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迷宮の歩き方  作者: Dombom
再び/二旅
69/70

迷宮生活23日目その四

お詫びにもう一話!あんまり進んでない?なんでだろうね

 森の中で唐突に木々が途絶え、岩がちなせせらぎが姿を現す。

 俺たちはそこからしばらく進み、河原が出来ているところまで下ったところに居る。

 この迷宮の中は結構な高低差もあり、室内というか天井と壁がある隔絶された空間だということを忘れてしまいそうになる。

 もっとも、ここは迷宮内部だけで閉じた生態系を維持できているようだし、それを言うならこの星だって宇宙という壁に囲まれたある意味隔絶された世界ということも出来る。

 この星はどうやら惑星ではなく、かなり大きな惑星の衛星らしいのだが・・・今の時点では外の世界のことはあまりわからない。

「こうか?いや、違うな・・・」

 俺は羽織っていた毛皮を外し、意識を集中しては理力を流そうと試みる。

「羊さんって本当に法術が苦手ですね。」

「まあ、そう言うな。」

 共用の竈から持ってきた石製の鍋を持ったリフリスが言う。

 さっと洗った野草を蓋の上に載せ、その鍋の中は小川の水で満たされている。

 石鍋と言っても荷重を分散する術が掛かっているらしく、水が入っていたとしてもそう重くは無い。

 全部合わせても小柄なリフリスが持っても問題ない程度に抑えられている。

「羊さんも先に水を汲んだ方が良いんじゃないですか?」

 出来ることから先にやった方が良いですよと、リフリスは言う。

 俺は少し意地になりかけたが、それもそうだ。

 あんまり粘っても仕方がないか・・・と、肩を落とす。

 俺は少し歯がゆい気持ちだったが、仕方がないと毛皮のマントを一旦おいて漆黒のポシェットから水筒を取り出そうとした。

「ん?あれ?」

 俺はポシェットの留め具を外そうとするが、留め具は回らない。

「もう、『開錠の術』ぐらいしっかりしてください。」

 リフリスは救いようがないと言うような目で俺を見てくる。

「・・・すまん。」

 調子が悪い・・・というか、前回と同じようなやり方、理力の掛け方では開錠できないらしかった。

 理力は辺りに存在するすべての力、法術はその繋がりを利用する術なのだ。

 場所が変われば当然周囲の環境、力具合も変わり、日にちが変われば俺の調子も変わる。

 ポシェットは強力な竜の革を使っているらしいから、一番変化が少ないのはこのポシェットなのかもしれない。

「毎回理力を感じ取らないと使えないって言うのはなかなか難しいな。」

 ふぅ。と、俺は息を吐く。

「そういうものですよ。ほんとうなら四六時中感じられるようになって初めて師事出来るようになるんですから。」

 リフリスはそういう修行を超えて来ているんだろう。

 いや、ここの迷宮に挑んでいる術師はそういうレベルにあると思った方が良いだろう。

 挑む人間もこの迷宮も一般人には及びもつかない領域にある。

 そんな中に迷い込んでしまって、出ることの出来ない俺はさながら巨人の家に迷い込んで出口を見つけられない小蠅の様に卑小な存在なのかもしれない。

 けど、この現実を前に理不尽さを嘆いたって仕方がない。

 出られぬ以上はここに居るしかないし、帰る方法を探すためには強くなって生き延びなければいけない。

「よし。『開錠』だ。」

 黒い鰐皮のような敷石状の表面にチリチリと一瞬紫電が走る。

