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迷宮の歩き方  作者: Dombom
迷宮とは・・・
50/70

迷宮生活18日目その四

投稿時が不定ですいません。何とか自然にプロット通りに行くように奮闘中。違和感なく謎解きにもっていくのは辛い。

「でだ。結局のところ法術ってなんなんだ?」

「と、言いますと?」

 迷宮の日暮れが近くなってきた。俺たちは夜に備えて野営の準備をしている。片手で薪を拾い集めている俺の横で、リフリスは大鍋の中の料理を掻き回すように杖を振っている。その杖の先には淡く緑の光を放つ空気が渦を成して舞い、近くに有った小枝や枯葉をつむじ風のように巻き上げてゆく。

「いくら眺めてみてもさっぱり原理が分からんな。」

 俺は小枝を運ぶ風が揚げ切れなかった大きな枝を抱え、野営地に戻った。

「羊さんの街・・・ニホンでしたっけ?そこには法術はなかったんでしたっけ?」

 リフリスが杖を下に向けると杖先の光が収まり、枯れ枝の塊ががさりと地面に落ちた。

「日本は街じゃなくて国だ。それに日本に限らず、地球には法術なんて便利なものはなかった。」

 そう答えた俺に、ギクリと驚いたようにリフリスは杖を抱えて縮こまった。

「い、今何と仰いました?」

 何故だか知らないが上ずった声を出すリフリスに、俺は首をかしげた。

「ん?いや、地球には法術はなかったって言ったんだが。そんなにおかしいことか?」

 そう答える俺にリフリスはじっと俺の方を向いたまま、器用にフルフルと頭だけ振った。

「そ、その前。です。」

 何かおかしなことを言っただろうか?

「その前っていうと、日本が街の名じゃなくって国の名だってことか?」

 リフリスはコクコクと頷くが、俺には何のことやらさっぱり分からない。

「そ、その・・・羊さ、いえ、お羊様は本当に王族とかではないん・・・ですよね?」

「ハハハッ!お羊様ってなにさ。」

 妙に上目づかいで俺の顔色をうかがうリフリスに俺は笑う。いきなり畏まってどうしたんだ?俺が王様?何を莫迦な。からかっているのだろうか?だったら俺にも考えがないこともない。

「実はな・・・」

 羊の頭蓋骨の奥から俺の目がリフリスを見据えた。

「じ、実は?」

 リフリスはごくりと生唾を飲み込む。

「実は俺は王様・・・」

「ひぃい!」

 リフリスは頭をぶたれる直前の子供の様にその身を縮子ませた。

「でも何でもないよ。」

 え?っと放心したような顔でリフリスが俺を見た。そしてふと我に返ったようにぷりぷりと怒り出す。

「うーっ!もう!からかわないでください!」

 はははと笑う俺をリフリスはポカポカと叩く。ひとしきり笑った後、俺はリフリスの頭からフードを外し、その萌木色の頭を撫でた。

「それにしても、なんで俺が王族だなんて勘違いしたんだよ?そもそも俺は自称異星人だぞ?」

「むぅ・・・そ、それは癖と言うかなんというか・・・」

 リフリスはさもバツが悪いと言わんばかりに目をそらし、気恥ずかしさからか朱の差した頬を膨らませている。

「癖なら仕方がないが、理由を教えてくれないか?ん?」

 そう言うとリフリスは「仕方ないですね」と短く断った後、口を開いた。

「羊さんは名前を名乗る時何と仰いました?」

「俺の名前か?名前は・・・っく、うーん、ああああ!思い出せない!!」

 そう!そうだった。俺の名だ、俺の名は!!こう喉元まで来ているようなのに、あと一歩で思い出せない。手に取った雪片のように掴んだと思えば融けてしまう。ふとした瞬間に頭をよぎるこの言いようのない不安感が俺の心を満たす度、俺は俺の名を思い出そうと何度も試みた。だがすべてが徒労に終わっている。

