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迷宮の歩き方  作者: Dombom
再び/二旅
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迷宮生活23日目その二

あれ?おかしいな、予告のところまで進まなかった?何故だ?


そう言えば第二ランキングとかいうのに載っていましたありがとうございます。超嬉しい。

けど、本ランキングに載ってた時のことを思うとやっぱり返り咲きたいと・・・高望みか

 「餞別と言っては何だが・・・」

 迷宮の壁沿いを走り扉へ続く街道の前で俺とリフリスは去りゆくブランとニーファに相対している。

 この辺りはよく人の手が入っているようで、この街道は外から持ち込まれたと思わしき石畳で舗装され、所々人が使えるような設備が敷設されている。

 迷宮から出られない俺はこの辺りを拠点として、食料を求めては森に入る生活を送ることになるだろう。

 別れの言葉を切り出すブランは俺に少しくたびれた書籍・・・と呼ぶには少し粗雑な、しかし紙束と言うには手の込んだ冊子を差し出した。

「これは?」

 俺は内容も知らずに受け取った冊子の拍子を眺める。

 手垢が付き、ところどころ傷の入った冊子の表紙には何かの花の絵が書いてあり、中を開くと同じようにいろいろな草木の絵が描かれている。その脇には何らかの記号のようなものと、恐らく説明文であろう文書が記載されている。

 後半は動物とか魚やらカエルとかの絵だ。赤い字で大きく何やら重要そうな文言が書かれているものもある。警告文だろうか?

 ただし、俺には表紙に書かれた文字も、説明文らしき文章も読めはしなかった。

「図鑑のようなものか?」

 と、俺はブランに尋ねると、ブランは頷く。

「出来れば新品を渡したかったんだけど、あいにく手持ちが無くてね。」

 と、ブランは話しはじめた。

「この辺りの動植物を大まかにまとめたものだよ。本当なら迷宮に入る冒険者全員に渡したいんだけど、いろいろ事情がね・・・今はギルドに入会した上でそれなりに認められないと貰えないことになってるんだ。けど、君には必要だろうから渡しておくよ。」

 そうかと、俺は頷く。

 確かにこの迷宮から出られない俺にとって入口近辺だけとは言え道しるべとなる文献があることはありがたい。

 ブラン達は一応俺を監督する任務があるらしいが、どうせこの迷宮から出られない俺は外へ逃げ出す恐れもないし、俺自身が危険な化け物かと言えば俺がソレを否定するだろう。見た目はともかくとして。

 俺は獣じゃないし、好き好んで人を襲ったりはしない。

 かといってブラン達は奴隷ギルドの前で大見えを切った立場上、大手を振って俺を支援することは出来ないのだろう。

 ならば、ということなのだろうか。これを渡すのはせめてもの親心と言ったところか?

 だが・・・俺はちらとリフリスを見る。俺が文字を読めない以上、これの運用はリフリスに任せるしかない。

 けれど、俺にとってリフリスもブランとニーファと同じく数日の寝食を共にしたとは言え同行者の域を出ない。事情が事情だけに運命を共にする仲間・・・とまでは踏み込むことは出来ない。

 俺が拾ってきたギルドカード<<識別票>>を換金すればそれで縁が切れる仲だ。どうやらリフリスは金を稼ぐ目的でこの迷宮に入ったらしいから、彼女はこの迷宮の外でやるべきことがあるのだろう。

 ある程度の金が入る当ても出来た今、リフリスはリフリスの目的を果たしに行くべきだ。

 ならば、終始べったりという訳にもいくまい。

 俺は俺の中で考えを纏め、ブランに話しかけた。

「ありがたいのは確かなんだが・・・俺はこの星の?この地域の字が読めないんだ。いつまでもリフリスに訳してもらうという訳にはいかないだろうし・・・」

 リフリスと別れることが決まっている以上、今はよくてもこの本はいずれは宝の持ち腐れになってしまうし、ブランはああ言っていたが、この本だって立ち入りが制限されている迷宮内部の情報が記載されているのだ。きっと貴重品だろう。