 静電気・・・とはまた違うようで、持ち主である俺に害はない。他人にはどうかは知らないが。

「よくできました。」

 うん。とリフリスは頷く。

「形だけ真似してもダメなんだな。何をやっているのか理解していないと。」

 と、俺は下層で手に入れた水筒を取りだし、古い中身を捨て、飲み口と中身を洗って水を入れる。

 ここの水は「運が悪くなければ」大丈夫らしい。

「どうです?毛皮の方もいけそうですか?」

 と、リフリスはしたり顔で俺に問う。

 うまい人の真似だけしても、その行いが何を意味し、何のためにやっているのか理解していなければ、中身が伴っていなければ結局は失敗してしまう。

 俺はどうせ今回も同じだろうと思って初めにすべき準備を怠っていた。

「教えられてばかりだな。」

 と、俺は苦笑する。

「まあ、約束ですので。」

 と、リフリスは微笑した。

 リフリスはリフリスなりに俺の顔を立ててくれている。

 直接ダメなところを指摘するのではなく、俺が気付けるように配慮してくれている。

 苦戦する俺を見てそれとなく、以前成功したことがある『開錠』をやり直させることで忘れていた基礎を思い出させてくれたらしい。

「ああ。基本からやり直してみるさ。ありがとうな。」

 と、俺は素直に礼を言う。

 俺としてはもっと厳しくてもいいとは思ったが・・・ここはリフリスの気遣いに感謝しておこう。

「どういたしまして。」

 リフリスはそう言い、手持ちの鍋を少し上下させる。

「俺が持って帰ろうか?」

 術が掛かっているとはいえ石鍋と水。

 重くは無いとは言え負担には違いない。

 しかし、リフリスは首を振る。

「いえ、羊さんは毛皮の方をやっていてください。私は先に戻って調理とかしておきますんで。」

 そこまでしてもらうのは少し申し訳ない気もするが・・・

 俺は手にした毛皮に視線を戻す。

 もし俺がこの毛皮の真価を引き出すことが出来るようになれば、これはかなり強力なカードとなる。

 うまくいけばこれからはかなり楽が出来るだろう。

 ここは少し時間をもらっておいた方が後々の為になるだろう。

 ここは甘えておくか。使いこなせないにしても毛皮の汚れも取っておかないといけないし。

 そう思った俺は目線を戻し、リフリスの方を見る。

「いいのか?すまん。けど、気を付けてな。すぐそこだとは言っても何があるかは分からんし。」

 だが、リフリスにはとりあえず注意だけはしておく。

 この場所では獣はそれほど強くないし人の出入りがあるからか数も少ない。とはいえ、魔獣より厄介な人間がいるからな。

 振り返ったリフリスは頷く。

「ええ。分かってますよ。あ、そうだ。」

 何か思い出したようにリフリスはまた振り返った。

「何だ?」

「多分ですけど、そのアイテムボックスの中にも水筒かそれに近い働きの物があると思います。」

「水筒・・・。」

 そうか、確かに。

 俺はペトリャスカからこのポシェットその他を譲り受けた訳だが、中身に関してはほぼ触れていない。

 今俺が手にしている水筒とは別に、ペトリャスカの水筒があるはずだ。

 この漆黒のポシェットのお蔭で、俺は迷宮を歩くときに厄介な荷物の量や重さから解放されている。

 ならば、水とかの必需品は運べる分だけ運んだ方が良い。

 俺の持っている革袋とは別に水筒の機能がある道具があるならそっちも使うに越したことはない・・・

 ん?じゃあこれはどうだろう?

