確かな動機付けと、二人の作戦
果たして、良い人もいるという考えは一瞬でぶった切られた。
所狭しと並んでいる携帯機の数々が言われもない事実なのであれば。
擁護したり話の流れを変えたりしている人のコメント文は意図的だったということになる。そうまさに。
自作自演
監督と出演者に見立てての芝居風。
全部の行いを自分で演じてみせるという意味だけにネット中でも同じことが出来ようもの。
あたかも人の返信に対して別の人がその者に返信コメントを打ってるように見せるやり方。
レスバトルにあたり対立を煽ったり、スレッドを伸ばしたりと色んな活用方法も出来りする。
いわば自身で書いたレス番に>>(アンカー)を立てれば自分が返信していましたというのがオチだ。
そう考えると男性と思しきコメントは見つからない。
だからか女性ユーザーに扮してコメントしてるわけだ、しかもハート付きの記号も入れたりもして。
「ああ、ゲームで例えると、お姫様プレイまたはネカマプレイをするみたいな」
野球やプロレスのネタに同じく何にでも得意なジャンルで例えるのは良くない傾向だと思うものの。
性別を偽るという発想からでた言葉がそれ。自演文と成りきるのではまた意味合いが違ってる気もするけど。
当の信也君はこっちの返答を拾いもせず、いたって真面目な声のトーンで言葉を紡いだ。
「目には目を対には対をってな、やり口は同し。ただコメントでやり取りしようが画面の向こう側の存在は掴めない。幽霊みたく実体が見えないからこそ、こういう悪文を平気な顔で書き込めるんだろうがよ......」
苦虫を噛んだような感情表現。
コメントでは乙女心全開って感じのきゃぴきゃぴした様を演出してるようでも、頭の中ではぐつぐつと煮え滾ってる。減らず口や軽口を叩けど悪口は言わない、根っからの善人だからこそ、それらの行いを許せないと思う側。
知り合って間もないとはいえ高乃塚信也という彼の性分がまた一つ見えた気がした。
と思想していれば、ワンテンポ遅れで返答が返ってくる。
「どちらかといえば<アフィリエイト>って言った方が適切かな」
「あ、あふぃ...... ?」
「アフィリエイト、簡単に言えばレス板を荒らす者の『通称』のこと。板版とは関係ないコピーペーストした文章を載せたり、適合性の取れない横文を並べて繋げ合わせたりしてな、生業にも利用出来るもので板をカオスなレスで埋めて破壊工作する輩がいるんだよ」
「それ、で...... 全部のレスを自分で書いたの」
「いや全部じゃねぇな。こっちの自演文に割り入ってきてる『奴』がいてる、誰かは存じないけど。おかげでご覧の有り様だ」
あまり聞きなれてない言葉に戸惑いつつも、目線は再びパソコンの画面へと向けられる。
~真っ◯なまま燃え尽きていたい~
――まさしく破壊工作――
政治、スポーツ、アニメ、社会性とあらゆるジャンルを無差別に書き殴り。
カオスな文で埋め尽くすっていう意味が何となく理解出来た。
ただこういう使い方も出来るんだってことは覚えておきたい。
そうやって関係ない文が羅列されてしまえば話のタネやネタがあやふやになる。
誰かが軌道を戻しに掛かれば話題は途切れず続いていく流れでも、そのネタに対して反応や返信が少なければ次第に埋もれていってしまうのはごく自然の原理。
さらに猛烈な勢いで自演者の信也君、と別の《奴』さんとの息のあった連携ともいえるコメントでのやり取りが投稿されていってるわけだから、話を戻そうにも即座にかき消されるという無理難題な有り様。
『はぁ?! くそフざけんなよ! まっじで最悪なんですけどー、てめーらここから出て行けよ! 〇ね』
最後の抵抗、口汚い文が見え隠れするも瞬く間に波の勢いに飲まれてゆく。
その結果スレッドは完全に機能しなくなってか、コメントの経歴もここで途絶えてる――
「ひとまずは安心......」
自演は成功したんだと、安堵した一瞬。
「っても、こっちは比較的古めのやり口だけどな」
不穏な一言を漏らしたように聞こえたが。
次の話題を口に出されたことで気を反らされた。
「後始末としてはこれを作成した主に頼んでサイト自体閉じられるか、もしくは告発する。その誰かがいない限りは永遠と残り続けるだろうが。現に閉鎖されてないことからしても放置気味か、主が変わったか、どっちにしても、残り続ける限りはまた悪用されないとも限らないわな」
ネット上に作られる掲示板の数々。
それを消されない限りはまた繰り返されるという負の連鎖。
人を傷付ける行為は手足の暴力だけじゃない、言葉は時に精神をも揺さぶれかねない破壊力を秘めた暴言《刃物》》に成りえてしまうんだから末恐ろしいと感じてしまう。
実際問題、体現してしまっているからこそ......
「ま、自発的に削除が出来ない事はないけどもだ」
「けども?」
「俺もこっち方面は疎いっつーか...... 足床に情報を駆使して回りくどくパスワードを探し当てることは出来たが、それだけだよ」
珍しく弱気な発言をこぼす。
使い慣れてはいるけど専門外のことは分からない。
知恵だけでなく意外と動き回って情報をかき集めるタイプなのかもしれない。
かくいう俺もネットは見るだけで細かい部分はからっきし。
表でなく裏側で事が起きてるなんて想像も付かなかったぐらいの人間なんだ。
「知り合いにハッカーやこの手の類が得意な奴がいればなぁ」
次いで思わず音を上げいた信也君。
漫画や映画に置ける頼れるお役立ち人。
行き詰った時いざとなれば知識が豊富な助っ人、便利キャラがいるのが鉄板だろうが。
仮にそれらを差し引いたとして100人馬力も同然。
なしてここまで知ることが出来たのも彼のおかげでなのは言うまでもなく。逆に俺の方が何にも役立っちゃいない。なんて、悲観しても何も始まらないわけで思考を巡らす。
しかしながら、あの手この手――黙々と考えた所で良い案が浮かんでくる筈もなく。
さっそくこちらからはもう打つ手なし。いや......