 それを貴族の許可なく俺みたいなどこの馬の骨ともしれぬよそ者に譲渡するのは知識の伝播的に結構まずいはずだ。

 いろんな意味で仕方がないと、俺はこの冊子をブランに返そうとする。

「・・・」

 文字も覚えられればいいんだがな・・・

 言葉の壁はそう一朝一夕に超えられるものではない。

 今俺が話している言葉が通じるのは一重にペトリャスカが今際の際に残してくれたこの首飾りのお蔭だ。

 これだってあのくすんだ金髪の青年に奪われた時のように、手元から離れてしまえば俺は今できる最低限の意志疎通すら厳しくなってくる。

 この本が図鑑だと言っても、説明文が読めなければその動植物がどんなものか分からない。危険か安全かが分からないのならば、これがあろうとなかろうと結局は同じこと。

 使い慣れたブランが持っているのが一番だろうと俺は思った。

 だが、ブランは本を返そうとする俺に首を振る。

「いや、そんなに考え込まなくても大丈夫さ。ほら。」

 と、ブランは本を開いて説明文の脇に書かれた記号を指差してゆく。

 リフリスは少し興味があるのか、俺の隣から首を覗かせて来た。

「この記号が食べられるという意味だ。そしてこっちが傷口に貼ると良いという意味。ああ、傷口はちゃんと洗ったうえでって言う意味だよ?で、これが食べると傷に良いという意味だ。」

「なるほどですね。これだと分かりやすいです。」

 説明文の記述には触れずに、そのそばの記号のみを説明してゆくブランと、何か理解したようにリフリスは頷く。

 ん?と、俺は首をかしげる。

 もしかしたら結構見落としてたのかもしれない。

 初めから分からないモノと思っていたせいで、一目見ただけで予想がつくものも先入観が邪魔をして理解できなかったという訳か。

「別に説明文が読めなくても・・・ある程度は使えるってことか?」

 と、説明を続けるブランに俺は問いかけた。

「そういうことだね。迷宮に来るのは読み書きができない者も多い。ある程度の強さがあれば誰でも入れるし、貴族の従者として入る者達も多いからね。」

「そうか・・・文字が分からなくても使えるんだな。それは有難い。」

 なるほど・・・迷宮の外の世界では知識も力として扱われていると聞いていたが、それならば識字率が制限されていてもおかしくは無いか。

 しかし、それだと文字も読めず、迷宮に関する知識を口伝でしか得られない者達は不利・・・というかなんというか、情報が少ないなら知らない場所やそういった危ない場所に行かなければ済むことなのだろうが・・・迷宮に入るような人間は誰も彼もが一筋縄ではいかない事情があるということなのだろうな。