「・・・こうポシェットごと川に突っ込むって言うのはどうだ?」

 リフリスは僅かだが顔をしかめる。

「悪いことは言いませんからやめておいた方がいいです。最悪二度と開かなくなりますよ?」

 いつにも増して真剣だな。

 この様子じゃ、リフリスはやったことがありそうだ。

「アイテムボックスの理力変動がたいへんなことになってしまいます。道具も台無しになってしまいますし。」

「ああそれは・・・『面倒なこと』になりそうだ。」

 からかわないで下さいとリフリスは今度こそと言うように竈の方へ戻る。

 が、すぐに振り返って、

「やっちゃだめですからね!」

 と言った。

「やらんやらん。」

 そう言って俺は手を振る。

 俺だって命が惜しい。

 荷物を引きずって無駄に体力を使う生活には戻りたくないからな。

 余計なことはしないに限る。

 ましてや形見の品、ぞんざいに扱う訳にはいかない。


 リフリスが去った後、俺はペトリャスカの鞄をひっくり返してみたが、特にこれと言って目を見張るようなものは幾つかを除いてほとんどなかった。

 細かい模様が刻まれたロープのような物と、ポシェットの脇に刺してあるものと似た試験管入りの液体、封がされたボトルが数本、折り畳み式の小刀などなど。

 後でリフリスに使い道を聞かないといけないな。

 中でも少し異質だったのが、石とコップだった。

 石と言うかなんというか、ソレは色付きの・・・変な表現だが、他の品々に比べると随分安っぽく、刻まれている紋様もそれほど厳密ではないように思える。

 試しに理力を通して見たが、僅かに掌から浮き上がるぐらいで、取り立てて特別な効果がある訳ではないようだった。

 もう一つのコップの方は、さっきの石とは違い、一目見ただけでその細工の精緻さ、美しさに目が眩みそうになる。

 ちょっと手に取るのが憚られるぐらいだ。

 一体何の金属でできているのかは分からないが、持った感じはひんやりとして見た目よりずっしりと中身が詰まっているような感じがする。

「何か水に関係するモノって言ったらこれぐらいなもんだが・・・」

 刻まれている紋様のパターンはあの巨大な扉のようにどこか生命感のある感じがする。

 理力の流れはと言うと、そっちの視力が弱い俺でもすぐに分かるぐらいに強い流れがコップに注ぎこまれている。

 何か取っ手の部分がスイッチのような機能になっているらしく、手にしている間は手から離れないようになっているらしかった。

 見た目より重く感じるのも俺の理力を吸い取っているからなんだろうか?よく観察しようと俺はコップをひっくり返してみた。

バシャッ!ジャババ・・・

「ん?っておいおいマジかよ。」

 これは・・・何と言うか呆れてしまうが、傾けた空のコップから水が流れ出てきた。

 水はまるでコップの中から湧き出ているかのようにジャバジャバと流れ出てくる。だが残量自体はあまりなかったようで、コップから流れる水は程なくして止まった。

「ほー。すごいな。」

 まるで魔法みたいだ。と、思った瞬間、急にコップが重く、いやこれは引っ張られている?

「くっ!何だ急に・・・キッツ!」

 さっき水が流れている時は俺の体にほとんど負荷はかかっていなかった。

 だが、不意にずしりと体が重くなったような錯覚がする。

 見ると、さっきとは理力の流れが変わっている。水を出す時は僅かに俺の理力を吸い上げているだけだったこのコップは急に俺の体から理力を毟り取り、貪り食うような勢いで理力を吸い始めていた。

「な、何が?起こって!」

 混乱している俺の視界にふと異様な光景が映る。

 川の水が渦巻き、まるで竜巻か何かに吸い上げられるように回転する水の柱を作っていた。

「クッ・・・」

 腕の理力を無理やり吸われたせいか、俺の左手に力が入らなくなっていく。それどころか古傷の白い硬質化した部分がミシリミシリと広がって来ていた。手を離したいところだが、理力の流れを経つことが出来ないせいか、まるで指先が取っ手に張り付いたようにびくともしない。このままだと左腕からも俺の魂が引きはがされて砕けてしまう。

「クッソ!最悪だ!」

 俺はなんとか全身の理力の流れを左手に集中させようとした。

 渦巻く水の柱はまるで蛇のように川の方を向いたこのコップの口に飛び込んできた。普通ではあり得ないことだが、川の水は噴水のような流れを作ってコップに吸い込まれていた。

 アーチを描いた水は奇妙なことにコップの口に吸い込まれるが、どこかに消えてしまったかのように全然あふれることは無い。

 今このコップは水が満杯になるまでこの理力の吸い上げを止めないだろう。じゃあどうすればいい?

 あまりに理力を吸われるものだからめまいがする。

「クッ・・・」

 限界が近い俺は遂に膝をついた。

「?!これは!」

 その瞬間俺はハッとした。膝をついた瞬間急に理力の消耗が少なくなったのだ。一方でコップに流れ込む水の勢いは変わらない。

 これはもしや・・・

「うおおお!よいしょぉっ!」

 と、俺は最後の力を振り絞り、左手を伸ばしてコップを川の中に突っ込んだ。


「・・・ふーっ。あぶね。」

 俺はコップから手をはなし、近くの岩の上に置いた。

「って目が。」

 ふと気づくと俺の瞼の上に水滴が溜まっていた。思った以上に動揺していたようだなと、俺は額を流れる冷や汗を拭った。

 まさか「水を汲む」だけの術で死にかけるとは思っても見なかった。

 咄嗟の判断でコップを流水に漬けるとさっきまでの理力消費が嘘のように消え、俺は左腕を失うことは何とか免れた。

 この術式コップの取っ手から俺の手を離すには一瞬だけ大きな理力を流すか、理力を流すのを止めればいいようだった。その一方で水流の出し入れの強弱の方法は少しずつかける理力の大きさを変化させることで調節する。

 さっきの俺は理力を吸われることに動揺して、全身から左手へ理力を回していた。普通の人ならやけどしそうに熱いものからパッと手を離すように、大量の理力を取っ手に流して離脱できたのだろう。

