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迷宮の歩き方  作者: Dombom
光の射す方へ
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迷宮生活10日目その八

せっかくの閏日なので滑り込み投稿!

―我の顔に乗るな―


「うおぉ・・・」


鎧竜が蚤でも払うように首を振る。俺はなすすべなく竜の首から落ち、無様に地面に転がる。竜は口に支えている猪肋弓を小骨でも出すように、俺の前へペッと吐き出した。


振り落され、地面に落ちた。だのにその痛みも分からない。もう全身ギシギシのズタズタだ。指一本動かせるかどうかも怪しい。剣が重い。もう本当に握っていられない。俺の左手から剣が離れた。


鎧竜はじっと俺を見ている。俺は首を向けるのが精いっぱいだ。あの謎液を飲めば少しは良くなるかもしれないが、今は不用意には動けない。




竜の口が動くと同時に、俺の頭に厳格な声が聞こえてきた。


―なぜ我が目を潰さなかった―


「は?」と、俺は一瞬出かけた声を飲み込んだ。なぜって言われてもな?


「えっと・・・目を潰さない代わりに見逃してほしいって言ってるのに、潰してしまえば交渉にならないんじゃないかと?」


目を潰されれば・・・痛い。黒粘菌に右目を溶かされた時はマジで死ぬほど痛かった。もし俺があの時躊躇なく突き刺していれば、今頃動けない俺は痛みにもがく鎧竜の下敷きになっていたに違いない。


剣からビームが出るならまだしも、この錆びたグラディウスではこの鎧竜を一瞬で行動不能には出来ない。だから、刺してしまうより、あえて刺さないことで交渉に持ち込もうとしたのだ。


俺の答えが不服なのか、鎧竜は俺の上に右腕を振り上げる。だが、振り下ろしはしない。真面目に答えなければ殺すということだろうか?


―何故扉の模造品に力を込めぬ?その秘石は飾りでは無かろう?―




「ごめんなさい。マジで一言一句理解できません。模造品ってなんです?」


わーい。模造品?秘石?わっかんねー。力を込めるしか分からん。握れと言うことか?っていうか俺さっきから流してるけど、竜と会話するのてすごいんじゃね?


鎧竜はさらに軽蔑した様子で俺に答えた。俺は何に対して軽蔑されているのかさっぱり分からない。とりあえず、俺の無知さ加減に呆れられているのだと思うが、そもそも今になって竜と会話していることに気付く俺だ。呆れられても仕方ないのかもしれない。


―扉の紋様を模倣せしもの。それはその剣の事だ―


扉の模様を模倣?扉ってあのやたらと華美で何を象っているのか分かんねえ模様のあの大扉?神殿と樹海、そして樹海と地底湖を繋ぐあの莫迦みたいにでかい装飾扉の事か?


俺は首を動かし、取り落した剣を見る。確かにこの剣の装飾は、あの扉に似ていると言えば似ている気もする。何というか、ロダンの「地獄の門」から単品で独立した「考える人」の像みたいな感じだろうか?


この鎧竜は俺に、剣に力を込めろと言っているのか?剣を握って再び立てと?




「無理だ。剣を握ろうにも、もう何もかもが限界なんだ。今はほとんど気力だけで生きているようなもんだし・・・正直言ってもう勘弁してください。泣きそうですお願いします。」


情けないが、俺には命乞いしかできない。


―貴様は我を討たぬ代わりに、我に引けと申すか―


「・・・」


竜が俺を見る。俺も竜を見る。そう言われてしまえば仕方がない。要するにそういうことだ。


「おこがましいとは思いますが、目は刺さなかったのです。見逃してはいただけませんか?」


竜は一瞬何かを堪えるように目を閉じ、そして口を開いた。その言葉はまるで、マグマのようにたぎる屈辱が爆発するようだった。


―貴様は我をどこまで愚弄すれば気が済むのだ!我に力を示せ!王が認めしその力を!貴様は宣託を受け、神の試練に挑みに来たのだろう?―




俺は全く愚弄している気はない。力は限界以上を示した。もうすっからかんだ。そもそも王とか託宣とか神の試練とか一体何なんだろうな?全くもって意味不明である。神様がいるなら、俺を日本へ転送してくれ。ついでに怪我も治してくれ。


烈火のごとく怒る竜を、俺は冷めた目で見ることしかできない。


「何と言われようと、私は何も知りませんし、現にもう限界なんです。」


竜の右腕が地面に叩き付けられた。


砕かれた石の破片が俺の顔にパラパラと降って来る。竜の腕は俺の頭を潰さず、俺がもたれていた岩を砕いていた。俺はどうしようもないので、ただじっとして居るしかない。


―もう・・・良い。―


竜の醸し出す雰囲気が変わった。竜の周りの岩岩が、青く強く輝きだす。これは?俺が逃がしたあの一団の誰かの火焔、あれが掻き消えた時と同じ?いや、岩が放つ光はそれよりもはるかに力強い。俺は竜が何か大きなものに働きかけているのを肌で感じた。岩はその働きかけの一部を吸収して光に変えているようだ。竜が働き掛けているその何かは何と表現していいのか分からない。


あえて言うなれば、世界?