 そして、俺はまたリフリスを見る。

 今度はリフリスも俺の視線に気付いたようで答えた。

「わ、私は必要ありませんよ?この辺りに限らず、この国のおおよその植物や薬草はちゃんと覚えてるんですから。」

 と、リフリスは言っているが・・・

「はぁ・・・」

 と、俺はため息をつく。つられてニーファがくすくすと笑みをこぼした。

 本に興味が無いと言っておきながら、本の記載から目を離さないリフリスは少し滑稽だった。

「まあ、とりあえずこれは有難く貰っておくよ。リフリスも後で十分見せてやるから今は我慢しといてくれ。」

「え、ええ?あー・・・分かりました。」

 リフリスは少し名残惜しそうだったが、俺の言葉に承諾したようにすごすごと引き下がった。

 と、思ったらすぐに懐から手のひら大の帳面を取り出して何やら書き始めた。多分次に見るページの番号でも書いているのだろう。

 熱心なことだと、俺は肩をすくめながらブランとニーファに話しかけた。

「何度も引きとめて何だが、この本について幾つか聞きたいことがある。少し出発は待ってもらえんか?」

 済まないがと、俺は重ねて言う。

「いいでしょう。そう急くこともありませんし。」

 すると、ニーファの方がブランに確認するように目配せしつつ答えた。


「なるほど、触れたり近づくだけで危険なもの以外の記載はない・・・つまり、ここに書いてある奴で食べられる記載があるもの以外は口にするなってことだな。」

 そうですと、ニーファは返す。

「分かっていただけた様で何よりです。例え食用になるものでも似た毒草があるものは省いています。初心者では区別が難しいでしょうから。」

 なるほど、危ない橋かどうか点検しないといけないような橋はそもそも渡らない方がいいってことだな。

「そういう奴は初めっから全部毒と思っていた方が安全ってことか。」

 ええ。とニーファは頷く。

 この紫の瞳ともしばらくお別れだなと、俺は内心少し残念に思った。

 俺たちが話している一方で、リフリスはまだかなまだかなと待ちきれないように俺たちの周りをぴょこぴょこしていた。

 そしてブランは何故かうなだれ、ため息をついていた。

 俺は落ち着かないと渡さないぞとそわそわしているリフリスを制してブランに問いかけた。

「どうしたんだ?そんなに頭を抱えて。」

「いや・・・」

 と、ブランは顔を上げる。

「誰も彼もが羊頭君みたいに物分りがいいと良いんだけどね・・・」

 ブランはため息とともに呟く。

「というと?」

 合いの手を入れつつ俺はブランの話を聞くことにした。

「いや・・・結構いるんだよ。その、中毒で倒れる冒険者がさ。」

 うんざりするよねと肩を落とすブランに俺は問う。

「それは、この本を守らないってことか?」

 そう言って俺はこの使い古した冊子を掲げて見せた。

「寧ろ、持ってない人が中毒になるのは仕方のないことさ。けど、実際は逆なんだ。」

 逆?というと?本を持ってる奴の方が中毒になりやすいってことか?

「それは幾らなんでも・・・」

 ないだろうと俺は思う。

「まあ、実際に計算したら本を持っている人の方がずっと致命的な中毒になる可能性は低いんだろうけどね。それでもやっぱり居るのさ、自信家ってやつがね。」

 実際の統計と日常的な感覚に差が出るってことは・・・やはり印象の差だろうか?

 迷宮に入る有象無象の集団に比べてある程度の実績を立て、この本を渡すほどのクランならそれなりに印象が強いはずだ。その中で中毒者が出たとなればかなり目立つのではないだろうか?

「ああ、なるほど。本を持っている人の中で中毒になる奴は少ないから、逆に目立つってことか?」

 危険だからやめておけって書いてある注意書きをわざと破る人種はどの星にもいるってことか?

 ブランはそれを自信家と評した・・・そういう奴だと自分の方が正しいと自信満々なんだろう。本にやってはいけないと書いてあっても、その記述より自分の勘の方が正しいと信じてついやってしまうんだろう。

「個人的な感想としてはちょっと違うけど、事実はそうなんだろうね。」

 それにしても、ブランのこの気苦労は何だろうか?

 そういう人種によく出会うって言うだけではなさそうだ。

 いや、せっかく注意書きを書いた文書を渡しているのにわざわざそれを破るような人種には誰だって会いたくはない。

 特にそういう人種はこの迷宮では早死にするはずだ。

 けど生き残る?それなりの備えを講じられるというのならば・・・

「そういう奴って結構貴族・・・だったりするのか?一般人が作った冊子より自分の知識の方が上だとか思ってしまうのも。」

 普通ならばそういう自爆行為をした奴がいたとしても自業自得だ。冒険者を導く立場であるとはいえ、この冊子を渡した以上ブラン達の責任はそれで終わりのはずだ。

 なら、それで終わらない者が相手だったら、立場的にわざわざ助けなければならない相手、そう例えば貴族とかならあり得そうだ。

 ある程度自前の知識がある分、生兵法は怪我の元と言うように厄介なことになりやすいのではないか?

