元勇者に救いは訪れる
電車に揺られること40分。志記達は目的の駅に着き、電車から降りて大きく伸びをする。
「くぁー!やっと着いたな………さて、歩くか?」
「うん!じゃあデートらしく、手をつないで歩こうよ!」
舞奈の提案にどきどきしながらも、志記は軽く頷き、手を繋いで駅から出る。
10分ほど歩けば、斑鳩百貨店の入口へとたどり着く。
自動ドアが開かれると、2人の目には大きな噴水と、広大な広場、更に目が痛くなるほど多い商店の数々が飛び込んでくる。
「うっわー!広いねぇ!」
舞奈が目をキラキラと輝かせて言うと、志記も頷いて噴水の近くをキョロキョロと見回す。
すると、すぐに静が見つかったので、手を振りながら近づく。
「悪い、待ったか?」
「ううん、全然!」
静はエヘヘと嬉しそうに、無邪気に笑う。
そんな静に若干の違和感を感じるが、志記はまぁいいかと受け流した。
「えっと………その子は?」
あくまでニコニコという笑顔を崩さぬままに、志記の繋がれた手の先を見る静の目は、笑ってはいなかった。
「えっと、この子は妹の蒼海 舞奈。少しやかましいところもあるが、よろしく頼む」
「え?今日は二人っきりでデートのはずでしょ!?お兄ちゃん!?」
舞奈が驚いた顔をしているが、優先すべきは静。そう割り切って、志記は続ける。
「あの後、何度も電話を掛けたんだが、なかなか出なくて放ったらかしにしちまった。すまん、今日は三人で回ってくれないか?」
志記が頭を下げると、静は少し驚いた後、すぐにエヘヘと笑い直す。
「なぁんだ、妹さんかぁ。そうだよね。電話に出なかったのがいけなかったんだから、悪いのはお互い様だねっ!いいよ。一緒に回ろう」
「そ、そう言ってくれるか、ありが「でも、ちゃんとエスコートしてくれないと、どうなるかわからないから」え?」
志記が一瞬止まった隙に、静は志記の空いている方の左腕をがっしりと掴むと、歩き始める。
「ふぅ、まぁ、なんとかなったかな?………さて、放ったらかしにして悪かったな。どこから行きたい………って、舞奈?」
志記は少し前から圧迫感の強くなった右腕に視線を向けると、頬をぷくっと膨らめせて、ふくれっ面な舞奈が俯いていた。
「………だもん」
「え?」
「一人でも大丈夫だもん!お兄ちゃんのバカー!」
舞奈は志記の腕を離すと、丁度開いていたエレベーターに、さっさと乗り込んでしまう。
「おい、ちょっと待てって!」
志記が呼びかけるが、無情にも扉は閉じられる。
「………仕方ないな。階段で追いかけるか。鳳さん、悪いけど、ここで待ってて…………あれ?」
志記は、左腕に感じていた圧迫感も無いことに疑問を感じて、そちらに目をやると、その姿なく、閉まるドアの隙間から、ニヤリと静の笑う顔が一瞬、見えた。
「はぁ、階段かよ、面倒だなっ!」
そう悪態をついた瞬間、志記の携帯電話がヴヴヴヴという音と振動を伝えた。
「あ?鳳さんから?」
志記は電話に出ると、すぐに口を開いた。
「もしもし?今何階にいるんだ?降りる時になったら言ってくれ。そこから回ろうぜ?」
『はぁはぁ………え?ちょっとまって、何言ってるの?今ちょうど噴水の所に来たから、電話をしたんだけど』
「はぁ?冗談はよせよ。俺たちと今の今まで一緒にいただろ?」
『えぇっ!?怒ってるなら謝るよ!けど、その、は、初めてのデートだし、何を着ていけばいいのか決まらなくて』
そう言う静の口調からは、一切のからかいも嘘も混じっているような気はしなかった。
「じゃあ、今舞奈と一緒にいるのは………まさかっ!?」
ゾクリ、と嫌な汗が志記の背中を伝う。
『ど、どうしたの?』
「舞奈が危ないっ!詳細は追って連絡するから、待っていてくれ!」
