学園モラトリアム
桜が咲き乱れる季節。
晴々しく後輩達や先生方に見送り出された後。
共に仲間と歩み育んだこれまでの青春の日々を思い出す束の間の時間。黒板に書かれているのも今日を忘れない為の名残だとして。そんな嬉しい、悲しい、楽しい、寂しいと、色んな気持ちが入り交じり合えば、まるで卒業式を迎えたかのような空虚な教室の雰囲気…………
「くっだらねぇっ!」
は-ー否、状況からして似てもつかない鬱然とした瞬間が流れているのが今の教室の風景でいる。
栄田先生が出ていった後。
残された生徒達は気持ちや気分が落ち込んだように沈黙を貫いてる様子でいるが。
グループも然ることながら皆が皆、個々で絆があるわけでもなし、とはいえ単なるクラスメイトでしかない関係性であってもこの場から離席しようとする人はいない…… というよりは出ていくような空気じゃないことを感じ取っているように思えた。そこはもちろん俺も同じ。
その中で吐き散らすようボヤいたのは又しても宮村さんだった。
「これ送った奴いるんなら出てこいよ、今だったら一発で許してやるからよ! つって、出てくるわけねぇよな」
直情的に怒りを表せど声が虚しく響き渡るだけで何も起こりはせず。発した言葉も独りでに解すと、やるせない感情を今度は自身に向けて苛立ちをぶつける。
「…… こんなバカつまんねぇ事すんなら、グループライン抜けっかなマジで」
「良く言うよねぇ、普段クラスのラインなんて見もしないクセしてさ-」
「ぐっ…… ああじゃあ、リッツ、てめーは見てんのか」
「見てっけどお、何か文句ある-?」
と、苦辛い発言を拾ったのはリッツさん。
宮村さんは即座に返事を切り返すも反論の余地なく。釈然として見知った仲だからこその反応を見せるが。
「そういうとこ豆だよな」
「ちなみにサヤともクラ中で話す時もあるよね」
「私はマチマチかな-、でもみやむーよりは見てると思うよ。確実に」
横からの加勢により二対一。
友達の友達のそのまた友達と……
グループ間や仲間内でも交遊幅が違うのは当然と言えば当然のこと。ゆえに人によっては多少なりの疎外感を見せつけられる形となってしまう。
宮村さんも同じ感性を持っているようで「ちぇ、あたしだけ蚊帳の外かよ……」釈然とした態度を崩さずとも可愛げに、いや拗ねたように呟いた。
後ろ席であるがゆえに耳に届いてしまうのが何ともに言えないものの…… 宮村さんも虚勢を張る感じで二人の会話の流れに便乗する。
「まぁ…… アレだ。相性占いとか、面白そうなネタだったら話に参加しないこともねぇけど」
「-ーそれに関しては同感」
果たして。
会話続きならリッツさんでもサヤさんでもなく。クラス内でも友達とは呼べもしない奇妙な間柄。宮村さんに向けて返事を返したのは意外にも"楓さん"だった。
席を立てば斜め方向。
宮村さんの席へ届くように発せられた声はまさかの同調の意。
「それ以外の事はまだ納得してないけどね」
しかしながら次に出したのは拒絶の意。
何食わぬ顔で、言葉を重ねれば一触即発となりそうでも今の状況的にも二人はそれ以上にトゲを投げ合わず、睨みを効かせるだけで踏み留まる。
「はんっ……!」
--そうして再び沈黙が訪れたタイミングで空気を切り裂いたのは-ー
「だあぁぁぁあああーーーー、しゃらくせー!!」
天高く拳を振り上げるじゃなし。
大声をあげて皆の視線を集めるかのように浜慈くんは絶叫か奇声、または発狂してみせた。
「辛気臭せーツラしててもしょうがねーじゃんよ。人間生きてりゃ合う合わないや大なり小なりは不信感抱くこともあるっての。ここにいる奴らも全員が全員仲良いってわけでもねぇわけだろ。何ならいっそのことパーっと、改めて皆で親睦会でもするか……そんときゃモチのロンで割り勘な」
まさにポジティブシンキングと言った手前。
