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元勇者は再度奪われる

気まずい時間が10分ほど流れた後、ふと気がついたように舞奈は志記の方に向き直り、質問をする。


「………あっ、そういえば、私を攫おうとしたあの化け物については何なの?」


「あー、そういえば言ってなかったか………いや、実は俺もあまり知らないんだが、妖怪の仕業らしい」


「へ?今度は妖怪?」


真剣に話す志記に面食らい、舞奈はキョトンとした表情になる。


「あぁ、なんでも、うちの学校に対魔部とかいうのがあってな。それにこの静も入ってるらしい」


すぅすぅと寝息を立てる静を、志記はゆったりと撫でながら続ける。


「それで、うちの学校の地下に魂塊石っていうヤバめな石が封印されてるんだとさ。それが一度妖怪達の手に渡ったことがあって、大災厄が起こったらしい。詳しいことは知らないけどな。で、それをを対魔部のメンバーがお守りをしていると」


「つまり?」


それが自身の兄とどう繋がるのかわからない舞奈は眉をひそめ、志記を睨む。


「巻き込まれちった」


テヘッと頭をコツンと叩き、ペロリと舌を出す志記に、舞奈は再び志記の顔面に拳を入れる。


「ごぶぁっ!」


志記は器用に自身の肩を抱く静をソファに座らせ、ソファから転げ落ちる。


「なんで断らなかったの!?自分の境遇を全部言えばよかったじゃんか!」


志記はヨロヨロとソファに手をついて座り直す。


「だから言ってるだろ?俺は人間不信だって。俺のことを話すってことは信頼の証なんだよ。そうホイホイ話せるもんじゃないんだ」


志記の曇った顔を見た舞奈は、しゅんと項垂れて小さくゴメンと言って、志記からトボトボと離れていく。


「おい、どこ行くんだ?」


「なんか、お兄ちゃんが理不尽な目にあってるのに、何も出来なくて、またお兄ちゃんに当たっちゃいそうだから、部屋に行って頭冷やしてくるね」


そう言って、舞奈がリビングのドアを開けた瞬間、黒い靄がドアの向こうから噴き出し、舞奈の体を包み込み、体を持ち上げる。


「キャアアアアアアア!?」


舞奈は叫び声を上げて気を失う。


「なんだ!?」


それを見た志記は、神剣ヴェンダルギアを右手の中に召喚し、正眼に構え、臨戦態勢に入る。


「ホッホッホッ!聞いたぞ!素晴らしきかな、兄妹愛!お主の弱点はこれよのう?」


黒い靄の中から、舞奈の体を横抱きにした黒い靄に包まれた人影が現れ、志記に靄を飛ばすが、志記はそれを剣で弾く。


「あ!?テメェ誰だよ!不法侵入なんてレベルじゃねーぞ!」


志記の声に、人影は嘲笑うように揺らめく。


「さて、妾は誰かのう?とりあえずこの娘は預からせてもらうぞ。返して欲しくば、魂塊石を持ってくることじゃな」


「させるか!【スペースリンク:舞奈】!」


横抱きにされている舞奈のつま先から、黒い穴が現れ、志記は舞奈の足を掴み、体を引っ張ろうと力を込める。


「温いわ!童が!」


しかし、人影は空間を繋いでいた穴に自身の腕を入れると、志記の腕を掴むと、それを掌から黒い焔を出現させ、志記の腕を焼く。


「熱っ!?」


志記の腕が離れた瞬間に志記の作り出した、空間を繋ぐ穴を無理矢理両手で閉じると、黒い靄の中へ帰って行く。


「ホーホッホッホッホッ!温い!温いぞ!人の子よ!」


「やらせません!【時縛空間サイレントスペース】」


舞奈の叫びで起きた静が、この瞬間のために練り上げていた魔力を解放し、時縛空間サイレントスペースを発動すると、志記の家を包み込む程の空間がドーム状に広がりながら、世界をモノクロに染め上げ、時を止めていく。


「今です!舞奈さんを取り戻してください!」


「サンキュー!後で礼は必ずするから!」


振り返ることはせず、志記は舞奈を抱くその黒い腕の一点だけを見て、剣を上段に構える。


「ハァァァァァァ!」


丁度剣が届くと思われたその瞬間に、静は時縛空間サイレントスペースを消す。この連携は何年経っても変わらない信頼のなせる技だった。


「ぬぅぅぅぅ!?」


「舞奈は返してもらうぞ!」


志記の狙い通り、剣が人影を捉え、その右腕を肩から斬り裂き、吹き飛ばすと同時に、舞奈の体を奪い返す。


残る左腕を斬り裂こうと志記は右腕を振り上げた瞬間、何かに腹を殴られる。


「がっ!?」


何か、とは金色の毛で覆われた尻尾であった。


「よくも…………よくも妾の腕を飛ばしたな!小童が!」


怒声が響いた数秒後の後に黒い靄が晴れ、その風貌が明らかになる。


まず目に入るのが、頂頭部にある三角形の耳、恐ろしいほど歪んだ瞳、病的なまでに青白い肌、電球の光に照らされ、キラキラと煌めく白銀の腰まで届くほどの長い髪が伺えた。


今、その瞳が怒気により歪んでいなければ相当の美しさを備えていたことは容易に想像できた。


更に視線を下へやると、黒い生地に、桜の花弁の柄が刺繍された、派手な着物と、自身の吹き飛ばした腕が生々しく血を流しているのが目に入った。


更に、その背にはフサフサとした毛が変質し、棘だらけになった尻尾が9本、志記を狙い定めるように広がっていた。


「狐?しかも……九尾………」


「おおおおおおおお!!」


掛け声とともに、9本の尾が一斉に志記を舞奈ごと斬り捨てようと迫る。


「あー、そうだなぁ、どうするか………」


一秒間に何撃も打ち込むその尻尾を剣で余裕を持っていなしつつ、志記は左手に抱く舞奈をどうにかできないかと、静を見やると、もう一度、時縛空間を発動するために集中している姿が目に入る。


