迷宮生活17日目その二
尺の関係上奮発していきます
ヒュゥーと、どこからともなく風が吹き、平原の草地が揺れる。俺の行く手を惑わす妙な林を抜けてしばらく、2時間ほど歩いたころだろうか?時計は砕けてしまったからよく分からないし、空には太陽の代わりに光る天井がある。正確な時間は分からない。それでも、結構な距離を歩いてきたことは確かだ。
「妙にのどかだな。」
ここは見渡す限りの平原だ。所々丘陵地帯があるものの、緩やかな下り坂が延々と続いていて見晴らしはいい。むしろ、あまりにも広すぎて天井が落ちてこないか心配になるぐらいだ。時折地平線の辺りに生き物の陰のようなものが見えることもあるが、この辺りには俺に向かってくるような獰猛な生き物はいないらしかった。時折、所々に開いた子供なら通れそうなぐらいの地面の穴から、息をひそめてじっと隠れている生き物の気配がするぐらいだ。
石を敷いた道は次第にしっかりとした造りになって来ていて、今ではくたびれた感じの石畳になっている。このままいけばきちんとした道になるのももうすぐだろう。軽い上り坂を超えると、そこには小川とそこに架かる板の欠けた橋が見えてきた。礫が転がる川沿いに所々色を添えているのは野草の花々だろうか?俺が上ったこの坂は自然の堤防らしい。ふと俺の目に一本の木が入ってきた。河原と土手の間に、青々と葉を茂らせた木がひっそりと生えている。緑の葉っぱが冠のように茂っているが、よく見ればその中に果物のようなものが見える。
「あの実は・・・食えるのかな?」
草原にぽつんと立つ木には、パッと見ると緑色の柿のような実が成っていた。木肌はごつごつしていて、樹高はそう高くはない。葉っぱはカエデやヤツデを足したような、先が五つに分かれた掌のような形をしている。土手を下り、木に近づいた俺は手を伸ばして実を一つ手にした。ぐっと手に力を入れて実を捻り、枝からもぐ。実がとれる瞬間、引っ張られた枝が跳ね返って葉を揺らす。僅かだが木がざわめいた。
ぷつんととれた緑色の柿は、柑橘系とまではいかないが爽やかな匂いがする。握った感じは硬くてしっかりしているのだが、その割には軽い。
「痺れる実のこともあるし、何かに食わしてみてからだな。」
木の根のこぶの上に実を置いた俺は、マントの下に隠した右肘に括り付けた龍爪ナイフで実を真ん中で二つに割った。青い果物に刃を当てると、サクッと軽い音がして緑色の柿が二つに割れる。木の葉がざわりと揺らめいた。緑色の実が予想以上に容易く切れてしまったので、勢い余って木の根を削ってしまったようだ。うっかりしていれば木の根も切断してしまいそうになる。
柿に似た果物のパックリと開いた割面からは、甘く爽やかな匂いがよりはっきりと香ってきた。割れた果物の断面はレンコンのように中空だ。穴は菱形で、長い方が中心から外に向かって並んでいる。パッと見る限り、五つに砕かれた五芒星のように見えなくもない。中はぎっしりと詰まっているわけではなく、強度が落ちないように中抜きされていたらしい。
「なるほど、だから軽かったのな。それにしても、相変わらずの切れ味だな。」
ナイフから果物の汁をふき取ると、ナイフの腹が光を反射して白い光沢を放っていた。地底の樹海で生活していた時は使えば使うほど切れ味が鈍くなってしまっていたが、この付近には龍の爪を削るような素材はないらしい。酷使したせいで結局巨熊に砕かれてしまった一本目に比べ、二本目の方は寿命が長い。
「少し、休憩にするか。」