「そう、正にそれなんだよ。本当の実力者ならこんな冊子なんかなくたって、無茶はしないし却って本当に安全だと知っている物しか口にしないんだけど・・・」

 そうか。と、俺は返す。

「相手が貴族とかなら立場上注意も出来ない・・・ってことか。」

 厄介だなと、続ける俺にブランは何か感じ入るものがあったのか目頭を押さえていた。

「そう!そうなんだよ。もう全く!この前なんかねぇ・・・」

 これは長くなりそうだ。早めに止めないと。

「そうか、大変なんだな。」

 と、俺は適当にあしらったつもりだったのだが、何かブランの琴線に触れてしまったらしかった。

 ブランはますますそうなんだよ!と、早口にこれまでの愚痴を捲し立てていた。

 こいつ酒いらずだなと、俺は呆れ気味にニーファに救援を求める視線を送った。

 ニーファは何か苦笑いをしてブランの背をポンポンと叩く。

「ああ。見たかいニーファ!これまで僕がいろいろ注意してきた人たちの中で僕の苦労を理解してくれたのは羊頭君、君が初めてだよ。」

 ブランはこれまでよっぽど散々な目に遭い続けてきたのか大げさにも、俺が少し理解を示しただけで感涙を流していた。

「あ、ああ。そりゃどーも。」

 俺は内心男の涙なんて見ていて気分のいいものじゃないなと思いつつ、返した。

 まあ、誰にも理解されない苦労を抱えると言うのは辛いということはよーく知っているが。

 ニーファはブランをなだめ、リフリスはやれやれですねと手のひらを上にして肩をすくめて見せた。

「団長、ではそろそろ。」

「ああ。そうだね。」

 落ち着いたブランにニーファが切り上げる旨を伝え、ブランもそれに同意した。

「じゃ、また会おう。なに、すぐに会えるさ。」

 今度こそ本当の、と言ってもまたすぐに会うかもしれないが・・・とりあえず別れだ。

「行っちゃうんですか、ちょっと寂しいです」

 そういうリフリスに、ブランは返す。

「いろいろ報告はあるし、仲間たちにも僕らの恩人のことを話しておかないといけないからね。」

 そういえば、そういうこともあったかと、俺は思い出す。

 あの大ムカデの大群に襲われた時に、ブランのチームは後数人の同行者がいたはず。彼らはまだ俺が奴らを逃すためにたまたまとは言え、結果的に囮になったということを知らないはずだ。

 もしかしたら、残りの仲間を通じてブラン達の支援を受けることも可能かもしれない。

「リフリスはすぐに行けるじゃないか。距離的にはそう遠くでもないしな。」

 と、俺は言う。

 その巨大さを物語るように、これだけ離れていても俺の視界の端には僅かに出口の外の風景が見える。そしてあの扉も・・・俺はその敷居を渡ることは出来ないが。

「そうですね。またギルドカード<<識別票>>とかの換金の時はよろしくお願いします。」

 と、リフリスは二人に頭を下げた。

「じゃあ。しばらく。」

「ああ。そっちも気を付けてな。」

 そう言って俺たちは二人と別れた。

 迷宮の壁沿いに走る石畳を進む二人をいつまでも見送る訳にもいかないので、俺とリフリスは反対側へ進んでゆく。

 とりあえず昼食の為に近くの窯を確保するのがいいだろう。この辺りには既に石鍋と石で組んだ竈が冒険者の為に用意されている。

「ほら。」

 と、俺はさっきブランとニーファに説明を受けた冊子をリフリスに渡す。

「え?羊さん、どうかしたんですか?」

 あらら、反応はいまいちだな。

 さっきまで楽しみにしてたのにもう忘れてしまったのか?

「さっき言ってただろ?貸してやるよ。」

 あっ。と、声を上げたかと思うとリフリスはほとんどひったくるように俺から動植物図鑑を奪った。

「やったぁ!」

 と、図鑑を胸に抱えたリフリスは今にも小躍りしそうだった。

 他人のことを言えた口ではないが現金な奴だと思いつつ、俺は注意を促す。

「歩きながら読むのは無しだ。躓くと困るし、ここは迷宮だ。人の手が入っているとは言え、いつ獣が飛び出して来るとも限らんからな。」

「はーい。」

 リフリスはそう答えて自分のアイテムボックスに冊子を仕舞い、黒いビロードのような革袋から水を一口飲んだ。

 俺は歩きながら手近な予定を考えることにした。

 まず、水の確保、次に食材だが、食べられる植物の方は図鑑もある。今までよりは楽に済むだろう。それに、ニーファが作ってくれた薬湯に入っていた草もある程度は把握している。

 後は兎か何かを気配をごまかしつつ接近して捕えればいいだろう。

 最近使ってはいないが、血染めの大狼の牙を矢じりに使った矢はまだある。これが獲物を追い続ける原理もやはり、理力によるものなのだろうか?

 俺は思案しつつ、食後はペトリャスカの遺品を吟味して、ついでに今自分が持っているもので何か役に立つもの、理力を通すことで何らかの効果が出るモノは無いか試してみようと思った。

思いついたアイデアを放り込み続けるから進まないんだよな・・・引き伸ばしになってしまう。しかし、整合性を考えれば・・・ジレンマ

まあ休みだし更新ペースを上げて行けばいいか?

次回予告は今回の分の次回予告です。


アイテム

○海淵の指輪+ ○意思読みの首飾り ○返話の指輪 ◎刻雷竜のアイテムボックス(謎の試験管 識別票 ウサギの毛皮 大猪の牙 火起こし機 水筒  猪肋弓 魔の矢(狼牙+虹の羽)x2 その他不明) ねたつく古びたポシェット(識別票x8 託宣紙x9)


装備品

麻の衣服 龍爪ナイフ 金猪のマント 革の小手 金猪の足袋 錆び罅割れた装飾剣 ひび割れた羊の兜 包帯

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