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迷宮の歩き方  作者: Dombom
無様でもいい。生き延びろ。
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迷宮生活4日目その二

「ウソだといってよバーニィ・・・」

 俺の目の前には迷彩柄の大羊が倒れていた。どれぐらいでかいっていうとあれだ。あの大猪よりも少し小さくて大狼よりは一回りと半分ぐらいでかい。

「ここに来てからというもの、サイズがでかいものばかり見てきたので地球サイズがどれぐらいか、分からなくなってきたでござる。」

 多分地球産の羊よりかなりでかいのは請け合いだ。この森では象でさえ「へー。ちょっと大きいじゃん。」というレベルだ。


 それにしてもこの羊、迷彩柄ってどうよ?こいつは俺の寝床から大して離れていないところに居たのに、俺は全く気付いていなかった。恐ろしいほどの偶然だが、俺の放った矢がこいつに刺さって居なかったら、俺はその存在さえ知らなかったかもしれない。

 というより、本当に偶然なのだろうか?

 俺はこの大羊を貫き、その血を滴らせながら岩に刺さった矢を引き抜いた。鏃に使った大狼の牙は血を浴び、どこか満足そうな光沢を放っているが気のせいだろうか?

 俺の恐怖心からそう見えるだけかもしれない。何事にも偶然はある。投げた傘が人を殺すこともあるのだ。偶々放った矢が大羊を貫いた。それだけだ。


 とりあえずその場で羊を解体してゆく。羊の肉もそうだが、何よりもこの毛が有難い。迷彩柄だと思っていたのはある意味間違いで、本来は銀色の毛に泥やら苔やらが混じってこんなことになっていたらしい。

 俺は手早く毛を刈り取り、塊を蔦で縛ってゆく。これだけの毛があれば蔦で留めていた鎧もそれらしくなるだろう。羊の毛刈りはやり始めると案外楽しいもので、俺は泥まみれになるのも構わずどんどんと狩って行く。

 結構体が泥まみれになったので、俺は一旦泉で顔を洗い火起こしの道具を取りに戻った。狩った毛玉は泉から始まる川の下流に置いておいた。ここに放っておけば洗う時間を短縮できるだろう。

 改めて羊の側に火を起こし、毛を狩って行く。楽しいのは楽しいのだが、途中で毛皮の中から虫が這い出して来たり、羊の足の蹄に馬鹿でかい蛭が吸い付いていたのを見ると心底げんなりした。蛭は焼けた槇で殺した。


 毛を狩った後、見た目が一回りほど小さくなった羊を眺める。よく見ると羊の口に俺の側に生えている草が咥えられていた。

「この草か?食えんのかな?」

 と、羊が口にしていたのと同じ草を引き抜いた。見た目はほうれん草みたいだが、触った感じは菊菜といったところか?俺は臭いを嗅いで、そのまま食おうとしたが、ちょっとのところで止めた。

「そういえば有機野菜とかって、洗わないとダメだって聞いたような気がする。細菌とか寄生虫的な意味で。」

 それを言うならばあの赤小梨、一回も洗ってなかったが大丈夫なんだろうか?肉を焼けば大丈夫だと思って、赤小梨まで気が回らなかったな。今度からは洗うようにしよう。


 泉にまで行った俺はばしゃばしゃと泉の水で草を洗い、意を決して口に含んだ。

「・・・不味くはないがうまくもないな。」

 ものすごく漢方的な味がする。高麗人参とミントを足して二で割ってそこにレタスのエグみを強くした感じだ。だが、いやな感じはしない。むしろ足りないピタミンとかを補ってくれる感じか?ちょっとスッとする。遅行性の毒があるかもしれないから何とも言えないが、臭みのある肉の付け合わせとしてはいいかもしれない。


「さて、肉と皮を捌くか。」

 羊肉は昔沖縄へ行った時に食べたが、あまり好みではなかったな。だが、あの狼肉よりましには違いないだろう。草食動物だし。今思えば最初に食べたあの猪肉が一番おいしかったな。次は蜂と言った所か。

