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事件の始まり

はじめての投稿ですが長いようで短い短編となっています。あと5個くらい続きがありますので、よければ目を通して頂ければ。


「はっ」

 どうしたことでしょう、放課後のためにと保存しておいた大事な大事なショートケーキの姿が部室の冷蔵庫から消えており、代わりとしてそこにあったのは一枚の封筒でした。

「だ、誰ですか、わたしの大切に取っておいたショートケーキを食べた人は!」

 ここからが無駄では無い(←重要)ショートケーキ失踪事件の始まりになります。


      ★☆★☆★


「どうしたんだよ……ったく、でけえ声出しやがって。廊下まで響いてきたぞおい」

 事件発覚からものの数秒、早速現れたのは頭脳明晰で若干汚いくらいの男性口調が最大の特徴であるここの部長――佐藤唯(さとうゆい)さんでした。

「わたしの……わたしのショートケーキが無くなったんですよ! これは事件です、大事件です!」

「あー、そういや今日の朝にそんなこと言ってたっけか」

「棒読み!? 佐藤さんは酷いですね、残酷ですね、冷酷ですね!」

「どうしてたった一言口にしただけの私が、そこまで言われなきゃなんねーんだよ……?」

「一個で1000円もするショートケーキですよ? わたしがどれだけ待ち遠しく楽しみにしていたと思っているんですか、もう今日の授業なんてこれのためにやってたも同然ですよ、全くもう」

「いや授業は普通に受けろよ……」

 もっともなことを言いながら、佐藤さんはパイプ椅子に腰を下ろして、部室の中心に置かれた長テーブルに肘をつき一息。わたしのほうこそ一息吐きたいくらいですよ。

 この部室は何とも別館の三階――言い換えれば別館最上階に位置しており、しかもこれまた別館にエレベーターなんて近代文化も無ければ、古代文化じゃなくても階段が左側にひとつしか無いという最悪仕様。一番出入り口から遠い部室が、ここなのです。

 さて。

 部室の場所説明を終わらせたところで肩を落としつつ、事件現場に残されていたダイイングメッセージ(まあ身元不明の封筒ですが)を佐藤さんに差し出して、

「それとショートケーキの代わりにこんなのがあったんです。これってあからさまに『食べた』ことを宣言してますよね、もう犯人いること確定じゃないですか!」

 訴えました。告訴です。

「それにショートケーキの自慢したのってここの部員さんだけなので、部員以外にあり得ないんですよ。たとえ他に漏れていたとしても、無関係の生徒だったら目立ちますし」

「一応言っておくが、私はそんなもん食べてないぞ? 勝手に人のものを取ったりするようなことはしないからな。ましてや部員なら尚更だ」

 どの口が言っているのでしょうか。

 こんな虫のいいようなことをズラズラと言ってはいますが、正直なところ佐藤さんの好物が偶然ショートケーキな上、以前にも佐藤さんが食べてしまったというプリン騒動(友人証言)が一度あったらしいので鵜呑みにはできません。

「……ですか」

 なので、曖昧な相槌と苦笑いでその場を濁しておきます。

「従って私たちでは無いとなると、残るは――」

 そのときでした。

「やほー」

「あれ? 二人とも何かあったの?」

 何の前触れも無く、いわゆる噂をすれば影が差すといった具合の登場です。

 最初に「やほー」と扉から入ってきたやたらテンションの高そうな彼女は、平社員(自称)担当の植木小枝(うえきこえだ)さんで、後から顔を覗かせたのは会計担当の七瀬香織(ななせかおり)さん。

 ここでわたしはふと思いつき、両手のしわ同士を合わせます。

「あ、もしかして植木さんか七瀬さんが、わたしのショートケーキを食べた犯人なんですね!?」

「ショートケーキ? 小枝知ってる?」

「うん知ってるよー、ほら今日の朝に『有名どころのショートケーキが買えちゃったんですよ、やりました!』って自慢してたじゃん。一個1000円するとか何とかってやつ」

「んーそんなこと言ってたような、言ってなかったような……」

 人差し指を顎に当てて思い出そうとしているようですが、記憶は結構曖昧なようで。

「というか、ミステリードラマでも『あなたが犯人ですか』なんて証拠も根拠も無しに訊いても犯人が名乗り出るわけがないよねえ。むしろ一周回って格好良いくらいの度胸と悪意の持ち主だよ、それ」

