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迷宮の歩き方  作者: Dombom
迷宮とは・・・
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迷宮生活19日目その五

ご無沙汰しました。周囲の状況も何とか落ち着き、体調崩して風邪をひいたりしてしまいましたが、何とかこの通りです。

「距離的にはそうですね、もう半日もしないうちに出口が見えてくると思います。」

「やっと外か。」

 外の空は一体どうなんだろうな?ここしばらくは紛い物の天井ばかりで本物の空というものが恋しくなってきたころだ。あの山頂の小屋も大体は霧に覆われていたし、半ば錯乱していたから景色どころじゃなかったしな。

「ですけどね、羊さん。私は外に出るのはまだ早いと思います。」

「というと?」

 と、岩の上に腰掛ける俺は俺の右下で岩に背をもたせ掛けているリフリスを見た。 まだ早いとは一体どういう意味なのだろう?

「『迷宮』の中は外よりも『時間が濃い』って言いましたよね。」

 と、リフリスが俺の方を向いて話し始めた。その時、少し目をそらしてしまったせいで枝の上から石が落ちてしまった。

「っとと。ああ、すまん。続けてくれ。」

 俺が石を枝に載せなおすと、リフリスは頷いてつづけた。

「まだまだですけど、大分うまくなってきましたね。」

「ああ。まあな。」

 石を枝の上に載せてバランスを取る。気分としては掌の上に箒を立てておく遊びの発展版といったところか?

「これも重心を捉えてしまえばなんとかなる。要は俺の我流の剣技とか体術とあまり変わらないみたいだしな。」

 リフリスは頬杖をついて悪戦苦闘している俺を見ている。

「その石と自分の間に繋がりを感じられるようになれれば・・・後は早いんですけどね。」

 リフリスの反応からして、俺は飲み込みが悪い方らしい。確かに今までの俺には『理力』なんていう他の存在に影響を与えるものを纏めて考える統合力の概念はなかったし、今も言葉ではわかっているつもりでも本質的な意味では理解していない。けれど具体的な作業、修行を続ければいずれは俺にも普遍的な理が見えてくるはずだ。こればかりは頭でどうこうというよりも数や時間をこなして体に覚えさせるしかない。

「影響力か・・・その感覚的なところまではなかなかな。」

 沢の流れる音が集中力を高めてくれる。『石載せ』の修行もそれなりにうまくいくようにはなってきた。ただ、『理力』にはまだ至っていないというか・・・リフリスは物理的な力とか相互作用、その他精神的な作用をすべてひっくるめて『理力』と呼ぶのだと言っていた。そう考えれば、この世界は『理力』に満ちていて、俺はその『理力』に常に触れているはずなのだ。

 だが、分からない。辺りを取り巻く空気は絶えず俺に触れているのに、見えもせず匂いもしないように。例え『理力』が強く現れているものを見たとしても、素人がガラス球の中から宝石を見つけられないように、俺には見分けがつかないのだ。

「ところで、『迷宮』から出ないっていうのはどうしてだ?『時間が濃い』っていうのは・・・まあ分からんでもないが。」

 サバイバルやらマーシャルアーツやら何の訓練も受けていない俺でも、たった数週でそれなりに『見られる』程度の剣技や体術を曲がりなりにも身に付けることが出来た。確かに必要に迫られたり、命の危機に瀕するような目に遭ったせいで、俺の中の野生本能的な部分が目覚めたという面もあるだろう。それに、何よりもここの環境自体が強さを強要している。弱ければ生き残れない。逆に言えばここまで生き延びてきた俺も、それなりに弱くはないということだろう。

 ・・・とはいえ普通に考えてそんな短期間にここまで強くはなれない。どこかにからくりがあるはずだ。

 それの説明が、説明になっているのかどうかは分からないが、『迷宮の時間は濃い』ということなのだろう。もしかしたら、この場で振る剣の一振りは、外の世界で振るうそれの何倍もの経験と鍛錬をもたらしてくれるのかもしれない。だが・・・

「『時間が濃い』っていうのはいいが、それでも別に外へ出ない理由にはならなくはないか?剣技だとか法術なんてものは『迷宮』だから必要なものだろ?外ではそこまで必要じゃないような気がするんだが。」

