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その人に捧げるのも又青春、胸に掲げるは直球一本槍


「それって......」



 どういう意味も何もそういうことなのだろう。

 ただ聞き返さずにはいられないものならその真相を彼に問うてもみた。



「まっ、首の皮一枚繋がったつうか。まだ俺に打席が回ってくるチャンスがあるってな」




 * * *


 ・事の経緯はこうだ、まとめてみる・





 先週の金曜日。

 直々に名前を挙げられれば呼び出しを食らったところから。


 放課後の教室にて俺に寂しい背中を見せたのち、彼は職員室へと足を運んだこと。

 そうして指導室に招き入れられたらしく、説教を受けたとの事だった。

 ただし首の皮が繋がったとあるように普通に説教されにいったわけじゃない。


 果たして重い空気を感じいる中。

 部屋へ入った直後に告げられた言葉は。




「浜慈、もう隠す必要もないだろうから言っておくが実は前々から気付いていたよ。お前が私に対してある豊かな感情、いや。恋心を抱いてくれていることはな」


「そう、すか......」


「別にそれを悪いと言っているんじゃない。私は教師でお前は生徒だ。これの言ってる意味が分かるな?」



 危険信号を鳴らすなんて表現もあれば。

 世間だと教師が生徒と恋人関係になることは不純と見做されてる。

 例え禁断でも教育上の尊厳に関わるしで、立場を重んじてる教師はそれを良しとはしない。

 諭す様な言い方なら栄田先生も同じように考えてるお人なんだ。


 けれどもそこは承知の上。

 教え伝える教師側の正しき姿であれ「分かりました」とは口にしない。

 日常茶飯事と、またもや躱されたとあればそれ以上は追えずヘラヘラと笑いを取る場面なのだろうが。今は何十人にも囲まれた教室中でなく、腰を据えて語り合う為に設けられた部屋中。


 浜慈君はいよいよ持ってその事柄に対して言及してみせた。



「だったら、俺が大人になるのを待っていてくれますか」


「二つ返事での保証は出来ないな、だからこそ年齢も近しい学生同士の恋愛観が理想だと言っているんだが」


「それを言ったら他の女子陣も同じに、いくら好いてようが両想いにならない限りは虚しい片想いで終わる恋だって多いと思うんっすけど」


「なるほど...... これは一本取られたかな」



 ――これには栄田先生とて納得せざるを得ない言い分だった。


 教え子との禁断の恋、年の差以前に同年代の女の子を好意的に見てたとしても、その想いが届くのは別だろうから。それは女の子側にも同じことが言えるというもの。

 しかしながら先生は尚も浜慈君を諭すように語り往いた。


「言うても先生は大人だ、前にも告げたと思うが教育上の立場というものがある以上は好意を受け取るわけにもいかない...... とにもかくにも、まずは”君”が無事に進級、はては卒業してからの......」



 いうにデジャヴ。


 正論を放たれるものなら前回同様上手く躱される可能性の方が高い。

 しかしやしかし今回ばかりは一際、二際にも違う。ボッチ人間がゆえ俺にだけヒッソリと話してくれた思いを彼にも話したことでより一層覚悟がガン決まりしたって感じだ。


 ――曰く、引き下がるどころか。

 




「それにゴメちゃんが投げ掛けてくれたんっすよ、”青春は待っちゃくれねぇぞ”」



 

 浜慈君との出会いは梅雨知らず。

 先生側が覚えてくれているかどうか。


 だけど一つだけ確かなのはその台詞を出したことにより流れが変わったということ。

 出会うまでの経緯を聞いてもなければどういう風に言われたのかも分かりはしないが。


 「そのままそっくり返してやったよ」と、浜慈君は強気の口調且つ朗らかな顔で言ってのけた。



 いな、栄田先生はクドクドと力説か説得を続けようとして取りやめ。

 『青春』というワードは若い世代、特に学生にとっては特別なものを差す言葉なんだ。なまじ浜慈君の為を思えばこそ他の女の子に目を向けて欲しいという先生の配慮でもあるのだろう。


 ゆえに、話の全容は恋愛沙汰についてのことに転換したようで。



「仮にもだ学生生活を謳歌おうかする中で浜路を好きになってくれる女子生徒が出てこないとも限らない、むしろ今この瞬間にも好意を寄せてくれている異性がいたとしてもか」


「もち。俺、出逢ったその時から先生一筋っすから」


「これからの淡い思春期を棒に振ることになるやも知れないのだぞ」


「上等っすよ!! 俺の全打席、それら・青・春・の全ては【栄田仔五女さかえだこごめ先生】に捧ぐって決めてるんですから」



 嘘偽りのない純粋な恋情。

 燃えるように熱いボール(ラブコール)を受け取った先生は一度言葉を失うも遂に、心を打たれた――とまではいかない......