「どこを見ておるか!小童がぁぁぁ!」


他の8本の尾とは段違いに速い一撃が、志記の死角、頭上から襲いかかる。


「遅い!」


その一撃も軽々とかわし、床に突き刺さったその尾を横薙ぎの一閃で切り裂く。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!」


キュウビの悲鳴を聞き、志記は顔をしかめ、舞奈を部屋の隅の方へ横たわらせた後小さく息を吐き、言う。


「もうやめようぜ。アンタじゃ俺に勝てない。今退くなら何もしないからさ」


キュウビは、志記のその一言に更に激怒する。


「我を侮辱するか!小童がぁぁぁぁぁ!」


言葉とともに、尾による刺突を放つ。


その一撃は、ギュンと空を斬る音と、硬質化した尾の見た目から、今まで放ってきたどの攻撃よりも、速く、重いことが伺えた。


その一撃に、志記は円満に解決をする段階はとうに過ぎてしまっていたことを悟る。


「………俺も嫌なんだよ……肉を切り裂くこの感触が、木霊する相手の悲鳴が、噴き出す血飛沫が、悲しみしか生まない戦い自体が!だから!一度の矛盾で全てを今、ここで終わらせる!」


志記は、迫る尾を剣の腹で払うと、すぐさま瞬影を使い、距離を縮める。


「終わりだ!」


顔の距離は最早数センチという距離で、志記は横薙ぎに剣を振ろうと構える。


「お主がな!」


が、志記は右肩を掴まれ、どこからか現れた炎にその身を焼かれる。


「ぐぁぁぁぁぁ!?」


「ようやくお主の喚く声が、のたうちまわる姿が見えたわ………ホホホホホ、目的は達したのでな。妾は帰らせてもらうとしようかのう」


キュウビの足元から、黒い靄が溢れ、その身はズブズブと地面に沈んでいくように消えていく。


「クソが!待ちやがれ!」


火傷に痛む腕を押さえながら、志記が怒声を浴びせるが、キュウビは、飄々と流し、なおも体を地面へと沈んませていく。


「時をいましめよ!時縛空間!」


体の半分ほどが沈んだ時、静の魔法が発動し、時を止める空間が再度志記の家を包む。


「何度も同じ手にかかると思うでないわ!痴れ者が!」


キュウビが喝!と声をあげると、空間にヒビが入り、そこから、空間が瓦解する。


「クククク………目的は遂げられた。小童!また会おう」


ニヤリとキュウビが笑うと、志記は瞬影をにより瞬時に距離を詰め、首を目掛けて剣を振る。


が、剣がキュウビの首を捉える寸前に地に沈みきってしまい、志記の剣は空を斬る結果に終わった。


「くそ!逃したか………それより舞奈の容態は!?」


志記は部屋の隅に横たわらせていた舞奈に慌てて駆け寄る。


「舞奈!おい舞奈!目を開けてくれ!」


志記の声に反応するように、舞奈はゆっくりと目を開ける。


「舞奈!起きたか!?」


しかし、心配の声を上げる志記に、舞奈は表情を一切変えずに言う。


「貴方は………誰?」


「は………?おいおい、変な冗談はよしてくれよ…………舞奈?」


状況を理解できていない志記に追い打ちをかけるように、黒い靄が舞奈の隣に集まり、キュウビの人形を取る。


「ククク………その娘に何を言っても無駄ぞ」


「な………キュウビ!!てめぇ!」


舞奈の様子がおかしいのは、キュウビの仕業であることをさとり、激昂する志記を見て、キュウビは優越感に浸る。


「そうカッカするでないわ。折角交渉の場を設けてやろうと言うのだ。もっと喜ぶが良い」


「交渉だと?端から交渉できる段階は通り越してるだろうが!」


やれやれといった仕草で、キュウビの影は態とらしく肩を竦ませてみせる。


「ならば仕方ないのう。何時までも、お主に関する記憶だけ封じ込めておくのも骨が折れるしのう………その娘に仕込んだ妾の妖力を暴れさせて、命を絶つしかないと言うわけだ………」


「なに!?」


「だから交渉であると言っておろうに。お主は鶚学園の地下に封じられし我が半身、“魂塊石”を明日の深夜12時丁度に、学園の校庭で妾に渡せば良い。それとお主ら二人きりで来るのじゃぞ?」


「お前から差し出すものは?」


志記は神剣をキュウビの影に向ける。


「その娘の命とお主に関する記憶。それが対価じゃ。悪くない話であろう?」


「………分かった。明日の深夜12時丁度に校庭に魂塊石を持って行けばいいんだな」


「ククク……理解したようじゃな……ではな。童よ、明日が楽しみじゃ!」


黒い靄の人形は、そう吐き残し、高笑いだけを残して消え去る。


「クソが!何が悪くない話だ!人の妹に手を出しやがって!ただじゃおかねえからなああああ!!」


志記はギリリと手のひらから出血するほどに強く握りしめ、天へと叫んだ。


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