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食欲はイケ力に喰われた

 

 とっさに手を伸ばすも遅かった、俺のパンが、粉々に。

こ...... 高乃塚あぁぁあああっ! 


と今すぐ声を張り上げたい、けど言えるはずがなく胸の内で気持ちを抑える。仮にも俺はこんな群衆の前でそんなことを言える性格じゃない。何よりもキャラじゃない。

代わりに高乃塚の無慈悲な『踏みつぶし』によって見るも無残な姿にされた俺のパンに目を向ける。

ピザパンか、もしこのパンがアン〇〇マンのキャラクターだったらと思うと、子供ならどう思うだろ。

購買にキャラパンはないけど、そんな想像をすると不思議と怒りが静まってきた。

いや、もしかしたらキャラパンを喜んで食べる子供の方が残酷なのかもしれない。


「あ゛、 わ悪い......」


「別にいいよ......」


 声のトーンが低い。踏みつけてしまった本人は悪いと思ってるんだろう、表情に暗がりが見える。故意じゃないのは分かってる、一様に責めることは出来ない。悪いのはお互いさまだ。


「ほーら見なさい、きっとバチが当たったのね。調子に乗ってるからそうなるのよ。ざまぁないわね」


「はぁ? ち、違ぇよ。ちょっとぶつかっただけだ」


 しんみりとした空気の中、横から横暴な声が聞こえてきた。

 良く見てみれば高乃塚の周囲にはあのときの、遊園地で見た時の面々がいた。

 生意気そうな女の子と凛々しい女の子、それに――


「お前らな、喧嘩する前にやることがあるだろ」


 茶髪にキリッと決まった前髪、服の上からでも分かる細身で筋肉質な身体つき。同じ制服ブレザーでこうも違うのか、と見舞うほどの男子。簡潔に言うとイケメンだ。

イケメンが二人に注意すると二人は口ごもるも、まだ小声で何か言い争ってる、その様子にイケメンは『何やってるんだよ』という表情になる。何だか色々苦労しているみたいだ。


「君大丈夫か?」


「えっ、あ、はい。だいじょう......」


 咄嗟に返事をしてしまうも言葉が途切れた。立ち上がろうと曲げようとした膝も止まる。

それもその筈、視界にズイッと入り込んできたのはさっきまで向こうにいた凛々しい女の子。

切れ長の瞳に剣道部主将、属性は氷で刀に纏った氷結で相手を居合抜き......


「おい、どうした? 打ち所が悪かったのか」


「へっ? いやぁ、大丈夫ですよ。はい」


 呆然と床に手を付けている俺を心配してか手を差してくれてる。思っていた通りの優しい人だ。

俺なんかが手を握ってもいいのか? と思いつつも待たせるのもまた悪いので彼女の手を握る。彼女の手は少し冷たくひんやりとしている、けどそれは気づかいさが中和していて温かいと思わせてくれる。

小さい頃を含まなければ、女の子の手に触れるのはこれで二人目だ。


「あ、ありがとう」


 俺としたことがあまりの綺麗さにドギマギしてしまい思わず変なことを想像してしまった。

 間近で見ると凄く美人だ。こんな人が他のクラスにいたなんて、やっぱりイケメンの周りには可愛い女の子が集まるんだ...... 近づく機会なんてある訳ないけど少し羨ましく感じる。

 

立ち上がらせてもらった俺はその子にお礼を言い、食堂から出ようと向かいに足を向けた。

 二回もお金を払うのは気が引ける。それに今少し注目されてるんだ。恥ずかしいことこの上ない。


「ちょっと待て、真也これ処理しとけよ」


 後ろから声が聞こえ振り向くとイケメンと目が合った。

聞き間違いじゃなさそうだ、待つと言われたら待つしかない。俺は足を止めその行動を見つめるがイケメンはこっちに来ずに購買へ向かって歩いてく。

何がしたいのか、ポケットから財布を出し、お金を支払いパンを受け取ると今度こそこっちに向かって......


これで良かったよな......。悪いな、後であいつにはちゃんと言っておく」


 

 俺は思った、イケメンだ。なるほど、これがイケメンという奴か......

俺は同じように腕を伸ばしイケメンからピザパンを受け渡される。ありがたい、諦めていたけど実は食べたかったんだ。


「あ、ありがとう。あ、返すよ、何円だったっけ」


「いや、別にいい。あいつが悪いんだしな」


 友達でも何でもない人に奢ってもらう道理はない。俺は相手に悪いと財布を出そうとしたが、その一言に手を止める。そして思わず関西弁であのフレーズを叫びたくなった。


 俺は決してホ〇じゃない。けどこれは男でも惚れてしまう。その証拠に胸がドキドキと脈打ってる。

男の俺でこれなんだ、女子はどうなるのか計り知れない。恐るべきイケ力。

これはきっと芽森さんでも惚れてしまうかもしれない...... 

いや、もしかしたらもう俗に――


「さっすが海音ね、どこかのお間抜けさんとは大違いだわ」


「はっ、お、俺だってあんくらい出来らぁ」


「真也が? ムリムリ、女子の尻ばっか追いかけまわしてるあんたにあんな気配りが出来るわけないでしょ。考えてもの言いなさいよ」


「よく言うぜ、お前もしつこく海音を付けまわしてるだけだろうが」 


まだ言い争っていたのか、仲悪すぎだろ。この間も言い争ってなかったっけ。と首を横にずらすと海音の後ろで二人はまだ罵り合っていた。

喧嘩するのは大いに結構だけど、せめてもっと声抑えて欲しい。こんな人が集まってる場所でそんな声を出されたら......


「またあいつらかよ」

「またか」

「良く飽きないよなぁ」

「仲いいんだか悪いんだか」


ほらやっぱり目立ってるし、やめてくれ!でもまぁ、ここを出れば問題ないか。

俺は言い争ってる二人に背を向ける。他人なんだ、どうぞ勝手に喧嘩しててくれ。


「あ、待ってくれ、お前は文音と――」


「芽森文音と一緒にいた奴知らないか? ここにいるって聞いたんだけどさぁ」


 海音が何かを言おうとした直後、前から問いかけられた声と重なり、俺の耳に入らなかった。

 代わりに嫌なフレーズを耳にしドクンと脈が打った、先ほどとは違う。今度は悪い意味でのドキドキを感じる。

 

俺の視線の先、ドアの前には見たことがない男がいた。 



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