期末テスト1 嬉し悲しいお告げ事、夏を存分に楽しむ前に成すべきこと
そうこうとテストを前にして慌ただしくあった教室も「着席しろー」担任の合図で静まりゆく。
「皆おはようさん、前々から言っていたように今日からいよいよ期末テストが始まる訳だが...... 対策の方は順調か? 大なり小なりとそれぞれ対策をしてきてるように思うが頑張ってくれ」
ホームルームにて。
いつもながらに眼鏡を着用、黒いスーツをバッチリ着こなしてる栄田先生は勉強に費やしているかの質問を出すやも、生徒の返答を待たずしての声援をおくる。
聞いた所で結果は同じようなもので「やってきてます」と返ってこようが「ならばよろしい」と一連のやり取りがあるだけろうから敢えて言わないでいるんだろうな、みたく考えていれば先生は「結果が楽しみだな」とした風にほくそ笑んだ。
テストが終われば学生にとっては大変喜ばしい長期間の夏休みが控えてる。
燦々と輝ける海に、夜空に咲く花火、大会前の合宿や、学業を忘れての旅行等。
早る思いで過ごし方などの計画を練っている者もいることだろうに。
けれどもエールを掛けた後に栄田先生が続けて発するはそういった楽しみだったり興を削ぐ一言
「ちなみに分かっていると思うが点数が規定水準値に届かずに赤点を取った場合は補修となっている、ふふ。夏休みも先生方ご指導の元勉強出来るんだ、嬉しいだろう?」
皆は一瞬にして帰る場所は否、我に返っては『これほどに嬉しいことはない』のとは逆の感想を抱かせられたのか。
「げぇ、全く持って嬉しくねぇ......」
「せっかくの夏が勉強に当てられるなんて冗談じゃないっての......」
「ああ、潰されてたまるかよ...... 先輩達の想いを今までの努力を無駄にはしたくねぇ、全国が掛かってるんだ。こんな所でつまずいてられっかよ!」
「気持ちは分かるけどな――お前か型抜き部だろ、大会っつっても夏祭りとかにあるだけろうし、補修と関係なくね? そんないきり立つほどのもんかよ」
「おまっ!、それ部活差別っていうんだぞ、先輩達に詫び入れてこい!」
...... ある一定の会話を除いてあちらこちらから聞こえて来るのはやはり、夏休み期間中に時間を取られるという愚痴めいたような患い文句が多い。表だって声には出さないけど俺とて、もちのろんで彼らと同調する気持ちである。
――しかしそんな中でも1人だけ嬉しそうに返答するものがいた。
俺はその方向を見やる。
「夏休みも勉強上等! ゴメちゃんの補修ってんなら喜んで受けますよっ、俺はね」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか浜慈、だが言っておくがわざと赤点を取るようなことはしてくれるなよ。表記欄に名前を書くことを忘れたりするのも無効だ。その場合は即座に名前を書き込むように申し立てるからな」
「何ですと...... !」
『どんと来いっ』と余裕の表情から親指で自分を差し向けながら鼻高々に決まり文句を言ってのけるも魂胆がバレバレ。幾分ショックを隠し切れない浜慈君、彼のムンクの叫びを思わす阿鼻叫喚が教室中に鳴り響いた瞬間であった。栄田先生による彼の好意を受け流すテクニック恐るべしだ。
だが奇しくもクラスのムードメーカーらしく笑いもそこそこ起きはした。
ともあれ、彼に好意的に見られていようがいまいが先生は浜慈君だけを特別視しているわけじゃない。
「お前たちの事は常日頃から見ているんだ、先生ともなれば個々の学力は量り取れるものと知っておけ。さすがに答案を見るなどの不正行為はしないだろうがそこら辺も目を光らせてると思っておけよ。とまぁ...... 夏休みをめいっぱい堪能したいのなら藁をもつかむ思いで励むことだな。では私はテストの準備に取り掛かるのでこれにてホームルームは終わりとする」
いつもは浜慈君の熱視線や物言いから逃げるように出て行くところだけど今回は先生に軍配が上がったようで、最後に健闘を祈ると共に注意事項を言い渡すと清々しい表情で教室から出て行かれた。
『どういった対処法を取ればいいか分からず臆してしまうんだ』
ああは言ってくれていたけど栄田先生は相も変わらずの浜慈君が惚れこむほどに先生なんだなって......