「いやいや、その犯人は正義と善意を持った格好良い人ですよ」

「正義と善意を持った人間が犯行を行った挙句、犯人と呼ばれている時点でそれはもう矛盾じゃないかしら?」

「うっ……ごもっともで」

 何も言葉を返せません。

 確かに、犯人に向かってただデタラメに『あなたが犯人ですか?』と訊いてみたら運良く当たってて『はいそうです』なんて返事が返ってくるミステリードラマは嫌なところがありますね。逆転の発想とは言いますがこれはそこに含まれないごく一部の種類でしょう。

「しかしですよ。犯行を認めない犯人よりも、犯行をあっさりと認める犯人のほうが善意がありそうに思えませんか?」

「む、言われてみれば」

「その二択だからじゃないの? だってさ、それってつまり仲間に『おまえだけは必ず勝てよ』って言われていざそのとき『仲間を裏切って勝利を得るか』、『仲間を裏切らずに敗北を得るか』の二択に遭遇してしまったら、何だかんだで『仲間を裏切らずに敗北を得る』ほうが善意があるように聞こえるのと同じことでしょ?」

「難しい比喩表現しますねー……」

「どっちにしても仲間に責められそうな選択だよねえ」

「もしもそういう場面に遭遇しちゃったら、みんなならどうする?」

「んー、うちは仲間に言われたんだから、後で何を言われようとも『仲間を裏切って勝利を得る』ほうを選ぶかな。だってそのほうが利益になる可能性だってあり得るし」

「わたしだったら――」


「あーっもう、少しくらい黙ることができねえのか、おまえらは!」


 部長の一喝が、部室は愚か別館全体に響き渡りそうな音量で駆け抜け、わたしの台詞はざっと七文字程度で抹消されました。悲しい現実です。

 続けて佐藤さんが問います。

「今はショートケーキを植木か七瀬が食べたかどうかだろ? で、どうなんだ七瀬」

「え、あたし? あたしは食べてないから、小枝が食べたんじゃないの?」

「責任転嫁とは心外だなあ、香織会計。うちは人のものは勝手に食べたりしないよー。ましてや部員のなんて以ての外だって」

 ……どうしてこうも台詞が被ってしまうのか、不思議なところです。

 しかしこれで事件は振り出しに戻ってしまいました。

 つまり!

「この中に一人、嘘つきもとい犯人が――いでっ!」

「おまえもおまええで何つーこと言おうとしてんだよ……自粛しろ、自粛」

「……はーい」

 渋々わたしは自分の行いに慎みます。結構わたしなりに言葉を変換されていたつもりだったんですが……どうやら佐藤さんにはNGワードだったみたいです、残念。

「とはいえ、この中に嘘を吐いている人がいるという事実は否めません。これはアレですね、ショートケーキを賭けたわたしへの挑戦状ということ! そしてこの封筒こそがその挑戦状!」

「それでその封筒には何が入ってたの?」

「え、あ、まだ見てないですが……」

「「「………………」」」

 みなさん冷たい視線だけをわたしに向けて黙ってしまいました。

 一人は「はあ」とため息をこぼしながら頭を抱え、一人は「んーっ」と気晴らしにか背伸びをし始め、一人は「ふう」と一息吐いてパイプ椅子に座ります。そして最後の一人であるわたしはと言うと、

「さ、さあ何が入っているのかなー」

 封筒を開けるという名目上の現実逃避を行いながら、わたしは封筒に眼を覗かせると、驚くほどでもない折り畳まれた手紙があったので、とりあえず取り出してみなさんの前で広げてみました。


『     机の裏を見よ

           さすれば場所がかわる(・・・)だろう      』


 ………………。

 製作者はとんだせっかちさんなのでしょうか?

