リア充達との遭遇
えっと、どうしたらいいんだろうか......
俺は芽森さんと向かい合ってる男を正視する。確か海音と言ってたっけ。
背は一般的な高校生の平均ぐらいか、けど俺にしてみれば十分に高く目線も上にいく。
ワックスをつけているのか無造作に整えられたツンツン茶髪ヘアーはオシャレだ。これがイケメンという奴か、イケメンなだけあって服もバッチリ着こなしてる、重ね着というのか青色の服に――
「おい、どうしたんだよ海音」
固まってる二人に対し俺はどうしていいか分からずに戸惑っていると、男の一人が肩に手を乗せ後ろから呼びかけた。すると一瞬、表情に驚きを見せるも安堵とした表情に戻る。
「い、いや。別に何でもない」
「だったら、いいんだけどよ。何で固まってたんだよ」
「それは、彼女が少し特殊なファッションをしていたから驚いて」
海音という男の返事が耳に入り思わず芽森さんを見やる。
下から上まで誰が見ても目を見張るおどろおどろしいドクロ模様が入った服装に、眼鏡を掛けているせいか表情は分かりづらい。
改まってみると違和感がある。まるで、黒魔術の正装を思い起こさせる。
動きを止めていた芽森さんは彼の声を聞いたのか、『そんなに変かなぁ?』といった様子で自分の服を確認している。
「ねぇ、海音の妹見つかったんでしょ。なら早く行かない?」
「あ、そうだな......」
「でも唯華(ゆいか)ちゃんが見つかって安心したよ。万が一のことがあるといけないからな」
止まっていたからか、ウェーブがかった髪の子が海音と呼ばれる男を催促させる。これがリア充のスキンシップか、さも自然にさらっと手を絡めたぞ今。積極的な子だな。
その横でもう一人の子は女の子の頭にそっと手を乗せ、優しく喋り掛けていた。唯華ちゃんは嬉しそうに目を細めてる。ぴょこんと一本だけ逆立ってる髪の毛が左右に揺れてる様は犬の尻尾みたいだ。
俺的にはこっちの子が好みだ、声が少し低くどこか大人っぽい雰囲気がある。クラスの風紀委員をやっていそうな子だ。
これは俺の好みであって芽森さんとは断じて関係ないけど。
「お兄ちゃんが見つかって良かったね。じゃあね唯華ちゃん」
芽森さんが女の子に挨拶をすると『ばいばいお姉ちゃん』と小さい手をブンブンと振る。子供は苦手だけど、つい可愛いなと思ってしまう。
唯華ちゃんを見つけた一同はきびすを返し俺達から離れようと一歩踏み出す。
やっと行っってくれたか、ああいった人達は苦手だ。そう俺がホッと息をなで下ろすも――
「ちょっと待てぇ...... さっきからその高い声。妙に聞き覚えがあるんだよなぁ」
なぜか男の一人が声を上げてこちらを振り返った。
その行動に不審を思ったのか海音達も足を止めた。早くどっかに行って欲しい俺からすればうっとしいことこの上ない。
「どうしたんだ真也?」
今度は海音が問いかけた。
「いや、何かその子の声に聞き覚えがあるんだよ」
「あんたの気のせいじゃない?」
「いんやっ、俺の耳は高性能なんだ。そんじょそこらの奴とは違うんだ。絶対聞き覚えがある!」
その男は服の内ポケットに手を入れるとメモ帳を取り出した。
デカい字でとマル秘情報と書かれている。
うわぁ、初めて見た。本当に『マル秘』と書く人がいるんだ......
「なぁ、あんた男じゃないよな声からして女だ。俺達は二条高校なんだけどさ、見た所、あんたらも学生だろ。にしちゃ、小せぇけど」
「おい、失礼だろ。初対面の人に向かって何てことを言ってるんだっ」
失礼な奴だな、と思っていた所で風紀委員が似合いそうな女の子が注意を促してくれた。
いい人だ。その後ろで海音と呼ばれてる男は顔に手を宛がってる。これは完全に呆れてる様子だろうな。
にしても聞き覚えがあるっていってるけど、芽森さんの知り合いかな。
けど知り合いにしてもばれたらまずいか、ここは別の学校名を言った方が賢明だろ。
「あ、僕たちは一条――」
「私達も二条高校です」
俺が嘘を言おうとしたが芽森さんが正直に答えた。
もしかして芽森さんは人に嘘がつけないタイプなのかも。素直な人なんだな、そう思った所で横からツンツンと誰かに手を触られた。
見ると芽森さんが自分の服を指差してる。
バレる心配はないとでも言いたいのか、まぁ確かに俺達二人が出かけてるとは思われないだろうけど。
「おっ、やっぱり! じゃあさじゃあさ。名前は? 俺は高乃塚真也って言うんだけど」
真也という男は同じ高校と知るやテンションが上がる。
うるさい人だ、声が甲高い。別にこの男のことは気にしてなかったけど、第一印象はチャラそうだ。
眼鏡を掛け、いかにもな雰囲気がある。
答えたくはないけど、名前を聞かれた手前無視する訳にはいかない。
「あ、黒沼乃有真です」
「芹沢楓です」
俺は瞬時に顔を横に向ける。
え、今平然と嘘言ったよこの人。まるでヒ〇ロがデ〇オと名乗ったかの如く。
嘘つけないんじゃなかったのか!?
