迷宮生活6日目その一
「はあっ!はあっ!はあっ!」
暗い森の中、俺は必死になって地面を蹴る。だが、そんな俺の必死の努力をあざ笑うかのように金色の鳳が、俺に迫った。
蹴飛ばされ、地面を転がる俺は何とか立ち上がったが、金の羽を虹色に輝かせた大鳥は俺のすぐ目の前まで来ていた。
俺の腹を鳳の嘴が貫く。俺は痛みを覚悟し、歯を食いしばって目を閉じた。
「ここまでか!?」
だが、肝心の痛みはいつまでたっても訪れない。恐る恐る目を開けた俺の腹には、確かに大鳥の嘴が突き刺さっていた。鎧は無残にも貫かれ、ドクドクと赤い血が流れる。だのにちっとも痛くない。
そして、大鳥の方も微動だにしない。金色の鳳の体は白い巨大な刃に貫かれていた。
最近変な夢ばっかり見るな・・・ぶっちゃけ内容もグロばっかで趣味が悪い。
「おはようございマース!」
ちっきしょー!誰もいねえええええ!ふうっふー!人恋しい!
バシャバシャと川で顔を洗い、除けておいた羊の毛を拾って背負った。羊毛についた泥や汚れは綺麗さっぱり無くなっている。心配していた油っ気も無い。泥パックの要領で落ちたのだろうか?
躰の傷は例によって一晩でだいたい治っていた。俺の肌色は黄色:朱色=3:2ぐらいの所謂黄色人種だが、治ったところは往々にして白い。そのせいか傷の形がくっきり残っているし、元の肌より固くなっているせいでどことなく違和感がある。
「とりあえず塒に戻ろう。」
俺は小川の上流の泉目指して歩き始めた。
「そういえば大狼に取り囲まれたのはこの辺だったか?」
この森は良く分からない。そもそも空じゃなっくって天井がある時点で、良く分からなくて当然なのかもしれないが、つい先日俺が仕留めた大羊も、あの巨熊が殺した大狼も、もれなく白骨化していた。
「俺も死んだらこんな風に、あっという間に分解されちゃうのかな?」
死と隣り合わせのこの森では生きる延びることすら難しい。白骨化した死体は、そう語りかけているようだった。お前も例外ではない、気を抜けばすぐにこうなるぞ、と。
「これは?」
ふと見ると、大羊の遺骸の側にうっすらと碧い握りこぶし大の透明な石と、鈍い金属光沢を放つ同じぐらいの大きさの鉱石が落ちていた。
俺は二つの石を手に取ってみた。碧い透明な石は意外と重かった。表面は細かな傷のせいで白く濁っているが、磨けば宝石みたいになるかもしれない。鉱石の方は思ったより頑丈そうだった。重さは日曜大工に使う金槌ぐらいか?何かを打ち込むのには使えるかもしれない。
ただ、両方とも強烈な草の臭いがした。
「胃石ってやつか。食べた草を磨り潰す用の。」
そういえば胃石は堅い石が好まれるって聞いたことがある。単純な大きさでは牛みたいな大きさの羊だ。胃石のサイズもそれなりということだろう。しかし、強烈だ。この草の臭いは水に曝しとけば取れるんだろうか?
