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変態は無害なのか?

蝶化身を倒した志記は慌てて屋上から去り、二階にある対魔部の部室に来ていた。


「お帰り。まぁまぁ頑張ったんじゃない?」


開口一番、曜の口から飛び出したのは、そこそこ良かったという評価であった。


「フヘヘヘヘヘヘ…………頑張ったんで、抱きしめていいですか?フヘヘ」


志記は、限られた制限の中で本気になったというのに、この言いようだったために、ムッとなって言い返すと、曜は顔を真っ赤にした。


「なっ、馬鹿!死ね!」


志記は部屋をキョロキョロと見回すと、口を開く。


「他の皆は?」


「あぁ、それなら、地下で妖怪と戦っているわよ。あれでも皆、異能を持つ人達だから」


「へぇ…………ん?なら君は今、俺と二人っきりってことですか!?フヘヘ……」


「な、バカッ!」


突然の志記のセクハラに、声を荒げて曜は何処かへ去っていくのを見て、志記は息をつく。


「さて、“頑張ったんじゃない?”か。ってことは………」


独り言を呟くと、志記は部室のテレビに向かい目を閉じると、テレビから僅かに魔力の残滓を感じた。


「やっぱり、牛鬼の目を通して観てたんだな…………あれ?けど、戦闘を見てたのに、普通に話してたよね?」


志記は自然と口角が吊り上るのを感じずには居られなかった。


「あちゃー………ちょっと悪い事したかな?いや、まぁ、お互い様ってことで…………」


ポリポリ頬をかくと、志記は地下へと続く道を探しに、部室を後にした。


「とは言ったものの………何処から手をつけていいやら…………む?」


また、あの魔法を使う際に聞こえるキィィィンという耳障りな甲高い音が志記の耳の奥で響いた。


「ふむ、戦闘中か…………うーん、困ったなぁ地下に皆がいるのはわかったけど、どうやって合流すればいいのやら…………あれ?」


ふと、自分の手を見れば鞄が目に入る。


「別に付き合う必要も無いし、帰ってもいいんじゃね?よし、帰ろう!俺は何も見てない、聞いてない、知らない、何もしていない!」


「へぇ〜此の期に及んでまだ逃げようとするんだ?」


「ヒィッ!?」


志記は驚いて、特別な歩法、瞬影によって声の主から瞬時に距離をとる。


「えっ?」


今度驚いたのは、志記ではなく声の主、曜であった。


「な、なんだ、曜か、驚かせるなよ、夜の校舎は怖いんだぞ?」


「え、それよりもアンタ、今消えて…………?」


「フヘヘヘヘヘヘ。そんなわけないだろう?これは俺が覗きをするために会得した、瞬時に相手の死角に潜り込む術だよ」


「な、やっぱ変態なことしかしてないんじゃないの!」


「フヘヘ、まぁな」


「誇らしそうな顔してるんじゃない!」


「いやぁ、置いてかれて寂しかったから、しょうがないよね」


「逃げようとしたくせに………」


その一言で志記は、うっ、と言葉に詰まる。


「はぁ。もういいから、行くわよ!」


「何処へ?」


「もちろん、宝物の在り処へよ」


曜が、ニヤリと笑って志記の手を取ると走りだすと、志記も溜め息をついて曜に歩調を合わせ、駆けだす。



二人がついた場所は、一階にある食堂であった。昼は大いに賑わうそこは、陽が沈むと不気味な雰囲気に姿を変える。


「ここよ」


曜は志記の手を引くと、食堂の隅まで行き、壁を押すと、グリンと壁が回転する。


「どんでん返しか…………」


「何してるの?早く行くわよっ!」


曜は、惚けていた志記の手を取ると、ズンズンと階段を下っていく。


「わ、わかった…………」


やがて、階段が終わると、神秘的で巨大な祭壇が目に飛び込んでくる。


「うわぁ…………すげぇな!」


「驚くのは後!早く皆に追いつくわよ!」


「うわ!」


曜は志記の手を更に強く握り、また歩き出す。


暫くすると、目的の場所に着いたのか、立ち止まると、目に入るのは大量の紫水晶が通路の両端を挟み込むように、所狭しと並んでいる光景だった。


「ふぅ。追いついたけど、もう戦闘は終わったみたいね」


「あ、曜!と、蒼海君も、無事だったんだね」


一番早くに気がついた要が、志記達に走り寄ってきて声をかける。


「おう、無事だったか。というわけで、おめでとう。これからお前はこの“対魔部”の一員だ。よろしくな」


「えっと…………拒否権は?」


「まぁ、拒否してもらっても構わないが、リスクの方が大きいと思うぞ?知ってしまったからには、後日何も知らされずに殺されるか、私達があの魂塊石を守りきれずに世界が滅びて後悔するか、いずれにせよ碌なことにならないだろうからな」


志記はなんとなく、自身がこの部活への入部を断った場合による未来が想像できてしまい、少し考えて大きく溜息をつくのだった。


「はぁ〜分かりました、分かりましたよ、謹んでこの部活へ入部させていただきます」


「やったー!蒼海君と一緒だよ!」


喜びの声をあげたのは静であった。


「へ?」


「あ、いや、なんでもないよ、うん」


「まぁいい、ほら、あれが私達の最終防衛目標である、魂塊石だ。よく目を凝らして目に焼けつけておけ」


雫が指差した先にあったのは、淡く緑色に輝いている、石というよりも、宝玉のようなサッカーボール大の珠が祭壇の上に安置されていた。


「あれが…………破壊するとかはできないのか?」


「そ、そんなことしたら、よ、妖気が外に漏れて、妖怪達が活性化して世界が滅んじゃうよ………」


志記の楽天的な意見に要が否定をすると、志記は肩をガックリと落とす。


「そもそも、あの魂塊石の素材ってなんなんだよ…………?」


「さぁな。ただ、言えるのは碌でもない代物で、壊すことも渡すことも移すこともできないってことだな」


「ふぅん、正体不明の物質を、正体不明の敵から守れってねぇ…………ま、いいさ。今日はもう帰っていいんだろ?お疲れ様でしたー」


志記は気の抜けた声でそう言い手を振りながら、踵を返して、元来た道を戻っていくと、曜もそれを追いかける。


「あっ!ちょっと!待ちなさいよ!」


「ふむ。では、私達も戻ろうか」


雫がそう言うと、一様に皆は頷き、地上への道を帰っていく。

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