ごくごくと水筒から水を飲んだ俺は半分に割った実を手に、土手の向こうの小さな穴の見えるところまで歩いてゆく。穴の中にはやはり何かが隠れているようだ。近づきすぎると警戒させてしまうかもしれない。そう思った俺は、割った実をその巣穴の前に向けて放り投げた。割れた木の実は断面がいびつなせいで時折あらぬ方向へバウンドしたが、うまい具合に転がってくれた。実の半分は巣穴からそう離れていないところまで転がっていった。
「主食が何かは知らないが、食えるんなら巣にもって入るだろ。多分。」
俺は再び土手の向こうまで進めば、あの巣穴からは俺の姿は見えなくなるはずだ。実の成る木まで戻った俺は、小枝や枯草を集めて火を起こし、空になった水筒に川の水を汲んで沸かすことにした。
「結構こうして彷徨ってるけど、まだまだ2週間ちょいぐらいなんだよな。」
しゃくしゃくと実を頬張りながら、俺は軋む橋板を踏んで川を渡った。水筒には一杯の湯冷ましが入っている。
水を沸かし、冷まし切った後に先ほど頬り投げた実の片割れを見に行くと、俺が投げた実はまだそこにあった。どうやら穴の中の住人はよっぽど警戒心が強いらしく、俺が投げた実に近づこうともしなかったらしい。その代りに、実の回りには数羽の小鳥が集まって来ていて、盛んに実をついばんでいた。しばらく観察していたが、小鳥は痺れたり前後不覚になったりはしていなかった。実の半分を軽くきれいな水で洗い、一口食べて様子を見た俺は、とりあえずこの実は食えるものらしいと判断したわけだ。
歩いてゆくと辺りの風景も少しずつだが変わってゆく。延々と続く草原には所々大きな岩が転がるようになり、生えている木も増えてきた。辺りを漠然と見回していると、かなり離れたところにいくつかの動く影を見つけた。
「あれは・・・子供か?」
遠くて人影だとしか分からないが、4人の子供が追いかけっこをしているように見えた。が、どうも様子がおかしい。というよりこんな人気のない場所で4人の子供が追いかけっこをするだろうか?
「どうやら単なる追いかけっこじゃなさそうだ!」
俺は小さな4つの人影の方に駆け出した。
「はぁ…はあ…っ!レモリオ・フレイス・レディエート!」
草原を駆ける4つの影、その先頭の一人が後ろを振り返った。先頭の一人を追いかける三人は、小さいながらも筋肉質の体を持ち、頭はつるつるだ。彼らは赤銅色の肌に腰布、生き物の牙や爪を加工した装飾品や色とりどりの糸で編まれた装飾品を身に着けている。追いかけている三人は怒っているのか鋭い牙が覗く口を開け、叫びながら身の丈もある棍棒を振り回していた。
一方の追いかけられていた一人の姿は、その三人とはずいぶん違っていた。振り向いたことで外れた旅行用コートのフードの中からはセミロングの若葉色の髪が波打ち、髪の合間から覗く肌はやや小麦色に染まった白だった。緑髪の子供は追いかけてきた三人の先頭の一人に向かって、力任せに淡く緑に輝く杖を振りぬいた。
振り返った子供は勢いに任せて杖を振った。しかし、その杖の使い方は素人同然の俺の目から見ても、まるでなっていない。あの振り方じゃ杖の勢いに負けてしまっているし、何より振るのが早すぎだ。カウンターで当てるならまだしも、そもそも「当たる」距離ではない。追いかけられる恐怖に錯乱したのだろうかと、俺は思った。追いかけていた先頭の一人もそう思ったのだろう。空を切るべき杖に向かって、赤銅色の肌の小人が突っ込んでいった。緑髪の子は体当たりを受けて吹き飛ばされるのだ。
バァン!
