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迷宮の歩き方  作者: Dombom
迷宮とは・・・
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迷宮生活21日目その一

◆更新遅延◆セプクしたいところですがケジメしてしまうと続きが書けないのでドゲザでお許しください◆怠慢だ◆

 「俺が来た星のことはもうあまり思い出せなくなってきているんだ。何故だかは分からないが・・・もしかしたらこれから話すことも何日かすれば思い出せなくなってしまうのかもしれない。だからこそ、聞いておいて・・・出来れば覚えておいてくれないか。」

 俺の居た場所で何かが起こり、俺は地球からこの星の『叡智の迷宮』だったか?とにかく、俺はこの迷宮の底に呼び出された。そこは巨大な・・・地球では何といったか?地下の・・・そう、貯水池だ。大雨とかがあった時に、都市に流れ込む水を一時的に地下に溜めておくような・・・巨大な柱が林立する空間。ある種の荘厳さを備えた神殿のような空間に気付いたら俺は立っていた。

 その神殿は迷宮と同じく天井が輝いており、前後に大きな扉と小さな扉が一対ずつそびえていた。俺はまず小さな扉の方まで歩いて行ったのだ。

 もう夜も深い。俺は手短に話すことにした。


 話し始めてからかなりの時間が経った。ブランは落ち着いているように見えるが、焚き火に照らされたその目は食い入るように俺を見つめていた。そしてニーファも、淡い緑に輝く手帳のようなものを右手で支え、左手をその上から翳している。俺が言葉を話すたびに手帳が放つ燐光が瞬いて、俺の話を逐一記録しているらしかった。

 「そして今、俺はここにいるという訳だ。」

 俺はこれから記憶を失って行っても構わないように、今思い出せる限りのことを伝えたつもりだった。俺が話している間、ブランもニーファも一瞬たりとも飽きた様子を見せずに俺の話を聞いていた。あるいは疑問に思ったことを聞いてくれたおかげで、俺の中で消えかけていた記憶が呼び覚まされることもあった。

 リフリスが寝入ってからもうかなりの時間が経っている。迷宮の夜明けも近い。思いがけず話し込んでしまった。

 ふぅと一息ついた俺は最後の薪をくべた。朽ちた丸太の上に腰掛けるニーファは表情が読み取りにくいが、手にした手帳を一心に見つめ、内容を整理しているようだった。ブランも俺に言いたいことがまとまらないようで複雑な顔をしていた。

 一通り確認が終わったのかパタンとニーファが手帳を閉じると、ブランも意を決したように頷き、俺に話し始めた。

 「まず、礼を言わせて欲しい。君のおかげで僕、いや僕たち全員は第三領域の洞窟から帰ってくることができた。」

 俺はしばらくブランの言葉の意味を考え、記憶を辿った。あの洞窟で俺たちは出会っていた?

 「ああ、そうか。あの時の一行はあんたらだったのか・・・」

 俺はふと、洞窟の底から這い出し、破れた天井から光が差し込むあの場所を思い出す。

 「そうだ。僕たちはあの時、ミリオンセンチピードの群れに囲まれて引くに引けない危機に陥っていた。どうも羊頭君の話を聞いていたら・・・あの時僕たちを助けてくれたのは…」

 「俺だな。多分。あの馬鹿でかくてやたらと硬いムカデの群れに襲われてる奴らを庇って・・・おとなしく隠れてれば苦労しなかったんだろうが・・・」

 あの時の俺は、人に会えた嬉しさのせいでどうかしていた。せっかく今までつないできた命を投げ打ち、悪夢のような洞窟を埋め尽くすムカデの群れに呑まれに行ったのだ。傷まみれになりながらも、なんとか洞窟を埋め尽くすムカデの濁流をやり過ごすことが出来たが、それは今思えば大したことではなかった。

 あの黒い、獰猛な竜に比べれば、錆びた剣でも殻の隙間を狙えば切り裂くことの出来たムカデなど、物の数ではなかった。あの黒鎧竜・・・思い出すだけで体のすべての骨という骨がギリギリと軋みだすような悪寒に襲われる。あの竜に殺されかけ・・・いや、弄ばれ、この迷宮の恐ろしさに俺の心は一度折れてしまった。なんやかんやで乗り越えることができたから良かったものの、あのまま負けた心を持ったままだったらと思うと恐ろしい・・・

 「君は僕たちを逃がすために囮になってくれた。意外だったよ。門が閉じつつあるこんな状況であんなところに僕たち以外の人がいたなんて。密猟者かとも思ったけど、そんなのはどうでも良かった。お陰で命を拾うことができたからね・・・」

 「・・・こっちは散々な目に会った。まあでも、今あんたらと会えて良かった。いらんお節介が無駄にならんで済んだだけでも俺は嬉しいよ。」

 俺の言葉にブランも微笑む。

「僕はてっきりその囮になってくれた人は死んだものだと…あれだけの蟲津波に飲まれて生きているとは。しかもまさかこうして面と向かってその恩人と再会できるとは思っても見なかったからね・・・良く生きていてくれた。」

 この地で初めてであったペトリャスカを救うことができず、傷心する暇もなく命からがら地の底から這い出してきたあの時の俺にとって、洞窟の中で姿が見えなかったとはいえ、他人の存在は飛び上がるほど嬉しかった。だが、やっとの思いで人に出会えた俺を待っていたのは…

