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迷宮の歩き方  作者: Dombom
迷宮とは・・・
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迷宮生活22日目その三

ハァーッ!ハァーッ!・・・

ヒサツ・ワザ!三連・投稿ジツ!イッイヤー!!

 今の体が妙なことになっていると言っても、何故か腹は空くようで、俺は三人が用意してくれた軽めの食事を摂っていた。

「どこで消化されてるんだろこれ・・・今の俺って内臓が無いんだよな?」

 首をかしげながら軟らかく煮崩した肉入りの薬汁を飲む。正直言っておいしいとは言い難いが、それでも俺は誰かが俺の為に世話を焼いてくれるのが素直にうれしかった。

「あながちそういう訳でもありません。」

 と、焚火を挟んで座るニーファが答える。

 今俺たちは迷宮の出口からさほど遠くないところに野営を張っているが、それでもここは迷宮の内には変わりないと言うことで、夜の支度も早めに済ませていた。

 もしかしたら俺の監視とか、そういう意味もあったのかもしれないが、そこはブランとニーファがこの迷宮に入る冒険者たちの安全確保の責務があるという立場を考慮すれば致し方ないと思えた。

 何より、俺の正体が謎の白い物体の塊で、そこに俺の魂が張り付くことで人の形を保っているということが分かった今、俺はどちらかというと人というより魔獣に近い存在であると言える。もっとも、俺自身は俺は人間以外の何者でもないと思ってはいるが・・・

 そして、おそらくそれが原因で出口の大扉が俺が外へ出るのを拒んでいるのだと思われる。

 まだこの迷宮を脱出していない冒険者がいるであろうと予想される今はまだ、俺を出口に近づけるわけにはいかないのかもしれない。

「そうでもないって言うのは?」

 敷物の上に座るニーファは手にした器を置き、そのなめらかな足を横にする。

「今の羊頭さんはほとんど人間と変わらない・・・その白い物質が何なのかは分かりませんが、人の姿をしている部分は理力的にほぼヒトと同じものになっています。臓器に関しても、おそらくはある程度はヒトと同じなのではないかと。」

 ふーんと、俺は少し苦い汁を啜りながら答える。

「じゃあある程度は栄養になったりするのか?」

 一応内臓らしい構造は再現されているということは分かったが、そこから先はどうなんだろうか?

「そこのところは何とも・・・臓器があったとしても機能しているかまでは調べても分かりませんでした。」

「そうかあ。」

 と、俺は仕方がないなと思う。

 俺の理力流は人間にはあり得ないぐらいに乱れていると聞いていた。ということはつまり、俺の中身を覗くこともかなり難しいはずで、そんなノイズだらけの信号からそれだけの情報を読み解けただけでもすごいのだろうとは思う。

「じゃあ、俺が食べているモノは栄養になるかもしれないし、あるいは全く逆で、そもそも腹が減ること自体が気のせいかもしれないってことか?」

 残念ながらと、ニーファは首を振る。

「今は何とも言い難いですね。」

 うーん。と、俺は唸る。

 臓器があってもそれが”なんちゃって”で終わっていて、実際に機能が無いとしたら、多分、呼吸とかも不要なはず。

 けど、あの青年に持ち上げられ、腹を殴られた時は空気が出たし、気絶もした。そういえば酸欠による気絶という事態にも今まで何度か遭遇したことがあったような気もする。

 でもなぁと、俺は首をかしげる。

 人間、極限の状態で死の恐怖に晒されると神経が暴発して死んでしまうこともあるし、俺の空腹とか呼吸とかもそういう思い込みの極致にあるもので、本当は必要ないとしても、どうしても惰性でしてしまうという状態なのかもしれない。

