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期末テスト2 意外な告白? 得意科目は見た目と関係がない


 『言わずにいた方がかっこいいかな』



 自らそんなことを口にした手前ではあるけど、ここは敢えて言わしてもらう。

 基本は緒方君や誰かしら周りにいることもあり正面切って話すことはほぼないから、タイミングとして考えれば今が最適だ。

 その浜慈君自身は特段気にしている様子がないにしても俺がずっと気に掛かっていることだからこの場で言っておきたい。



 だとて...... こう男相手にモジモジと顔を下に向けて緊張してる様は自分でも女々しい奴だと思う。傍から見てもナヨナヨしてる奴だと思われるだろう。


 芽森さんや愛美の前で胸が脈打つのは男であるが故に普通のことだ。

 それなのに海音君といい、なぜ同じ性別である身なのに似たように緊張を強いられなければならない。いつからこうなったのか、考えた所で一度植え付けられたこの体質を改善することは多分難しい。今の自分が自分である限り、有り方が変わることはないのだと。



 如何に女々しく変貌しようとも不器用なりの言葉で気持ちを伝えないといけないわけで――




「それと、これは前から言いたかったんだけど体育の授業、時たまペアを組んでくれたりするのは助かってるから」



 うざがられることが多くても何だかんだで明るい性格の彼は相手に困らない筈なのに何の気なしに『相手がいないんなら組もうぜ』と友達がいないという欠点を補ってくれて、ルンルンランランと何でもないように装ってるけどもどれほどの助けになっているか。『仕方ないな、黒沼先生と組むか』余り者として先生とペアを組まざるを得ない辱めはぼっちにはダメージが大きい。


 恥ずかしながら、それをまじまじと言ってのけたことで浜慈君は「お、おう、やぶからぼうに言われると何か照れるな......」俺以上にどこか照れつつも若干顔を背ける。それも束の間。


「ってか、そう思ってんなら次からはもう少しキャッチボールの回数を増やしてくれよな。二人組でも無言状態じゃあ空気が痛いんだからよ」


 呆れ仕草で俺との無言の時間に異を唱えてきた。

 浜慈君の言うように二言三言の言葉を交わすだけで、後は気まずい時間が続くだけ。

 申し訳なく思う一方でコミュニケーションがなってないのだから仕方ないと思う浅はかさも正直は持ち合わせていた。彼は他人で話す事もないし無言でいたって構わないだろうと。


 これまではそんな間柄だったけれどもそれも今日で終わることになってしまうのか...... なんていうかこう思っていたことを口にしたら気持ちも軽くなった気がする。あくまでも体育の事に関してはだけど。


「ああうん、一応の努力は、してみるよ......」


 教室の隅っこにいる陰険な俺にも話しかけに来てくれる。

 こういう人だからこそ栄田先生との恋を応援してあげたくなるんだって。





しっかしだ(......)、静やかな教室中で男が二人となると見ようによっちゃあ何かこう、ちょっと卑しい空気になってるよな」



 へ、男が何だって――


 浜慈君の人と成りを再度認識しようとしていた所で思わぬ爆弾発言が耳に入る。それもヌルりとした嫌な感じで。


「い、いやしいって、なにが?」

「考えても見ろよ、クラス連中は全員帰っちまって居残ってんのは俺ら二人だぜ。んで、これがどういう状況なのかってな」

「ああ...... なるほど」



 とは、ならないっ!

 いきなりこの異様な雰囲気はどうしたよ。

 ももも、もしかしてこれは危険極まりない非常事態なのでは...... というか、そもそもがだ。



 前提としてまずおかしいと思ったんだ、何故彼が俺に対してこんなにも優しくしてくれるのか。

 正直疑いたくはないけど、発言が発言だけにどうしてもそういう事が頭に浮かんで来てしまう。

 海音君達に比べたら劣るかもだけど、浜慈君も同じ男から見てもカッコいい男子の一人で。初めはダサく感じていた左右に分けたアシンメトリーな髪型も似合っているように思うし。背も標準的に高め、ノリ気の良い言葉使いと、そしてぼっち人間にも気にかけてくれるほがらかさ。

 