***
待ちに待たずして。
そうして始まったテスト一日目は家庭と理科。
人それぞれ得意科目があるものだが俺が苦手とするのは数学と英語だ。
なので今日の所はなんとか乗り越えられそうと思ってはいたけど、問題を見る限りは中々に苦戦が強いられそうだ。
第一に家庭の問題で出て来るのは【人の一生であったり社会性に関すること】であって、家で母親の家事手伝いをしている俺には造作もないことなのだが【洗濯物を上手に畳む方法】や【卵焼きを上手に作る焼き方など】問題には当てはまりそうな所は何一つとして出て来ることは無い。
――出て来る問題は以下の通り――
《自立とは》
<他への従属から離れて独り立ちすること>
《自律とは》
<自分自身で立てた規範に従って行動すること>
単独世代はどのように変化したか。
<増加した>
その原因は<晩婚化、非婚化、一人暮らしの期間>
どちらにしても暇をしている時間に片手をちょこっと添える程度のお手伝いをしているぐらいではダメなんだろうな。むしろ多く被せてようともテストに影響なし、試されるのは先生の話を聞いていたり普段どれだけ勉強しているかの座学。
第二に理科、もしくは物理化学は【物質の構成】純物質と混合物。
――こちらも同じく出て来る問題は以下の通り――
《次の物質を純物質と混合物分類せよ》
ア 石油 イ 塩酸
ウ 鉄 エ アンモニア オ 食塩水
・純物質とは一種類の物質から成るもの。
・混合物とは二種類以上の物質が混じりあっている物。
よって答えは......
純物質 <ウ> <エ>
混合物 <ア> <イ> <オ>
...... 難しい問題に突き当たろうと不正はもっての外、問によっては当てずっぽうであれ俺は由緒正しく頭を捻りながらも答えを埋め込んでいく。
斯くして1限目と2時間目は淡々と過ぎていき。
この日のテストは無事終わりを迎えた。
さて、皆の反応はと言うと——
「くぅ~疲れたぁ......」
「ふぅ~終わったぁ......」
「はぁ~眠ぃ......」
感想は二の次ひとまずは安堵感が先に出ているって感じで息がぴったしだ。
伸びをしたり上を向いて放心、全てを出し尽くしてダるんダるん状態となっている者が多い印象が見受けられた。
しかしそれも数分足らずの間であり次第に感想についての話題が飛び交い出す。
〉まずは左方向と言いたいが、俺がその左に位置しており窓際には誰もいない。
その為やや右方向にいるグループの会話を切り取って見ると......
「なぁあの部分解けたか、力学的エネルギー保存の法則って奴」
「いいや、さっぱりだ、なんて言うか復習している時は解けるけどいざテストとして出て来たら別の問題に見えてくるんだよな 家で歌うのとカラオケでマイク持って歌うのとじゃあ違う感覚みたいに思えるってか、ああカラオケ行きたくなってきたぁ! よし行こうぜ」
「いや、の前に次の対策だろ。早くも現実逃避してんじゃねぇよ」
「なら、勉強用具を持参してならいいだろ、な」
「...... ダメだコイツ」
〉次は後ろ方向にいるグループの会話を切り取って見る。
「ああもうっ、最悪! ぜんぜん分かんなかったし~、マジにテスト嫌いだわ。この世からなくなんないかなぁマジに、こうだから頭が良すぎる男とだけはずぇ~ったい! 付き合いたくない! 付き合うならスポコン男子一択だわ」
「何言ってんの知能があるからこその人間なんだろ、そういう何時もの文句は後で聞くからサヤはとりあえず勉強しようか。今更言うようじゃ遅いけど疑似でもいいから勉強を彼氏と思えば気晴らしにはなるんじゃない」
「なーる、律、それ良い提案じゃんね。んー、私的に理想は短い髪に眼鏡をかけてスーツをバッチリ着こなしてるぐらいがタイプかな」
「ってなると、まんまゴメちゃんが当てはまるね」
「そうなんだよねぇ。背だって高いしゴメちゃん先生が男ならワンツーマンで勉強教えて貰うのに」
「それ絶対勉強を隅に置いてるよな」
「はぁ、ちゃんと見るし、主に顔とか――ってか、みやむーテンションどした?」