志記はそれだけ言って、電話を切ると、閉じたエレベーターの扉に手を当てると、魔法使う。
(【探知】)
手から魔力の根のようなものを伸ばし、存在を感じ取る。舞奈の存在がはっきりとわかり、志記は安堵の息を漏らすがすぐに表情を硬くする。
舞奈の隣に禍々しく、強大な力を秘めた何者かがいるということがわかってしまった為である。
「くそっ!そうだ!携帯!」
志記は急いで舞奈に通話をするが、拗ねているのか、それとも危険な目にあっているのか、一向に電話には出る気配は無かった。
「くそっ!これじゃあ、どこで降りるかわからないじゃないか!…………あっ」
ふと見上げれば、8の数字にオレンジの明かりが灯っているのが見えた。まだ、舞奈の反応はエレベーターの中からである。
「屋上か!」
そう判断するや否や、志記は全速力で階段を駆け上る。
この時、志記はある魔法を使っていた。それは、時と空間の魔法を組み合わせた奥義とも言えるような技。【時縛領域】である。
これは、指定した空間の時を止めるという魔法である。
それをビル全体に展開し、その間に志記は舞奈達に追いつこうと考えた。
「ゥオラァ!」
ドガン!と音を立てて扉が荒々しく開かれると、そこには誰も居なかった。
「む?」
パチンと指を鳴らして【時縛領域】を解くと、エレベーターの扉が開かれる。
「ホホホホホ!よくここまでこれなんだのう!」
そこには、乗客は他に誰もおらず、後ろから口を抑えられるようにして拘束された舞奈と、真っ赤な顔、横に伸びた長い耳に、凶悪な形をした牙、さらに長い鼻を携えた怪物が居た。
「舞奈!」
「ング!ンググググググ!」
テメェ!と志記がキッと怪物を睨み付けると、声を荒げる。
「さっさと舞奈を離しやがれ!」
「よかろう!すぐに開放してやるわ!」
怪物はそう言うと、舞奈の首に自身の長い爪を突き立てる。
「言ってることとやってることがちげえぞ!」
志記が怒鳴ると、怪物はニヤァと顔を歪め、メキメキと音を立て翼を広げると、舞奈を抱えて大空へと飛び上がる。
「クククク!我は人も清潔な地上も大好きでのう!地下へ潜らせてもらう!」
男のような、女のようなエコーの効いた声で喋ると、怪物は長い舌を出して舞奈の頬をベロリと舐め、続ける。
「我が名は天逆毎!天狗や天の邪鬼どもの末裔でない!全てはあべこべの世のため!生きてもらうぞ、蒼海 志記!」
「うるせぇよ。いい加減、舞奈を離せっつってんだろうが、この糞妖怪が!」
志記は天逆毎の名乗りを気にせず、スペースリンクを発動しようと地面に手をつく。
「うぐぅ!?」
が、それは突然手に流れた電流によって遮られる。
「ホホホホホ!やらせるに決まっておろう!単純な術を使わないらしいからのう!」
天逆毎は口に手を当てひとしきり笑った後、ビルの柵に指を指す。
「ここから落ちてもらおうかのぅ!さすれば、この娘の命を助けてやろう」
人質を取られた時点で志記の負けは確定していたも同然であった。
「ち…………くしょうがぁぁぁぁぁぁあ!」
志記が打つ手なしと手に血が滲むほど強く握りしめ、吠えた瞬間であった。
あの、クスクスという上品な声が屋上一帯に響き渡ると、次の瞬間、天逆毎の体の動きがピタリと止まる。
「な!?あれは【時縛領域】!?でも、一体誰が………?」
志記の魔力は、先程使った【時縛領域】のせいでほぼ無に等しいため、もう一度発動はできなかった。
「はぁはぁ………やっと追いついたよ………」
屋上の扉が勢いよく開け放たれ、そこからビッショリと汗をかいた静が居た。
「え!?鳳さん!?どうしてここに………」
「いいから!あの子を」
志記はこくりと頷くと、手を正面に翳すと、そこに黒い穴が出来上がる。
