諭して、見てみぬ振りもまた悪であるということ
ーーいつかの嘲罵、というより感情を露にした激怒。
突如発せられた吐き捨てるような荒々しい声に、俺は当然他の生徒達も一斉に目を向ける。
静寂から一転すればザワザワ重苦しくなる教室。
何事で誰が何に対しての苛立ち(イライラ)をぶつけているのか。
その答えはすぐにでも分かった。
「どうにも穏やかじゃないな……」
不穏な様子とみるや、栄田先生はメガネをクイッと上げる仕草をしながら声を荒げた生徒に詰めよる。
「宮村、ちょっと見せてくれ」
その人の名を呼べば。
騒動の渦を作らんとしたのは戦国乙女な宮村さんで。
ホームルームの最中にも1人だけ携帯を触っていた模様す。だからこそ真っ先に反応出来たというわけだ。
しかしながらどんな理由があってむしゃくしゃしてるのか。
「栄田……」
先生の問い掛けに宮村さんは拒否ることはせず、不本意な顔を見せつつも手に持っていた携帯を差し渡した。
声を荒げた訳もそこにあるんだろう。
栄田先生は受け取ったがのち画面に目を落とすと瞬く間に瞳の色が変わりいく。まるで如何わしいものを見たかのような反応だとして眉をも歪ませる。
その瞬間、嫌な違和感を感じ取ったのか。
先生の反応をみるや他の人達も鞄等を漁りガッサゴッソ各々に携帯を取り出し始めた。すると口々に聞こえてきたのは………………
「ーーえ、ちょっと、何これ!」
「ーーやばくない、ってかヤバいよ」
「ーーうわぁ、キツすぎ、エゲつねぇ……」
「ーーいやいやいや、さすがに引くわ」
「ーーマジにこういう事する奴いんのかよ」
一体全体何が起きてるのか…………
皆して似たような反応で驚きを隠せないでいる。
俺も試しにコッソリ携帯を取り出してみたものの同調状態にはなりえなかった。それもその筈で。旧式の携帯、つまりガラケーには備わっていないある機能でのやり取りが為されているということ。
「でもさ。これって、クラスLINEだろ」
やがてーー生徒の1人が口にした言葉が全てを物語っていた。
未だにスマホデビュー出来ていない故。
あれこれについては正直分からない部分は多いが、ネット上の繋がりともなれば裏掲示板と同じ行為が行われてるということだけは確かだろう。
引き続きなら芽森さんに対してかはたまた別のことか。今このタイミングで、表立って目に見える形で出てきてしまったと……
そんな嫌な空気やムードが立ち込まんとする教室。
この張り詰めた状況で即座に動いてくれたのは他の誰でもない。我等が担任。
一言礼を述べると共に宮村さんに携帯を返すやも教卓の前へ戻られる。騒々しい声が次々と挙がる中、『バン、バン!』口を慎むようにと両手で机を鳴らすことを二回。野太く声を発さずとも重々足る警告音。空気圧も手伝えば次第に騒がしかった声が止む。
そしてシーンと一旦場が落ちついたのを確認したのち。全体に目を行き渡せながらに、咎めか戒めを含ませつつ、低くゆったりとした口調で告げられた。
「…… 少し時間を取ろうか」
* * *
起承転結の「起」のみと
比較的短い文字数なんですけれども、一先ずは投稿しない事には今年度が始まらないので…… なにとぞ