 1本目の龍爪ナイフはなんやかんやと酷使しすぎたせいか、やや切れ味が落ちてきている。砥石でもあればいいのだが、この辺りにはきめの細かくて固いちょうどいい石が無い。いよいよとなれば二本目を使うしかないだろう。

 羊の皮は猪革と違って比較的柔らかい。裏の脂肪とかを丁寧にのぞけば衣服にも使えるかもしれない。出来ればウールで織った布を着たいが、俺に織物の技術は無いし、せいぜい糸を作るか圧縮してフェルト地を作るぐらいだ。


 羊の肉を切りだし、骨ごと火にくべている時だった。日は傾きかけ、辺りには羊の血のにおいが充満していた。

「・・・しまったな。」

 日本人は平和ボケしていると、良く聞く。俺は日本にいる限りは、平和ボケ上等だと思っていた。というより世界が平和ボケできるような場所であれば、その世界は平和だ。

 だが、ここは得体のしれない樹海だ。これぐらいは予想してしかるべきだった。


 俺はまたもやあの紅い巨大な狼の群れに取り囲まれていた。複数のぎらつく目が木々の影からこちらをうかがっている。その数は約5匹だが、まだ森の奥に潜んでいるかもしれない。残りの肉は惜しいが、前回は偶々勝てただけだ。治ったはずの肩と太腿がうずく。こっちはある程度の肉と皮が確保出来ればそれでいい。


 俺は火にくべていた骨付き肉二つをおなじみの道具袋、スーツに包んで背負った。いつ狼どもが飛び掛かってきてもいいように体制は崩さないように盾と槍を構える。龍鱗剣は背中だが、いつでも取れる。

 焚火に残りのまきをすべてくべ、火の勢いを強くした後、俺は火を背に茂みの奥の大狼を見据えた。狼どもは俺の包をじっと見ている。肉はすべて置いて行けと言うことらしい。

「嫌だね。」

 ジャリッ!と摺れる音とともに大狼どもは一斉に飛び掛かってきた。どうやらあの時の焼け野原の時とは違うらしい。

 だが、こっちだってやられっぱなしじゃない。俺だってお前たちの動きは分かる。


 今は前回のようにはいかない。俺はフェイントを混ぜて槍を突きだした。前に襲われた時からさほど経っていないが、俺の槍遣いは以前よりはるかに上達している。毎日が死線との勝負なのだ、成長なくして生き残れない。

 予想通り、正面の大狼は俺のフェイントに引っかかり横に飛んだ。俺はすかさずその着地点に渾身の突きを放った。


 しかし、大狼は「その程度か」と言わんばかりに軽々と避ける。

「な?!」

 勝ったと思った俺に出来た隙は致命的だった。盾を構える余裕もなく、俺は左右の大狼の突進をもろに受けて跳ね飛ばされた。

「クッ!」

 ガリガリと鎧が地面に摺れる音がする。甲殻の鎧を着ていなかったら今頃骨がボキボキに砕けていたかもしれない。それにしても・・・

「昨日と動きがまるで違う!」

 槍が通用しないと分かった以上、とりあえず身を守らねばならない。痛みをこらえて何とか立ち上がった俺は焚火を背にし、ぐるぐるとうなる大狼に龍鱗剣を向けた。

 狼たちには昨日の見せたような余裕はない。いや、昨日の個体よりもやや小さいし、毛並みも悪い。そして何より飢えている。昨日の群れとは別の群れなのだろうか?もしかしたらこいつらはあの焼跡での食事にありつけなかったのかもしれない。

 つまり、俺が焼け跡で戦ったやつらはこいつらのような他の群れを追い払えるだけ強く、それ故に満腹で動きが鈍かった。そしてそもそも、俺を襲ったのも余興程度だったということか?この飢えた大狼には後がない。強くとも満腹で満足に動けなかった昨日の狼たちとはそもそも比較にすらならないだろう。


