理由と経緯と幼馴染な事情と
「え」
「元々ねぇんだろ」
「な、なにが」
「顔見りゃわかんだ。こちとら暇してる身で、沼像がマジでやる気があるなら入ろうとは思ってるぜ」
そう振り返れど真剣な目線を向けてくる。
「無理にとは言わねぇよ。顧問つったって学生運動が主なら常に一緒に居てくれるわけもねぇしな」
元々やりたい気持ちがなかっただけに確かな指摘でいて目が泳いでしまう。
このことからも敢えて提案を呑んでくれたのは明らか。
教室の隅にいるような奴に声掛けしてくれるのなら。
浜慈君を空気の読めるお人だと評価してるのは俺自身。
そのことを表すよう話を進めてくれて、その実止めてくれてもいる。
...... 最初から前フリだったんだ。
流れ流れだけに先は考えられずに。
図星なら返す言葉も見つからない。
俺は口が開けなくなり黙りを決め込んでしまうが彼の言葉は続いてる――
「野球部に入った方がいい。そう言ってもくれたな。実際好きなればこそキャッチボールに付き合ってもらってるわけだから、そこは否定しねぇさ。ただ、こっちも訳ありっつうか......」
どこか言い難しそうに歯切れが悪い。
さらには首に手を当てては気まずそうな表情だ。
「実をいうとこの学校に昔からの仲間がいたりするんだけどよ、入ってくれって頼まれる毎に断ってんだ。気分的にも気乗りしないんだから仕方ねぇよな...... まぁ、けど、そこは、野球に関してはだ。とくれば帰宅部も同然になるんだが、今言ったようにやる気があるんなら喜んで参加はさせてもらうぜ」
「あ、だからそれは......」
「俺が部に入りたくない理由と沼像が部を設立しようとする経緯は同じってわけじゃねぇんだろうが、要は語れぬ事情があるってことだろ?」
っ...... 完全に何も言えなくなった。
直に言わずとも見透かされちゃってるよ。
浜慈君の為を思わばこその提案でもやりたくないが本音だけども。
公然と先生にアピール、アプローチを掛けられる場が出来るかもしれない今日この頃、恋に盲目だったら迷わず申請書を提出し行く筈で問答は無意味だろうから。
語れぬ事情があるのは俺一人だけじゃないということ。
なまじ時々見せる憂鬱な顔と関係しているのか、声のトーンがやけに低い。
「この間、緒方も交えてこうも言ってたよな」
「な、なにか、言ったっけ...... ?」
「ああ、俺にもいてるんだよ。その何かと世話をやいてくれる幼馴染ってのがな」
「...... それはどういう」
――聞こうとしてもう一度口を閉じた。
事情があるなら俺の方からは聞けない。
でも確か、異性観の語らいで『幼馴染でもない限りは人の素性は読み取れない』
みたいなことを言ったような覚えがあるっちゃある。
時に『幼なじみがいるわけもない』と断言していたような緒方君。
時に『幼なじみねぇ......』と呟いていたのが浜慈君だったような。
言うなれば浜慈君も俺と...... いやそうでないにしても俺の方からは聞くことは出来ない。逆も同じ。
ゴメちゃんこと栄田先生に対しての反応や。
普段の言動を見れば簡単に出し抜けそうに思うも、こういう所がまさに。
おチャラけた風でその実、冷静に全体が見えてるって感じが信也君と重なってみえる。
物事の判断基準、容姿や性格が違うにしても二人の雰囲気が似てるわけだ。
ともして、お口をチャック。
こういう場合の沈黙は暗黙の了解、または答えていることと同義。
「気持ちはしかと受け取っとくぜ。まっ、次何かあればまたこっちから誘うからよ」
優しく目を細めながら軽めに俺の肩を叩いたあと、そう言い残しては教室の方へと戻っていった。
当然オリジナルの部活を作るという話も白紙となった。
やに幼なじみが多すぎるのは置いとくとして......
主人公にとって支えとなる熱いやつ!
そういう似た雰囲気の友人、親友をどう掻き分けるか、、、