「は?」
衝撃、あるいは爆発だろうか?緑髪の子が筋肉質の小人の体当たりを受ける直前、その突っ込んできた小人の目の前で、緑色の閃光が破裂した。
爆発を受けた小人は、跳ね飛ばされて宙を舞う。放物線を描いたその小さな体は十数メートル離れた地点に、ちょうど追いかけてきた俺の目の前に落下してきた。
「ちょっ!おおお!」
咄嗟のことで判断のつかない俺は、反射的に小人を受け止めようと前へ飛び出していた。ズサァ!とマントと衣服が草地に摺れ、ドサリと落ちてきた小人の真下へ俺は滑り込む。
「グオフッ!・・・」
見た目の割にずいぶんと重かった小さなマッチョが、俺の腹に直撃した。スライディングの勢いが止まり、俺は腹ににじんでくる痛みをこらえながら受け止めた小人を見た。
「・・・角生えてるよこの子。」
遠目にはただの発育の良すぎる子供に見えたのだが、こう改めてみるとちょっと人間離れしたところがあった。っていうかよく見ればいろいろ違う。頭にはちっこい角が生えてるし、鼻も削げ落ちたみたいになっている。何よりもこいつ、顔がおっさんだ。
俺の上に落ちてきたおっさん顔の小人は、一瞬何が起こったのか分からなかったらしいが、俺と目が合うとさっと俺の上から飛びのいた。向こうでは返せ返せと怒声が聞こえる。あちらの二人の小人は仲間がやられたのも構わず、相変わらず緑髪の子を追いかけまわしていた。
―何故 助ける お前?―
飛びのいた小人は膝を付き、痛むのか肩を抑えながら威嚇するようにゴルルグルルと唸るような声を出した。こんな唸り声みたいな言語は聞いたことがない。というより、そもそも言語ではなく鳴き声に近いような気がした。そんな鳴き声の意味なんて全く分かるはずもないのだが、不思議なことに俺にはその言わんとするところが何となく理解できた。
「いや、何故って言われても。目の前で死なれても困るし。」
あれだけ吹き飛ばされたのだ。打ちどころが悪ければ死ぬだろうし、そもそもあの爆発自体でかなりの深手を負っているはずだった。今俺と対峙しているだけでもかなり辛そうだが、それでもあんなものを食らった割には元気そうだ。俺なら痛みにのた打ち回っていそうなものなのに。
だとすれば、この赤銅色の肌のこいつは厳密な意味では人間じゃないのかもしれない。だけど、なにしろ咄嗟のことだったんだ。パッと見人間っぽい生き物を助けようと思っても仕方がないじゃないか?
俺は俺の答えが呆れられるだろうと思っていた。しかし、目の前のちっさいおっさんは、そもそも俺が返事をしたこと自体にひどく驚いたようだった。
―お前 分かる 話?―
妙に片言だな?だけど、それにしてはこうすんなりと頭に入ってくるというか。
「ああ?ああ・・・そうか。」
俺はマントの下からペトリャスカに貰った首飾りを取り出した。どうやらこの首飾りからすれば、この小人が角が生えていようと、ムキムキだろうと、おっさんだろうと関係がないらしい。そういえば、あの鎧竜の言葉も分かったぐらいだ。彼女がくれたこの首飾りは、予想以上に高性能らしかった。
「多分、分かるっぽいよ。俺の言葉は分かるか?」
―難しく なければ 分かる―
こくりと赤銅色の頭を下げた小さいおっさんに、俺は話しかけた。
「とりあえず一番楽な姿勢で居ろ。俺は別に危害を加えねーから。」
年齢不詳のおっさんは、しばらく警戒を解かずに俺の方をじっと見ていたが、やはり痛みには勝てないらしかった。一言-分かった-というと、近くの岩に背をもたせ掛けた。
時折バン!と炸裂音が聞こえてくる。緑髪の子を追いかけている二人の小人は、このおっさんがやられた爆発を食らわないように距離を取りつつ、それでいて標的を逃がさないように包囲していた。だが、あの緑の子にせよ小人のおっさんにせよ、いつまた新たなけが人が出るともしれない。なぜ戦っているのかは知らないが、出来ることなら俺はあの戦いを止めさせたい。そう思った俺は近くの岩に体をもたせ掛けたおっさんに問いかけた。
「お前らは何であの子を追いかけまわしてるんだ?」
目を閉じて痛みに耐えていたおっさんが俺を見上げた。しばらくの間沈黙が流れ、おっさんは俺を値踏みするように見つめる。