俺の中にある芽森さんのイメージがまたしても軌道を逸れていく。けど名前はしょうがないか。
そういえば楓さんの苗字は芹沢っていうのか、いちいち忘れるんだよな。覚える必要もないけど。
「あれぇ? っかしいなぁ。一組の芹沢楓は背がもう少し高いはずだぜ、それにEはある。私服にしたってかなりの確率で白いのが多いんだけどな」
真也は頭をかきながらメモ帖をペラペラめくっているが困った表情になってる。
それもその筈、彼女は楓さんじゃない。
「ま、まさかっ! ちょ、ちょっと、何それ。そ、そのメモ見せてみなさいよ」
ウェーブの女の子は何かを察知したのか声を張り上げ慌てだした。
「おいおい、冗談はよしこちゃんだぜ。これは俺が必死に集めたデータが詰まってんだぜ、むしろ夢と置き換えてもいい」
「なに訳わかんないことほざいてんのよ、いいから見せなさいっ!」
ウェーブの子がメモ帖を分捕ろうとするが、真也は手を上げ死守してる。
勝手にやってればいい俺には関係ないし。けどこの男、〇和からタイムスリップしてきたのか、センス古すぎだろ。
「そいつぁは無理な相談だな、ああそうそう。真緒お前の情報もあるぜ」
「ちょ――」
「好きな食べ物は卵料理全般、嫌いなものは子供、体力がなくすぐ息切れする。さらに音痴、バストサイズはB、体重は――ぐぇ」
途端、海音が足を入れ真也は地面に倒れた。
軽く涙目になってる女の子をみて止めたんだろう。その止め方もイケメンだ。
「真也ちょっと度が過ぎるぞ、真緒が泣いてるじゃないか。後で謝っとけよ。もう行くぞ」
「大丈夫か滝沢、まったく貴様は男の風上にも置けない奴だな」
俺も同感だ、言われて当然だろう。
多分こういうタイプは女の子に嫌われるだろうなぁ。
軽い罵詈雑言を受けた真也はノソノソと何事もなかったかのように立ち上がった。
「ふっふふふ、それは俺にとっての褒め言葉だ」
あ、なるほどそっち系の人なのか。
「しかしなぁ海音、ちょっと待ってくれ。もうちょっとで分かるんだよっ! なぁあんたクラスは何組?」
この男の意地なのか尚もしつこく質問してくる男に芽森さんは困ってる。
その様子を見て俺はもうめんどくさくなった。
「一組だよ、一組。これで満足?」
別にクラスを知られようが人までは分からない。さっさと退散して欲しい。
俺の答えに満足したのか真也は黙ってペンを取り出し何やらメモに書き出した。
これで彼も満足しただろうから早くどっかいってくれ。ここに居座る理由はなくなったんだ。
「分かった。あんた、一組の芽森文音だろ」
「えっ」
芽森さんはいきなり虚を突かれたのか身体を震わし声を漏らした。
ばれたっ? あの一言で......
「なぁんてな、悪いぃな人違い、じゃあなさそうだな。その様子じゃ」
「ち、違う、私は」
こいつ、鎌をかけたな。
「もうよせっ! この人も違うと言ってるだろう。初対面の人に対して慣れ慣れしいぞ」
「あー、だな。悪いぃな、俺の人違いだ。よく考えてみると芽森文音が男といる筈ないしな」
海音が注意すると真也はあっさり引き下がった。
とりあえずは分かってくれた...... のか。
いや油断はまだ出来ない、っと見せかけてということもある。
そう思っていたけど真也はこれ以上追及してくる様子はない。なんだ、焦って損した。
「じゃあ俺達はこれで失礼するよ、改めて礼を言わせてもらう。妹を保護してくれてありがとう」
そう言い、今度こそきびすを返し歩き出して行った――
俺達はまた二人になると、さっきまでの騒々しさはなくなり静かになる。
「そ、それにしても危なかったね、気づかれたかと思ったよ」
「うん」
「芽森さんも嘘つくんだね、驚いたよ」
「うん」
「あ、じゃ、じゃあもう解散しよっか」
「うん」
思ってたけどあの海音って人と会ってから芽森さんの様子は変だ。
まるで一目惚れしたような......
「あ、またさっきの人達だ!」
「えっ」
もう確定だ。
「あ、あの。芽森さんはさっきの人、海音って言ってたっけ。その、胸を撃ち抜かれた...... の」
「え、ち、違うよ。ただ少しね、似てたから」
「それは好きだった人に......」
「うん、けど似てるだけだよ。ここにいる筈ないしね」
芽森さんは恥ずかしそうにそう答えた。
ってか俺も古いな、撃ち抜かれたって何だよ。言っててダサいな。
まぁだけど。この雰囲気じゃもう無理だろう。俺だってこんな気持ちじゃ......
「芽森さん、そろそろ解散しよっか」
残念だけど、観覧車には乗れそうにはないや。