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オモイダマ


 * * *


「っ、凄い......」




 音が消えた――違う、遅れて聞こえてくる。


 恐らくそんな表現になるのだろうか。




 バッターの位置で立っていれば完全に振り遅れていたであろう”豪速球”。

 宣言通りど真ん中直球(ストレート)ならビリビリとグローブ越しからも伝わってくる鈍い痛覚。

 俺はその衝撃を肌で実感したがゆえに独りごちた。


 不規則な投球を予測して狙い打ちにいくのが勝負事。

 ただ予め投げる方向《軌道》を示すような宣言を入れていればバッティングセンター等にある器具やら調整が入ってる球と同じだろう。来る所が分かってるのといないとではまるで違う。


 練習に限れば予測通りの球を打てるかどうか、まぁそこは置いておくとして......


 素人目でも分かるのは、今投げて見せた球は分かっていても容易に打ち崩せないってことだ。


 右手にはまだ痛みと感触が残ってる。

 であれば俺はすぐさま彼に駆け寄りボールを彼の胸に突き付けてやった。



「浜慈くん! 君は今すぐにでも野球部に入るべきだ。こんな才能をおめおめと腐らせておくなんて勿体なさすぎる」


 が、熱を帯びたみたくいきなり話かけたせいなのか面食らった様での後ずさり。

 文字通り困惑させてしまったという。



「お、おいおい。そりゃあ買い被りすぎってもんだろ、たった一球投げただけだぜ?」


「買いかぶりなもんかっ、これでも野球中継も観てる。その手のゲームだって。選球眼なんてものは持ってなくてもモノが違うってことは分かるから」

「それはそれはなんとまぁ違いの分かる奴よの。なんて豪快に笑い放ちたいところだが、俺に言わせりゃあ井の中のかわず......」

「スゴイよほんと」


「って聞いてんのか、おーい......」



 釘付けとなったがのち彼の声は耳に入らない。

 興奮()めやらぬとはまさに。


「こんな凄い球を投げられるんなら入部後にでも即レギュラー入りとか、ううん。その気なら球界きってのエースにだって......」



 胸が高鳴るかのよう情景として浮かぶは憧れの大舞台、大いなる決勝戦、熱狂渦巻く大観衆の中でそのマウンドに立っている彼の姿がはっきりと。


 想像出来てしまうだけに俺はまるで自分のことのように早し誉めたてまくる。

 それだけ凄いと実感させられたもんだから身体に熱が入るのは普通のこと。むしろ男なら興奮こうふんしない方がどうかしてるじぇ。

 た◯しょういや。ハマジ君は凄い人なのだ。てけ...... 

 さすがにキモいなこれは......


 しかしながらに熱は冷めるのも早く、彼の口からきょう醒める一言が発せられた。




「――――”なれねぇよ”」



「あ......」


 そんなこんなんで1人でに舞い上がってたのがバカみたいだと。

 上がり調子でいた気持ちが一気に下り調子になった。



「頭から水をぶっかけるみたいで悪いが、そこは嘘でも首を縦には振れねぇな」


 普段熱苦しいほどの彼が時折見せる陰りのある表情。

 俺はそのスイッチを再び押させてしまったらしい。なまじ真剣に培ってきたかの習わしごと、通ならば経験者なればこそ。


 彼はジェスチャーを交えるなどして冷静に受け答えしてくる。



「『打つ』『投げる』『取る』この三連要素は基本的な動作だが――1人の能力じゃまず勝てねぇ。バッターならどこに打つか、相手ピッチャーとの駆け引きがあれば。ピッチャーならどう投げるか、味方キャッチャーとの目配せがあったり。打った後どういうタイミングで走るかの走塁、監督の指示や采配もあるが。攻めの回と守りの回それぞれ得意とするポジションで役割をキッチリこなす。ベスト9人が揃ってないと始まらねぇのが野球なのよ」


「単純に見えて頭脳戦でもあるんだね......」


 横でぽそりと出した俺の物言いにコクンっ、と頷けば。

 

「でもって試合に出られない奴らの意思をも継ぐ」


 彼も彼で思い馳せているのか、野球ないしスポーツマンシップに則った美学、はたまた独自の理念を呟いてみせた。



「誰がなるもんじゃなく、監督の期待とチームの信頼を勝ち取って。そこで初めて【エース】と呼ばれるようになるんだろうよ。背番号1のゼッケン《エースナンバー》を背負うってのは簡単なことじゃあねぇんだ」



 里の長、リーダーシップなら似たような台詞は多くあれ。

 仲間に認められた者こそがチームを引っ張って行ける存在になり得るのだと。

 これまた浜慈君らしい格言というか、っぽいと言うか。


 一方で何も考えずいけしゃあしゃあとしてからに。

 夢見がちな野郎だって思われるレベルで恥ずかしい奴もいたもんだよ...... ああ、はずかし。



「場合によっちゃ力を見さらせ黙らせれば良いだけの話なんだろうが。自分自身にその実力があるかどうかだな。今時コレぐらいの球を投げる奴はゴロゴロいてやがるからよ、俺程度じゃまだまだ......」


 言い切って見せた後にも続けて言葉を紡ごうとして、うめき声が上がった。



「痛っ!」


「え!?」


「久々に全力で投げたせいか手首をヒネっちまったみたいだ、痛っつつ」



 そうは言いつつ、抑えてるのは手首じゃなくて肩部分なのは何故にか?


 もうほぼ間違いなく浜慈君は野球経験者、だとて長いブランクがあって負担が掛かったのかそれとも。うん、ここは多分何も聞かない方が良さそうだ......俺の方からは。




 ひとまず彼の球を受けて感じたのは球が恐ろしく速いこと。

 つまりは想いの強さという風にも言い換えることが出来るわけで。

 全力投球した結果にみる肩の痛みはその勲章だとも――


 っと肝心なことを忘れてたや。



「ところで浜慈くん。さっき受けた球の感想だけど」 


「よし。んじゃあもう一球だけ行っとくか――」



 キャッチボールからのキャッチャー役となれば早くにその役目を終える。

 どれだけ栄田先生にあつい眼差しを向けて(ねつ)を入れ込んでいるのか、彼はしかとボールで示してくれたわけだ。

 だが、どうにも本人はまだ続ける気でいるらしい。



「今度は左で投げんぜ!」


「え、あ。もしや両利き?」


「や、右利き。まぁ制球力は落ちるとは思うがしっかりと受け止めてくれよ」



 とまぁそういうもので......


 一球目と同様「分かった」と返事を返して位置につく。

 再度ミットを構えるや否や、不慣れながらにも左利き用のワインドアップ。云わんとして投球モーションに入った






 * * *



「これ――と――ゆる――が――だよ」




 形だけみれば同じ場面シチュエーション


 ただ二度目は音じゃなく、声が掻き消えた。

 剛腕球に驚かされたのでなく投げ打ってきたその言葉......に。


 (今、なんて......)



 思ったのも束の間。

 目を合わせた拍子もう一度聞こえるように、こちらへ向けて言い放った。


 


「これ幸いとゴメちゃんからお許しが出たんだよ」




ラブコメやなし恋愛小説らしからぬこの展開図、


悠々と描き連ねたい、だけども書き難しいのが現実

イメージ映像を文章化出来ればいいのに......

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