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迷宮の歩き方  作者: Dombom
迷宮とは・・・
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迷宮生活19日目その二

 迷宮の最深部で、巨大な龍を見たという俺にリフリスは目を輝かせていた。

「ひ、羊さん!龍の真祖を見たっていうのは本当ですか?!」

「いや、あれがその龍の真祖とかいうものなのかは分からない。けど、とにかくあれは想像もつかないぐらい大きな龍だった。」

 そう答えると、リフリスはもう堪らないという様子で両手を握りしめて俺を見上げている。

「わあぁあ!ど、どれくらい。どれくらい大きいんです?」

 あの龍のことは思い出すだけで恐怖に背筋が凍る思いがする。あの赤い姿が頭をよぎるだけで吐き気がするが、期待に胸を躍らせている子供を見るのは悪くない。子供の期待に応えようと思えば、依然味わった恐怖ぐらいは耐えられた。

「うん、そうだな・・・高さは迷宮の扉ぐらい、頭から尻尾までの長さは正直言って分からない。ただ、しっぽの先でも電車・・・って言っても分からないよな。ええと・・・ここに生えてる木なら小枝みたいに吹き飛ばせるぐらい太かった。」

 この木を小枝みたいに・・・そうつぶやいたリフリスはまるで熱にでも浮かされたように気に近づき、その木肌をぺちぺちと叩く。そして感動に小さくその体を身震いさせ、俺の方を振り返った。

「す、すごいです!まさに伝説の通り。間違いなくその龍は伝説の真龍族ですよ!」

「ああ。よくは分からないが、あれはすごかったよ。」

 俺の前で小躍りしているリフリスは、矢継ぎ早に俺に質問してきた。

「じゃ、じゃあ!試しの木を超えた迷いの林の先、霧の森の奥には命を食らう地下洞窟がありますよね?」

 試しの木?は何のことかはわからないが、迷いの林とは多分、あの方向感覚と距離感が狂う奇妙な場所のことだな。

「ああ。確かに、洞窟はあったよ。俺はそこを抜けて来たんだ。間違いない。」

 人よりもはるかにでかい虎が潜む霧の森、そこにつながる深く暗い洞窟。暗闇の中押し寄せるムカデの群れ、そして冒険者の白骨死体が俺の脳裏に浮かぶ。確かに俺は毎度のことだったが、命からがらそこを抜けて這い出てきた。

「地下洞窟の先には光渦巻く巨大な地底湖がありますよね!」

「そうだな。そこも通ってきた。」

 天井の亀裂から落ちてきた大ムカデを飲み込み、淡く発光する湖面。そこには人間なんて一飲みにしてしまう鮫がうようよいて、さらにその鮫をも飲み込んでしまう巨大な蛟がいた。

「キャーッ!ではでは、その湖の先には?」

 質問の度に心の中で旅路を振り返り、物思いにふけって行く俺に対し、興奮したリフリスは有頂天だ。

「猛獣だらけの鬱蒼とした樹海だった。」

 忘れもしないあの場所・・・俺があそこで生き残れたのは単に運が良かっただけだ。まあ、あきらめが悪かったおかげで、その幸運をつかむことが出来たのかもな。

「すごい!ではもしかして・・・『神殿』も?」

 『神殿』っていうと・・・

「あそこが『神殿』かどうかは分からないが、巨大な柱が並ぶだだっ広い部屋ならあった。」

 そう答えると、リフリスは感極まったように叫んだ。

「羊さん!」

「なんだ?」

「最高です!!」

「あ、ああ。」

 いきなり飛びついてきたリフリスに俺は戸惑う。リフリスは「このこのー!」と笑いながら割れかけの兜を叩いてくるもんだから、こんどこそ羊頭が砕けてしまうのではないかと不安になった。俺は何とかリフリスを引きはがしにかかる。けれど、リフリスはそんな俺の手の間をひょいと抜けてのがれてしまった。

 ふふふと笑うリフリスは、まるでプレゼントをねだるようにその両手を俺に差し出してきた。

「じゃあ、見せてください。」

「・・・何をだ?」

 何をねだられているのかいまいち理解していない俺は、リフリスが一体何を期待しているのか分からなかった。そんな俺に、リフリスは悪戯っぽく笑う。

「またまた。『神殿』に入れたんです、羊さんは『台座』も御覧になったんでしょう?」

「『台座』?・・・」

 『台座』って何だ?何かを置くためのモノなのか?あの巨大な地下貯水場のような場所にそんなもの・・・

「・・・あれか?奥の小部屋の装飾過多な・・・石柱?」

「装飾過多って羊さん、神聖な『台座』ですよ?!」

「ああ、まああの時は本当に右も左も分からなかったからな。」

 へぇ。まさかあの柱っぽいものが神聖な『台座』ねぇ。もしかして俺はここに来た初日にして、この迷宮の最深部にある一番肝となる部分を目にしていたってことか?なら記念にボタンの一つでも置いてくるべきだったか?