威勢良く言葉を並び立てるやも。最後の一言は流石に声が小さめだった。そもそもに親睦会があったこと事態知らないんですが。
「まぁ、けど。こんなことをしでかす姑息な奴と一緒に三年間過ごすと思うと嫌気が差しちまうぜ」
「一年だ、バーカ」
「ああ、一年間過ごすと思うと…… って誰だ、いまバカにしたやつ!」
「本当のことを言っただけだろ」
「はは……! よーし、良い機会だかんな。ここいらで日頃抱えてるものを全部晒けだそうや。こうなったら全員まとめて暴言大会じゃボケー!!」
勢いのまま事態を沈下させようとした浜慈くんだったが頭に血が昇るなりに此度の発狂が響き渡った。
体育祭間際と似た卑しい雰囲気と、同じ喧嘩騒動でも見える対象でなく、見えざる者に対しての問答もあり。口火を切った三人を皮切りに沈黙した状況は一変。
あちらこちらと暴言且つ、罵り合いが始まる。
--だから
-ーそっちが
ーーだいたい
-ーはっちゃんカッコイイ
ーーじゃあ言うけど
-ー武○伝武○伝
-ー知ってんだぜ
-ーでんでんででんでん
-ーあれは
-ーレッツゴー
-ーなにさ
-ーなによ
-ー邪○の力を舐めるなよ
* * *
暫くはワイワイガヤガヤ-ー
思い思い鬱憤や愚痴が飛び交う時間が続いたわけでも、やがて口数も減っていけば、鞄を手に持ち、肩にぶら下げ、ある者は部活に参加する為か。ぞろぞろと帰宅の準備をし始めだす。
そもそもに何の時間だったのかと。
「あ~~、マジくっだらねぇ……」
いの一番に飛び出して行ったのは宮村さん。
グーたらダルそうにしながらも、何だかんだで教室には残ってくれてたんだよな……
芽森さんとの事に関してもそう。
燃える想いから二つのハートをクロスするが如く。歌の力で平和的に、はたまた別の形で分かち合えれば理想なんだけど。中々そうもいかない。
(…… 俺も帰ろうか、 一先ず今日の事を彼に伝えないとだ)
そうして続くように鞄を肩に背負い歩きだす。しかしそこで思わぬことが起きた。
宮村さんが出ていった後でも教室内にはまだ、芽森さん、リッツさんやサヤさんを初め生徒の大半は残ってる状態。
「楓さん……」
目の前に立つのは背丈の高い金髪の女子。
「今ちょっと話せる?」
「え、あ…… っと」
話し掛けられたものなら戸惑いが隠せそうにない。目立たない奴が異性と、煌びやかな女子と喋ろうものなら変に注目を浴びてしまう事は必須。
ましてや、こういう風に話し掛けられる相手が楓さんと知ればいつぞやの光景と重なる人も出てくるやもしれないわけで……
「えっと…… あ、あっ……と」
高鳴る緊張から、上手く声が出せない。
半端強引で不本意な形だったとしても。
盛大に"告白した挙げ句に"フラれてしまったと。自身でもそんな記憶が脳裏に甦るや、途端に恥ずかしさが込み上げてくるが……
「分かってる、ただ直接話す方が早いし。今は他の目なんて気にしてられないから」
…… 俺が皆がいる前で話す事に慣れないのは理解してくれてる一方で、向こうだって色々考えてるんだ。よりによって教室中でと、焦ったけど、ここは恥ずかしがってる場合じゃないやな。
「うん。今日は少し急用があって。それならまた、後で連絡するよ……」
「分かった、待ってるね」
そんなこんなんで-ー
面と向かい合わせで約束を取り付けたのち。
俺は背中に『グサり』『グサり』と百もの視線を感じながら重苦しく教室の扉を開けゆいた。
* * *
ボ○ボロになるまで~引きさかれていても~
あの時のあの場所~消えないこの絆~
男子勢よりは女子勢を強く描写してる形なんですけども、クラス中で問題が起きるなり皆の心がバラバラに。青春学園風ラブコメながらにも。
この名曲のような雰囲気をね、出したかったんですよね…… それにしても、暴言が思いつかね-ー
とりあえずは切りが良いので次話に続きます