 なにせ食事も呼吸も、それを言ったら心拍とかもだが、20年以上一時も欠かしたことはなかったはずだから。

 今いきなりさあ、そういうことは不要になりましたからやめてもいいですよって言われたとしても、ハイソウデスカとそう簡単に止める訳にはいかないだろう。

「でも、食べることによって影響とかはやっぱりあるんじゃないでしょうか?」

 と、ウサギの骨付き肉を頬張っていたリフリスが、食べていた肉を飲み込んだのか話し始めた。

「って言うと?」

 俺はニーファに向けていた視線を右隣のリフリスに向ける。

「ほら、羊さんがさっき薬湯を飲んだ時ですよ。あの時羊さんは効果があるって言ってましたよね。」

「ああ、そうだったな。」

 と、俺は少し前を思い出して答える。そういえばあの薬のお蔭か、動けなくなるほどの激しい痛みは数時間たった今はほとんどない。

「あの時、羊さんはあの薬の効能とか成分についてご存知でしたか?」

「いや・・・いや、そうか。となるとやはり、そうなるのか。」

 確かに、俺はあの時傷の痛みが引いていくのは感じていたが、あの湯が薬湯ではあるだろうと思っていたものの、どんな効果があるかとかどういう薬草を使って作ったのかは知らなかった。

 しかし、あの薬湯の効果はニーファが意図したものから外れることはなかった。薬はその効能通りの効果を発揮したのだ。

「何もかもが気のせいなら、どうして薬が効くんですか?」

 と、そしてさらに続けようとするリフリスに俺は割り込む。

「薬の効果も思い込みなら、ニーファが思ったのと全く違う効果、俺の思い込みを基にした効果が出てもおかしくなかった。だろ?」

 ええ。と、リフリスは答え、聞きに徹していたブランはなるほどねと頷く。

「けど、全てが思い込み通りになるなら、それはそれで便利だったんじゃないかな?」

 と、ブランは言う。

 が、俺は首を振る。

「確かに、どんな怪我とか毒とかでも思い込みで治せるなら便利だろうし、願えばものすごい怪力とかも出せたのかもしれないけど、逆に言えばその思い込みのせいでよく分からん病気に掛かったり、下手したら命を脅かすようなマズイ事態を呼び寄せることになるかもしれない。俺としては、とりあえずそうならなくてよかったと思ってるよ。」

 確かに、世の中には偽薬効果というものがある。

 本当は気休め程度でしかない治療だったはずのものがまるで特効薬でも使ったかのように劇的な効果を上げることがあるという現象のことだ。そしてその効果は渡された薬、あるいは処置や、処置を施してくれた人への信頼度が高ければ高いほど大きい。

 当然ながらその逆のパターンもあり得るのだが、この効果があるせいで似非健康食品とかでも”それなりに”効いてしまったりするらしいし、何の変哲もないものでも命を奪う猛毒になりうる。

 ふと思った後、はぁ・・・と俺はため息をつく。こういう要らないことは覚えているのな。

 けど、今の俺の体は確かにその効果や、あるいは他の心理的、精神的要因の影響を受けてはいるだろうが、それだけではなく、きちんと肉体的な要素も持ち合わせている。

 少なくとも生き死にが心持ひとつで決まってしまうようなことは無い。

 幸か不幸か普通の人間とほとんど変わりはないと言うことなのだろう。異常な点も多いが。

「まあ、良かったとは思うよ。」

 そう、俺は呟く。

「何がだい?」

 そういう俺にブランは真意を尋ねてきた。

「だって、腹が減ったら飯を食うし、息も吸えば心臓が動いて血も廻る。その方が健康的じゃないか。」

 はっはっはと、ブランは笑い、リフリスとニーファは口元に手を当てて小さく笑った。

「確かにそうだね。」

 と、ブランは相槌を打った。


 俺たちは簡単な食事を済ませて不寝番を立てることにした。

 だが、俺は怪我人ということで不寝番に立つのを止められた。リフリスでさえ止めてくるものだからそこまで弱っていると思われているのかと少し気が悪くなった。その分心配されているというのだと思えば有難いことではあるのだが。

・・・

 眠れない。

 気絶していたのが寝ていたのにカウントされるのだとしたら、昼過ぎぐらいまでぶっ倒れていた俺になかなか睡魔がやってこないのは道理なのかもしれない。

 けれど、それよりもやはりということなのだろう。俺の中ではさっき告げられた事実が、今の俺は人間ではなく人間によく似た何かなのだという事実が未だ消化されずに重くのしかかっていた。

 他人の前ではこれまでと変わらないし、支障もないから大丈夫と強がってはいるものの、当然ながら俺が受けた衝撃はそう簡単に消え去ることは無く、俺の中で延々と反響し続けていた。