―欺瞞を述べる者よ、死ね。無知なる者よ、去ね。―




「うわっ!」


俺の体に何かがぞわりと触れる。何というか、中身を弄られているようで気持ちが悪い。


「ぐっ!」


傷跡が?硬質化した傷跡がまるでその傷を付けられた時を再現するように疼く。今まで負った数多くの傷の痛み、粘菌に焼かれた時の苦しみが肌に焼き鏝を当てるように蘇る。頭がぼーっとして、痛みが散漫になって来た。痛みが感じられないのがある意味幸いというべきか?俺の体に形容しがたい痛みが這いまわる。だが、俺は這い回っていることが分かるだけで、その中身は感じられない。


竜は欺瞞を述べる者は死ねと言った。死ねと言ったから死ぬというのはおかしな話だが、開けと言ったら開いたあの大扉の例もある。この世界ではそういうものなのかもしれない。俺も何回も死なないとか不死身だとか宣言して来たしな。生きたいと叫べば生きられるんなら何度でも言ってやる。


だが、感じられないにしてもこの体を駆け巡る痛みは本物だ。俺も今度こそ年貢の納め時、焼きが回ってしまったのだろうか?しかし、そうなると俺が嘘をついているのか?


俺が?一体何に?


痛みのせいか、それとも、本当にそう見えているのか知らないが、俺の目の前の空間が歪んできた。


どさりと俺の体が空中から乱暴に投げ出された。




「結局・・・見逃してもらえたのかな?」


気が付くと俺は、さっきあのパーティーを逃したT字路に居た。まるでゲームオーバーだ。ここでセーブした記憶はないが、きっとこの世界はオートセーブ式なのだろう。


「まあ、そんな冗談は置いといて・・・」


とはいうものの、ピクリとも動かん。こうなったらあれか?俺も龍を見習っておまじないでもしてみようか?そういえば金猪に追い詰められた時も、死なん死なんって唱えている間は不思議と動けたしな。ペトリャスカも強き言葉が云々って言ってたし、案外言葉の力で何とかなるのかも?


「さて、せっかく助かったんだ。日本に帰るまでは死なんし、生き延びてみせる。俺は不死身だ!体も超元気!こいつ・・・動くぞお!」


洞窟に俺の声がこだました。ああ、叫んだせいで肋骨痛い。


「・・・」


傍から見たら痛い子爆発だが・・・


「うわぁ・・・」


ピクリと指に力が入る。左手がわずかに動くようになった。なんというか、自分で唱えておいてあれだけど、実際あれだけ死にかけてた体が動くと正直引く。もう不死身だ不死身だと叫ぶのは止めとこう。気付いたらゾンビ化してたりしたら嫌だしな。


もっとも、今は体が動くとはいえ一時的だろう。死にかけなのには違いない。さて、どうするか?




俺は身の回りを確認する。


とりあえず、猪肋弓と、皹の入った剣はある。肩から外れ、ひん曲がった右腕の先には龍爪ナイフもちゃんとついている。形見という意味では無くしてはいけないものかもしれないが、現状では特に重要ではないものは後回しだ。とにかく今は、水と謎液を確認しよう。


「大団栗は丈夫だな。」


片方はここに来るまでに割れてしまったが、俺と一緒にここまで上って来た方は表面に皹が走っているものの、何とか割れてはいない。中の水も無事なようだ。


「謎液は?」


と、俺はくたびれた方のポシェットを開ける。俺が革の蓋に手を掛けた途端、ねちゃりと嫌な肌触りがする。ポシェットの口を開いてみれば、謎液の臭いが辺りに立ちこめてきた。


「・・・」




俺は左手で羊頭を抱えた。


「あんだけの目に遭えば当然割れるよな。」


くたびれたポシェットの中は割れたフラスコの中から漏れた謎液でねとねとだ。識別票ギルドカードも、託宣紙オラクルペンダントも金属製っぽい製品だ。その御陰で付いた謎液の汁は洗えば何とかなるだろう。だが、この革に染みついた謎液の臭いは取れそうにもないな。


ガラス製のフラスコは皹割れ、欠けた穴から中身がこぼれ出ていた。中にのこっている分もじきに流れ出てしまうだろう。それに今の俺が思いつく回復手段といえば、これしかない。


「破片に気を付けよう。」


このまま流してしまうのは勿体ないし、俺がすがるべきものはこれしかないので、俺はひび割れたフラスコを手に取った。碧く燐光を放つ天井に、中身の垂れるフラスコを掲げる。今生の別れとなるか、はたまたどうなるのやら。死ぬときにはもっといい酒的なものを飲みたかったがな・・・まあ、悔いはあるがやりきったとは言える。


俺は謎液の残りを一気に呷った。


「はっぴーまいらいふ!」

早間龍彦


称号

「????」「怪獣大進撃」「大蜂・大狼・大カブト・鳳・大軍百足殺し」「食わせ物」「大番狂わせ」「樹海の匠」「魔弓の射手」「悪運」「敵の敵は味方」「心眼琉舞」「一難去って」「先手の極意」「不撓不屈」「死神の忌避」「蜘蛛の糸」「鎧抜き」「惻隠の情」「初心」「お人よし」「受け継ぐ者」「死神」「冒険者」「壁際族」「陽炎の忍」「ぼろ雑巾」「剣身一体」「不退転」「厚顔無恥」


「宋襄の仁」:いらぬ情けをかけたせいで、ピンチを招いた

「能天気」:解決できないピンチにも動じないほどのマイペースさ

「身の程知らず」:分をわきまえず、古竜と会話した


遭遇生物

「地底統べる 泰山の 大鎧竜」


アイテム

大猪の牙 火起こし機 水筒 海淵の指輪 意思読みの首飾り 返話の指輪 万能ポシェット(謎の試験管 識別票 その他不明) ねたつく古びたポシェット(識別票x8 託宣紙x9)


装備品

錆びひびわれた装飾剣 龍爪ナイフ みすぼらしいマント 革の小手 猪肋弓 魔の矢(狼牙+虹の羽)x2 ひび割れた羊の兜 ぼろの足袋

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