 そう指摘すると、リフリスは後ろめたさを隠すように目を泳がせた。

「う、でもですね・・・えっと。法術があればいろいろと便利ですし。そ、それに羊さんはペトリャスカさんでしたっけ?」

「ああ。」

 僅かなことかもしれないが、目を離していても枝の先に乗った石の感覚がそれなりに・・・手に取るとまではいかないが、ある程度は分かるようになってきた。回を追うごとにうまくなっているのが実感できる。それと同時に、辺りに漂う気配も鮮鋭になってきたような気がする。この分なら集中を絶やさない限り鍛錬をしつつ、会話するぐらいは何とかできそうだ。

「そのペトリャスカさんに頼まれたんですよね?冒険者ギルドに識別票ギルドカードを届けてくださいって。」

 確かに、あの時俺は瀕死のペトリャスカからこの左手の指輪と翻訳機能のある赤い石の首飾り、そしてあの黒いポシェットを託された。ペトリャスカの託宣紙オラクルペンダントは洞窟の途中で白骨化していた冒険者の遺品とともに、拾った古びたポシェットにしまってある。しかし、彼女の識別票ギルドカードはおそらくあの閉じた黒いポシェットの中。それはつまり、俺が『開錠』の法術を会得しない限り、彼女の遺言は果たせないということだ。

「・・・そうだな。」

「じゃあ。」

 子供っぽい笑顔を浮かべたリフリスが話を切ろうとするのを俺は静止した。

「法術は必要だ。だが、それでもだ。ここは幾分マシとは言え、まだまだ危険地帯には違いない・・・」

 法術の習得には時間がかかるとはいえ「安全な」迷宮の外でも出来るというのなら、それに越したことはない。この辺りの妖怪ども程度には遅れは取らないつもりだが、それでも何があるか分からない。寝込みを襲われれば俺はともかく、リフリスを守りきる自信はない・・・

 俺は少し前に思いをはせる。リフリスと初めて出会ったあの時、彼女を守るためとはいえ、俺は彼女から大金になる花を奪って小鬼達に返してしまった。状況がよく分かっていない状態で、小鬼達に理不尽な暴力をふるう彼女に腹が立っていたことは認めよう。あの時の判断は人間よりも、小鬼達側の立場を尊重したものだった。仲間を思い、去って行った者たちを弔う小鬼という存在を人間に近いものとして扱っていたのだ。

 だが人間至上主義者に言わせれば、相手は人の形をして知性を備えているとはいえ人外の存在だ、所詮は獣なのだと。そういう彼らに言わせれば、あの時の俺は子鬼どもを蹴散らして、持ち帰れば大金になる魂還草をリフリスにやるべきだったのかもしれない。

 もっとも、日和っていると言われるかもしれないが俺はそれを良しとはしなかった。小鬼達の意見も尊重し、花を返す代わりに花を奪ったリフリスを見逃してもらうことにしたのだ。結局、小鬼達はリフリスに負わされた怪我に文句を言うこともなく去ってゆき、リフリスも軽症で済んだ。後悔はない・・・のだが、やはり負い目というか俺はリフリスに引け目を感じてしまうのだ。償いという訳ではないが、できればリフリスは安全にこの場所から連れ出してやりたい。

 一拍置いた後、俺は尋ねた。

「なあ、何か隠し事があるなら言ってくれないか?」

「か、隠し事なんて・・・ハハハ。」

 動揺を隠せないリフリスを俺は見つめた。リフリスは何を思っているのだろうか?リフリスは俺の視線に耐えきれず目を閉じる。知らず知らずのうちにガンをつけていたらしい。子供相手に何をやっているんだ俺は・・・

 はぁ・・・と自分の度量の狭さにため息をついた。先っちょのない右腕が物寂しい。

「同行者に後ろ暗いところがあるっていうのは・・・怖い。」

「怖い?ですか。」

 リフリスは気まずさの残った怪訝な顔をして俺の話を聞く。

「ああ。例えそれが大したことのないほんの些細なことでもな。いざという時、命を預けなければならない状況で、その疑念が一瞬のためらいを生むかもしれない。それが・・・それがもとで危ない目にはあいたくはないし、会わせたくもない。俺はあの花を奴らに返してしまった償いに、リフリスには安全にここを出てもらいたいと思っている。その為には少しでも早くここを出るべきだし、リフリスの協力も必要なんだ。隠し事は少ないに越したことはない。」

 今まで一人でやってきた俺は特にな・・・孤独が怖いくせに、いざ他人に会えば信じ切ることが出来ない。自分という一番信じられるものに頼りすぎていたからかもしれない。だが、これからは・・・特にもう一つの迷宮を通り抜けて元の地球に帰る為には・・・自分一人の力では及ばぬことも出てくるだろう。