「弱ったな・・・これじゃまるで勝ち目がない。意地なんて張らずに肉を置いて逃げれば良かった。」

 森の奥からさらに5匹の大狼が出てきた。一応は膠着状態と言った所だが、結果は目に見えている。俺の背後の焚火の火が弱ったら、後ろの大狼は迷わず突っ込んでくるだろう。

 俺は物は試しにと焼いた肉を入れたスーツに手を掛けるが、大狼は「逃すわけがないだろう」とばかりに牙を見せた。もう見逃してはくれないらしい。


 そういえば俺は今まで樹海の生き物をまともに相手にしてはいなかった。痺れる実のせいで行動が制限されていた大蜂に、満腹で鈍くなっていた大狼、食事に夢中だった大カブトムシ・・・どれもこれも俺の実力で倒したわけじゃない。ただ単に、運が良かっただけだ。

「この辺りが運の尽き・・・か?」

 一か八かの賭けに出るしかないと、俺は龍鱗盾を背に、猪牙槍と龍鱗剣を手にした。一瞬の隙を衝いて槍を投げ、剣を構えての一点突破しかない。しかし、隙なんて出るのだろうか?

 大狼どもは全く隙を見せずに俺への包囲を狭めている。隙なんてありゃしない。もう俺には無駄口を叩く余裕はなかった。

 生暖かい嫌な風が流れ、血の臭いが鼻に付く。


 それは突然だった。唐突にズシン!という地響きがしたと思った瞬間、俺の周囲を回っていた大狼の一匹が跳ね飛ばされていた。

 俺は、何事かと横を振り向いた大狼の隙を見逃さなかった。渾身の力で俺は槍を投げつけ、咄嗟に大狼が避けて開いた包囲の穴を抜けて走り出した。

 ザクッ!と音を立てて地面に突き刺さった槍をさっと回収した一瞬、振り返った俺が一瞬見たモノ。大狼を跳ね飛ばしたものの正体は巨大な熊だった。大きさだけならあの大猪より大きいかもしれない。まるで闇から湧いてきたような漆黒の巨人は大羊を奪われまいと飛び掛かる大狼の群れを、その丸太のような両腕に生えた爪でまるで赤子のように引き裂いていた。

 あの巨熊も血の臭いに釣られてやってきたのだろうか?俺が見たときはちょうど巨熊が腕に噛みついた大狼を振り飛ばしたところだった。

 大狼が木に叩きつけられたのだろう。メシャリと嫌な音がする。俺はなりふり構わず一心不乱に戦場を離れた。


 俺は泉で遮二無二血を落としていた。全身がガチガチと音を立てて震えている。水が冷たいからでは無い。弱肉強食の世界をまざまざと見せられたからだ。

 血の匂いがあの恐ろしい狼や・・・あの巨熊を呼び寄せはしないかと、狂ったように水を浴びた。

 俺も頭では分かっているのだ。あの弱肉強食の世界から逃れられないことに。だが、今は血の臭いを洗い流すことで、この辛い現実から逃げ出せるのだと自分を誤魔化すことでしか、俺は俺に圧し掛かる逃れようのない恐怖を耐える術を持たなかった。


「・・・帰りたい。」

 命からがら持ち帰った羊の肉は、何の味もしなかった。

称号

「????」「理不尽の代償」「豪胆」「怪獣大進撃」「大蜂殺し」「食わせ物」「大狼殺し」「大番狂わせ」「一撃必殺」「大カブト殺し」「樹海の匠」


「生存者」+「へたれ」→「負け犬」:恥をさらして生き延びた


遭遇生物

「歴戦の 森隠れの 大羊」

「屈強な 流血の 大狼」

「恐怖撒く 血を裂く 巨熊」


アイテム

大猪の毛皮 3枚 火起こし機 鉤爪ロープ


装備品

龍鱗盾+ 龍鱗剣 龍爪ナイフx2 猪牙槍 甲殻の鎧 猪肋弓 狼牙矢x5

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