 有りと言われたら有りになってしまうのか...... いやいやっ、何を模してアリなのか。

 この考えはあり得ないな。ア〇エナイザーだ。



「...... あの、怖いもの見たさで聞くけど」

「おう」

「は、浜慈君ってもしかしてそっち(......)の気があったり、する......?」



 俺は焦りに焦り、『ハハッ......』流れ出る汗が引かないミ〇キーの真似をするように『えんっ!』と喉を深めに鳴らす。

 恐る恐ると真下からゆっくり上がるような目線で問えば。



「どっちだと思う?」

「...... っつ!?」



 不敵な笑みと。

 含みのあるその一言で脳から何までが回り巡る。

 

 そして身の危険を感じたもすぐに、《ガタッ!》と座っていた椅子を引いては腰を上げて窓際、ではなく後ろ手にある掃除用具の通りから逃げおおせようとしたが――行く手を防がれた。


 ”いわゆる壁ドン”。



 背中は壁となり、両脇は遮蔽物しゃへいぶつと伸ばした腕と手で制されてる。

 まさか直に体験する事になるなんて......


「おいおいどこへ行くんだよ、勉強してる途中だろ」

「な、なな、何の?」

「はぁ? テスト対策してるって自分で言ってたんだろうが」

「あ、うん。で、ですよね」

「じゃあなんで逃げんだよ」

「そ、それは浜慈君が...... こんなことをするからであって」

「どんなことだ、もっと具体的に言ってくれなきゃあなぁ」

「くっ......」



 逃げ道が防がれては手詰まり。

 夕暮れになるには早すぎる時間帯ではあるけど部活もない為に外は静まり返っている現在、壁側に追いやられてるせいか浜慈君の声がやけにイヤらしく聞こえる。これはわざと発音しているのかも知れない。


「ひ、酷い。最初から俺の身体が目当てだったんだ」


 浜慈君にノリを合わせるとしたらこの手の台詞を出したい所ではある。

 が、もし冗談でないとしたらどうなる...... やばい、ヤバスティックウェーブだ。

 はっきり言わずとも腕力じゃあ適わない、脱出の糸口がないなら強気な彼にこのまま流されるがまま...... とその時。


 俺の脳内に降りてきたのはかの有名な台詞。

 


 【黒沼乃君、諦めたらそこで一環の終わりですよ】


 よもや何の感動もない。

 場面にそぐわないとしても俺の場合終わるのは試合ではなく貞操。

 女じゃない、男なんだ。せめて抵抗だけはしないと。

 


「んっ!」

 

 肘と同時に五本の指を内側に畳むように引く、手のひら下に当たるように思いっきり横からの掌底しょうていっ。つまりはど突きだ。

 そう彼の腕をどかそうと三回ほど繰り出してみたけど、街中もっ〇りスイーパーーみたく上手く決まらない。か弱すぎて微動だにしないというね。なんて弱さだ......


「えっと、浜慈君のおふざけなのは分かってるから、だから。この手はどけて欲しいかなぁって思ってるんだけど......」


「じゃあ、ふざけてなければ良いわけだ」

「え」

「それにノンケ(異性愛者)かどうかはそっちから聞いてきたんだろ、悪いな沼像、もう隠すのは止めだ。実を言うと俺も前々から狙ってたんだよ。こうやってまたとないチャンスを、な」


 言うがままに彼は右人差し指を向けてくる。

 片手を壁に付けた姿勢のまま『ツー......』と卑猥な手つきで下から上へカッターシャツのボタンをなぞるように......


「や、やめ――――」


 目の前にある肉質で男らしい身体に圧倒されてか、抵抗せんとする声すらも出せない。卑しくは雰囲気か、俺に出来るのは唯一、顔を横に向けるなり身体を壁側へと押し付けることだけ。逃れる術なし。


 ここまでなのか...... 俺の男としての人生はここで潰えてしまうのかっ......


 そして、いよいよ彼の指が喉仏のどぼとけへと到達すれば〈顎をクイっ〉と、持ち上げては来ず。

 顎クイはおろか――頭上へと舞い上がったその手は容赦なく「ストンッ」と下された......




「いや、・あ・る・訳・ね・ぇ・だ・ろ・っ」



 俺の頭めがけて片手チョップ。

 

「俺は正真正銘しょうしんしょうめいゴメちゃん一筋だっての」


 言うが早し。

 何時もながらの決まった台詞を言ってのけながらも俺から距離を取る浜慈君。

 程よく加減してくれたとしても叩かれた箇所は痛みが残り続けていて、というか普通に痛いんだけども。

結局はおふざけであったが故、息苦しさから解放されると同時に「サァー......」と不安感は抜けていく。はては緊張も解けてか、もたれていた壁から背中を引きずるように地に尻もちをついた。


 ただ彼も彼で慣れないことをしたって感じで気まずそうに肩をすりすりとさすってるみたいだ。



「沼像の頭ん中によぎってんのはいわゆるボーイズって奴だろ? 体良く想像するだけに留めとけよまったく、男同士でつるんでる連中は皆ホモダチって事になっちまうだろうが」


「あ......」


 その言い表し方はいつかの誰かさんが言いそうなセリフだと思った。

 身長や体格の差から今では言えなくなった台詞を、気付かない内にこんなにも女々しくなっていたという事も......