 自分の名、分かってはいるのだ。だが、読めない。声に出すことが出来ない。

「ごめんなさい。その・・・本当の名前が思い出せないっていうのは大変だと思いますけど・・・」

 羊頭を抱えて右へ左へと頭を揺する俺だったが、ふと困惑したように俺を見るリフリスの声に冷静さを取り戻した。

「あっああ。ごめん。つづけてくれ。」

 心配そうな顔をしているリフリスにそう言うと、彼女は分かりましたと頷いた。

「羊さんはお忘れになったかもしれませんが、最初に私たちが会った時羊さんは『ニホンの・・・』とまず名前の前に出身地をお答えになりましたよね?」

 そういわれれば、そうだった気もする。

「確かあの時はリフリスも出身地を先に言ってたんじゃなかったか?」

「ええ。ですが、その前に『名乗る土地はありません』と断っていましたよね?」

 思い出しつつも答える俺にリフリスは頷きつつも続けた。

「名前の前に出身地の地名を言ったら駄目なのか?」

 首を傾げる俺。

「駄目ではありません。ですが・・・」

「ですが?」

 一体どういうことだろうか?募る疑問を早く解消したい俺は湧き出てくるものを押えつつ、リフリスが答えるのを待つ。

「名前の前に土地の名を言うと、それはその人の所領、つまりはその地方を治めているということになるんですよ。」

 地名を名に冠すると、その土地の支配者を意味する・・・か。どこかで聞いたような話だな。地名が苗字の人の起源と同じようなものだろうか?鎌倉時代とかで武士が自分の支配している地域の名を苗字に使うようになったとかいう話を聞いたことがある。

「っていうことは、それが国の名だと・・・」

「国を治める者、あるいはその権利があるものと言うことになりますね。」

 俺は思わず「なんだって?!」と叫びそうになった。『日本の俺』っていうことはつまりはそういうことだよな・・・。知らず知らずの間に俺はトンでもないことを口走っていたのか!

 いやはや、文化の違いって恐ろしいな!それにしても、早めに間違いに気付けて良かったぜ。もしそんなことに気付かずにどこかのお偉いさんのところで「俺は日本のホニャララです。」なんて口走っていたら、えらいことになっていたな。おお、怖い怖い!

 つーっと俺の背に冷や汗が一筋流れて落ちた。

「・・・危なかったな。」

 躰のあちこちに巻いた包帯が気付かないうちに湿っていた。

「ですね。」

 リフリスも何やら安堵したように地面に膝を下ろした。

「ですから気を付けてくださいね。基本的に土地の名を名前の前に冠した人は少なくとも貴族か、それに連なる人たちですから。」

「下手に粗相をすればえらい目に遭う・・・か。」

 こくりとリフリスは頷いた。その緑の目を見ているとふと思い出すことがあった。


 俺はマントの裏から腰に付けた黒いポシェットを取り出して見せた。黒いポシェットを一目見ただけでリフリスはその目を見開く。

「羊さん・・・それは。」

「なあ、リフリス。」

「はい。」

 そう問いかけると、リフリスはポシェットから目を離し、俺の顔を見据えた。

「これ、この前話したペトリャスカて女の子から預かった物なんだ。あの子は『帝国のペトリャスカ』って名乗っていたんだが、もしかしてあの子は・・・」

 あの時は全く気にしていなかったが、ペトリャスカは確かに自分のことを『帝国の』ペトリャスカと名乗っていた。それってつまり・・・

「きゃっ!」

 リフリスは俺が差し出したポシェットに恐る恐る手を伸ばす。が、触れる直前、ほんのあと数ミリのところまで伸ばした手をさっと引っ込めた。よくは見えなかったが、一瞬黒い静電気のようなものが走ったように見えた。リフリスはまるで熱した薬缶に触れてしまった時の様に近づけていた指先を庇っている。