バァン!と、また閃光が炸裂する音がした。緑髪の子が放った緑色の光球は、小人からは逸れたがその隣にあった岩に着弾して爆発した。ギャッ!と、小人が小さく鳴いて倒れた。どうやら岩の破片が頭に当たったらしい。
「黙っていたら、またけが人が増えるぞ!」
赤銅色の肌に赤い血が流れる。小人はよたつきながらも立ち上がり、緑髪の子へと向き直った。一方の緑髪の子ももう限界そうだ。あっちの子は子供相応でそんなにガタイがいいわけでもない。ちっこいおっさんの棍棒の一撃を受ければ、大けがでは済まないかもしれない。
俺はこのおっさんの返事は待っていられないと、あの三人を止めるべく駆けだそうとした。すると、俺の後ろで傷ついた小人の声が聞こえた。
-あいつ 盗った 大事なもの-
「そうか。」
あの緑髪は盗みを働いただけでなく、追いかけてきたおっさん達をも殺そうとしたのか。そう思うと何故かやけに腹が立ってきた。半ば半ギレの俺は岩陰の間を縫うように戦う三人に向かって駆け出した。
「この!―球 緑 中―」
緑髪の子供の杖が、淡く緑色の光を放つ。岩陰から飛び出してきた緑の子に不意を突かれ、頭をけがしている小人の目の前で閃光が収束してゆく。
「どっせい!」
「え?」
ガッ!と、俺の飛び蹴りが緑の子の杖に直撃した。杖はその先に集まりつつあった光とともに宙を舞い、その光も大気中に霧散してしまった。クルクルっと回った杖は、サクッと少し離れた地面に突き刺さる。杖に飛び蹴りを食わした俺は、そのままのポーズで頭から血を流すちっさいおっさんと緑の子の間に割って入った。
「え?ちょっと、何するんですかぁ!!」
と取り乱す緑の子を前にした俺は、左の拳に力を込めダン!と一歩踏み込んだ。
「セイ!」
ズドムッ!と俺の正義の鉄拳が緑の子の鳩尾を打つ。肺から一気に空気を抜かれた緑の子は、腹の神経を叩かれたこともあって一発で「落ちた」。意識を失ってガクッと倒れ込む緑の子を俺はさっと抱える。その顔は俺が思っていたよりも幼く見える。だが、余計な感傷はなしだ。こいつがあのちっさいおっさんを殺しかけたのだ。かわいい顔をしてえげつないことをする。頭から血を流していた子鬼は突然の闖入者に戸惑っていたが、すぐに気を取り直したらしく棍棒を握りなおしていた。
「まあ、お前らも落ち着け。」
そういいつつ、俺は俺の背後で棍棒を振ろうとしている小さいおっさんの喉元に錆びた剣を向けた。
「そっちのお前も来い。とりあえず話をしよう。お前らの言葉は大体わかる。俺はこいつが盗ったものを返すつもりだ。」
すると、俺の視線の先から声がした。
―お前 出来ない 信用―
俺が緑の子が背にしていた岩に目をやると、そこからぬっともう一人の小人が現れた。どうやら怪我をしていた方は陽動で、本命はこっちだったらしい。あのタイミングで割って入って正解だった。この緑の子がもしあのまま攻撃していたら、例え怪我をしていた方の小人は倒せても、その後背後からやられていただろう。そうなると怪我人がまた増える。
隠れていた元気な方の小人は、俺に対して警戒した目を向けながら怪我をしている方を庇うように進み出た。
「信用してくれとは言わないが、さっさとあいつの手当てをした方がいいんじゃないのか?」
と、俺は自分が駆けてきた方を指差した。二人のガタイのいい小人は、岩に背をもたせ掛けて浅い息をしている仲間を目にすると、少しためらった様子を見せた。
「俺は盗まれたものを返す。お前らは盗られたものも取り返せるし、仲間も助けることが出来る。これで、どうだ?」
俺と二人の日焼けしたムキムキのちっさいおっさんが睨みあう。
『―いい だろう 分かった―』
二人の小人は頷いた。
「追剥みたいで嫌だが、それもこれも盗みを働いたこいつが悪い。」
緑髪の子は遠目ではよく分からなかったが、改めて見れば年端のいかない少女だった。
「これか?」
ーちがう もっと 大事なもの―
「大事なものってもねー。」
気絶した少女の身ぐるみを剥ぎながら、一つ一つ小人に見せてゆく。この子も冒険をするにしてはえらく軽装だ。町が近いのか、はたまた「魔法」的な何かのお蔭なのか・・・気絶している少女の衣服を弄るのはどこか背徳的な気もするが、それもこれも怪我人を出さないため、余計な暴力の犠牲者を減らすためなのだ。致し方ない!
