迷宮生活23日目その三
投稿遅れてスイマセン分量も
とりあえず来年の2月が勝負時期なので暫くは・・・両方頑張ります
「一応これでいいのか?」
俺は手元の手引書を見つつ、木の枝を片手に地面に印を打ってゆく。
「ええ。それで合ってますよ。」
と、リフリスが確認する。
整備された道と森の間にところどころ設置された竈は、誰でも使っていいということにはなっているが、食材調達や水汲みなどでこの場を離れなければいけないような場合、地面に印を書いておくことで一応使っている人がいるということを知らせることが出来る。
印をつけていたからと言ってそれは単に目安程度で占有権を主張できる訳ではない。
もっとも、食事を摂るならわざわざ危険な森の中に来るよりも外の街で料理屋に入った方が良い訳で、迷宮に作られた窯の利用者はそれほど多くないようだった。意図しない限りは他の一団と鉢合わせすることもあるまい。
「行くか。」
と、俺はリフリスに確認する。
「そうですね。早めに済ませてしまいましょう。」
すると、リフリスも頷いて俺たちは森へ入って行った。
「食べられる草はこんなものか・・・」
図鑑と見比べながら野草を摘むというのはなかなか難しい。
図鑑を開きながら草を探せばそのページの草は見つけられるだろうが、その分移動距離が途方もなく伸びてしまう。かといって食べられそうだと当たりをつけた草を探して図鑑を開くのはかなり時間の無駄だ。
いずれは自給自足・・・と行きたいところだが、これがなかなか難しい。
図鑑を丸暗記しているのならば楽なのだろうがな。
これはいけそうだと適当に摘んだ草が、いざ図鑑を開くと猛毒注意のマークが添えられていたりするから困ったものだ。
「地下のジャングルの時は結構あてずっぽうに食べてたからな・・・運が良かったのかなんなのか。」
多分基本的に他の生き物が食べていたものしか口にしなかったお蔭で毒物を避けられたというのは多分にあるだろう。
この本に書いてある植物は地下に生えていたものとは全く別のモノばかりだ。
というよりこの迷宮は扉を超えるごとにかなり植生や住んでいる動物、つまりは生態系事態が大きく異なると考えた方が良いだろう。
「ん?これは確か・・・」
一回図鑑で見たはずだ。
俺は確かこの辺りのページだったはずだと目の前の鋸の様な特徴的な葉をした草と一致する絵を探す。
カサッ
「ッ!」
さっと俺は手に持った草を離し、剣の柄を握って音のした方を振り向いた。
「なんだ、リフリスか。」
バッと振り向いた先にはリフリスが俺よりも随分多くの野草を抱えて立っていた。
「羊さんの方は集まりましたか?」
そう言ってリフリスはぴょこぴょこと足元の木の根や地を這う太い蔦を飛び越えて俺のそばまでやってきた。
「これぐらいだ。なかなか難しいもんだな。」
と、俺は無造作に下した草を指差し、肩をすくめる。
「うん。初めてにしては上出来です。それぐらいあれば十分なんじゃないですか?」
むぅと俺は唸る。
少し小生意気だなとは思うものの、薬草の知識に関してはリフリスに一日の長がある。
本草学は一朝一夕にならずというか、先達には敬意を払わねばなるまい。
「それはアオギクですね。」
と、リフリスは俺の持っていた野草を一目で看破する。
「虫よけと整腸作用があるって書いてあるな。」
リフリスが一瞬で見分けた草を俺はもたつきながらも図鑑で調べ、その効果を確かめた。
「まあ羊さんに虫よけが必要かって言えば微妙なところですけどね。」
俺の傍から図鑑を覗き込むリフリスはそう言った。
「ん?それはどういう意味だ?」
虫よけが必要ない?いや、確かに俺の体はかなりこの白い物体で覆われてはいるが、それでもまだ素肌をさらしている部分も多い。今は一応よく水場で体を清めてはいるが、放っておけば小蠅でも来そうなものだが。
「あれ?前に言いませんでしたっけ?グリンブルスティの毛皮を纏っていたら小虫位なら勝手に弾いてくれるはずなんですけど。」
そういえばそんなことも言ってたような気もする。
「そうだったか。」
と、俺はリフリスに確認する。
「けど、羊さんの場合毛皮の巫術が働いてるかは微妙なところですね。」
リフリスは何やら納得がいかないとでも言うように首をかしげた。
「何か気になることでもあるのか?」
「いえ、普通は汚れないはずなんですけど、結構汚れてるなぁと思って。」
リフリスは頬に手を当てて俺のマントを眺めていた。
気になった俺はマントの裾を引き、羽織っている毛皮をよく見てみた。
「確かに・・・初めよりかなりくたびれてるな。」
艶やかだった金の毛はくすみ、細かな埃や汚れ、あるいは血がこびりついて黒ずんでいる。
「ん?ここだけ・・・いや、所々綺麗なところが・・・なんでだ?」
マント自体は全体にくすんだ色だ。しかし、ところどころ手掌大かそれよりやや大きいぐらいの大きさで、そこだけ円形に染み抜きしたように少しだけ綺麗になっている部分があった。
「あ、ほんとうですね。」
マントの綺麗になっている部分にリフリスも気づいたようで、その跡を眺めながら何か考えている。
「ああ。なるほど。」
少し考えたかと思うと、リフリスは手をポンと合わせて俺の方を向いた。
「これあれですよ。」
「あれって・・・なんだ?」
リフリスはこの原因に気が付いたらしかったが、俺の方は何が何やらよく分かっていなかった。
「この丸い部分、以前羊さんがあの意地悪な人に攻撃された時のやつですよ。」
「あの時?それとこれとに何の関係があるんだ?」
あの時・・・これまでのストレスで俺が少しおかしくなっていた時、運の悪いことに俺を新手の怪物だと言いがかりをつけて襲ってきた奴がいた。
名は・・・クレ、クレオ二アルだったか?