「その気がなかったら何で思わせぶりなことを?」


 余りの事に一瞬呆然としていたが俺はそう浜慈君に問いかけると「無駄に警戒してきたもんだからよ、ついな。その反応見たさにからかって見たくなっただけだ。他意はないから安心しろよ」腰が抜けて立てなくなってる俺の手を取りながらも言う。


 考えて見たら浜慈君は単に感想を述べただけで、こっちが勝手にあらぬ勘違いをした。

 男の友情が恋愛に変わるなんて早々あるもんじゃない、他ならぬ俺自身が散々思っていたことじゃないか。浜慈君のいう事はもっともだ、妄想も体外にしろよって自分に向けて言い放ちたくなる。



「そうだったんだ、なら安心」

「おかげで可愛い反応は見れたけどな」

「...... うっ」


 起き上がらせてもらった直後にまた、怪しい発言が出る。

 俺は当然身の毛が立つようなに苦声を上げるも浜慈君は「そーら、疑わしくはその目よ」と即座に反応してきた。 


「まぁ受け入れるっつうのは酷な話だけどもだ、嫌がってる姿ほどそそられるってな。追い詰められて悔しがる顔を見せようものなら衝動から痛ぶりたくなるって言うだろ」



 浜慈君が前に言っていた〈嫌よ嫌よも好きの内〉は思い込みからくる精神面での話。

 

「良いじゃないの」はもはや現代版として使われてるかは微妙なところだけど。

「良いではないか」このような口上から連想されるような作劇は時代劇だとお馴染みの光景だろう。

 アニメ脳、いや男の俺からすれば鎧を身に纏った上流階級の騎士、それも気高く忠誠心の固い女の人が捕まった際に生き恥を晒すくらいなら、「くっ殺せ!」いっそのこと命を絶ってくれという台詞を放つも、その歯を噛みしめて悔しがる様は|相手からしてみたら逆に...... ってな具合で。


 外見(表情)から取り込まれる情報量は時として理性をも狂わせられかねない。

 要は気を付けろよってことなんだろうけど。

 


「ってなことで、いくらゴメちゃん一筋と言えど事と次第によっちゃあ本当に襲っちまうかもな」

 


 冗談交じりの発言なのか、はたまた......

 俺の髪をわしゃわしゃとかき乱しながら口にした浜慈君。


 取りあえずはその言葉を最後にこの手の話は区切りがついた、のち。






「――――んじゃ、誤解も解いた所でテストの話に戻んぜ」



 話がアレな方向に脱線しすぎていたこともあってか。

 浜慈君の一声で本題を思い出した俺は自席に向かうことにした。



「確か沼像って数学が苦手なんだっけか」

「うん。一応」

「おいおい、んな嘘つかなくても、先生に当てられては分かりませんを連発してんのは知ってるっての」

「...... ああ、そういうことなら、うん。浜慈君が知り得てる通り特に英語と数学がまるっきしダメで」

「ちょうど、復習中だな。どれどれ......」


 そうして椅子に座り込んだ俺を横から覗き見る浜慈君。

 言ってる傍から顔と顔の距離が近いんですが......

 

 授業の様子はないし人にノートを見られる恥ずかしさもさることながら、さき程の事が頭から離れず。

 微弱にも俺の中で浜慈君の疑いが晴れないでいると・唐・突・に指摘が入った。



「ここのスペル間違ってるぜ、ここはaじゃなくてeだな」



 station{e}ry


 station{a}ry



「単語のスペルはローマ字で覚えるんじゃなくて言葉で考えることを念頭に置いとけば、間違いも減る。これはまぁ基本だよな。stationeryステーショナリーだから〈リー〉の部分を伸ばせばeってなる感じで」



「文法の方も怪しいな...... こっちは分けて考えたり、単語の並び順に注視してみればいい。ああ、例えば3つキーワードに分けてだな」


 <私は リンゴを1つ 食べました>

 