「【スペースリンク:舞奈】!」
天逆毎の腕に抱かれていた舞奈は、その腕ごと消えて、志記の正面に空いた黒い穴から現れる。
「よし!じゃあ、解くよ!」
パチンと指を鳴らすと、【時縛領域】を解くと、床にへたり込んでしまう。
「お疲れ様。ありがとう。けど、後で事情は聞くからな!」
「はい!」
静は元気よく返事をすると、気を失ってしまう。
「舞奈!悪いけど、俺があいつの注意を引きつけてるうちに、できるだけ遠くに逃げてくれ」
「お兄ちゃんは?」
舞奈が心配そうに聞くと、志記はニコリと笑う。
「俺は、あいつをなんとかせにゃならんのでな」
そう言いながら、志記の指差す先には、人質であった舞奈がいないことに気がついた天逆毎が白く薄い半透明の羽衣を顕現させ、、大量の雷をバチバチと帯電させ、大きな牙を伸ばし、空中で暴れる狂っている姿があった。
「一緒に逃げようよ」
舞奈が心配そうに言うと、志記はしゃがんで舞奈の頭をクシャクシャと撫でる。
「大丈夫さ。なんてったって、俺は元勇者だからな」
それだけ言うと、志記は大きく跳躍をし、空間を固めてそれを足場にして天逆毎と同じ目線に立つ。
「頑張ってね!お兄ちゃん!」
それを見た舞奈は、大丈夫てあると確信して、静を背負ってエレベーターの中へと避難する。
「グゾォォォォォォ!許す!許す!許す!許す!生かしておくぞ貴様らぁぁぁぁ!」
「逆のことしか言わないのはわかったけど、馬鹿みたいだぜ?お前」
志記がそう侮るように言うと、天逆毎は頭をかきむしって大声で空に向かって吼える。
「カァァァァ!」
咆哮は稲妻となって空に留まり、それが志記を全方向から襲う。
「うおっ!?滅茶苦茶だっ!」
志記は空間を固めた足場から次々と飛び移り、雷を避けるが、 それも限界がやってくる。
「ぐあっ!」
志記は雷が直撃し、地に堕ちる。
「クソっ!やってくれたなぁ!【スペースリンク:神剣ヴェンダルギア】!喰らえ!」
志記は口元の血を拭い、地に手をつくと剣の柄が現れ、それを引き抜くと、天逆毎に投擲をする。
シュンと音を立てて風を切り飛ぶそれは的確に天逆毎の胸に深々と突き刺さる。
「グゴォォォォォ!」
「これで終わりだ!【吸引】」
剣が天逆毎の魔力を吸い取ろうと発光をするが、何も起こらなかった。
「なにっ!?」
「ホホホホホ!どこを見ておらぬ?」
剣に貫かれた天逆毎は黒い煙となって空へと舞い上がると、突然、志記の頬に衝撃が走り、屋上の淵のフェンスまで吹き飛ばされる。
「くそっ!分身かよ………面倒だな!」
志記は正面に現れた天逆毎に剣を振り下ろすが、それも霧散して消えてしまう。
「ホホホホホ!目の前じゃ!」
志記は背後から野球ボール大の雷の球を食らって吹き飛ぶ。
「がふぁ!」
天逆毎は、更に雷を降らせ、志記に追い打ちをかける。
「ホホホホホ!避けきれぬであろう!」
「やらせるか!」
志記は剣を構えると、ビルに直撃しそうな雷を全て切り裂き、無効化する。
ビルに雷が直撃すれば、ただでは済まない、それがわかっている志記の意識は完全に雷の方に向いてしまっていた。
反応が少し遅れて志記は天逆毎が作り出した雷の球に直撃してしまう。
「ホホホホホ!右じゃ!左じゃ!上じゃ!下じゃ!前じゃ!後ろじゃ!」
志記の体は空へと打ち上げられ、左から、右から、下から、上から、背後から、正面から雷の球によるリンチを受ける。
「ぐ、【スペース………リンク:雷球】」
なんとか空間に穴を開けることで、雷の球をそこに閉じ込めることに成功すると、志記の体は地に落ちる。
「ホホホホホ!鎌鼬も蝶化身も立派よのう。こんな強敵に圧勝するとは。じゃが、これで、始まりじゃ!」