俺はこの赤銅色の肌の子鬼たちが何を大事に思っているのかは分からない。だから、この少女の装備品は一々見せてはいるのだが、俺が間違うたびに元気な方の小人の顔にはいらだちが募っていく。小さいおっさんは早く仲間を手当てしに戻りたいらしい。このままぐずぐずしていてはこの少女ごと拠点へ連れ去っていきそうな雰囲気だ。俺としては首を突っ込んだからには出来るだけ円満に済ませたい。
しかし、小人というか子鬼というか、この年齢不詳のおっさん達が与えるヒントは「大事なもの」というキーワードだけだ。というより、俺にはそうとしか伝わらない。おっさんたちの発音というか発声は毎回違うのだが、それら全てが「大事なもの」と翻訳されてしまう。どうやらこの首飾りが伝えてくれるのは意味とかその言葉が意味する本質だけで、その他のうわべの情報は切り捨ててしまうらしかった。ただ、こいつらは仲間思いで、その探し物がとても重要な意味を持つということだけは分かった。
「これは・・・手帳か?」
硬い素材のスカートを留める革のベルトには、いろいろと用途のよく分からないものがぎっしりと取り付けられていた。大多数は何が何やらさっぱりだったが、その中に俺でも分かるものがあった。
防水加工だろうか?革の間に油紙が挟んである表紙を開けると、よく分からない文字の羅列とともに、動植物や紋様っぽいものの挿絵が添えられていた。矢印や表、付箋がぎっしりと詰まったこのノートはさしずめ「研究ノート」といったところだろうか?ぱらぱらとページをめくると、最後のページ辺りにぎっしりと詰まった文字に埋もれるように一株の花の絵が描かれていた。
球根から伸びた一本の茎から、その茎を包み込むように葉が巻きつき、その先には優雅でどこか物悲しい感じの青紫の花がついていた。さっと見た限りでは、他の項目に比べてまだまだ文字数が少ない。多分この花が一番最近の「研究」テーマなのだろう。もしかすると、この花こそが「大切なもの」なのではないか?
そう思った俺はふと手帳から目を離し、この少女がそれらしいものを隠し持ってはいないかとコートの裏に探りを入れた。すると、コートの裏、手帳入れの後ろに何か光を反射するものがあるではないか。俺がベルトの後ろ側を覗きこむと、細長いガラス瓶に入った絵に描かれているのと同じ花が見えた。
「これか?」
カチリと鉄の留め具を外し、瓶を掲げる。俺は小さいおっさんに声をかけた。すると、怪我をしていて動けないはずのあの小人まで身を乗り出してきた。持ち逃げされるとでも思っているのだろうか?どうやらまだまだ信用されてはいないらしい。
「まあ、落ち着け。ほらよ。」
瓶の中身を目にした途端、目の色が変わったおっさん達は正直言って怖かったが、俺もここまで来て余計に波風を立てたくはない。こっちはあくまでも冷静にいる必要があるのだ。
「これでいいだろ?」
-ああ 感謝する お前-
球根つきの花を取り戻した途端、小人達は先ほどまでのおどろおどろしい雰囲気はどこに行ったのやら、心底ほっとした様子で俺に頭を下げた。
「で、結局その花は何なのさ?」
と、俺は弱っている一人に手を貸す二人の子鬼に問いかけた。
―とても 大事なもの 大事な場所―
―居なくなった者 帰らない者の 目印―
―年に一度 これに 戻ってくる―
と、小人たちは口々に言った。
「ふーん。」
居なくなった者、帰らない者とは、死者と行方不明者か?それがあの花を頼りに戻ってくる・・・か。なんだかお盆っぽい発想だな。色や形は違うが、あの花はさしずめヒガンバナってところか?
