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元勇者は学園の裏を知る

「まず、この学園は今から百年以上前に作られたと言われている。その前は金貸し屋、その前は武家屋敷だったりと、形を変えながらも、しかし、全て同じ土地の面積だったという。何故だと思う?蒼海!」


突然始まった雫の授業方式に戸惑う志記だったが、少し考えて口を開く。


「うーん、偶々…………は考えられませんよね。考えますから睨まないでください」


志記はドキドキしながら顎に手を置き、考えるそぶりを見せる。


「ふむ、学園の立地………?」


この私立 みさご学園は、都内の外れにある、特に目立った特徴のない学校である。しきたりや習慣を大切にする校風が100年も前から受け継がれている。


「いや、立地は関係ないな。面積が同じだったと言っているだろう?」


「あ、“魂塊石”………?」


志記は、ふと頭に思い浮かんだフレーズを呟くと、雫は少し嬉しそうにした。


「ほう、分かっているじゃないか。では、それは何かわかるか?」


「さっぱりです」


即答で肩を竦める志記に、雫は頷いた。


「この魂塊石なんだが、持つものの“妖力”を高める性質を持つらしい、これが一度だけ妖怪の手に渡ってな。当時は日本中に災害や暴動が広がったらしい。だから、魂塊石が二度と妖怪の手に渡らないように、それを遥か何百年、あるいは千年も前から守り続けているというわけだ」