「じゃあ、分かっていますよね?」

「さっきから何を言ってるのか分からないんだが。いい加減ネタばらしをしてくれないか?」

 そう言うとリフリスは俺が何故、いまさらそんなことを聞くのかとでも言うように首をかしげる。そして、何やら割り切れないような顔でまだ薄い胸元に手を入れて何かを取り出した。リフリスが手にしたのは、やや膨らみのある楕円形のペンダントだった。中心部分に特徴的な切れ込みが入っている。

「何って・・・託宣紙オラクルペンダントですよ託宣紙オラクルペンダント。『台座』に置かれたペンダントは『祝福』を受けて、『真理』の一部を写し取り、持ち主の知りたいことを教えてくれるって・・・いくらなんでもご存知ですよね?」

 リフリスの顔に少し焦りが見え隠れするが、俺にはその重要性がいまいちピンと来ていなかった。ただ、リフリスが取り出したそれには見覚えがある。それだけだ。

「・・・良くは分からないが、これにはそういう意味があったんだな。」

「お持ちでしたか!」

 古びた方のポシェットにしまいこんでいたそのペンダントをいくつか掴んだ俺は、リフリスに見えるように取り出した。リフリスはずっと「待て」を食らっていた子犬のように俺が取り出したペンダントに飛びつき、食い入るように見つめた。

 俺が拡げた掌を一目見たとたん、水でも浴びせられたようにリフリスから熱のこもった期待が消え去った。熱に浮かされるように上気していた彼女からすっと期待の色が消え、今や困惑と失意の色に染まっている。

「これ・・・これは?これ、羊さんの物ではありませんよね?」

「ああ。俺のじゃない。俺が装備を拝借してきた奴らの遺品だ。」

 何とも表現しがたい顔をするリフリスに、俺は正直に答えた。

「あっ・・・すいません。」

 何かまずいことを聞いてしまったと思ったのか、リフリスは俯く。俺は別に悪いとは思っていないのだが、リフリスはまだ子供だ。子供の内はとかく大事なことと触れてはいけないことの微妙な違いの区別がつかず、相手が困った顔をしてしまうと何か悪いことをしたと感じてしまうらしい。

「いや、気にしなくていい。」

 そう俺は答えて、なんでもないさと手を振った。気を取り直して顔を上げたリフリスは、最後の質問をしようかしまいか悩んでいるようだった。彼女は彼女なりに話の落ちが見えてきているようだった。だが、どちらにせよ聞かなければはっきりしないと思ったのだろう。

「じゃ、じゃあ羊さんのは?」

 最後の希望を込めるようにリフリスが消え入りそうな声で俺に問うた。

「俺のはそもそも初めから無いんだ。言っただろ?俺は異星人だ。そもそもこのペンダントとあの柱にそういう秘密があったなんてことも知らなかったし・・・」

「そう・・・ですか。」

 がっくりと肩を落とし、全てが期待外れに終わってしまったことをリフリスは悟ったようだ。

 俺が何か悪いわけではない。が、仕方がなかったとは言え、それは全て俺の無知が原因だ。知らなかったからと言ってすべてが許されるとは思わない。ましてや相手は子供なのだ。もしかしたら裏切られたような気分になっているかもしれない。

「期待させて・・・悪かった。」

「いえ、私の早とちりですから。」

 謝る俺に、リフリスは笑って見せた。彼女の何がこうも未知の発見、貴重な品の確保に駆り立たせるのかは分からない。しかし、魂還草の件と言い、今回の託宣紙の件と言い、彼女にも何かやむにやまれぬ事情というのがあるのかもしれない。