 けれど、俺は理力の扱いはまだまだ未熟だ。結果として左手の理力はさっと上がらず、じわじわと上昇していくことになってしまった。結果としてコップに刻まれた「手を離す」術式が起動するだけのスパッとした理力変化をつけることが出来なかった。するとコップは「もっと術の出力を上げたいのだな」と判断し、俺の腕から理力を吸い上げ、俺は何とかそれを補おうと理力を流し・・・と悪循環に陥ってしまったようだ。

 だが何とか最後の機転でコップを水に漬けることで、「水を吸い上げる」術式の消費する理力の絶対量を減らすことが出来た。お蔭で何とか干からびずに済んだということだな。

 それでも結果として俺は今際限なく理力を吸われてバテテしまっている。

「なるほど、とりあえずこれがペトリャスカの『水筒』って訳だ。」

 俺は恐る恐るコップの取っ手を掴み、僅かに理力を流して傾ける。するとコップの中からどこからともなく水が流れ出し、河原の石を濡らしてゆく。傾けるのを止めたコップは最初より僅かに軽い。

 どうやらポシェットと似た原理で、結構な量の水をコップの中に溜めておくことが出来るようだ。

 で、その水のストックがなくなれば今度は『法術』でコップの中に水を『吸い込む』と。

「はぁ。」

 と、俺はため息をつく。

 水場で使ったからいいものの、補充の術式が砂漠とかで発動してたとしたらどうなっていたかと思うと身震いする。一体どれだけ理力を持っていかれるか分からないし、最悪その時の判断次第では左腕を切り落とさなければならなかったかもしれない。

 脱水死じゃなくて、理力切れで干からびるとかシャレにならん。

 そう考えるとこのコップってある意味呪われてるんじゃ・・・と、思ったが俺はすぐにそれを否定した。

 このコップは良く切れる刃と一緒だ。

 何も知らない俺が剣の刃の方を持ってしまって怪我をしたとして、それはその剣が悪いと言えるだろうか?

 いや、そんなことは無い。

 剣がそういうモノだと言うことも知らずに迂闊に触れた俺の方が悪いに決まっている。

 使い方を誤れば痛い目に遭うが、ちゃんとした使い手ならば「切る」という機能を遺憾なく発揮し、無類の強さを発揮する。

 そういう意味でこのコップは『一流』の道具だ。

 どんな状況でも「水を出す」という機能は果たす。

 『ペトリャスカが使っていた』と言う前情報があったのだ。だとしたらそれなりの『術師』が使うモノ、そういう術師でなければ扱う時に危険があると言う可能性を考慮していなければならなかったのだ。

 俺の中でふと、この道具に持ち主を傷つけないような安全装置が無いことに苛立つ気持ちが浮かんだのは何故だろう・・・どんな道具でも使い方を誤れば持ち主を傷つけることはある。俺は・・・俺の元居たところはそういう道具ばかりのところだった・・・のだろうか?

 ふと、俺の頭の中で消し忘れた残像のような情景が去来する。この思いが摩耗しきる前に帰らなくては。

 ・・・とりあえず少し落ち着こう。


ちゃぽっ

「おー。吸ってる吸ってる。」

 先ほどまでの動揺はどこへやら、慣れれば楽しいもので俺は理力の練習と称してコップを弄っていた。

 水に入れたコップは水面が泡立つほどの勢いで水を吸ってゆく。

 これならば風呂を沸かすとまではいかないものの、軽い水浴び程度なら何回かできそうだ。

「よし。『離れろ』。」

 俺は川の水を十分に吸い、最初よりも重くなったコップへ手から流れる理力を引き留めた。

 すると、コップ全体の理力の流れが変わったようで、気のせいか先ほどよりも丸くなったような印象を受ける。

 こうなると、ひっくり返しても中に仕舞われた水が出てくることは無いらしい。

「まあこれで水の方は安心だな。さて・・・」

 と、俺はコップを仕舞いつつ、置いておいた金猪の毛皮を取る。決して忘れていたわけではないのだ。

「まずは落ち着いて・・・」

 俺は周囲に神経をとがらせる。

 風の音、川のせせらぎ、木の葉の擦れる音、肌を撫ぜる空気の流れ、光、熱、そしてこの毛皮の理力の流れ。

シュウウ・・・

 俺はポシェットやコップと同じようにこの毛皮の中に眠る力を暗闇の中を手探りで進むように少しずつ理解してゆく。

 僅かに手を動かし、息を吐き、吸い、そうして当たりの理力を励起し、毛皮の中に注いでゆく。

バッ!