「しゃあねぇ古典的だけど、探偵ごっこに洒落こむとすっか!」
「え、なんだって」
行き詰ってた折り。意気揚々と発した言葉に定型文の如く聞き返す。
「探偵ごっこ、実を言うと最初からそのつもりで家に招いたっつう所もあったりする」
「だとしても上手くいくのかな」
「一人を探り当てれば芋づる式にズルズル、ってわけにぁあ行かねぇと思うがやらないよりはマシだろうからな」
またしても信也君の提案だったが、俺には一つ疑問に思ったことがある。
「今更だけど、なんで信也君がここまでやろうと思えるのかが分からないというか。学園の為といってもいくらなんでも人が良すぎるんじゃないかって。そりゃあ学校の治安は良いに越したことはないけど、芽森さん事情と連なる俺と違って信也君には相応の理由がないだろうから」
俺は芽森さんの為を思わばこそという動機付けがあるものの、信也君にはない。
ただ人によってはボランティア精神か、動機がなくても動ける人も多くいてる。前に話してくれたように学園を過ごしやすい環境下にしたいが為、それも立派な動機と言えなくもないのか。
「ごめん、変なこと聞いちゃった」
バツが悪いとこの話題を流そうともしたが、彼は「確かにな」と呟いた。
そうして再びパソコンを触ると、自身が停止させたスレッドを逆にスクロールしていく。
酷いコメント文が並ばれてる中、彼は合間に貼り付けられていたタグをカチッとクリックした。
「その答えはこれよ」
「これって......」
見せられたのはとある一つの写真。
その写真の中には芽森さんが写っている。
それも浴衣を着飾った装いだ、もっと言えば楓さんや立花さんも写っている他。
ここにいる信也君並び、海音君らの仲間も加わっていて大人数での集合写真になってる。
知らない写真だけどこの風景には見覚えがある。
俺が楓さんに誘われた時に断ってしまい目に出来なかった。見目麗しい芽森さんの浴衣姿がこんな所で見られるなんて。繰り返しともいえる表現ならまるで天使が人間界に舞い降りてきたかの如くだ。
滅多に着ることはないと言っていた楓さんの浴衣姿とも一致すれば。
まず間違えなく祭り行事で取られたであろう記念写真だけれども、
この写真が何を意味するのか。
信也君にも何らかの動機付けがあるという事の証明に他ならない......
「或いは、 いやーー」
信也君自身も色々引っ掛かることがあるのだろうが。
写真を見せてくれた上で何か言いたげそうだったものの口を紡いだ。
代わりに別の話へと切り替えていく。
「目処もなけりゃあ証拠も不十分で確証もない、こっちから相手を炙り出すのも誘い出すのも難しい、とくりゃあやる事は限られてくる」
探偵だとて証拠を掴まない限りは真実は捕まえられない。
であれば俺達は一人ずつ今出来る事を一つ口にした。
「犯行を目撃するか」
「その場に、居合わせる」
「そういうこったな。んでもって見掛けたら必ず報告する。特に黒やんの場合は絶対一人で突っ込むことはするなよ」
探偵ごっこを引き受ける流れから実際のほど目撃した事を例に念の為の助言を入れてきてくれるが。
むざむざ言われなくても元々そんな根性はないんだから要らない心配だ。いざって時に実力が伴わっていないと無理なのはこの身で味わってる。
「分かってる、どうせ貧弱だしで、そんな無謀なことはしないから」
「いいか、これは見下してるわけじゃねぇ。適材適所、いざとなりゃあ退けられるかどうかの問題を説いてるんだよ。最悪俺は何かしらの悪知恵が働くが黒やんはどうだ」
「......」
「策を講じるにしても協力者がいないと成立しないってな」
苦い経験からこちらが皮肉で返す言葉にも正論を交えて力説。
弱いか強いは別の問題であくまでも対等な関係であると。
「出来れば手を貸してくれよ。1人で出来ない事も2人でならやれんだ」
彼のその言葉に俺は力強く提案を受け入れた。
「出来る限りは力になるから」
「よし、そうと決まったら連絡の交換はしとこうぜ」
作戦はこうだ――――
* * *
「お邪魔しました」
「またいつでも来てね、まーちゃんなら大歓迎だから、ね♡」
帰りしなの挨拶。
背中がゾッとする感じではあったもの。
こうして咲良、お姉さんにもお礼を言い信也くん宅を後にした。
* * *
《1人で出来ない事も2人でなら》......
やっぱり信也君に相談して正解も正解だった。
だけど、おんぶにだっこじゃ面目立たずで恰好も付かない。
俺は俺で出来ることをやるまでだと。足早に帰宅したのち、いてもたってもいられずは【芽森さん】宛にメールを送った。
1人じゃないって思えた時から叶えられそうな気がしたんだ
話のテーマに沿ってるかはともかく、ガンダムビ〇ドファイターズ
内容然り、主題歌もマジでいい曲過ぎて今でもリピートしまくってます......
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