 帰ることが前提のこの身の上では恩返しは難しいかもしれないが、それならそれで出来るだけ借りはその場で返したい。


「あ、あははは・・・敵いませんね。」

 そう言ってリフリスはフードの上から頭を掻いた。

「実はですね、賞金が出るんですよ。」

「賞金?」

 ええ。と返したリフリスは話を続けた。

「迷宮内死亡者の遺品、特に識別票ギルドカードはですね。届けた者にそのカードのランクに応じた賞金が出るんです。もっとも、DとかCランクの低位にはほとんど賞金は付きませんが・・・」

「それは確かに・・・賞金目当ての殺人が横行すればまずそうだ。」

 昔は多かったらしいですけどねと、リフリスが断る。

「けれども、賞金そっちのけで行方不明者の捜索をする人も多いです。」

 賞金は大したことは無いかもしれない。だが、旅人に残された人たちには例え愛する人の結末が、旅路の果てに露と消えていたとしても、知ることはある意味救いにもなるし前へ進むためには必要なことなのだ。

「魑魅魍魎が跋扈するこの場所で・・・得にもならないのに気のいい慈善家もいるもんだ。嫌いじゃないが。」

 そう呟くと、リフリスは頷く。

「ええ。でもですね、Cランク上位とかBランクぐらいになってくるとそう滅多なことは無いですから。並みの冒険者が束になってかかっても返り討ちにされたり・・・逃げられて冒険者ギルドに報告でもされれば一生札付きですしね。」

「人に狩られる心配がないとなると・・・」

 ふとペトリャスカやムカデの巣で息絶えていた冒険者たちの姿が目に浮かぶ。ひょっとしたら、彼らもその各々の時代では名を馳せた雄姿だったのかもしれない。

「Cランク上位やBランクともなると有名になってきますからね。賞金もそれなりに付くようになるんですよ。」

「なるほど。闇討ちで賞金をかすめ盗ろうにもリスクの方が大きいし、かといって安否を確認しない訳にもいかないか。それにそういう奴らが迷宮の浅い地域で死ぬとは考え辛い。捜させるにしても相応の対価が必要ということだな。」

 ほぼ最深部から逃げるように這い上がってきた俺は例外として、ほぼ地図のない場所を・・・しかも、進めば進むほど敵が強くなり引き返しづらくなってゆく地域へ進むのはかなりの実力が必要だっただろう。例え、それが意図せぬ死出の道だったとしても。

「ええ。」

 同意の意志を示すリフリスを前に、俺は古びたポシェットに入ったカードを眺める。あの体力回復と満腹感をくれる謎の液体をこぼしてしまったせいで、古いポシェットには異様な匂いが染みついている。が、それは別に気にならない。カードの色はさまざまで表面の文字もバラバラ。俺の首飾りはしゃべり言葉しか訳してくれないらしく、何が書いてあるのかはさっぱりだ。だが、確かにこの金属製のプレートからは言い知れぬ重みを感じるのだ。

 ふと一息ついた俺はカードに落とした目線を再びリフリスに向けた。

「なるほどな。ところで、具体的にその賞金っていうのは幾ら位なんだ?」

 そう聞くと、リフリスは指で数を勘定しながら上を向く。

「そうですね・・・基本褒賞とは別に捜索依頼が出ている時は金額が上乗せされますし。羊さんは合計9枚ぐらいの識別票を持っていましたよね?」

「ああ。持ち主が白骨化して風化するほど古いものばかりだがな。」

 リフリス以外の人たちはかなり前の時代の物らしかったと、確認した俺はそう答えた。

「多分そちらについては捜索依頼が出ていても期限切れ。出たとしても基本褒賞だけでしょう。けど・・・確かどれもDランク上位以上、Bランクのもあったはずです。」

 ランクがどうとかはよく分からないが、あの緑色の小人どもの一団を吹き飛ばせるリフリスは確かDランクだったと言っていた。Bランクともなれば・・・一体どんな規模の法術を使うのやら想像もつかないな。

「確かに、夢半ばで死んだ者たちばかりだったが・・・そもそもあそこまで辿り着くにはそれなりの力がないと難しかっただろう。」

「ええ・・・」

 何か含むところがあるのだろうか?リフリスは一息すって話を続ける。

「それにペトリャスカさんですよ。」

「ペトリャスカ?彼女が何か影響があるのか?」

 と首をかしげる俺を、リフリスは見つめる。

「所持品からしてペトリャスカさんは少なくとも大貴族、あるいは王族の可能性が高いです。それに時間もそう経っていない。」

 ああ。そういうことかと合点がいった俺は合の手を入れようとした。ただ、左手には石載せに使っている枝があるし、合点しようにも左掌に打ち付ける右手がない。ふとしょんぼりした気分になったが、悔やんでも仕方ないので忘れることにした。