他にも使えるものはと、白骨死体を漁る。趣味が悪いことこの上ないが、致し方あるまい。後で手を合わせておこう。
羊の大腿骨は折れた槍の柄に使えそうだな。大きな大腿骨を手に取った時、流石に重くて持ちあがらないだろうと思っていたのだが、案外あっさり持ち上がって拍子抜けした。
下草に飛び散ったはずの血糊も、誰かが拭き取ったように綺麗になくなっている。
「こうも綺麗だと逆に怖いんだが・・・」
俺は大羊の白骨化した頭を手に取った。カランと乾いた音がする。重さもそれほどでもないし、まるで何かの薬品で漂白したようになっている。この森自体が風化を早めるのか、それともまだ俺の知らない何らかの生物がいるのかは知らないが、とにかくこれを兜代わりにしよう。
かぽっと大羊の頭蓋骨をかぶった俺は、他にも何かないかと見て回ったが、大狼の骨はもれなく打ち砕かれて使い物にならなかった。良くて歯と爪ぐらいだろう。
「とりあえずこれでいいか。」
もしゃもしゃと漢方の葉っぱを食べた俺は、折れた猪牙槍の柄を付け替え、鎧の切れた蔦を取り換えた。羊毛で紐を作ってみたのだが、俺の技量では枯れたツタの方がよっぽど丈夫だった。
だだ、蔦よりはずっと細いので、大蜂の針と組み合わせれば簡単な裁縫位は出来た。弓を使うことも踏まえ、前回の教訓から俺は猪革で手袋を作る。やはり、剣を持つにしても弓を持つにしても、責めて指の付け根位までは覆っておきたい。
俺は塒の側に転がしておいた大カブトの殻の残りから、適当な分だけ切り出して指の出ている手袋に貼り付けた。鏝として使う分には十分な出来だろう。そんなこんなで拾ってきた3枚目の猪の毛皮は、鎧用のマントと鎧の隙間を埋めるために使ってしまった。
「羽も余ってるし、矢に付けてみるか?」
鏃が大狼の牙で出来ている矢に安定用の羽を取り付ける。金色の羽は光を浴びると虹色に輝いている。
「前回はひどい飛び方だったが、今回はどうだ?」
あの大羊を仕留めたのは半ば事故だったな。あの時矢はてんで真っ直ぐに飛ばず、茂みに消えて行った。結局あの矢は茂みに隠れていた大羊を射抜いてしまったのだが、偶々だよな?俺はこの矢が、あの飢えた大狼のように大羊に向かって行った光景を思い出した。考えすぎかもしれないが、この矢を射ることでまた新たな厄介ごとが起きるような気がする。そうならないようにと祈るばかりだ。
ギリギリと音を立てて猪の肋骨から削り出した弓がしなる。目標は20メートルほど先の大木だ。こういう時は掛け声の一つでも。
「貫けええええええええええええええええ!!!」
バヒュィ!と、音を立てて弓がしなる。矢は俺が見えないほどの速さで飛んで行った。
矢が命中したのだろう、バアァン!と、異様な音がというよりも何かが炸裂したような音がした。
「・・・嫌な予感しかしない。」
狙った大木は中心に矢が貫通した後、幹がぼろぼろと崩れ出した。大木は樹木が倒れる時特有の、あの悲鳴のような音を立てて倒れる。
ズシン!と一拍おいて振動が伝わってきた。
「なんだよこれ・・・」
俺は呆然と口を開けるしかない。適当に放っただけのあの矢は、的のど真ん中を貫いただけではなかった。大木を貫通し倒してしまっただけでなく、その木の遥か後方の木に矢の半分ほど突き刺さって止まっていた。
「怖っ何これ!!」
俺は思わず大弓を放り投げた。おかしいぞこの弓?!おかしいぞあの矢?!
「変だ変だとは思っていたが、遂に本性を現し始めたな・・・」
もういやだ。いったい俺が何をした?こんな世界嫌です。早く日本に帰りたい。
「日本と言えば・・・そういえばカバン!カバンだ!カバンを取りに行こう。」
俺はとりあえず自分がやらかしてしまったことを無かったことにして、さっさと矢を回収した。カバンを落としたのは多分あの焼跡より向こうだ。
「また変なのに襲われて帰って来られないかもしれないしな。」
そう思った俺は、川から二つの石を取り、新しい水筒を二つ用意して、焼け野原方面へ出かけて行った。
称号
「????」「理不尽の代償」「豪胆」「怪獣大進撃」「大蜂殺し」「食わせ物」「大狼殺し」「大番狂わせ」「一撃必殺」「大カブト殺し」「樹海の匠」「泥だらけの勇気」「鳳殺し」「ど根性」
「魔弓の射手」:"魔弓"を使った
「必中」:"魔弓"を使用した場合のみ静止物に対して必中
「奢らず」:強力な武器を手にしても冷静さを失わなかった
遭遇生物
「?」
アイテム
大猪の毛皮 火起こし機 鉤爪ロープ 大蜂の針 大鷲の嘴 大鷲の爪 折れた槍 大狼の牙 大狼の爪
装備品
龍鱗盾+ 龍爪ナイフx2 甲殻の鎧+ 革の小手+ 猪肋弓 魔の矢(狼牙+虹の羽)x5 大羊の兜
龍鱗剣 猪牙槍+