 そしてやはり、他人の目も気になるもので、変わりないように接してくれているように見える三人にも違和感を覚えてしまう。

 気のせいか、あるいはどこまでが本当なのか、それとも無意識の変化なのかは分からないが、ブランとニーファは俺の理力流を正してくれたあの夜以降からどこか余所余所しく、俺を警戒するような一歩引いて監視しているような態度が見え隠れする。一方でそういう思いを抱いていることにあの二人は少し引け目を感じているのではないかとも思う。

 リフリスの方は明らかに俺を心配する態度を見せ始めている。

 これは少し前までは無かったことだ・・・俺が弱みを見せる前は、リフリスにとって俺は戦いにおいて欠点の見せない頼りがいのある存在だったと、俺は想像している。

 だが、思わぬ紛争に巻き込まれ、俺も並の人間のように弱さを抱えている、いや、普通の人よりも過酷な状態にあると知ってからは、リフリスは常に俺に対して憐れみを向けてくるようになった。ブランも、ニーファもそうだ。

 彼らは立場上、俺を悪く言えば新種の魔獣として監視しなければならないが、その一方で不幸な身の上にある俺にそんな目を向けざるを得ないことに罪悪感を覚えているのだ。

 俺自身は今の状況はそれほど不幸だとは思っていない。むしろ、この体の特性のお蔭でとりあえず今まで生きてこれたのだ。ある意味感謝もしている。

 だからこそ、俺はブランとニーファ、そしてリフリスの態度の変化に苛立ちを覚え・・・

・・・いや、止そう。

 どうもショックが強すぎるらしい。

 俺としたことが、根拠もない想像で人に当たるだなんて・・・情けない。

「クッ・・・」

 起き上るとまだ少し痛みが走る。思わず声が漏れてしまった。

「どうした?何か要るものでもあるのかい?」

 と、俺に気付いたブランが焚火に薪をくべつつ俺の方を見る。

「・・・いや。」

 俺はブランの顔を見た後、天を見上げる。そこには限りある天井が俺の視界を遮っていた。

「少し、顔を洗ってくる。すぐに戻る。」

 そう答えると、ブランは何か察したようで短く答えた。

「ああ。だが、あまり遅いと探しに行かなくちゃいけないよ?」

 分かっていると答えた俺は、重い体を引きずりながら、川とは少し逸れた方向へと進みだした。


「やはり・・・やっぱりダメ・・・か。」

 俺は左手で触れていた突起を強く握りしめる。

 ギリッっと指の関節が軋む音がする。

 ぶつけようのない怒り、やり場のない悔しさ、力のない己への情けなさ。そして何より無力感が、俺の心を支配していた。

「ッァ・・・」

 痛みに漏らす嗚咽に似た声が食いしばった歯の間を抜けて出る。俺は心の奥に沸々とわき出る衝動に任せて剣を引き抜いた。

ガッ!ガッ!

 砕けかけた剣が軋むのに構わず俺は力任せにその切っ先をぶつける。

 だが、びくともしない。

 華奢に見える装飾にすら全く歯が立たない。

「ぅッあア!!」

 全身でぶつかったところでほんの僅かさえ軋みもしない。むしろ、突起の一部が俺の肌を削る。

 それが今、俺の前に立ちはだかる巨大な、その先を見据えようとすれば目もくらみそうなほど巨大な門、この迷宮の出口を閉じる装飾門だった。

「クソッ・・・!クソッ!クソッ!!」

 なんで、なんでだよ!何故出られない!!

 この躰か!この躰のせいなのか!?

 ならどうしろというんだ?どうやったら出られるんだ?!

 俺はこの門を抜けて、この「叡智の迷宮」を抜けて、リフリスから聞いた「知っている場所ならばどこへでも行ける」超常の機構が存在するという「扉の迷宮」を目指さなくてはならないのに!

「クソッ・・・!」

 俺は全神経を集中して見えるモノ全て、触れるモノ、感じるモノ、力、流れ、意志、感情、理念、有形のモノから無形のものまで全てを見逃すまいと意識を高めた。

 目を閉じれば周囲の情景が見える。

 目を開けば辺りに漂う力や回路が感じられる。

 重力も電磁気力も、物質に内包されたエネルギーも、加速も運動も、そして精神の働き、時間の流れですらも一つに昇華し、理力として捉える。

 この巨大な大扉にくまなく施された装飾の一欠片ですら見逃すものか!