志記の体からはプスプスと黒い煙が上がり、焦げ臭い匂いも発し、既に虫の息である。そんな志記にトドメを刺すように、天逆毎は大きく手を振り上げると、その頭上には特大の雷が集まる。
「生きよ!」
「やらせません!」
雷が発射された直後に凛とした声が屋上に響く。
「む?」
志記を襲ったトドメの一撃は、黒い穴に吸い込まれて消える。
「まだ虫が居らなんだか?」
天逆毎が忌々しいという表情を向ける先には、静が目を瞑り佇んでいた。
「やらせるわけにはいきません!」
静は目を見開くと、瞬間的に志記との距離を詰めて、しゃがみ込んでその手を握る。
「漸く会えたのです………死んではなりませんよ。この瞬間を17年も待ったのですよ………」
静は声も出さずに泣いていた。
「我は姫、其方は勇なる剣、今一度その力をその手に【時戻し《タイムリバース》】」
静が唱えると、青白い光が志記を包み込み、今まで受けた傷も、服の焦げさえも全て時が逆戻りしたようにすうっと消えていく。
「うおっ!?」
志記はがばりと起き上がり、静の顔を見る。
「え!?鳳さん!?」
「ハイ、なんでしょう?」
「え?なんていうか雰囲気が………いや、それよりも………」
志記がキョロキョロと周りを見回すと、それに気が付いた静が上を指差す。
「あそこですね」
そこには、静が張った結界が破れずに、無茶苦茶に腕、脚、牙、雷等で攻撃を繰り出し続ける天逆毎の姿があった。
「大丈夫なのか、この結界は?」
「えぇ、まぁ、少しこれを使わせていただきましたから」
そう言って静が挙げた腕の先には、神剣ヴェンダルギアがあった。
これに内蔵されている水晶に溜められた魔力、それは計り知れないほど多いのだが、引き出すのはとても困難で時間のいる技である。
「本当に、一体何者なんだ、君は?」
志記が訝しげに聞くと、静はクスリと笑って唇に人差し指を立てた。
「それは、後のお楽しみです。今は…………」
静はそこで区切り、空で滅茶苦茶に暴れる天逆毎を見つめる。
「奴を倒すことが先決でしょう?」
「けど、どうするんだ?攻撃が一切当たらないぞ?」
「策ならあります」
「ほう?」
静が耳を貸せと手招きをするので志記はそれに従い耳を近づける。
「はむっ」
近づいた志記の耳に、作戦を伝えた後、静は小さく噛み付く。
「っ!?そんなことをしてる場合か!」
「どうか、緊張しないでください。必ず成功します」
「あ、あぁ、わかったよ、じゃあ、早速始めようか」
志記はドギマギしながら結界が解かれるのを待つ。
「行きます!三!二!一!解!」
2人を守っていた結界が解かれると、2人は一目散に屋上の右端と左端に別れる。
「フン!賢明な!片方づつ生かしてくれるわ!」
そう言うと、天逆毎はまた雷を呼び出して2人の頭上に停滞させる。
「今だ!」
志記が叫び、静が頷くと魔法を同時に発動する。
「「【スペースリンク:志記(静)】」」
2人とも、同時にその場から消えて志記は天逆毎の前に、そして静は天逆毎の背後に回る。
「前だ!」
志記が叫び、その場に穴を空間に開けて今度は天逆毎の頭上に現れる。
「後ろです」
静が呟き、その空間に穴を開けて地面から現れ、アッパーを食らわすと、天逆毎はよろめき、両足がズブリと穴にめり込み、その足は頭上に空いた穴から出てくる。
「ぐぬぉ!?」
天逆毎の初めての叫び声が上がる。
「まだまだぁ!」
志記と静は穴から次々と現れては新しい穴を作っては消えて、やがて穴で天逆毎をあっという間に囲んでしまった。
そして、その穴を操作して天逆毎の両腕を入れると、天逆毎は完全に動けなくなる。
「そぉりゃあぁぁぁぁぁあ!」
天逆毎を頭から真っ二つにしようと、気合を入れて大きく剣を振り降ろすが、天逆毎もただでやられるわけにはいかなかった。