「んあ? ああ、解けた所もあったり、なかったり...... まぁ普通ちゃ普通だな、それよりかは」
「それよりも?」
「大方気になることでもあんだろ、紅奈の視線を辿れば必然とな」
「っつ...... ! だ、誰が緒方の事を見てるって!」
「いや、一言も言ってないし。ああでもそういうことね、幸せもんはいいなぁ。テストの事を忘れさせてくれるんだもん」
「えらく便利な魔法だなっ。そ、そもそもそそ、そんなんじゃねぇよ。さ、さぁて明日の事もあるし早めに帰って勉強すっかなぁ~っと」
〉最後に右方向にいるグループの会話を切り取る。
むしろ二回またがずに最初から見るのは芽森さん達だけで良かった気がする。
「はぁ、今回も楓のおかげで助かりそうだよ。毎度毎度ありがとうね」
「別に、例には及ばないよ。あたしが文音の力になりたいだけだしね」
「てかてか、かえっちって教え方上手いよね、おかげで様で不思議と今回は相当自身あるよ」
「どういたしまして、緑の場合は苦手な部分を消すだけだったから教える分には問題はなかったりしてるよ」
「めもりんとの温度差! これが幼馴染という奴ですかい。むぅ、どうにも肩身が狭くあるなぁ」
「そ、そんな大層なものじゃないから。緑も勉強回に参加してるんだし、ねっ、楓」
「仮にどうでもいいと思ってるならこっちから教えたりはしてないよね」
「め、めもりん、かえっち...... ああ、あたしゃあ、感動したぜ」
「そういう安っぽな演技はいいっての」
「あらま、バレちゃってる」
「全くもう、調子がいいんだから緑は」
......うん。
ただ切り取ってはみたものの半分妄想による会話である。
芽森さんとは机が数個分離れている上、横からの声に遮断されては声が聞こえる筈もないから、実に残念だ...... しかし彼女達の性格から考えても似たような会話回しにはなっていると思う。
〈芽森さんがお礼を言うも、楓さんは何時ものことだしねと気にも止めない、そこで立花さんがてんやわんやと割って入る〉といった具合に。
正直言って芽森さん達の学力がどれほどのものかは分からないもの。
まぁあくまでもキャラ性から見るイメージに沿っての予想なのだけれども。個人的には虚しいながらもあの中に入れでもしたらなぁとかも考えていたりもしてはいる...... ほんと虚しい妄想に過ぎないけど、もしそうなればちょっとしたハーレム状態になるのか。
いやまぁ、取りあえずは芽森さんグループの視察もほどほどにテストに目を向けるべきだな。
一日目が終わったからといっても気を抜いたりは出来ない。ならば残りのことを考えたらどうあるべきか――校内に残って居残りで勉強すること。虚しいかな俺の勉強法はその一手しかないんだ......
***
テスト日は勉強に専念する為にも半日で終わる事になっており。
それも五日に分けて少しずつやっていくという形を取ってる。
学校の方も午前中で終わる為、校内に残っていても特段やることがない。
学食は開店していようと部活もなければ、授業もないのであればわざわざ残る者は少なく。ただししばらく教室に居座って会話に花を咲かせる人達はいる。それでも時間が経てば1人帰り、また1人帰っていけば教室にいるのは遂には俺だけとなった。やることと言えば勿論勉強だ、家でやるよりはここでの方が集中出来るというもの。
そこで何分か机に座って教材を並べた俺はテスト対策に取り掛かる。
ペンでチェックしている箇所を見たりノートを確認したりと、『ここは重点的にテストに出るからな』とあった所などを復習していると、うっすらと物音が聞こえてきて。
せっかくいい感じで集中していたのに誰だよと...... 顔を上げてそちらを見やると扉前には一つの影が映っていた。
後で付け足そうかなとも考えていますが。
他の描写を踏まえても、やはりと言いますかテスト描写はこれが精一杯でした......
それとフィクションとはいえ型抜き部ってなんだよ、って思う......
そもそもそのような部活が存在するのだろうかって。




