信也ん家の愛犬
「お邪魔しまぁす......」
分かりやすくデカデカとした目印もあればコンコンと手甲でノック。
信也君の部屋に入りしな俺はそう小さく発した。
知り合いの家に招かれたのなら。
ほんとうは店内に入った時点で言うべき礼儀だ。
しかしながら動物たちが目に飛び込んで来てしまえば「ひゃーーおでれぇた......」なんていう風に機を逃してしまったと。単に心底ビビってしまいましたと。
そんなこんなで――――
のっそりと、部屋へと足を踏み入れる。
よくも女の子の部屋に入るのは大変に緊張するとは言うものの。
正直その度合いは男の人の部屋でも殆ど変わらない。幾ばかりの違いなれば異性間の問題なんだろうけど、俺は両方同じぐらい緊張する人見知りタイプ。
とはいえ、意外にも信也君の部屋中は散らかっておいでだ......
机上にはパソコンと何かの資料がどっさり、床下には所せまし雑誌にゲームにと、THE男の部屋っていう感じというか。きっちり整理整頓されてるイメージだったんだけどな。
「まっ適当に座ってくれよ」
なんて言われたものなら早速近くに置かれてるベッドに腰掛ける。
寝る場所は物も少なく当然に座れるスペースを確保できる広さで選んだだけでそういうアレじゃない。ほんとだよ? って、だれに話かけているんだか......
然らば、部屋中には俺と彼以外にもう一人の来客がいた。
正しくは一匹だ。
「よーし、よし。今日も沢山食べろよサラマンダー」
...... さて。
名を聞いてまず思い浮かぶのは燃えるような身体《鱗》に炎を纏ったトカゲのような生き物。カテゴリー的に似てはいるがヒ〇カゲじゃない。
ロールプレイングゲームでもお馴染みの炎属性に位置されるモンスター、もしくは炎を食らいパワーアップする竜スレイヤーなるもの。
ところがどうだ。
キュルルンと愛くるしい様な、ぬいぐるみみたいに目がクリンっとして、見た目諸々かわウィッシュという他ない。これほどまでにネーミングが合わないのも珍しいんじゃなかろうか。
サラマンダーと名付けられたしその愛犬。
小さめの犬小屋にゆとりのある柵の中で飼われてるようだ。
「可愛い”チワワ”だね」
「可愛いだろ”ポメラニアン」
ぽ、ぽ、ぽ、ポメラニアン、ね。
まぁ、エ〇ゴリアン的に知ってはいたけども、うん。
いや...... 当てずっぽうなら軽く恥かくやつぅ!
そこを指摘されないわで二重でハズイし。
――ってかもうチワワで良くない?
――良くなくなーい!
――ですよねー
1つ言えるのはこういう脳内ツッコミの方が何十倍も恥ずかしいことこの上なく......
「触ってみるか」
じーっと見ていた最中。
信也君はそう声掛けしてくれるも気軽に「うん」とは返事出来ない。
いま一度サラマンダーを見てみる。
頭を上げ下げしながらムッチャムッチャと夢中でエサに食いついてるその姿見は、無性に可愛らしいと思うが名前が名前だけに凶暴そうにも見えてくる。端的に言えば怖い。
「じゃあ、後で」
「もうすぐ寝付くからさ」
「じゃあ、今で」
...... 何よりも食事の真っ最中でおありと。
これは噛まれる、これ絶対噛まれるやつ...... !
これ絶対噛まれるやつ――
(って、あれれ......?)
「噛まないし、吠えないんだよ、・家・の・犬・は」
恐る恐る手を伸ばすと同時。
痛みに耐える準備をしてギュッと目を瞑るが、やけにすんなりと頭を撫でられてしまったよ。
身体をサワサワ、頭をナデナデ......
モフモフとして毛並みも良く、手触り的にも撫でていて気持ちいぃ...... なんだか拍子抜けだ。くだらないが犬だけにワンダフルな気分だとも。
全一クラスはともかく。
例え平和であっても両刀、二刀流は邪道、昔からビ〇ンカ派とフ〇ーラ派は否――犬派と猫派で対立するのも今なら分かる気がしてくる。
何が嫌いかより何を好きかで語れよってね
ちなみに俺はタケ〇コ派だ。
宜しいならば理論だが...... 無論。
言葉に出さないボケは突っ込まれやしない。
――引き続きサワサワと撫でていれば。
サラマンダーは食事を終えたようで手が空を切る。お腹が満たされたのか小さな足を動かし家の中へと入っていった。屈んで中を覗いてみると、信也君の言っていた通り尻尾を丸めて寝に入るようだ。そんな姿も可愛いなと。
どっちつかずのその時々派。
一時的に犬派になったとしてもタ〇ノコ派は揺るぎはしない
「人慣れしててお利巧さんなんだ」
自分家他、身近にペットを飼ってるような方はいなかった。
俺は初めて直に犬と触れ合ったこともあり色々と楽観的な思考からそんな感想を言ってみる。
しかしはお門違いもいいとこ、人間に同じ一見大人しいからといって背景までは知る由もない。
「...... こいつは捨て犬だったんだ」
そうして信也君は訝し気に告げると共に、細々と語ってもくれた――――
・今年初め路地裏に捨てられていたサラマンダーを家族として迎えいれたこと。
・母親がいないことを始め。
・母の意思を次いで店を兼営してること。
・父親は現在海外勤務に就いていること。
・お姉さん内の二人は上京していること。
・そして何より両親の代わりに苦労を掛けてる長女の咲良さんに感謝していること。
片手や一言では言い表せない話の数々......
歩んでる人生観は人によって違うにしてもこれはどう言っていいものか。
信也君とは知り合って間もない関係性だけど相談に乗ってもらいたいと思える人柄だ。
普段はお茶らけていて軽い言動が目立つが分かる人には分かるというのか、似た考えを持っている者同士で通じる部分はあるようには感じる。
実際信也君を頼るばかりか、こうして家にも招かれてる。
何か掛けられる言葉がないか思考を練るも見つからない。
愛犬を通しての和やかな空気が一変、重い沈黙が俺達の間に流れゆいて......
「っと、いけね。またまた話が飛んじまってた」
そんな中で突拍子のない彼の一言が濁っていた空気を切り裂いた。
当初の目的もあればサラマンダーを一目見に来たのじゃない。
信也君のことも気掛かりだけどもここに招待された訳は、俺の知らない事を彼が把握しているらしいとの口伝から。
「黒やんに見て欲しいものがあんだよ」
「え...... これって」
そうしていざ見せてもらったのち、俺はその内容に目を見開いて驚愕した。
【芽森さん】についてのアレコレが呟かれていたからだ。
俗に云う三大抗争とは異なるんでしょうけども
ビ〇ンカ、フ〇ーラ、ここに加えてデ〇ラを筆頭に
ラブコメなどで見られるような犬猫対抗はヒロインの比喩とも思うんですよね......主観ですが
ヒロイン云々でいえばこの小説の女性陣は揃いも揃っての猫猫猫って感じになるんだろうかな(汗笑)




