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変態は貫けるのか?

志記が次に目を覚ましたのは斑鳩百貨店の広場にある、噴水近くのベンチの上だった。


「ん…………んぁ!?」


志記が目を開けると、すぐに膝枕をされているという状況に気が付き、自分から離れるよりも離れてもらう方が、これ以上近づかれないことを今更ながらに閃いた。


静の方もウトウトしていたのか、志記が起きたことに気付く素振りはなく、周囲に舞奈の姿は見当たらない。


ならば、やることは一つと、志記は静の太ももに顔を擦り付ける。


「ほっほぉぉぉ!美少女の太ももじゃああああ!「フン!」ぶげら!?」


穏やかな表情を浮かべていた静は頬を引きつらせた次の瞬間、肘を志記の鳩尾に突き刺す。


クリティカルヒットを貰った志記は静の膝の上でジタバタと悶える。


「何してんの!?死ぬわ!」


「『何してんの』は私のセリフです!私は悪くありません。シキが変態のフリをしているのが悪いのです。本気でそれをやっているのなら受け入れられたのですが、あからさまな演技はキライです」


静がそう言うと、志記はもう一度静の太ももに顔を擦り寄せる。


「マジで?じゃあ、お言葉に甘えて!フヘヘヘヘ!」


静は志記のすり寄せた顔をガシッと掴み、そのまま胸に押し付ける。


「いいのですよ、本当にそう望むなら。やはりシキは抱え込み過ぎているのだと、今回の件で分かりました。なので、その辛さを私にも分けてください」


「う………あ…………う…………いらねぇよ!今更…………そんなの!ってか、何者だよアンタ!」


静の甘い抱擁に全てを委ねてしまいかけた志記は、心を強く持ち直し、静の腕を振りほどく。


「知っています。シキが何を抱えているのかも。しかし、証拠もない状態で私の正体を明かしたところで、貴方は信じはしないでしょう?」


腕を振りほどかれた静がそう言うと、志記が、はっ?と聞き返す。


静はクスリと笑って、手の平を空へと向ける。


「【スペースリンク:水】」


静がそう唱えると、噴水の頂上付近に穴が出現し、水がそれに吸い込まれると、静の手の平にも同じ穴が現れ、水が噴き出す。


「そ、そうだよ!その力は何だ?だって、それじゃあ、まるで………「『異世界アヴァレンスのヒュマノドにいたカルム王女みたいじゃないか………』ですか?」え?あ、あぁ、うん、そう」


言おうとしていたことを全て言われてしまい、混乱している志記を見ていた静はゆっくりと立ち上がると、志記の瞳をじっと見つめる。


「そうです。私は、唯一の貴方の全てを理解できる人間にして、人間の国、ヒュマノドの第一王女。カルム・フォン・スティール でございます」


そう告げる静に、志記は目を大きく見開く。


「はぁ!?そんな訳ないだろう!彼女は死んだんだよ!…………………俺を庇ってな!………死者を冒涜する気か!」


志記は声を荒げながらも、懐かしき王女の最期に想いを馳せる。


かつて、城の中にある王座の間。そこで

『これ以上戦はできない』

そう告げた志記に、王が裏切り者である志記を殺せ、と命令をすると、15の槍と剣を持った兵士に囲まれ、それぞれの武器に貫かれようとしたその瞬間。


【スペースリンク】を使って現れたカルム王女が割って入ったがために、彼女は胸を貫かれて絶命してしまったのであった。


しかも、その罪を志記になすりつけることによって、志記を犯罪者へと仕立て上げた。


“偶然を装い、神の制約を破りし裏切りの勇者 シキ 奴は我が最愛の娘 カルムを殺した。頼む、勇猛なる国民よ、仇をとってはくれまいか。心配はいらない。奴には人を殺す術などそうありはしないから”などと手配書に記載して、兵士にあらゆる街の壁に貼って回らせたのである。


「…………貴方はどうしてここにいるのですか?」


静は、埒があかないとばかりに話題を切り出す。


「え?あぁ、いや、それは………空間の魔法を特訓したから………」


遠い目をしていた志記は、ハッと我に帰ると、若干考えた後にそう答えた。


「そうですよね?ならば、同じように私が異世界に転生をしたとしても、おかしくはないでしょう?」


「は?転…………生………?」


「そうです。確かにあの時、私は死んでしまいましたが、咄嗟に空間魔法を使って、世界に穴を開けました。そこに、私の魂が通っていって、この世界にたどり着いたというわけです」