「墓標であり、弔いの目印、年に一度死者の魂がその花に戻ってくるってことか?」
―そうだ―
頭から血を流していた方の傷は大したことがなかったようで、無傷だった方と一緒になって吹き飛ばされた一人に肩を貸している。
―世話を かけた 白い大きなもの―
俺が受け止めた一人は、骨の兜をかぶっている俺を見上げてそう言った。
「気を付けて帰れよ。」
手を振る俺をよそに、三人はそそくさと岩が転がるこの場所から去っていった。
「さて、とりあえずはこいつを背負って進みますか。」
あの花がこの小娘にとってどういう意味があったのかは知らない。もしかしたら病気の親しい人の為に薬になるあの花を~とかいう理由があったのかもしれない。が、結局俺が助けに入らなかったらこの場所で怪我を負ったまま野ざらしになっていたわけだ。そうなればあの花はちっさいおっさんに回収され、自分も怪我をする。届け物もできないし、骨折り損のくたびれ儲けだ。
そう考えれば「ほとんど無傷」で済んだだけありがたいと思っていいだろう。別に俺が気を病む必要はない。そもそも、いくら相手が厳密な意味で人間じゃないとしても、会話が出来るほどの知性があり、仲間思いで死者を弔う気持ちのある生き物に対して、いくら危機だからと言ってもほいほいとあんな危険な術を使っていい訳がない。この子の倫理観は一体どうなっているんだろうな?
いや、そういう点では俺だって人のことを言えた義理じゃないが、それでも俺は出来る限り相手を追い払うだけで済まそうとしてきた。何より、死者を冒涜するような・・・それも他人のことは言えないか。俺だって勝手に剣やら何やら拝借しているしな。
「結局はこいつが目覚めてからだな。あとはこの餓鬼が聞き分けのあるやつだといいんだが。」
天井からさす日の光は最大から少し弱まって来ていた。俺は片手で子供を背負うのに四苦八苦しながらも、石畳の道を先へ進んでゆく。
木々は次第に増え、また森の中を進むことになりそうだ。
早間龍彦
称号
「????」「怪獣大進撃」「大蜂・大狼・大カブト・鳳・大軍百足殺し」「悪運」「食わせ物」「大番狂わせ」「樹海の匠」「魔弓の射手」「敵の敵は味方」「受け継ぐ者」「死神」「冒険者」「陽炎の忍」「不死鳥」「泰山不動」「覚り」「武芸者」「剣士」「磁石いらず」
「博愛主義」:人かどうかに関わらず、命を尊重した
遭遇生物
「旅人狩りの 動果樹」
「一般的な 子鬼」
「名うての 叡智求める 緑術師」
アイテム
大猪の牙 火起こし機 水筒 海淵の指輪+ 意思読みの首飾り 返話の指輪 万能ポシェット(謎の試験管 識別票 その他不明) ねたつく古びたポシェット(識別票x8 託宣紙x9)ペレット状の食料 星砕きの実 気絶した少女
装備品
麻の衣服 包帯 錆び罅割れた装飾剣 龍爪ナイフ 金猪のマント 革の小手 猪肋弓 魔の矢(狼牙+虹の羽)x2 ひび割れた羊の兜 金猪の足袋