変われる訳ないよ......」


 そう、環境が変わった所で、一度失ってしまった感情は戻らない。

楽しい、嬉しい、悲しい、寂しい。怒りといった喜怒哀楽。

それらの気持ちはなくなることはないけど、心の中にぽっかり空いたモノ...は消えてはくれない。決して消えはしないんだ......


「あ、そういえば! 前に来てくれた子。ほら、何て名前だったかしら、確かえっと...... め」


「芽森さんのこと?」


 思い出したかのように声を張り上げると、両手をパンッと合わせ...... かと思ったら今度はその手を口にあてがい難しい顔をする母さん。

誰かの名前を思い出そうにも中々出てこないようなので口を出す。すると『あ、そうだったわね。その子、その子』と苦めに歯を見せる。

人の名前を記憶するのが苦手な俺でも覚えられてるのに、母さんはもう歳かな。まぁでも芽森さんは特殊か。なんせ天使だもんな。


その場で立っているのもなんなのでリビングの中に入り、母親が座っている正面の椅子を引き腰かける。

テーブルを挟みちょうど向かい合う形で、テレビの位置は背中側になってしまうけど今は見る気にはなれないからこれでいい。


母親に対してこう思うのは恥ずかしいけど、平均的に見ても綺麗と言われる外見をしてる。

決して美人ではないけど、太っていなく四十代の女性にしてみても肌の手入れを欠かしていない母さんはそこらの女優に比べても見劣りはしていないはずだ。表情豊かで気さくで...... そういえば、小学生の時は参観日に来てくれるたび華が高かったっけ。

『どうだ俺のお母さん、綺麗だろ』と皆に言いふらしてたもんな。そのせいでマザコンくろまってあだ名がついてしまった。

今も自慢の母さんだけど心配性がたまに傷なんだよな。


「その子...... ど、どうしたの有真? じーっと私を見て...... あ、もしや母さんに見惚れてたりして。ふふ、ほんっとマザコンなんだから。でもいつかその子にあんたを取られるって思うと少し寂し――」


「は、はぁああああああっ!?」


 目前に座っている母親を見ていると何を思い浮かべたのか、一人トリップしだした。珍答な結論を出し美酒に酔ったみたいに顔を赤めながら。

これが本当に酔っているなら酒飲みの戯言か、と無視すればいいけど母さんはシラフだ。そもそもお酒はあまり飲まないので余計にたちが悪い。お門違いもいいとこだ。


俺は思わず鋭い変化球を投げられ振りかぶってしまったが如く、テーブルに乗せていた肘をガクッと落としてしまう。

いや、まじまじと見ていた俺が悪いんだけど。


「そん、な訳ないだろ! そういう母さんも過保護過ぎなんじゃないの?」


「あら、私は過保護よ、当たり前じゃない。親になると皆そうなるのよ。子供が可愛くて可愛くて仕方ないの、はぁ早く孫が見たいものだわ」


「気が早過ぎ! だけど無理だから、安心してください、見れませんよ。母さんは絶対見れないから。それにその発言はセクハラだから子供に対して良くないんだよ」


 ああ、疲れる。声を出し過ぎた......

開き切ってるのか余裕しゃくしゃくな顔をされると余計に......

いちいち突っ込まないでもいいけど、母さんは頑なにでも言い返さないと突拍子のない思い違いをしにかねないもんな。


ふぅっと俺が息を整えるのを待ったのか母さんは目を細めた表情で『ふふ、冗談よ』と言うと、でもと続ける。


「その子とは友達なんでしょ、その子とは喋ったりしてるの? その子とは......」


「その子じゃなくて、芽森さんねっ」


 その子その子って、〇子姉ちゃんかよ。

 芽森さんをあんながめついキャラと一緒にされては困る。まぁ髪型をウェーブにしたら可愛くなくもないけど...... どっちにしろ〇原には勝てないよな。


「別に、前にも言ってたと思うけどただのクラスメイトだよ。それに俺なんかが話しかけれる筈ないし」


「あ―、人気者なんだ。可愛らしかったもんね芽森さん、素行が良さそうだったし」


 毒を吐くけどね、それに他人の家に来たら誰だって愛想よくするもんだよ。


「と、とにかくもう察してるだろ。俺がボッチ...... っていうかここまで言って分からなかったら俺的に母さんのポイントかなり低いよ。そういうことだから、明日は絶対来ないでよ」


「けどね......」


「お願いします、本当に嫌なんです。というか母さんも俺のあんな姿見たくないだろう、マジでお願い、いつか必ず孫見せるから!」


「しょうがないわね」


 ぬぁっ! しまった。つい......


「い、今のはなし! 言葉のあやで」


「あぁ、この少子化が進む中、可愛い息子の孫が見られるなんて私は何て幸せな母なのかしら――」


 だめだ。もう完全に自分の世界に入ってる。

 もう諦めるしかないか......


まぁそうは言ってるけど母さんも心情では分かってるはずだ。

恋人、お嫁さんなる、パートナーはそう簡単に見つかるもんじゃない。ましてや俺なんかが見つけられる可能性は0...... じゃないにしても。色違いの〇ケモンすら見つけたことがない俺には到底無理な話だ。


ま、そんなことどうでもいいか今は、それより明日の体育祭だ。

勝てば先生に条件を呑んでもらえるんだ。頑張って念を送らないとな。

そう意気込み、俺は座っていた椅子から腰を上げる。


「母さん、俺もう風呂入って寝るから。明日ちゃんと起こしてね。あ、いつもより早めに」


「はいはい、その変わり約束事はきちんと守ってよ、首を長くして気長ぁに待ってるからね」


 その対価はいくら何でも違いすぎだろ、明日の朝起こすだけで孫見せるっておかしいと思う。

 

「いつかね......」



 俺は母親との約束が消えてなくなりますようにと願いながらリビングを後にした。


良ろしければ、酷評でも構いませんので感想を書いて頂けますと嬉しいです。

つまらない作品ですが、何かを感じられましたなら......

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