「いや、訳がわからない!世界に穴を開けた?魂だけでこの世界に来た?鳳さんが実は姫さん?信じらんねぇよ!てか!俺には魔法を感知する力があるんだぞ!」


頭を抱える志記にクスリと笑って、静は志記を抱きしめる。


「わからなくてもいいですよ。私は今、ここに居ます。信じてください。きっと悪いことにはなりませんから」


志記の背中をさすり、自分は無害であると主張する静は、不安そうに顔をしかめていた。


「はぁ………もう!分かったよ!時空魔法を使えたわけだし、一応は信じることにするよ」


志記が降参だと言って両手を挙げると、静はパァッと顔を綻ばせる。


「ありがとうございます!では、二人っきりの時は、その変態キャラも封印してくださいね」


笑顔で言い切る静に、志記は目を大きく見開く。


「はぁっ!?それとこれは話が違うだろ!」


「いいえ。正直、そのキャラは気持ち悪いです。嫌悪感を感じます。不愉快です。やめてくださいね」


あくまでニコニコと、しかしその目は笑ってなどいなかった。


「いやだ!」


志記がその提案を即座に拒絶すると、静はこんなことを言いたくはなかったのですが、とため息混じりに続ける。


「『俺は元勇者だからな』なんて言って飛び出していったくせに、あんな妖怪相手にボロカスにやられて、挙げ句の果てには魔剣に振り回されて暴走ですか?」


冷めた視線に射抜かれて、志記は顔を赤くしたり青くしたりと忙しなく顔色を変えた。


「だから、あれはこのビルを守るために…………」


「あら、言い訳ですか?理由はどうあれ、私が来なかったら死んでいたくせに。いわば私は命の恩人ですよ?」


そう諭されると、志記はぐぬぬと小さく唸るしかなかった。


「ですが、命の恩をこんな破格の条件で返せるのです。まさか、受けないとは言いませんよね?」


しばらく考え込んだ志記は、肩を竦めて首を振った。


「…………はぁ、分かったよ。降参だ。じゃあ、姫さん…………いや、鳳さんの方がいいか?」


「いいえ。静、とお呼びください」


「へ?いやいや。じゃあ、鳳さんでいいな」


「いいえ。静、とお呼びください」


まるで一昔前のゲームの押し問答のように一歩も譲らない静に、折れたのは志記の方だった。


「静。これでいいのか?」


「えぇ、潔いのは好きですよ」


静のクスリという笑みに、つい見惚れてしまった志記は、プイッと顔も話も逸らす。


「あぁ、そういえば舞奈は何処だ?」


「そろそろ来るんじゃないですか?」


「お兄ちゃん!静さんも!」


数分後、二人の姿を見つけた舞奈が駆け寄ると、志記は顔を緩めた。


「無事でよかった。悪かったな、巻き込んじまって」


志記がポンポンと頭を手の平で叩くと、舞奈は照れたように顔を赤くして志記を見上げる。


「本当に大丈夫なの?電車で行ったよね?危ないことはしてないって」


「あー、うん、そうだな。巻き込んじまったし、まう部外者じゃいられないよな。よし、分かった。俺が中二の時に何が起こったのか。家に帰ったら面白おかしく一部誇張表現を含めて全部話してやるよ」


志記がそう言うと、舞奈は漸く自身の秘密を教えるという約束に、顔を綻ばせた。


「うん!うん!じゃあ、早く帰ろうよ!」


グイグイと手を引っ張る舞奈に、志記はピタリと立ち止まる。


「どうしたの?」


「いや、せっかく、楽しみに来たのに、もういいのか?」


「もう?こんな時間だよ?」


舞奈が外を指さす先は天井のガラスのもっと奥。天逆毎と戦った時には頂上にあった太陽が完全に沈み切り、代わりに月が爛々と輝いていた。


「ファッ!?俺は一体何時間寝ていたんだ?」


「んー、軽く5時間ぐらい?」


「マジか………くそっ!これも全部妖怪《天逆毎》のせいだ!」


「いや、まぁ、うん。その通りなんだけど、そういうこと言うのはどうかと………」


二人の姿を羨ましそうに見つめていた静が話を切り出す。


「さて、どうしますか?」


「うーん。静。まだ時間大丈夫か?」


「?ええ、時間はありませんので、まだ余裕はありますが………」


「本当か!?それなら、少しだけ店を見て回らないか?せっかく来たのに何も見て回らなかったら損だしさ」


志記は気恥ずかしそうに頬をポリポリと掻きながら静を誘うことにした。


「はいっ!」


志記の提案に静は元気に答えると、頬を緩め、志記の腕に自身の腕を絡ませる。


「えっ、ちょ?」


「今日の色んなことに対して、少しでも反省の気持ちがあるのなら、これで歩いてもらいますから!」


「あー!静さんだけ狡い!私もー!」


静の行動を見ていた舞奈も志記の腕に自身の腕を絡める。


「え?ちょっと?あれー?」


いつの間にやら両手に華。この状態は流石の志記も恥ずかしく感じた。


「え?ちょっと待ってよ。近くない?」


「妹の事をぞんざいに扱っていいの?」


「ボロボロにされたクセに…………」


舞奈よりも静の呟きの方が志記の精神には大ダメージであった。


「ぐ、くそっ!仲がよろしいんですねっ!お二人とも!」


投げやりに志記がそう言うと、二人はニヤリと笑い、志記の顔を見上げ、声を合わせる。


「当たり前じゃん(です)何と言ってもお兄ちゃん(シキ)のお嫁さんだからね(ですから)!」


「あれ?いつの間に俺がフラグを立てました?」


「いいじゃん別に。ほら、時間なくなっちゃうよ。早くお店を回ろうよ」


「わっとと!あんまり引っ張るなよ!」


「楽しくなりそうですね」



二時間ほど店内を練りあるいた舞奈と静の顔は生き生きとしていて、志記はげっそりとしていた。


「恐るべし女子…………!まさか、たった一つの店で二時間も居続けるとは………しかも、この量だし……俺じゃなきゃ辛いんじゃないか?」


志記の向けた視線の先には、大量の洋服や小物の入った紙袋が両手に4つずつ、合計8つ握られていた。


「ふぅ、買ったねー!」


「うん!やっぱり春は新物が多いね!」


舞奈と静が談笑しながら先を歩いて行き、志記はただ付いて行った。


「あれ?静の口調がいつもの教室っぽくなってる?」


「こっちの方が親しみやすいって舞奈ちゃんが言ってたからねー」


「うん、静ちゃんと早く仲良くなりたいと思ったから」


「いつの間にそんなに仲良くなった………いやまぁ、別に仲がいいのは悪いことじゃないし、良いんだが」


若干蚊帳の外で二人の後を付いていく志記は、荷物を道具袋へ放り込み、退屈そうに空を見上げて溜息をついた。

色々書いてみましたが、設定を作るのは難しいですね………

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