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変態は妹に何を話すのか?

「ふー、着いたな!」


無事に帰宅した志記は、んーと伸びをして一息着く。


キャッキャウフフとじゃれ合いながら遅れてやってきた二人も、家へと入って行く。


「なぁ、静。保護者の方に連絡は取れてるんだよな?」


志記は静に向き直りそう言うと、静は微笑む。


「うん、初めて言った我儘だから、好きにしなさいってさ」


「おぉ、理解のある親御さんでよかった。なぁ、丁度いいし舞奈に全てを話そうと思うんだけど、どうだ?」


これは思い切った行動で、話すことは、完全に自身の事情に巻き込むことになる。そのことを承知している静は、上品に笑うと、志記を見つめ返す。


「貴方の好きなようにすればいいと思うよ」


「あー……結局そうなんのかよ!うーん………どっちみち隠せやしなかったんだから、しょうがないわな」


志記はボリボリと頭の後ろを掻くと、何が起こっているのかさっぱりという表情をしていた舞奈の肩を掴んで真剣な表情を作る。


「あとで話がある。リビングへ来てくれないか?」


「う、うん?」


それから二時間ほど経ち、シャワーなどを済ませた志記、静、舞奈の三人がリビングに集まる。


「さて、俺が学校で近年稀に見る変態で通っているのは知っているな?」


神妙な面持ちで志記は語り始めると、舞奈は驚愕の表情を見せる。


「え?そうなの?なんで?バカなの?」


散々な言われようである。


「まぁ聞け、理由はちゃんとあるんだ。まず、第一に俺は人間不信になっている」


更に驚いたのか、舞奈は小さく「えっ」と洩らす。


「その理由をきちんと話そうと思って、事情を知っているそこの……静を呼んだんだ」


志記が静を見やると、彼女は学校では見せないような上品な笑みを浮かべていた。


「まず、信じられないようだが、俺は……」


そこで志記は一度息を吸い込み、溜める。


「元勇者なんだ」


「はい?」


舞奈は、ポカンと口を開けて硬直すると、志記はまぁいいかと呟き、続きを語る。


「かつて俺は、異世界アヴァレンスへ救世主として召喚されたんだ。そこで魔法とかを使って世界を救ったんだ。その証拠に、こんなこともできる」


志記は【スペースリンク】と呟き、穴を自身の前と舞奈の頭の後ろに作ると、その中に腕を入れ、舞奈の頭を撫でた。


「え?ええええええ!?」


「ハッハッハッ!まぁ、驚くのも仕方ないな。てなわけで、信じてもらえたか?」


志記は舞奈の対面に座っていて、静も志記の隣に座っている。つまり、今舞奈に触れられる人間はいないということだ。


ポムポムと優しく頭を叩く感触に、舞奈はその存在を認めざるを得なかった。


「仮に、もし仮にだよ?魔法なんていう超常現象が有ったとして、それがなんで人間不信になるの?」


その一言で、志記の表情は曇る。


「そうだな。俺もいきなりあんなことになったから、断片的にしか説明できないんだけどな」


と、前置きをしてから、かつて勇者として魔王を倒す旅に出ていたこと。

彼の地に住む人々に全てを捧げて戦ったこと。

人間のことが大好きな神に出会い、力と制約を賜ったたこと、そして守った人々に怖れられ、裏切られたこと。

長い逃亡生活の末に、自力で世界の穴を開け、トラウマを刻まれながらも生還した事を時々苦悶の表情を浮かべながらも、静のフォローを加えつつ、二時間をかけて語り尽くした。


その間、舞奈は息をするのも忘れたかのように志記の話に聴き入っていた。


「とまぁ、こんな感じで何でいきなり裏切られたのかも分からんから、他の人間は信用ならんというわけさ」


自身のことを語り終えた志記は、ふと舞奈の表情に気付くと、いつものように、おどけたように笑い、表情を作る。


「そんな………そんな話ってないよ!」


「まぁ、怒りたい気持ちも分かるさ。逃亡生活を送りたいなんて思う奴は大抵居ないだろうからな」


その日暮らしもやがて疲弊する。そうなれば、いくら志記でも、自身を襲うものを傷付けずに撃退をするのは至難の技であった。


「だから………だから学校じゃ変態をやってるっていうの?人を寄せ付けないために?」


舞奈は震えながらも志記の目を見ると、志記は少し悲しそうな眼をして、ニンマリと笑う。


「あぁ、その方が人は近寄って来ないみたいだしな。人に好かれる一般人であるより、嫌われる問題児のほうがいいと思ったんだ。この力を隠さなきゃならないし。まぁ、一部例外もあったみたいだけどな」


