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変態は異能から逃げ切れるのか?

ボン!という凄まじい音とともに屋上のコンクリートの一部が爆ぜる。


「あ、危ない!死ぬ!止めて!てか、破片が痛い!地味に痛い!」


「アンタが覗き見なんてしなければ、まだ生きられたかもしれないけど、残念ねぇ、死ね!」

「キシャァァァァァァ!」


曜から命令を受けた曜の式神である火車は吠えながら火を吹きながら、志記を鉄の柵の縁まで追い詰めていく。


やがて志記を完全に追い詰めると、志記は叫ぶ。


「う、うわ、放火だ!熱い!無理!死んじゃうからぁぁぁぁ!」


志記は叫びながら屋上の柵に手をかけると、何の躊躇いもなく飛び降りた。


「なっ!あいつ!変態の上に馬鹿だなんて!もういいわ、ありがとう火車」


シュン!という小さな音とともに、3メートルを誇っていた巨大な車輪は元の紙に戻る。


「はぁ、それにしても、あいつの死体をどう隠蔽しようかしら?」


そんなことをぼやきつつ、曜は階段をゆっくりと降りていった。


場所は変わって、一階の校舎の中。授業が始まっているらしく、昇降口は、朝の喧騒とは対称的にがらんとしていた。


「うぅ。教室に行きたくない…………」


「あらどうして?」


「いや、どうしてって、そりゃひか………り……が……?」


デジャヴ。ついさっき引っかかったばかりだというのに、同じ手に引っかかる変態バカ


つい先程と同じようにまたギギギッと擬音が鳴りそうなくらい、ぎこちなく首を後ろへ回していくと、やはり満面の笑みを浮かべた曜が居た。


「はぁい、こんにちは、私がどうかしたかしら?」


「う、うぎゃぁぁぁぁ!?で、出たー!」


「しっ!静かにしなさいよ!授業中よ!」


曜は唇に人差し指を当てる仕草をすると、志記は頭を抱える。


「な、何で君がこの場所を分かったんだ!?」


「あら、熱源感知なんて初歩の初歩でしょう?」


さらっと言う曜に志記は頭を抱えた。


しかし、転んでもただで起きる志記ではない。窮鼠猫を噛む。その諺のようにたった一つの打開策を思いつき、体を反転させて曜をビシッと指を指す。


「そ、そうだ!君は一つミスをした。今は授業中!こんなところでボヤ騒ぎがあれば真っ先に疑われるのは誰か?当事者たる君だろう!フヘヘヘヘヘヘ!勝った!つまり君は今、俺に手を出せないということさ!」


「あ、心配しないで?私は燃えるものを意識的に除外できるから」


「はい?」


志記が聞き返すと、シュボッという音と共に焦げ臭い匂いが志記の鼻を刺激し、更に服の端から異様な熱を感じた。


「オワッチチチチチチチ!えっ!?ちょまってこれ服の端に火がついてるよこれ!ちょちょちょちょっ!?消して!?ねぇこれ消して!?」


「え?なぁーに?あなたの存在を消せばいいの?」


「堪忍してつかーさい!助けてママン!」


焦ったように振舞っているが、会話の途中にネタを仕込む位にはまだ志記には余裕があった。志記は冷静に服の端についた火を手で包み込み、無詠唱で魔法を唱える。


(【バニッシュ】)


この魔法は、対象である魔法に込められた魔力と同等の魔力を流すことによって相殺させる魔法である。


手の中では火が消えているが、それは一切曜には見えない。


「あっちちちち!死ぬよぅ、無理だよぅ熱いよぅ!」


と、志記は地面に寝転がりジタバタと暴れる。


突然の奇行に曜は一瞬唖然とする。


その隙に志記はゴロゴロと廊下を転がっていき、階段までたどり着くと一気に駆け上る。この時、屋上に行く時もやっていたように瞬影をしながら動くのも忘れない。


「ハッ!あいつは!?」


志記の行動にあっけにとられていたが、曜はすぐにやるべきことを思い出し、志記を追いかける。階段まで追いつくが、既に志記の姿はなかった。


「あの変態!どういうつもりかしら!?」


上手く逃げ果せた志記に、曜は苛立ちを隠せなかった。


ガラガラガラという音を立てて志記が教室のドアを開けると、すでに授業が始まっていて、ホームルームを受け持つ担任であり、教科担任でもある現国の教師である竜胆りんどう しずくが詰め寄る。


「おい、どこに行っていた?」


「申し訳ありません!先生殿!溢れ返るパッションを発散しておりましたです!」


「はぁ、相変わらずお前は訳がわからないよ。もういい。席につけ」


言った本人も意味が分からないものを他人がわかるはずもなく、雫は肩を竦め、顎をしゃくって志記の席を示す。


「はーい」


志記は頷くと、素直に席に着き、腕を枕にして伏せる。


「大丈夫?先生に怒られちゃうよ?」


隣の静がクスリと笑いつつ声を掛けると、志記はパッと顔を上げて静をじっと見つめる。


「う…………な、何かな?」


「俺は寝ないように、君を見つめることにしたよ」


志記が毅然とした態度でそう言うと、静は小さく「やっぱり変態」と呟いて前を向いたのを確認すると、志記も前を向く。


しばらく経つと、カラカラという控えめな音と共に再び教室のドアが開かれる。


曜が入っててくるのを見ると、雫は志記にしたのと同じように詰め寄る。


「おい、お前もどこへ行っていた?」


「う………いや……その………」


「はぁ、まぁいい。どうせいつもの“あれ”だろ?」


「はい」


「そうか、ならば座れ。この授業での遅刻者は1名だけだ」


雫は一人、出席簿らしき物に書き込む。


「な!?それはあんまりじゃないですか?」


抗議の声を上げたのは他でもなく志記であった。


「説明も面倒だしな。変態に話すことなんか無いだろ」


と雫は笑い、教卓の上に置いた教科書を取ろうとすると曜が雫の耳元で囁く。


「(すみません。彼に見つかってしまいました)」


と、曜一言だけいうと、一礼してすぐに自分の席に着く。それを聞いた雫はチョークをパキリと折り、教科書を取った。


「授業を続ける。教科書3ページを開け」


そうして、志記はうつらうつらと授業を聞き流し、一時限目が終了する。


一時限目と二時限目の間の15分の休み時間。その時に雫は志記の席に寄って、一言、「放課後職員室に来い」とだけ言って去っていく。


「何したの?」


「パッションを発散したのさ」


相変わらず絡んでくる隣の人物に物好きなんだなと思い適当に返答する。


「はぁ、鬱だ」


志記は空を仰ぎ、ぼやいた。その様子を、曜はキッと睨みつけていた。

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