「そうか・・・」

 出来ればリフリスがその事情を話してもいいと思えるほどに俺は強くなりたいと思った。

「いえ。」

 俺はあの時こぼした謎液のせいで妙な匂いのついてしまったペンダントをあのべたつく古びたポシェットに仕舞った。そして腰に留めた金具を外して、くたくたな方のポシェットを改めて取り出し、リフリスに見せる。その中には汚れ具合や傷の具合が様々だが、どれも同じ形をしたペンダントが九つ、そして金属のプレートが八枚詰め込まれたいた。


「なあ、リフリス。気を悪くしているところに悪いが、俺に法術の修行をつけてくれないか?」

 とりあえず話題を変えなければいけないと思った俺は、無理やり話を変えることにした。

「え、ああ。はい。そう、でしたね。」

 リフリスはさっきのが結構応えたのか、元気がなさそうだ。

「今思い出したんだが、俺はこのペンダントとカードを冒険者ギルド的なところに届けなくちゃいけないんだ。ペトリャスカの遺言でな。」

「ペトリャスカさん?確か羊さんにその指輪と龍のアイテムボックスをくれた方でしたっけ?」

 そういうとリフリスは確かめるように俺の群青色の大きな宝石の嵌った指輪と、どうやら竜の革で出来ているらしい漆黒のポシェットを交互に見た。そして俺は頷く。

「ああ。それに俺の命の恩人でもあるんだが・・・どうも彼女のカードはこっちの黒い方に入っているらしくてな?彼女の遺言を果たすためにも俺は法術って奴を、少なくとも『開錠』の法術ぐらいは習得しないといけないんだ。」

 ペトリャスカ・・・もし、あの時君が俺が放った蔦つきの矢を掴んでくれなかったら、俺は今頃あの鮫を一飲みにしてしまう蛟の腹の中だった。感謝してもしきれないうえに、この指輪とポシェットだ。指輪の方はどうやら半端じゃない「法具」らしいし、ポシェットの方も、誇張表現かもしれないがリフリスが言うには「山でも入る」というとんでもない逸品らしい。

 しかし、両方ともその真価を引き出すためには法術が使えることが前提となっている。そのせいで、法術のほの字も知らなかった俺にとっては結局のところ、正に「豚に真珠」「猫に小判」になってしまった訳だ。ペトリャスカが孵化したムカデの子にその身を喰われ、血を吐きながらも「継承の儀」を俺に施してくれたというのに・・・なんてざまだろうか?笑いものにされた方がまだましだ。

 だから、俺はこれ以上の恩知らずにならないように、少なくともこのペンダントとカードを届けてほしいという彼女の遺言だけは叶えたい。

「都合がいいとは思うが、頼めるか?」

 俺はリフリスの目を見つめて、頼む。リフリスはじっと俺の顔を兜越しに見ていたが、ふと視線を落としてため息をついた。

「はぁ・・・仕方ないですね。もともとはそういう話でしたし、早速はじめましょうか。」

「ああ。ありがとう。」

 どうやらリフリスも気が晴れたようだった。よかった。そう思った俺は内心ほっと一息ついた。

「初めに言っておきますが、私の教え方はおと・・・私の師匠の受け売りですからね?あまり期待しないでくださいよ?」

 杖を持ったリフリスは俺の前でおどけて見せた。

「リフリスがあれだけの術を使えるんだ。確かな修行法なんだろう。よろしく頼む。」

 かく言う俺はというと、目を閉じて集中し、リフリスが教えてくれた「世界を全体的に見る」方法を思い出していた。

日 日立ヒ

十月J   ノ三


称号

「????」「怪獣大進撃」「大蜂・大狼・大カブト・鳳・大軍百足殺し」「悪運」「食わせ物」「大番狂わせ」「樹海の匠」「魔弓の射手」「敵の敵は味方」「受け継ぐ者」「死神」「冒険者」「陽炎の忍」「不死鳥」「泰山不動」「覚り」「武芸者」「剣士」「磁石いらず」「博愛主義」「導師」「法術入門者」


新規遭遇生物


アイテム

大猪の牙 火起こし機 水筒 海淵の指輪+ 意思読みの首飾り 返話の指輪 刻雷竜のアイテムボックス(謎の試験管 識別票 その他不明) ねたつく古びたポシェット(識別票x8 託宣紙x9)


装備品

麻の衣服 包帯 錆び罅割れた装飾剣 龍爪ナイフ 金猪のマント 革の小手 猪肋弓 魔の矢(狼牙+虹の羽)x2 ひび割れた羊の兜 金猪の足袋

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