チラリと静を見やると、彼女は志記の視線に気付き、ペロリと舌を出して悪戯っぽく笑う。


志記は、話し終わると、ふぅと息をついてソファに深く座り込んだ。


いくら勇者として濃密な日々を過ごしてきた志記でも、やはり精神的にクる物があった。


「……………いつから………いつからそんな風になってたの!?」


舞奈は俯いたまま拳を握り締め、無言で志記の座るソファへズンズンと近づく。


「中2で呼び出されて、帰ってきて、今高2だから、ちょうど3年ぐらいになるかな?」


ヘラヘラと笑い飛ばす志記の元へたどり着いた舞奈はその握り締めた拳を振り上げる。


「あ、あの、舞奈さん?その拳は一体なんでしょう!?え?あれ?ちょっとまって?ブバァ!」


ゴスっと鈍い音が部屋に響くと、志記は「酷い!」と叫びながら、軽く涙を流し、ソファからゴロゴロと転げ落ちる。


「何で………何で黙ってたの!私は!私だけはお兄ちゃんの味方なんだから!家族でしょ!?」


激情を溢れ出させた舞奈に、志記は少し真剣になって、話に応じる。


「それは………お前の迷惑を考えてだな……「変な気遣いしないでよ!不器用な癖に!3年間!?馬鹿じゃないの!?じゃあ何!3年間ずっと同じ家に居ながら私は全然頼りにされなかったって!?馬鹿にしないで!」


フーッフーッと肩で息をする舞奈の姿に、志記は驚きと同時に、自身の軽率だった行動を省みる。


「………済まなかった。正直、ここまで舞奈が真剣に考えてくれるとは思わなかった。というか、この事を信じてくれるかすら怪しかったんだ。ほら。俺対人恐怖症の人間不信だからさ」


「………信じるよ………当たり前じゃん!家族なんだから!」


「舞奈………お前、ひょっとして泣いてるのか?」


「泣いてない!」


舞奈が眼をこすりながら、志記を見つめると、志記は少し悲しそうな表情をする。


「ありがとう。俺の為に涙まで流してくれて。けど、ごめんな、どうしてもまだ人は信じきれないんだ」


「うん。まだそれでいいよ。けど、私や静さんだけでも信頼してよ」


そう言う舞奈の顔には、もう怒気は含まれていなかった。


「ハハッ、そうだな」


そんな舞奈を、志記は笑顔で撫でると、羨ましそうな顔をしていた静が志記の隣に座り、真剣な表情になる。それは、鳳 静として作っているキャラではなく、かつてのカルム王女の表情であった。


「私も居ます。どうか、独りぼっちであると勘違いしないでください」


「はぁ、こっちの世界の人間はどうしてこう、俺への恐怖が微塵も無いのかね。いや、厳密には静はこの世界の人間じゃないのか?あれ?そういえば、静って今は何歳だ?」


自身の話は終わりとばかりに志記が話を静に振ると、舞奈の興味もそちらへ移る。


「私ですか?えーと、この世界に生を受けて17になりますね」


「そうか。静も辛かっただろう?転生しても誰も知ってる人間のいない環境だもんな」


志記が労いの言葉をかけると、静の表情も曇る。


「えぇ、そうですね」


「うん?どうかしたか?」


表情が暗くなった静に、志記が声を掛けるが、彼女はふるふると顔を振る。


「特に何でもありませんよ」


「そうか」


気まずくなって、志記が目を逸らした先には、舞奈が不服とばかりにぷくっと頬を膨らませていた。


「なーんか納得いかなーい!」


「はっはっはっ、可愛いな舞奈は。なら、ここにおいで」


ポムポムと志記は自身の隣を叩く。


「うん!」


「なら、私も失礼しますね」


「あっ、ちょ、ちょっと?」


戸惑う志記に、静はもたれかかるように肩を抱く。


「もう、離しません。17年も待ちました。もう二度と、あんな思いは………」


そう言うと、静は眠りに落ちてしまった。


「あー、その、何だろなぁ知ってる人間がいないのは辛かったのは分かるけど………」


「本当に分からないの?」


舞奈は訝しげな表情で志記を見つめるが、当の本人はポカンとした表情を浮かべるだけだった。


「もう知らない!」


プイッと舞奈はそっぽを向いたまま、志記は俯いたまま、時間は過ぎ去る。

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