 S:Subjectサブジェクト (主語)- 私は

 O:Objectオブジェクト (目的語)- りんごを1つ

 V:Verbバーブ (述語) - 食べました


 C:Complementコンプリメント(補語)


「それぞれSOV、C型、と。別々に形取ればそう難しく考えなくて済むようにはなると思うぜ。それから抑えとくべきなのは5文型、動詞、時制――」




 ...... 単語のスペルから文法、比較、受動、動名詞、不定詞等。


 一応は頷いたり、理解している風を装うも苦手意識はそう簡単になくなる筈もなく。

 色々と簡単にアドバイスしてくれる中でただ一つ分かったことは、浜慈君は英語が得意だという、その一点だけ。俺は目が点となりけりで思わんとした彼の一面に驚き固まっていたせいだろう。

 スラスラと青ペン先生みたくノートに書き記してくれていた筆を一旦止めると。



「以外だったろ?」


 自らそう聞いてきた。

何がとは言わない、思いの他英語が出来るという事に関してだ。

俺は反射的に「へ、いや......」遠慮気味な返答しようとしたがやめた。躊躇いつつも「うん、驚いた」と、そうやって肯定すれば浜慈君は自分でもキャラじゃねぇよなとして「んまぁ当然だな」すんなりと言ってのける。



「あの、驚いてしまった後でいうのもなんだけどさ、似合う似合わないかはまた別だと思う。英語が得意ということの事実は変わらない訳なんだし、そこは胸を張るべきだよ」


 しかしそんな彼に俺は何かしらのフォローを入れようとするも今度は「いいや、似つかわしくないってのは自分でも思ってるからよ」と自身を否定。

 薄く笑みを浮かべてはノートに視線を落としてる。


「普通に好きってよりかはいずれは必要になると思ってたからなぁ、ちと予定は狂っちまったけど...... それのおかげでテストの成果として表れるって考えれば悪くはねぇか」



 陽気でいる浜慈君は時々、今みたくどこか遠くを馳せるように曇りがかった表情を見せることがあるが。

 俺にせよ、立花さんにせよ、会話の内容によって入るスイッチはそれぞれ違って、反応からして彼にも事情があるって事なんだろうけどそこはプライベートに関することだから聞けない。自分から話したいとも思ってなさそうだ、と。


 ナーバスな部分が垣間見えたのは一瞬だけだった。



「あっと、何だか辛気臭くなっちまったな。けどさっき言った要点をある程度抑えとけば英語は大丈夫ってか。ノートを見る限り重要な点のまとまりは取れてると思うからよ」


「うん、ありがとう」


 まぁ覚えるべくして良くまとめられてる箇所は先生の助力によるものなんだけども。普段描き写してる箇所は褒められたもんじゃないし。

 


「さってと...... 俺はそろそろ帰るけど、沼像はまだ残ってるんだろ」

「そういう浜慈君も家で勉強を?」

「いや、ちょっとな、人を待たせてる。勉強会って奴だな。すっかり忘れちまっていたが行かねぇ訳にもいかねぇからよ」

「そうなんだ、約束をすっぽかすのは良くないしね」

「だな」




 ...... そうこうとしてこの気まずさ加減よ。


 よりによって帰る時になってまで微妙な空気になるなんて。

 

そこはただ一言「おう」とだけ答えてくれれば済む話だった。

浜慈君は逆に悪いと思ってか正直に言ってくれたんだろうけどこういうのが苦手だ。

 『...... 君も来る?』と同情から誘われる、誘ってくれるわけであるからして。


 声を掛けた方と掛けられる方の両者が何とも言えない状態になってしまうこの感じ。ちょうど体育でペアを組んだ時の再現だ、会話が早々に途切れてはこんな感じになる。

 しかもこういう時に限って言葉が浮かんできてくれない。

 友達と名乗るまでにはいかない距離感であるからこそ出来てしまう間。

 嫌だなぁとした時――突然痛みが走った。



「何はともあれ、互いに残りのテスト頑張ろうぜっ」



 肩に手が触れては離れ、帰り支度を済ませた彼は教室から去って行く。



 栄田先生一筋で煩くいながらも気を利かすことも出来るクラスのムードメーカー。再び独りでとなった俺はテストへの余念をいっそうと強める中で、浜慈学という人を再認識した。


 有りよりではあるんだけれども、当たり前に無しだと......



 



言い訳のしようもないのですが。

作者はれっきとした男です......

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