 パソコンで打ったと思われるこの文章は、一部訂正点がナチュラルに隠れ潜んでいました。これはこれでレアケース。きっとミステリードラマでこのような失態を犯してしまった犯人は、普通二時間ほど掛かるであろうところを三〇分くらいで暴かれて、即逮捕という異例の結末を用意してくれることでしょう。

 是非とも一度は見てみたいものです。

 と、心の中で感想を述べていると佐藤さんが難しそうな表情をして、

「机の裏、か。よし植木、早急に机の裏を探せ!」

「って、食べる気満々じゃないですか!」

「既に調査を開始しているよ、唯部長。そしたらこんなのが張り付いてましたぜ」

 またも一つの封筒でした。

「えー」

「あらら」

「……またか」

 いえ、この場合なら二つ目の封筒とでも言えるべき代物です。宛先不明、送り主不明、そして最後に意味不明。わざわざ手紙を分割する必要が果たしてあったのでしょうか?   

 よくドラマなどではある場所へと誘導するためなどに使われますが、わたしたちは全くとこの部室から動いていません。となると、これは誘導させるためのものでは無いという結論に至ってしまうわけですが……。

 暫く四人で封筒を眺めたのち、封筒から中身を取り出して確かめてみます。

 すると中から出てきた物は意外なもので、

「ハートの3。さっきみたいな紙じゃないようだが、随分と難易度が上がったな。これだと全くとヒントが無いだろうに」

 そう。トランプカードのハートの3だったのです。

 他のカードが無かった辺り、このハートの3に意味があるとしか考えられませんね。

「ハートってことは心を指していたりするんじゃない? ほら、心臓ってハートで描かれたりするでしょ?」

「つまりはみんなの心の中に正解があるってことだね!」

 植木さんが結論を告げます。

 些細なニュアンスの違いだけで、こうも天然というかファンシーに聴こえてしまうようで。付け加え、若干の頭の悪さが目立ってしまう台詞ですね、これ。

 植木さんに続いて七瀬さんも、何故か最も外れに近いであろう結論に則って考えを述べ、

「心臓の中ってことは……『蔵』?」

「となると学校内で言う『蔵』といえば、体育倉庫がもっとも近い場所だろうな。だがそこまで範囲を広くする意味があるのか? ここの部室から体育倉庫まで結構な距離があるだろうし、ただのショートケーキごときの些細な事件でおおごとにする必要も無かろう」

「ごときとは何ですか! ごときとは!」

 ぷんすかと怒りながら反論をしましたが、その行動もむなしくみなさん揃ってスルー。

 事前に話しているのではないか、と思えてしまうほどのシンクロ率ですよ全く。

「けどやっぱり、一番有力なのは心臓の中にある『蔵』だよねえ」

「でもさらに奥深く言えば大臣の『臣』って線も……」

「無いな」と即答する佐藤さん。

「無いねー」と笑みを浮かべながら言う植木さん。

「無いですね」と一テンポ遅れて、みなさんと合わせるように流れで言ったわたし。

「……みんなで否定されると若干悲しくなる、かな」

 続けて、冗談だったのに……、と少しばかり頬を膨らませてぼやく七瀬さん。

 難易度の高いの挑戦状はわたしたちの集中力をことごとく奪っていきます。このままではまずい。戦意喪失から繋がる結論は、ショートケーキを食せないに至ります。非常にまずい状況。ここでわたしは切り札を言って戦意向上させるしかありません。

「一応みなさんも分も買ってきていたんですけどねー……残念ですよ」

 あえて『1000円するケーキではないですが』の部分省いての助言。少なくとも買ってきてはいるので、『うっかり』という嘘にはならない言葉をナチュラルにぼやいてみました。すると……、

「何故それを早く言わなかったんだ!」

 効果は絶大。みなさんの計六つの瞳に友達思い(?)な炎が灯り、戦意回復に成功。

「ならば、うちが体育倉庫まで行ってきてあげるよ!」

 さながら快走新幹線と同じくらいのスピードを感じさせるほどの行動力で、バタンッと扉を勢い良く植木さん閉めて出て行きました。まあきっと、わたしのためではないですが。

 重力を受けないはずのため息が、わたしの口元から床へと重々しく落ちていきます。

 悲しいですね、現実って。そうではないことを祈るばかりです。

 佐藤さんは植木さんが部室から出て行ったところを見計らい、足を交差させ、腕を組み誰もが騒然とするような一言をあたかも平然とした表情で告げました。

「さて、茶番はここまでにして本題に入るとするか」

 ――やはり佐藤さんは心の底から言える『腹黒』だったようです。もはやブラックホールですね、大食い選手とは別の意味で。

 結果、トランプカードのハートの3をテーブル上に置いて、それを取り囲むようにわたしたちはパイプ椅子に腰を下ろし、残り全員で考えることになりました。わたし含める三人全員が同じようにハートの3を見つめ、考え込みます。