 「あの時の爆弾娘のせいで俺は散々だったがな。危うく死にかけた。その後も・・・いや、今にして思えばいい経験になった。」

 やれやれと首を降る俺にブランは声に出して陽気に笑う。つられて俺も。

 「それに、貴方には別の恩があります。」

 笑うブランのあとに続けるようにニーファが話し始めた。

 「いや、それも団長の僕が伝えるべきことだ。」

 そういうとブランは気持ちを切り替えるように一息深呼吸した。改まって俺の方を見た。そして深々と頭を下げたのだった。

 「ミストタイガー猟友会改めドラゴンスレイヤー団長として、いや、ドラゴンスレイヤー団員全員の代表としての言葉だ。」

 「・・・」

 黙って二人を見つめる俺の前に、ニーファも深々と頭を下げていた。

 「ニンシェ・・・いや、ペトリャスカの最期を看取ってくれたことに、貴殿に最大限の敬意と御礼を・・・もうしあげる。」

 うっとニーファはこらえきれなくなって細い両手でのその顔を覆った。

 「ありがとう。」

 震えるニーファの足元に手先から手首へと一滴の涙が落ちた。ブランは両手の血管が浮き上がるほどに、膝に置いたその手を強く握りしめ、こみ上げる感情に耐えていた。

 「・・・」

 俺は二人をどこか離れた場所から見ているような気持だった。いや、俺自身が理解するのを拒んでいるのだろう。

 「彼女は、優秀な・・・夢のある仲間だった・・・」

 ペトリャスカの遺品を渡すべき相手は見つかった。


 ブラン曰く、彼らが知っていたニンシェという名は偽名で、ペトリャスカというのが彼女の本名だろうという話だった。

 数か月前、彼女は普通の冒険者ならば逆立ちしてでも手に入れることの出来ない装備を身に纏いながらも、従者一人も連れずにこの迷宮のある街へ現れたのだという。

 ニンシェと名乗った彼女は、それ以上自身について語ることは無く、ただ大公の紹介状を持ってブラン率いるドラゴンスレイヤーへの入団を希望してきた。ギルドカードすら持たず、いきなり入団させろという彼女に当初は当然ながら団員の反発も大きかった。冒険団ドラゴンスレイヤーと言えば、ミストタイガー猟友会時代から数えれば連合公国で最も古く、また国定ギルドということもあって、そう簡単に入団することは出来ない。

 血のにじむような努力の果てに入団を許可された団員からすれば、ドラゴンスレイヤーの一員であるということは誇りであった。いくら連合公国一の大貴族である大公の紹介と言えども、おいそれと入団させる訳にはいかなかった。何より団員は貴族嫌いが多かった。そこに大貴族の後ろ盾を持ち、自らも至宝ともいうべき武具をこれみよがしに見せつけるニンシェの姿は反感を買わなかったという方がおかしいだろう。

 「だが、彼女は何食わぬ顔で僕が課した課題を突破してね。うちは実力主義だし、貴族嫌いといっても、実力がないのに幅を利かせる貴族が多いからだしね。付き合っていくうちに、彼女自身は案外年相応の素直な娘だっていうことにみんな気付いていったのさ・・・」

 一通り話し終わった後、思い出とともに辛さがこみあげて来たのかブランは一言ごめんと断って手拭いで目元をぬぐった。

 「・・・彼女が消えたのは、今から数えたらもうすぐ三週間ぐらいになるか。丁度、迷宮の扉に異変が生じたころだった。」

 ブランは自分で自分に語りかけるように話し始めた。

 「扉の紋様が僅かに揺らいでね・・・扉が閉まり始めた。僕たちはヒドラが再び活性化して昇ってくる予兆かもしれないと判断して、注意を呼び掛けていたんだ。扉が変動すること自体は珍しいことじゃない。だが、彼女は何か・・・何かを感じたんだろうね。脱退届を出して一人、深淵へと行ってしまった。」

 ブランは遠い目をして語り続けた。

 「彼女を探すかどうかで団員は割れた。僕は・・・個人的な心情としては探すべきだとは思ったんだけど・・・書置きには彼女は深淵へ挑むと告げていたんだ。僕は捜さないことに決めたんだ。」

 俯くブランにニーファが声をかけた。

 「団長の判断は間違いではありませんでした。」

 「・・・」

 ブランはしばらく押し黙った。

 「彼女なら”ある程度”は進めるだろう。けど、いかに才能に恵まれていても、Bランク上位程度じゃ深淵に辿り着くことは出来ない。彼女は多分、帰る気はなかったのかもしれない。あるいは、万に一つの可能性に賭けたのかも・・・捜索はできなかった。同じBランクの僕やニーファはともかく、他の団員の実力を考えれば帰還を前提とした探索は不可能だった。」

 「だが、結局は捜しに行ったんだな。」

 「いや・・・」

 否定するようにブランは首を振る。

 「僕らが捜しに行ったのはキャスカだよ。ほら、羊頭君に爆弾を投げた彼女だ。」

 「それはどういう?」

 俺が首をかしげると、ニーファが続けた。

 「キャスカはニンシェの無二の友でした・・・団長の決定に反発し、飛び出すのも仕方のなかったことかもしれません。」

 「キャスカは脱退したニンシェと違って”団員”だったからね。捜さない訳にはいかなかった。と言ってもキャスカはまだまだ未熟だから、ムービングツリーのところで立ち往生してたんだけどね。キャスカやほかの団員の説得もあって僕らは先へ進んでしまったんだ。今にして思えば取り返しのつかない判断ミスだったよ・・・団結すればどうにかなる問題でもなかった。結局・・・羊頭君のお世話になったって訳さ。」

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