「それが、この大麻部と何か関係があるんですか?危なそうな集団っぽい名前ですけど」


志記が袋から空気を吸うジェスチャーをすると、ピキッと雫のこめかみの辺りに血管が浮かぶ。


「今の話を聞いていたか?どう考えても薬ではないだろう!魔なる者に対抗する部活で“対魔部”だ!馬鹿者め!」


「あぁ、対魔ですか!なるほど!」


志記がポンと掌を叩いた瞬間、タイミング良く、けたたましいアラームの音が部室中に響く。


「妖怪………ですわね!」


「おっと、もう夕暮れか?総員戦闘配置につけ!」


イズナと雫が言うと、志記以外の全員が頷き、戦闘の準備をする。


「俺は何をすればいいんですかね?」


取り残された志記が雫の元に寄って、声をかけると、雫はニヤリと笑う。


「囮だ。百瀬!」


「了解よ!」


「え?え?なにが始まるんです?」


「蒼海!お前に重大な初任務をくれてやる」


いつの間にか曜が召喚した、牛鬼が、志記の制服の襟を咥えていた。


「え?ちょっと待って!?キモ!え?気持ち悪いです!なんで頭が牛で、体が蜘蛛なんですか!?」


「そういう妖怪だからとしか言いようがないな」


「そもそも式神とか言ってるくせに、妖怪を使役してるなんておかしくないですか!?」


「いいえ?式神は鬼から妖怪まで幅広く指すのよ。ほら、時間もないし、さっさと行って来なさい!」


「ヒャワアアアアアアア!?どこ行くの!?」


ドシンドシンと音を立てて、牛鬼は志記を連れて行く。


「さて、これで昼の妖怪の謎が解明されるな」


「そうですね、まぁ、アイツが戦う力を持ってるとは思えないけど」


「そうですわね」


口々に志記を侮る言葉が飛び交う中で、静はひっそりと合掌をしているだけだった。




「ひぇぇぇぇぇぇ!?」


場所は変わって、屋上。人気がないそこには、蝶の羽を生やした青年が立っていた。そこに、


「ぇぇぇぇぇ!?っげぶら!?」


牛鬼の猛スピードで連れ回され、急ブレーキで止まったために、凄い勢いで吹き飛ばされた志記がやってきた。


「いてててて、俺何も悪いことしてないのに……………」


「……そうですよね。世の中なんて下らないですよね」


「はぁ、妖怪ってのは、人型で悲観的なのしかいないのか?」


志記が呆れたように言うと、白髪の青年は大きく羽を広げると、空から人が二人、落ちてくる。


二人とも女子生徒ではあったが、志記とは面識がなかった。


「え?誰?」


「………部下ですけど?」


白髪の青年は女子生徒二人に命令を下すと、自身は大きく空へ羽ばたく。


「………自分と同種に殺されて恨みやがれ…………です」


「オイオイ、口悪ぃな!オイ!」


女子生徒二人何処からともなく刀を取り出すと、駆け出し、志記に斬りつけるが、志記は向けられた切っ先を最低限の動きでかわす。


「残念ながら、世界なんか、滅びちまえなんて何千回、何万回も、思ってるんでね!」


二人が息を揃えて縦に大きく振り抜いた瞬間を見計らって、刀身に掌を添えて裏拳で刀を破壊する。


「……………無駄な事をするのは人間の面倒な習性です。………今度こそ死にやがれ………です」


白髪の青年はまた大きく羽ばたくと、破壊された刀の破片が集まり、修復される。


「っち!面倒な!オイ、囮としてはもう十分戦っただろ!?」


志記が叫ぶと、牛鬼の口を介して曜の声が届く。


『悪いわね!不測の事態が起こったわ!そいつは囮!本命は地下に向かってるわ!さっさとその二人を倒してこっちに合流して!』


「それはできない!あの二人は人間だ!恐らく操られてる!」


『じゃあ、気絶させるなりなんなりすればいいでしょう!?』


「だから!出来ない………出来ないんだ…………」


それは神による誓約の力。人間が大好きな神様に、志記は“人間を傷つけず、人を害するものに刃を向ける”ことを宣誓する事を代償にして絶大な力を手に入れた。


それが、志記が暴れられなかった理由であった。


当時、愚王は志記が人間と戦えない誓約の事を公布した。


魔王が死んで、始まったのは人間同士の戦いであり、変わらぬ生活に不満を持った国民が勇者である志記にそれをぶつけたという裏話があるが、それがわかるのはもっと後の話。


『いいから、さっさとその二人と蝶々野郎を倒すこと!』


「はっ!?おいっ!?ちょっと!?」


大きく開いていた牛鬼の口が閉じられると、そこからは一切声が聞こえなくなった。


「チッ!やるしかねぇのかよ!」


志記は空を優々と舞う白髪の青年を睨みつけ床に手をつくと、目を瞑る。


(【スペースリンク:カバン】)


時空魔法。それが志記に許された、唯一の属性魔法。それは、魔力の許す限り、時間と空間を自在に操るチート属性である。


異世界アヴァレンスの、人間の大陸でも扱うことができたのは勇者である志記と、志記をアヴァレンスへ喚び出した張本人である王女、カルム・フォン・スティールだけであった。


この魔法をたった三ヶ月で実用化できるレベルまで昇華出来たのも、志記は、自身の努力によってだけではなく、王女であるカルムと親しく話し、研究を進めたからだと思っている。


志記は地面に開いた黒い穴から自身の学生鞄を取り出すと、昼間、鎌鼬の目の前でしたように、鞄に手を突っ込む。


「…………それは知っています。中から意味不明な液体を出して体を溶かすのでしょう?風に聞きましたから。…………させません」


女子生徒2人はゆらりと立ち上がると、刀を握りしめ、疾駆したのを見て、志記は聖水の小瓶を投げつけると、彼女たちはひらりと上体をそらしてかわす。


「はぁ、聖水はバレてるんだろうな。チッ!面倒だな!」


何故、志記の鞄の中に聖水が入っているのか?いくら余り物とはいえ、学校に行くのに、聖水を持っていく人間は特殊な状況下を置いて、まずいないだろう。


答えは、志記の鞄に施された細工にあった。この鞄は、中の空間を拡張して、道具をいくらでも入れることができる、所謂“どうぐぶくろ”になっていた。しかも、志記が勇者時代に使っていた道具袋の中身がそっくりそのまま入っている状態のままだ。


鞄から手を出した志記の手の中に現れるのは、魔王を一刀の元に両断した、人間が大好きな神様から賜った最強の剣、神剣ヴェンダルギア。


魔石から、魔鉱石を取り出し鍛え上げられたために、薄く、蒼く輝く剣の腹には何本も黄金に輝く“魔力路”が内蔵されている。


志記はそれを抜き放つと、白髪の青年めがけて槍投げの如く投げつける。


「フンッ!」


「ガハッ!……………なに?」


当然、結界も何も張っておらず、空にいて油断していた青年は、容易く神剣に貫かれる。


“魔力路”とは、文字通り魔力の通り道。そしてその先、剣の腹には、魔力のタンクとも言える白く輝く水晶が幾つも埋め込まれていた。


この剣の能力は至極単純。切ったものの魔力を吸い取ることだ。


「クソッタレの羽虫野郎、これで終いだ!【吸引】!」


しかし、シンプルでありながら最強、力を奪われた青年は羽ばたく為の羽すら消えてしまい、そのまま地面に落ちる。


「…………体が、維持できない………!」


「さぁ、降りてきやがれ!腐れ羽虫が!」


「……グッ…今………です!」


白髪の青年は最期の力を振り絞って、志記の両隣に居た女子生徒二人に指示を下す。


「奇襲も、仕草とか言動とかで成功率は下がるよな。さて、テメェの名前でも聞いておこうか?」


志記は剣戟をかいくぐりながら、ツカツカと青年に近づいていく。


「…………はぁ………はぁ………蝶化身………」


彼は、息も絶え絶えに、自身の名前を告げると、志記を指差す。


「…………君………は?」


「ハッ、アホぬかせ。誰が名前なんて教えるかよ何度も言わせてもらうが、俺は只の“元勇者”だよ」


鎌鼬の最期にしたように、鞄に手を突っ込む、そこから聖水の入った小瓶を取り出すと、キュポンと音を立てて開け、バシャバシャと容赦なくぶち撒けて浄化する。


やがて、蝶化身の姿が灰になると、中から1匹の蝶がひらひらと空へ舞う。それを目で追うように、志記は空を見上げた。


夕陽はとっくに沈んでおり、数多の星が爛々と輝いているのを見て、志記はやはりポツリとこぼす。


「…………ついてねぇよな………です」

やっと書けました!あれ?ここの話は学校と聖剣の説明回だけにする予定だったのに…………ありがとうございます!


修正しました!このページと、プロローグと、あらすじを修正いたしましたので、よろしくお願いします。


ちなみに、民衆は勇者は人間相手に攻撃ができないことを知ってはいますが、信用はしていません。それも、王は魔王を倒せば必ずや平穏な日々を送らせるというマニフェストを掲げていたにも関わらず、人間同士で戦争を始め、平和をなし得ていないからです。


王様は完全に信用をなくしました。


そんな王様が続ける内政に果たして民衆はついていけるのでしょうか?

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