確かあの時、奴は群衆の力を利用して結構な威力の術を何発も撃ってきた。
不意を突かれたのと、俺に理力の知識と技量が無かったせいもあって結果は惨敗。
止めは刺されなかったものの、酷いありさまだった。
とりあえず思い出してみたのはいいものの、苦い思いばかりで、いまいち今のこの毛皮の話と繋がらない。
あの時何か丸いものが毛皮のマントに・・・
「もしかして、奴の術か?術が当たったところだけ綺麗になっているってことか?」
「恐らくはそうなんじゃないかと思います。」
と、リフリスは頷いた。
確かに奴の術は理力で出来た球体をぶつけて炸裂させ、衝撃でダメージを与えるとともに術の浸透によって敵を麻痺させるものだった。
なるほど。それなら奴の術が当たったところは”丸い”跡がつくはずだ。
だが・・・
「奴の術には衝撃とか麻痺とかの効果はあったが・・・汚れをきれいにする効果とかもあったのか?」
確か奴は大衆の煽動によって生じる雑多な力を纏めて打ち出すものだったはず・・・その過程であの術には不純物というか副作用的にそういう効果が混じっていたのか?
俺が首をかしげていると、リフリスが答えた。
「多分、それは無いんじゃないですか?理力を吸い取って穢れや外力を遮断し、弾き返す法術はこの”毛皮”自体に備わった物ですし。」
理力を吸い取って弾き返す・・・
「じゃあつまり、あの金髪野郎の術を吸い取って弾き返していたってことなのか?ついでに汚れも取れたと?」
はぁと、リフリスはため息をつきつつ答える。
「優れた操り手でもなければ完全に弾き返すことは難しいでしょう・・・けど、放っておいても自然と辺りの理力を取り込むのである程度は効果があるはずです。」
なるほど。俺が特別に理力を加えなくてもある程度は機能する・・・俺の知らない間にこの毛皮は俺の身を守ってくれていたんだな。
何となくあの時に拾った毛皮をマントや手袋、足袋にしていたが・・・これのお蔭で気が付いていないだけで裏ではいろいろと命拾いしていた可能性は結構高い。
「確かに。この毛皮の持ち主達は森を一瞬で消し炭にしてしまえるような炎の中でも飛び込んで行ってたような・・・」
結構前だったか?この星に来てまだ一日かそこらぐらいのことだったか。
あれから幾度か金猪の群れに襲われたが、そういえばあの猪たちはことあるごとに体の毛を逆立てて輝かせ、向かってくる有象無象を悉く弾き飛ばしていた。
本来の持ち主が死んだとしても、そのご利益自体は消えることなくこの毛皮に宿っているってことなのか。
感傷に浸っていたが、ふと気が付くとリフリスは呆れ顔というかなんというか微妙な顔をして俺を見ていた。
「グリンブルスティの毛皮の素晴らしさとか、初め私が羊さんに会った時にいろいろ言いましたけど、それが本当に無駄なことだったって今やっと気が付きました。」
「そ、そうか?」
俺はなんだかその視線に居心地の悪さを感じてしまう。
「本来汚れるはずのないものをここまで汚すなんて・・・ある意味才能としか言いようがないですね。」
仕方ないとは言えない。
俺が異星人だから理力や法術の適正とか才能がからっきしなんだと叫んだところで猛獣や怪物どもがお目こぼしをくれるなんてのはありえない。
準備不足や実力不足は全て俺に返ってくるのだ。
「すまん・・・川に着いたら理力を通してみる。」
「そうすべきでしょうね。」
革製品を水につけるのは気が引けるが、前々から結構ぞんざいに扱ったり水に浸したりしてたような気もする。
理力さえ通せば汚れとかと同じく水も弾いてくれるだろう。
とりあえず今は飲用水や調理用の水を汲んで、余裕があれば獣か魚を捕えておこう。
アイテム
○海淵の指輪+ ○意思読みの首飾り ○返話の指輪 ◎刻雷竜のアイテムボックス(謎の試験管 識別票 ウサギの毛皮 大猪の牙 火起こし機 水筒 猪肋弓 魔の矢(狼牙+虹の羽)x2 その他不明) ねたつく古びたポシェット(識別票x8 託宣紙x9) 食用の野草
装備品
麻の衣服 龍爪ナイフ 金猪のマント 革の小手 金猪の足袋 錆び罅割れた装飾剣 ひび割れた羊の兜 包帯