「しょうのない奴だ」


 ただ呆れつつも真っ直ぐ向かい合うという姿勢は持たれたようだ。



「...... とことんまでにお前には根負けしたよ。ただ私は全生徒の事を思ってる。1クラスを受け持つ身であれば浜慈。おまえ一人だけを特別優遇することは出来ない。ましてや生徒と逢引きなんてものはな、更に言わせてもらえば大人として他の男性方ともお近づきになることもあるかもしれない。くれぐれもその事は頭の中に入れつつ心にも留めていて欲しい」


 

 逃げる必要もなくなれば、漸く浜慈君への対応が微弱変わろうかというおり。

 それでも期待を持たせないように注意事項を述べられた。



「全くキツく突き放そうとしたいところだったんだが、私もつくづく......」


「へへっ、その甘っちょろさもゴメちゃんの魅力ってね」


「茶化すなっ。言っておくが私から見ればまだまだ子供だからな。それに生徒と教師の関係が変化するのはそう容易くはないぞ。ふふ、いま一度考え直してみるか? これも可愛い生徒の為だからな。”先生”として潔く振られてやる」



「撤回はしないっす...... 絶対振り向かせてみせますんで!」




 * * *

 

 そうして今に至る、と――。




 正直言って顔を合わせる場所だって限定されてくる。

 なんでもゲームに例えるのは良くないと思うもある意味では縛りプレイ。


 何方ともに誘い込むなり手が早くなければ問題はなく付き合うことは可能なんだろうけど。

 例え清く正しい交際であっても基本的に生徒×教師の恋愛はタブーとされている為に許されることは少ない。それでも、もし二人がそういう関係になったとしたら誰にチクるものでなし、俺は目を瞑る姿勢でいる。





「はっきし言ってこんなお子ちゃま男児より同じ目線で見たダンディな大人の方が頼りになるんだろうけどもだ。最終的に隣にいるのは俺で在りたい、つうか。お前や緒方を除けば大抵の奴らは面白半分と思っていやがるがな。これでもマジに惚れてんだよ、本気マジで、あの人に......」




 うん...... そこはもう思いがこもった、この球の重さが証明してくれてるよ。



 やっぱり人に合ったやり方ならストレートで押して正解だとも。




「諦めたら終わりだって安豆腐先生も言ってるわけだしね」


「ん、ああ...... それジャップの有名な漫画の奴な。どこかしこで聞いたことはあるんだが実際読んだことはねぇな」


「それ、なら。じゃあ浜慈君ってもしかしてサッタデー派とか?」


「お、よく分かったな。他にもマンガンジとかも読むぜ。どうにも合わねぇんだよなジャップは」


「まぁ掲載されてるジャンルや趣向的にみても納得はするけども......」



 そういや芽森さんもマンガンジ派だったしで、ことごとく外してくれるな。

 高校生にもなれば意外とジャップ派は少ない傾向にあるんだろうか。と。



 こうなんときなし的外れに発した台詞から話の内容が変わったと思いきや。

 まださっきの話は続いてる。



「ただもし最悪、三球三振と振られちまった暁には肩に手を置くぐらいはしてくれよな。女の前で泣きっ面を見せるのは男として格好悪いからよ」



 打って変わっての弱音発言だが。

 今の話を聞いてそう思う人は少ないんじゃなかろうか。

 しかと聞かされたなら男らしさ、浜慈君らしさ全開でカッコいいなとしか思えないぐらいだ。

 

 そう、機嫌が直った今だからこそ伝えないといけない。




「あ――話を切るようで悪いけど、ここで一つ朗報があるって言ったらどうする?」



「つうと?」


「朗報というかは、耳寄り情報というかそんな感じで」


「おいおい何だよそれ、そんな風に言われりゃあ聞きてぇに決まってんだろ」


「じゃあお昼にでも、それか午後の授業が終わった後の放課後でもいいけど」

 

「昼だな」


「分かった」




 さて...... そう言ってはみたものの。





(――部活をしてみて(......)はどうかと誘いかけているという訳だ――)




 あの件をどう切り出そうものか。



あの件ってなんですのんっていうね......(97部参照)

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