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三国絵巻、恋姫の怒り心頭......


 愛美とのやり取りから丸一日。

 センチメンタルに塞ぎ込むなり、いつまでも思い出に浸っていたい気分だが。

 今の状況的にも心境的にもしんみりとしてはいられない。



 金曜日の夜。

 一晩にそれぞれ電話越しで話をした中で。


 芽森さんには『何もしないで』と釘を刺された挙句。

 楓さんには『大丈夫だから』と啖呵を切ったわけだが。

 そのことからも変に顔を合わせ辛いことこの上なく、もし何か言われた時にはどう返答しようものか。


 ただまぁ教室で話しかけられるなんてことは滅多にない。



「おはよ......」

「黒沼君、おはようっ」

「沼乃っち、おっはー」


「うん。おはよう」




 ――ことも無くなくはない、と。


 今日も今日とて。

 遅れ気味で教室に入るや否やの美声エンジェルボイス


 胸にほんのりと感じてしまう幸福感ではあるがこの程度はまだ会話の内に入らない。なんて思いつつこの間までは挨拶すらものっそい緊張感が走ってたんだから、慣れというのは恐ろしいもの。


 割かし平然と挨拶返しちゃったし......


 慣れと言えばさっそく、もはや慣れ親しみのある声を掛けてきたのは浜慈君だ。



「よっす」

「おはよう」


 自席越し、朝のご挨拶に見る普段と変わらないやり取り。

 そんな中においていつも以上の反応を示し、ヒソヒソと声を静めては今しがた見た光景についての言及をしてくる。



「前々から思ってたんだが、実際の所どうやったんだよ......」


「え」


「天使と評される芽森や天真爛漫な立花はおろか、歯に衣着せない芹沢にまで挨拶されるとか普通に考えて在りえねぇ状況だろ」


「まぁそれは、自分では実感はないけども」


「割かしと意識されてんじゃねぇのか、本気マジで」


「それもまぁ、ないんじゃあないかな。無いね」


「いや俗に言うモテ期ってやつだな、冗談ジョーク抜きで」


「ま、まさか。三人共に優しいだけだよ。多分」



 ここ最近の変化しつつある日常は(……)

 色々と理由はあったりするんだけど先ずもって説明し難いのなんのって。



 <毒舌に秘めたる長年の想い>

 <ビンタから協定の申し出>

 <幼馴染み関連でのネタ探し>等々。


 はたまたどう言おうが二人に悪いわけなら立花さんとかもっての他。

 だけど珍しく楓さんにも挨拶されたなら三声になるわけだから、確かに傍からみたらそういう風にも思われ兼ねないのかもしれない。と。






「”優しい”ねぇ......」



 この話の流れで何故にか。


 浜慈君はそう呟きつつも、とある女生徒じょせいとを横目見た。

 髪を染めたなら相応の雰囲気を纏っている。間が悪くも後ろ席に座している。

 宮村さんだ......



「浜じぃ、てめぇの煩い声はしっかりと聞こえてんだぜ」


 瞬時、浜慈君の囁き声が耳に入った様子。

 ご機嫌斜めといった手前、まるで輩を思わす口調とメンチ切り。

 『ピキリッ』と擬音が鳴ったかの様で返答が返ってくる。



「地獄耳かよ、あ。いや......」


「わーかった、わーかった、その減らず口をチャックして欲しいんだな」


「都合のいいように解釈してんじゃねぇよ」




(うん、反感を買うなり10対1で浜慈くん側が悪いよそれは)


 一方で地獄み...... 視線を感じ取った宮村さんも凄いと。

 これももう日常茶飯事となりつつある光景だけども...... 芽森さんとも反発し合ってる状態が続いてるこの状況。それに加えて他で嫌がらせもあるなら早い内に手を打たないといけない。