「がぁぁぁぁぁぁぁ!」
天逆毎は獣のように大きく吠えると、電撃をこれまで以上の出力で食らわせる。
が、そんなものはお構いなしに振り下ろした剣が志記の力と、重力に沿って振り抜かれると、天逆毎の身体は真っ二つになる。
「ぐ、ぐご、」
逃げる術もなく切られた天逆毎の体からは、黒い靄がプシューと出ているが、まだ再生しようと蠢いている。
「はぁ、はぁ、いい加減に、消えやがれ!」
志記は黒い煙と焦げ臭い匂いを身体中から吐き出しながらも、トドメを刺そうと、ヨロヨロと天逆毎の体に近づき、手を空間に開けた穴の中に突っ込んで聖水を取り出し、コルクを開けてかける。
「かぁぁぁぁぁぁぁ!」
淡い光が天逆毎の体を包み込み、浄化をしていく。
「ホホホホホ!かかりおったわ!」
それは、天逆毎という妖怪の本質。妖怪という括りにされるが故に気づかないが、その正体は神。
聖なる力を邪な力に変換できるそれは、遥か数千年も前から恐れられてきた能力である。
「クソがぁぁぁぁぁぁぁ!」
あと少し、あと少しで倒せそうなところに好機を与えてしまった悔しさに、反射的に手を横に振ると、そこには聖水を取り出した穴が残っていた。
不意に触れたのはもう一振りの剣。魔王を倒したその日から、道具袋の中で眠り続けた禁忌の一振り。それを志記は抜き放つ。
中から出てきた剣は、刀身は黒く、禍々しい装飾を施し、剣の腹に深紅の宝珠をはめ込んだ、悪趣味な両手剣であった。
「喰らえ【黒曜】」
その詠唱に呼応するように、剣が禍々しく光ると、次の瞬間には一匹の黒い虎が立っていて、その口からは天逆毎の長く赤い鼻が伸びていた。
「よし、よく噛んで飲み込め」
バキボキという嫌な音を立てて長い鼻が完全に見えなくなった後、虎の喉からゴクンという音がする。
「ク、クククククククク!アーッハッハッハッハッハッハッ!」
志記は俯くと、肩を震わせた後、空を仰ぎ、大笑いする。
「最高の気分だ!さてさて、化け物のことが大嫌いな人間を皆殺しに行こうか…………」
志記の白眼の部分は黒く染まり、瞳は紅く輝き、背中から黒い翼をメキメキと生やす。
「待ってください!」
静は志記の前に立ち、両手を広げて進行を阻止しようとする。
「あ?なんだよ?」
「お願いです!正気に戻ってください!」
「正気ダァ?俺は俺だぁ!邪魔なんかさせねぇ!」
「嘘です!勇者であることを誇りに思っていた貴方はどこに行ったのですか?」
「んなもん、とっくに死んだよ!俺は化け物だ!近づくんじゃねえ!殺すぞ!」
「いいえ!貴方は化け物なんかではありません、いつも、いつでも、いつまでも、貴方が私の勇者様であることには変わりませんから!」
静はそう言って志記に一歩近づきキスをする。
「んむぅ!?」
志記は突然の出来事に一歩離れて手を振り払う。
「何しやがんだ!このアマ!う!……ぐ…………う………あだまがぁぁぁ!」
「大丈夫ですか!?」
静が心配そうな声を上げるが、志記は後退って、声を荒げる。
「テメェ………もう………死んだんじゃねぇのか!……そこまでだ……大事な人を傷つけさせは…………しない!」
志記の瞳は黒かった部分が白く染まり、紅かった瞳はチカチカと点滅をして、黒に戻る。
「はぁ、はぁ、ただいま。後は頼ん………うっ」
志記はぐらりと頭から地面に落ちて気を失う。
「はい、お帰りなさい。お疲れ様でした。シキ」
静は気を失った志記の頭を膝に乗せ、志記が次に目を覚ますまで、愛おしそうに見つめ、黙ったまま撫でるだけだった。
読んでくださり、ありがとうございます。
反対語が難しく、おかしなところもあるかと思いますが、見つけた時にはご指摘お願いします