「本物・・・本物です。本物の竜皮、それも古竜の・・・信じられない。」

「大丈夫か?どうしたんだ?」

 伸ばした右手を庇うように左手で抑えるリフリスの額には、細かい冷や汗が浮かんでいた。

「地上には現存しない古竜の、その革のアイテムボックス・・・間違いないです。その人、帝国の王族ですよ。」

 マジでか・・・


「その・・・羊さんは触れても平気なんですよね?」

 おそるおそるといった様子でリフリスは俺に聞いてきた。

「ああ。というより本当に大丈夫か?」

「ええ。軽いやけどのようなものですから。」

 そう言うリフリスは腰のポシェットから軟膏を取り出し、軽く取って右の指先に塗り込んだ。リフリスの小さな手の指先が少し赤くなっていた。

「どうやら『継承の儀』は済んでいるようですね。」

「『継承の儀』?なんだそれ?リフリスの火傷と関係しているのか?」

「ええ。」

 キュッとキャップに栓をし、軟膏入りの木製の入れ物をしまいつつリフリスは答えた。

「恐らく古竜の、山でも入ると言われた刻雷竜製のアイテムボックスですね。非常に貴重で、そして強い逸品です。持ち主の許可なく触れようとすると・・・こうなります。」

 リフリスは改めて掌を俺に向けた。改めてみれば赤くなった皮膚が腫れてきている。水ぶくれにはなっていないようだからやけどとしては軽いのかもしれないが、ほんの少し触れようとしただけでこれとは。いやはや、防護機構としては少々過激すぎないか?

「で、それを持っていても平気でいられる俺には、これのちゃんとした所有権があるってことか。」

「恐らくはそうでしょう。」

 ふむ。と一息ついた俺は、手にした黒いポシェットを眺める。

 よくは分からないが、なにしろ帝国の王族の持ち物だ。帝国と言えば確か、俺の目的地の『扉の迷宮』がある場所で、外交的に絶大な権力を持つ国じゃなかったか?あのペトリャスカがそんな国の王族だったなんて夢にも思わなかった。

 そして、そういう目で見れば俺が彼女から受け継いだこの指輪とポシェットは、単なる形見以上の意味を持った代物だ。あの時、死期を覚ったペトリャスカは一体どんな気持ちでこれを俺に渡したんだ?そしてそんな王族が持つような代物に俺は果たして釣り合うほどの器があるのだろうか?

 なによりこの前試した時は、俺がいくら開けようとしても金具が外れず、この漆黒のポシェットは開かなかった。これの所有権は本当にあるのだろうか?この漆黒のポシェットが開かないのは、俺がこれを持つに値しない証拠なのではないかと不安になる。

「だとしたら、その『継承の儀』は失敗してたのかもしれないな。」

 自嘲気味に言う俺に、リフリスの顔には戸惑いが浮かんだ。 

「何故です?その子はちゃんと羊さんを主と認めているみたいですけど。」

 首を傾げた彼女に俺は続けた。

「だってこれ、俺がいくら開けようとしてもピクリともしねーもん。きっと嫌われてるんだよ。」

「はぁ・・・?」

 そう言って肩を落とす俺を、リフリスは口をあけたままあきれたような顔で見ていた。

「そりゃあ『開錠』の法術も使えない羊さんがアイテムボックスを開けるはずがないじゃないですか。」

「・・・」

 ・・・そっちか!

 俺は黒い革のポシェットを額に当て、自分のふがいなさを恥じた。法術の使えない俺はあのペトリャスカの厚意を知らないうちに無駄にしてしまっていたらしかった。

日 日立ヒ

十月J   ノ三


称号

「????」「怪獣大進撃」「大蜂・大狼・大カブト・鳳・大軍百足殺し」「悪運」「食わせ物」「大番狂わせ」「樹海の匠」「魔弓の射手」「敵の敵は味方」「受け継ぐ者」「死神」「冒険者」「陽炎の忍」「不死鳥」「泰山不動」「覚り」「武芸者」「剣士」「磁石いらず」「博愛主義」「導師」


新規遭遇生物


アイテム

大猪の牙 火起こし機 水筒 海淵の指輪+ 意思読みの首飾り 返話の指輪 刻雷竜のアイテムボックス(謎の試験管 識別票 その他不明) ねたつく古びたポシェット(識別票x8 託宣紙x9)


装備品

麻の衣服 包帯 錆び罅割れた装飾剣 龍爪ナイフ 金猪のマント 革の小手 猪肋弓 魔の矢(狼牙+虹の羽)x2 ひび割れた羊の兜 金猪の足袋

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