 俺の前にいきなり輝く、俺の伸長の倍はありそうな金の猪が現れ、突進してきた。

「うおっ!うあっつあ!」

 俺は辛うじて突進も避ける。いや、避けたはずだ。

 しかし、金猪の術の効果か、避けたと思っていたが実は避け損ねていたのかは分からない。

 とにかく俺は吹き飛ばされた。

「な、何だ?」

 そこで俺はハッとする。

 バチン!と俺は吹き飛ばされ、河原にブザマに転がった。バッバッと、俺は咄嗟に左右、上と背後を確認するが、さっき現れた金猪は影も形もなかった。

 当然だ。

 俺は「目を閉じて」いたんだ。

 目を閉じているのに、そんなものが『見える』はずがない。

 ならば・・・だ。

 その何というか第六感的な、「理力感」的なものがあるとして、それによって俺はあの金猪の姿を「感じ」た。

 けど、俺自身その「理力感」がいまいち馴染んでいないせいで、「見えた」と錯覚してしまったんだろう。

「また、『試練』か?」

 ぱんぱんと俺は身体についた砂埃を払い、立ち上がった。

 俺から見て少し先、そこには昔の輝きを取り戻した金の毛皮が魔法の絨毯のように宙に浮いている。

 さっきので汚れは弾き飛ばされたようだ。

 俺の手を離れた毛皮は徐々に光を失い、重力に抗えなくなって落ちようとしていた。

 俺は手を伸ばし、毛皮を再び背に纏って、端っこに括り付けた牙でボタンを留める。

「もういい加減時間だな。」

 そろそろリフリスのところへ戻ろう。

 俺は少し自分が動揺しているのを感じた。

 歩きながら少し頭を冷やそう。


 さっき見た金猪の幻影は多分、この毛皮の元の持ち主・・・その意志の一部というかなんというか。

 まあそんなもんだろう。

 俺はふと右腕に括り付けたあの赤龍の爪を見る。

 この毛皮と爪、あと弓か?

 これは俺が直接倒したとか譲られたとかそういうモノじゃないのは。

 俺が反撃して殺したり、食うために殺し、そして奪った素材とは違い、これらはたまたま戦いの後の焼け跡で拾ったりしたものだ。

「やっぱ勝ち取らなきゃ認められねーってことなのか?」

 これまでもそうだったが、龍爪ナイフもマントも、肋骨の弓も、「普通に」使う分には使えていたし、最低限の「法術」というか、理力的な効果も返してくれてはいたとは思う。

 けど、この道具本来の力、追加効果って言ったらリフリスに怒られそうだが、その力を引き出そうとするならば俺自身、この道具というかこの道具の元となった素材に見合うだけの力をつけなくちゃいけないんだろう。

 理力の技量不足で「ただのコップ」に殺されかけるような俺ではまだまだ使いこなせないし、逆に無理に使おうとすれば害にもなる。

 まず己の理力を道具が求めるだけ適正に流せるようになり、そして道具に理力を流すだけの電池のような存在から脱却して道具を制御し、使いこなす。

 それが「認められる」ってことか・・・

 今のままでも防寒や防刃とか十二分に役に立っているとはいえ、これじゃあまるで剣を鞘に入れたままで振り回しているようなもんだ。

 どう考えても情けないし、何よりもこの毛皮とか爪の持ち主は俺と違ってこの道具本来の力を振るってくるのは間違いない。

 この表層に居る限りは奴らとは出くわさないだろうが・・・再び奴らと会いまみえることがあれば・・・

「俺は・・・」

 ふと、俺はここからでも見える大扉を見つめる。あの扉の先には本当の青空が広がっている。

 だが、あの装飾扉を俺は潜ることが出来ない。

 ならば行くべき道は何処か・・・

 俺は再び深淵へ挑まなければいけないのかもしれない。

 巻き込まれてではなく、今度は「自分の意志」で。

アイテム

○海淵の指輪+ ○意思読みの首飾り ○返話の指輪 ◎刻雷竜のアイテムボックス(謎の試験管 識別票 ウサギの毛皮 大猪の牙 火起こし機 水筒  猪肋弓 魔の矢(狼牙+虹の羽)x2 湧水の升 【未鑑定】ロープ、試験管、瓶詰めの液体 その他不明) ねたつく古びたポシェット(識別票x8 託宣紙x9) 食用の野草


装備品

麻の衣服 龍爪ナイフ 金猪のマント 革の小手 金猪の足袋 錆び罅割れた装飾剣 ひび割れた羊の兜 包帯

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