 挨拶されて喜ぶのはまた別の話だ。




【相談を用いて信也君と話し合った結果】


 裏サイト、学校掲示板での一触即発。

 対峙した印象的に相手が素人ならいずれはボロを出すだろうという判断のもと。

 一先ずは動向を探るというシンプルな形で落ち着いた。そこはあくまでも出方次第だと。

 信也君には秘策はあるらしいものの、それはなるべく使いたくないとのことで今の作戦に決まった。



 そして俺は俺で放課後睡眠作戦(すいみんさくせん)を決行しようと考えてるわけなのだけれども。





 ――そんな事は梅雨知らず。

 ――二人の言い争いはまだ続いてる。



 どちら共に意中のお相手がいるのは周知の事実だとして。

 やがて口論は互いの恋愛事情についての鍔迫り合いにまで発展。





「大人しくしてりゃあ栄田との仲を取り持ってあげなくもねぇのによ」


「いけいしゃあしゃあと、人のこと言えた義理かよ」


「あ、あたしはその気になりゃあっ、ちょいちょいっと落とせんだよ」



 返す刀で応戦すれば珍しくも押され気味に。

 強きでいながら乙女のようにいじらしい態度ツンデレを見せる。

 宮村さんの発言からニヤつき始める浜慈君は、攻勢とみるやここぞと追い打ちを掛けにいく。が。



「...... いっそのこと、早いことクッツイテくれたらめでてーよなぁ...... なぁっ! 緒方よー!!」



 瞬間ガタっ、と机が揺れ動く。


「――――っ !!」



 声にならずも舌を鳴らしたような口切り。

 わなわなと肩を震わせば刀を投げ捨ている小細工なしの格闘スタイルに変貌。

 真っ赤に燃える拳を作れば灼熱の如く、どこぞの仲間や部下を思い遣る上司の如し。



「よーし、覚悟出来てんだな。あたしゃあ出来てる」


「て...... てへ☆」


「はっ、まじ...... ブ ッ 殺 す !」






 * * *



 その様はかの有名なトミとジュエリーだと。

 猛獣に追われるよう教室を出ていけば程なく。


 浜慈君は誇らしげな顔で戻ってきた。

 さらに親指立ててのサムズアップ。




「――ふ ま ぐ ま ひ へ き だ」

   (上手く巻いてきた)



 おそらくはそう読み取ったがしかし。

 どこから辺がと、ツッコミを入れたいぐらいには引っぱ叩かれた跡が残っちゃってますけど…………

 とにもかくにも何事もなく無事に教室へと戻った浜慈君は、再び自席の前にきて今の状況について述べてきた。




「それより毎日毎日この居づらなさったらどうよ、まるで三国志だぜ」


「そこは野球じゃないんだ」


「まっ、こっちの方が分かりやすいだろ」


「ああ、言われてみれば確かに」



 教室に漂う雰囲気はバリアやバリケードみたいなもので隔離されてるような息苦しさだ。

 大半はそれを感じ取ってるはずでも。何もできない、何もしない、何もする必要がないと。

 喧嘩騒動も同じ当人同士の問題なのであれば尚更に現状維持のままに過ごし行こうとしてる。




「――ねぇ、見て見て~ネイル変えてみたの~どうかな」

「――うんいいんじゃない、今度私もやろっと」

「――今度新作のガ◯ダムやるんだって、楽しみだよな」

「――雰囲気からしてあんなん丸っきり別物じゃねぇかよ」

「――さっきの話聞こえてたんでしょ、このこの、ああ羨ましー」

「――な、なんの話かよく分からないな。聞こえなかったから」





 耳を澄ませば普段と変わらない教室の風景だけども。

 正直そんな中で夏を迎えるのはモヤモヤが残ってしまいかねない。



「一見変わってないように見えちまうが」 

「男女間の喧嘩騒動以上に厄介だと思う」



 1組及びクラスは40人余り。

 三つ巴というよりは枠組で形成される派閥といったところ。

 そのなかでも中心に位置し目を引く人達。



 ・芽森さん

 ・宮村さん

 ・八神さん

 ・浜慈君

 ・緒方君


 際立つ男女やグループを一纏めにするとこれだけ分かれてる。

 俺は基本的に浜慈君寄りだとして、その実どこにも属せていないのが何ともに......



「芽森と宮村の双方はどうしたって角が立つしな」




 でもなるほど。わざわざ自分から宮村さんに突っ掛りにいくような真似は浜慈君なりにクラスの重い空気を吹き飛ばそうとしてくれてるわけだ。


 それに目で見て取れる乙女心ゆえにか。

 最近は緒方君との口喧嘩もめっきり減ってるから。



「早くどうにかしねぇと、”ゴメちゃんの為にも」



 そこは考えすぎかもしれない......


 ただ依然として三國、三つ巴、三者鼎立と並べて言えば

 そういえばもうすぐ三者面談だってあるのか。





 * * *


 ホームルームにて。


 担任からの連絡事項。




「明後日の授業参観並び三者面談については前もって連絡してあると思うが、一応親御さんへの報告はしといてくれよ」




 では解散と――締め括ろうかとしたその時。










「はっ...... ”く っ だ ら ね ぇ ー ! !”」







 教室中に響き渡るような怒声が上がった。


酸いも甘いもは勿論のこと

体育祭や文化祭みたくに、クラス中を巻き込んだ行事ってのがまた描き難しい……


次話

【諭して、見てみぬ振りもまた悪であるということ】

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