違和感の正体、その実態(2)
冷たい物言いを放ってみせる彼の手元には冷たい飲み物。
ちょうど一階からジュースを持って来てくれたようなので、一旦パソコン画面から目を離す。
勝手に机にも座らせてもらってるけどそこは先程のやり取りがあれば不要と。一先ず席を立った。
濁んだ空気の中、どう言葉を掛けていいのか迷うもののお礼の一言は言わなくちゃいけない。
「ありがとう、見せてくれて」
「礼を言われる分にはまだ何もしちゃいないけどな」
「モヤモヤした違和感の正体。その実態がこういうことだと知れたんだから凄く助かった。おそらく自分じゃ気付かなかっただろうし、まさかネット中で事が起きてるなんて思いもしなかったから」
形は異なるにしてもネット上でのあれこれ。
自身の経歴や事象を検索するという意味の『エゴサーチ』は世の中の主流とも言える。
他人からどう支持されているか、見られているかを直に知ることが出来る素表のようなものだとも。
著名人でもない一般人が検索項目に引っ掛かるかは別として、精神的に打ちのめされやすい人の場合は調べない方が賢明だろう。
せめて。彼女がこれを見てない事を祈るばかり。
「あ、せっかく飲み物を持って来てくれた所悪いけど、今日はもう帰るよ」
「まぁ待てや。帰ってどうすんだ」
「え」
瞬時、呼び止められた。
「策を練る、勝算がある、解決の糸口が見つかった、として1人で全部出来るのかって話だ」
...... 痛い所を突いてくる。
1人で解決出来そうなら最初から相談してないわけで、
でも1人だとここまで辿り付けなかったのも確かなわけで。
でもってこれじゃあこっちの精神が持ちそうにないのが今の心情なわけであるからして。
そうこう、立ち尽くしていれば信也君は帰るにはまだ早いだろと。話を繋いでくる。
「ちなみに全文読んでみたか?」
「えっと。目を通していたら気分が悪くなると思って半分ほどしか」
「だったら尚のこと最後まで読んでみるんだな」
「いやもう.......」
「いいから、そんままポチポチっと上にスクロールし続けてみなって」
何か意図があるんだろうか。
押されに押されて、しぶしぶ画面を見ることにした。
「~~~~」
「~~~~」
「~~~~」
「~~~~」
「~~~~」
* * *
「こんなの万が一でも見てしまったら......」
が、再び読んでいけば耐え切れないばかりに思わず声が出る。
「そこはちゃんと、見れないようにパスワードが設定付けられてんだよ」
「ああ、なるほど。それなら」
と一瞬、安心してしまったものの。すぐさま首を横に振り。
俺はもう一度声を荒げた。
「なんで鍵をかけてまで、こんな人の悪口をっ......」
「さぁてな。良い行いが脈々と受け継がれていくように、悪しき風習も巧妙に継がれていってるんだろうな」
「信也君は...... どうやって鍵やこの掲示板の事を知り得たの」
「怪しまれないよう注意を払いつつ。0B連中の方々をちょろっと引っ掛けたり。なーんかあるなと思ったら案の定、裏があったってわけだ」
そこは信也君お得意の情報収集能力なればこそ。
なぜに上級生じゃなく卒業生なのかは考えたくはないが。
彼の言う通り、受け継がれていくのが何も良いものとは限らない。
時代のねじれ、人の業なるものが悪い意味で継がれていってるなら止めなきゃいけない。
問題はどこで連鎖を断つか、絶てるか、断絶していくのはあまりにも大きく難しいことのように思う。
そうやって話せど出てくるのは変わらず...... 罵倒や貶しのオンパレード。
* * *
「――――でさ」
「マジ――――」
「――――だよね」
「聞いた話―――」
* * *
それらの悪文は弾切れを起こすことはない。
流れゆくさま徐々に吐き気模様を通り越していく代わりか。
次第に痛みを訴えるかのように胃がキリキリしてくる。
『”ベタベタと気持ち悪いんだよ”――』
これは決して他人事なんかじゃない。
やるしかない、やらざるを得なかったとはいえ、俺も。所詮はこっち側の人間なんだって事を重々と思い知らされる......
出来ればあの頃に戻りたい。
友達だったあの頃に、だけど昔は昔。
過去の出来事を悔やんだところで無かったことには出来ないのだから。
「あれ――流れが変わった...... ?」
そんな中、俺は小声で独り言ちた。
唐突にも驚いたのは無理もなく。恨み晒しの罵倒が多かったコメントがいきなり違う話の話題に変わっていたからだ。それも全く関係ない話へとシフト。
なんだか赤黒い色合いとは似つかわしくないと感じるけれども。
* * *
「人の幸せは人の幸せ、悪口ばかり言ってると幸福度が逃げて行っちゃうかもだよ」
「そうそう何もかも勿体ない、嫌なことは二秒で忘れてそんなことより明日のご飯とか考える方が楽しいじゃん」
「パッパパラパラパラパラパラ、パッタパラパッターみたいな前向き姿勢でね」
「それで思い出したんだけど、〇〇にあるあそこのパフェすっごく美味しいんだよね」
「だったら駅前の○○とかもオススメかな、安いし幸せな気持ちになるし」
* * *
それはまるで明るく照らし合わさっていく希望の輪。
「コメントをみる分にはイイ人もいたり、何だか落ち着いてきてるようだけど」
それを見ていれば無性に関西弁寄りでの感想。
『なんや、良い奴らもいてはりますやんか』『ほんまにホッとするわ~」
と心底安堵したが、しかし。
「”そう思うか?」
「え......」
バッサリと切り捨て。
希望を見出したのも一瞬。
信也君が机の引き出しを開けたがのち、<何台もの>スマホ携帯機がズラリと姿を現した。
「怪しいサイトに漕ぎつけてまでココに来るような奴の中に善人者がいると思える方が可笑しいってな」
ラブコメの愚痴や持論なんかは色々浮かんでくるんですけども。
せいぜい「お前の母ちゃんでべそ」ぐらい......
書けないならそこはもう誤魔化すなりで省いていこうかなと、