「まあハートが心臓って考え方は間違いでも無いだろうが、意味を打ち消しているこの『3』をまず解き明かさないことには、本当の正解には辿り着けないと思うんだよ」

「もしかするとハートには意味が無くて、ただ『3』を探しているときにタイミング良く『ハートの3』が最初に見つかったってだけって言うのも否めないもんね」

「つまり『3』にヒントがあると?」

 七瀬さんの言葉にわたしは首を傾げます。

「この世界には『言葉遊び』ってのがあるだろ? ほら『以上』と『異常』を掛ける掛詞も昔から使われてるんだから、『3』を他の言葉と掛けている可能性も無くはない」

 わたしの記憶上でも、『以上』と『異常』を掛けた偉人さんなんて知らないのですが。

 とりあえず誰かしらが使っていたと仮定し、わたしは掛詞の線で考えてみることにします。

「さん、スリー、みっつ――しっくりするものなんて無いですよね……?」

「出席番号とかはどうだ? ちなみに私は一四番だ」

「あたしは三○番、それと小枝が五番ね」

「わたしは被害者側なので除くとして、一番有力的なのは現時点で『3』が含まれている七瀬さんってとこですか」

 両肘をテーブルについて疑うような半開き眼で慎重に告げます。こういうシチュエーションって滅多に遭遇しないこともあって、わたしはちょっとだけ格好付け。

 表面上では露わにしていませんが、実は今、ものすごくハイテンションです。

「ここで否定したって言い訳にしかならないかもだけど、あたしは犯人じゃないからね?」

「ああ、わかっているさ、七瀬はそんなことをするような奴じゃないってことくらい」

「だったら疑いは晴れたも――」

「しかし現にこのトランプカードが記しているんだ、諦めて正直に白状しといたほうが楽だぞ?」

 日差しの見えかけた表情が一瞬にして曇天に早変わり。そして佐藤さんの腹黒さ、わたしにはもうついていける自信がありません。いえ、ついていきますけど。

 わたしは知らないふりをして、生徒手帳のメモ欄ページにこれまでの纏めの記述を書き始め、自前のシャープペンシルを指で回しながら、ぼんやりと二人の対話を視聴します。

「だったら名前はどうかしら?」

 突然、表情を曇らせていた七瀬さん口を開きました。

「……はい?」

「名前がどうかしたか、現段階犯人候補」

 訊き方が違いましたがわたしと佐藤さんは同じことを問います。応じて七瀬さんは、

「出席番号じゃなくて、名前で考えればまた違う答が出てくるって話よ。あたしは七瀬で7だけど、唯は佐藤で310に変換できるのよ? これはつまり、あたしと唯が犯人候補だってことになるわよね。その状況で人に罪を半強制的に擦り付けて終わらせようとしている辺り、相当あたしよりも怪しいと思うんだけれど」

 まさかの反論!

 そのうえ正論!

 傍から訊いていればどっちもどっちなのでは、と思ってしまうような対話ですが。

 佐藤さんも性格上、言われ放題というわけにはいかず……。

「なっ……! ふん、私のほうには3と0の他にも『1』が含まれているからな。まだ私よりもおまえのほうが怪しいだろう、七瀬」

「『1』が関係してないなんて誰も言ってなかったはずよ」

「――ッ!」

 醜い人間の擦り合いが勃発中。この争いに終止符は果たしてあるのか、疑問が残ります。

 傍観者側としてはショートケーキの質が落ちないように、出来る限り早めに食べておきたいところなのですが……、まあ誰もが解せられるとおり、儚い希望でしょう。

 しかしわたしは被害者としての発言の権利を得ています、使わないわけにはいきません。

「ですが、『3』ばかりでなく『ハート』についても考えてみては?」

「知らねえよ、そんなもん!」

「ですよねー……」

 もう発言権なんて知りません。わたしは傍観者、傍観者としての義務を貫く路線に変更。

余談ですが、主人公の名前は都合上(忘れてた)のためありません。なので誰も主人公の名前を呼んでくれませんが、決して仲が悪いというわけではありません!笑

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