「うっ!あぁ・・・」

 そしてその目で扉を見た時、

「ウソだろ。」

 俺は絶望した。

 何も見えないのではない。

 むしろ、全く見えないのであれば、もう何もできることは無いと諦めがついただろう・・・だが、だがそこにあったものは見てはいけないモノだったのかもしれないと、俺は後悔した。

「あッぁぁ・・・」

 渦巻き、あるいは轟々と、極小の無数の理力の流れが絶えず蠢き、さらにそれは俺が全く捉えきれないほどのさらに小さな流れによって、そしてそれももっと微かな渦によって作られている。

 その一方でその小さな渦を飲み込むように、荒れ狂う海のように巨大な流れが微細な流れを飲み込んでは消えてゆく。

へたへた

 と、俺は扉の前から引き下がる。

 いや、俺にはもうコレが扉には見えなくなっていた。

ゾクッ!

 と、悪寒が走る。

 俺は見られた・・・のか?この扉に?

「うっ!」

 ズキリと一筋の刺すような痛みが体に走り、俺は集中を保っていられなくなる。

「クッ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 息が荒い。

 視線が定まらない。俺は地面にへたり込み、下草を見るが、その輪郭はぼやけている。

 顔を上げるのが怖い。顔を上げるとまたアレが見えそうで。

「なんだったんだ一体・・・」

 扉だったはずのものを理力を通して見た時、俺はそこに言葉では到底言い表せないような・・・何かとしか言えないモノを見た。

 モノという表現ですら正しいのか分からない。

 だが、それも仕方がない。

 アレは俺の理解を超えていた。

 だが・・・何も掴めなかった訳ではない。

 俺はすくんだ足腰に活を入れ、扉を再び見据えた。

 そして数歩進み、再び扉に触れる。

 当然だが、噛みつかれるようなことは無い。

 扉の装飾は僅かに蠢いたような気がしたが、見なかったことにしよう。

 これはただの扉なのだ。こちら側に立つ限りは。

「・・・開け。」

 そして俺は下層の扉にしてきたように、扉に念じる。

「やっぱ無理か。」

 俺がこの扉を見て掴んだこと。

 それはこの大扉は扉ではあるが、下層の他の扉とは異なるということだった。

 下層の扉は、俺が開けと呟くだけで、その巨大さ、その重さがまるで嘘のように押した分だけパタンと開いた。

 だが、この扉は違う。

 遠くから見た時から薄々感じていた拒絶が、今ここに形となってそびえ立っている。

 そして俺がソレに触れた時、理解した。

「開くことは不可能ではない・・・不可能では、ない・・・か。そういうことか。」

 この扉は扉ではなく言わば壁、外界と迷宮を遮断する防壁なのだと。

 それを抜けるためにはこの防壁以上の支配力で持って理力の流れを掌握し、この隔壁が示す難解な流れを凌駕するほどの理解力を持って、「俺自身が」この「壁」と釣り合うだけの存在となる必要がある。

 そうなって初めて俺はこの壁を打ち砕き、「扉」へと造り替えることが出来る。

 そういうことだった。

「無理だろ・・・これ。」

 俺はここから一生出ることが出来ないだろう。

 扉に対する鍵、難解な現象をシンプルに解決する方程式、濁流を切り裂く鋼の衝角を手に入れなければ。

称号

「囚らわれ人」


新規遭遇生物


アイテム

○海淵の指輪+ ○意思読みの首飾り ○返話の指輪 ◎刻雷竜のアイテムボックス(謎の試験管 識別票 ウサギの毛皮 大猪の牙 火起こし機 水筒  猪肋弓 魔の矢(狼牙+虹の羽)x2 その他不明) ねたつく古びたポシェット(識別票x8 託宣紙x9)


装備品

麻の衣服 龍爪ナイフ 金猪のマント 革の小手 金猪の足袋 錆び罅割れた装飾剣 ひび割れた羊の兜 包帯

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