「それに一人であの場所まで辿り着くだけの実力もあった。」

 そうです。と言ってリフリスは続けた。

「捜索依頼が出ている可能性も高いですし、カードのランクも少なくともCランク上位以上はかたいです。捜索期限は概して二周半から三周。外でなら無理でも、ここで法術を修業すれば捜索依頼の期限切れには間に合うはずです。」

 捜索期限は大体一月か・・・リフリスは・・・魂還草の時にも金に強い執着を見せていた。それこそ自分の命を危険にさらすようなところへ赴くことになっても。どういう事情が彼女にあるのかは知らないが、彼女はそうまでしても金を集めなければならない理由があるのだろう。

「なるほど、多少の危険を冒してもここに留まろうっていう話はそういう訳か。確かに、王族とか大貴族なら・・・たとえ彼らにははした金でも、庶民にとっては大金だろうな。まあ、実際に依頼が出ているのかは分からないし、もう期限が過ぎている可能性は否定できんが。」

 分かっていますとばかりにリフリスは頷いた。

「例え上乗せが無くても・・・そうですね。Bランクカードの相場が金貨一枚ですから、合計で大公銀貨で十二枚、帝国金貨六枚は硬いかと。」

 金貨五枚?!えっと・・・あれだよな。

「確か・・・金貨二枚で。」

「奴隷の子供が一人買えますね。それに、六周期は遊んで暮らせるかと思います。」

 ごくりと生唾を飲み込んだ。魂還草は金貨二十枚。一周期は確かこの星「エンディオ」が主星の「ニール」だったか?の周りを回る12日間だったよな?ということは金貨二枚で大体、二か月半弱豪遊できる。二十枚ともなると・・・

「それは・・・そのなんだ。あの時は済まなかったな。」

 あの草一本でそこまでとは・・・確かに切羽詰った人間なら命を天秤にかけかねない。あの時の判断には未練はないが・・・

「いえいえ。気にしてません。そもそもあの場に羊さんがいなければ今頃どうなっていたか分かりませんし。」

 俺とリフリスの間でしばしの沈黙が流れる。その流れを断ち切るように、リフリスは話し出した。

「で、ですね。本題に戻りますと、識別票ギルドカードの報奨金の半分を頂けませんか?羊さんとしては最低限の法術は使えるようになりますし、ペトリャスカさんとの約束も果たせるわけです。悪い話では・・・」

「ん?ああいいよ。」

「へ?」

「いや、その程度のことならいいよ。」

 そう言って俺は即答した。

「え?でも・・・そんなにあっさり。」

 交渉事を切り出してきたはずの当のリフリスが困惑している。話の止まってしまったリフリスに代わり、俺が話を続けた。

「いや、むしろ魂還草の分もあるし、全部あげてもいいぐらいだ。ま、俺にも旅費は必要だしな。法術もできるようになって恩人への義理も果たせるんだ。願ったり叶ったりだよ。」

「じゃ、じゃあ。」

 思わず両手を胸の前でぐっとガッツポーズを決めるリフリスに、灼けて引き攣った顔を隠す羊頭の奥から俺は微笑みかけた。

「ああ。改めてよろしく頼む。リフリス『先生』?」


この節が一番書きにくかった。理由づけとか、伏線を張りすぎて回収するのに力量がたらズ・・・しかも書き終わった後に大ミスに気付く。

向こうの日月の単位は一周期=12日

帝国金貨=2大公銀貨=15万円ぐらい。向こうの物価は安いです。

 「扉の迷宮」以外にも複数の迷宮を有する帝国は今主人公たちがいる「叡智の迷宮」を有する連合公国の北面に接し、帝国の首都は公国側から見て北西にあります。

 帝国の規模は連合公国のおよそ五倍。連合公国のまとめ役、大公国は公国の中央で国土のおよそ1/3を有し、銀山があります。そういう感じです。

 Bランクは大体10万人に一人の超アイドル、Cランクで1万人に一人の冒険で生計を立てているような有名人です。Dランクでも十二分にエリート。Eランクで地元最強を名乗れ、Fランクで地元の衛士になれるぐらいです。

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